オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 1 日曜日 

「もしもし、阿部くーん」

夕刻、家に戻った俺は、玄関で靴を脱ぎ捨てるのと同時に、ポケットから携帯を取り出していた。

阿部君は、大学時代に一番仲の良かった友人で、卒業した今でも付き合いがある。連絡するのは久しぶりだけど、今日の俺の話をきっと喜んで聞いてくれるはず。

『どちら様でしょうか』

何、改まっちゃって、阿部君。そりゃ大学卒業以来、社会に出てからはお互いに色々と忙しくしてきたけれど、それなりに連絡取り合ってきたでしょ。

「策だよ。久しぶり。ねえ、聞いてよ。すっごいことになってるから」

キッチンを素通りして、携帯を耳に当てたまま部屋のドアを開ける。背負っていたギターをいつものコーナーに置き、阿部君の反応を待つ。

『間違い電話ですよ』

「え?」という俺の小さな驚きの声を、相手は聞いていない。その前に、ぷっつりと切れたから。「なになに? どしたの?」と来るはずのいつものリアクションはどうした。そんな疑問を自分に投げかけ、固まるしかない。

「こっちが『なになに?』なんだけど?」

携帯のアドレス登録を引き出し、それをまじまじと見つめる。少しの困惑の中でもう一度、‘A’の阿部君にかける。

『もしもし』
「あ、阿部君、策だけど」
『ただいま留守にしております』

言いかけた言葉が、中途半端にせき止められる。続けて『ご用件のある方は』という、微妙に棒読みなフレーズが流れてくるのを聞きながら息を飲み込む。けれども、ちょっと待った。この声。

「違う!」

これがうまい具合に、メッセージを入れる合図の「ピー」の直後に入ってしまった。

「あわわ」

これも入ってしまった。あわてて切る。妙な沈黙に包まれながら、頭の中で‘A’の阿部君の謎がぐるぐると回る。

ふと部屋の真ん中で茫然としている自分に気づくと、さっきまでの興奮が一気に冷めてしまった。

肺にいっぱいの大きなため息をつく。それから、次に起こす行動を思い出したように、ふらふらとキッチンに向かった。

「とりあえず、なんか飲もう」

そう一人ぼやく間に、冷蔵庫前に到着。中から冷えたスポーツドリンクを出してぐいと飲むと、その冷たさに今までふわふわと見ていた夢から覚めた。

『鍵鳥策(けんどりさく)を連れて来い』

祥吾さんはそう言った。俺のことだ。大学のとき、一緒にバンドを組んで欲しいと頼んだときは、簡単に断られた。けれども、今回は祥吾さんの方から誘ってくれた。

祥吾さんが、俺のことを覚えてくれたことがすごく嬉しかった。でも、祥吾さんがギターリストとしての俺に求めていたものは、俺が考えていたものとはかなり違っていた。

もう一度、今日、祥吾さんと会ったときのことを思い出す。俺には一週間の時間が与えられたのだ。セカンド・チャンス。今度こそ絶対にモノにする。

「それを、阿部君に聞いてもらいたかったのになあ」

どうも一人暮らしになると、無駄なつぶやきが多くなる。まあ良い。興奮が冷めたらお腹がすいた。晩御飯にしよう。

「おわぉっ」

そう思ったときに、ブルルと鳴った携帯に肩をびくつかせる。一人暮らしっていうのはやけに静かなもの。慣れているはずなのに、と苦笑しながらポケットにある携帯を取り出すと、ディスプレイには阿部君の名まえが。

「もしもし、阿部君?」
『あ、策君ですか。僕は阿部君の会社の同僚で、伊藤って言います』

阿部君の同僚が阿部君の電話から? どうして、と理由を聞く間もくれずに、相手は少し急ぎ気味に話を始めた。

『策君の着信が連続で入っていたので、阿部君と親しいお友だちかと思って連絡しました』

連続の着信? そう言われても、全く事情がつかめないし、相槌も打てない。伊藤と名乗った相手は、かまわず話を続ける。

『実は突然なんですが、阿部君、最近、仕事がうまくいっていなかったみたいで、僕にも誰にも、そんな素振りは全く見せなかったのですが・・・』

これは一体何の話なのだろう。もしかして。まさか。少しだけ嫌な予感がして、息が浅くなる。

『あの、ストレスだったようなんですけど、阿部君、仕事場の一室で首をつっうわ・・・てめえ、人の携帯でなにやってんだよ、誰んとこかけてんだよ』
「どうしたんですか! 伊藤さん?」
『策か。また後で電話する。ったく、伊藤なんかじゃねえだろお前、誰が首つるんだって。ふざけん』

切れた。何、今の? 最後が確かに阿部君だった。首つり? 自殺未遂? ふふ。阿部君の仕事は、相変わらず色々あって大変そう、いや、面白そうだ。

この前会ったとき、仕事のことを散々ぼやいていた阿部君を思い出す。心の中で阿部君の奮闘を讃えつつ、ニヤリと一人口元を緩めながら、携帯をポケットに戻した。

今夜の晩御飯は、コンビニ物じゃなくて、買い置きの冷凍パスタ。電子レンジで暖めるだけ。時間も手間も取らないし、結構いけるんだこれが。

阿部君、とりあえず、元気に生きてるみたいだね。良かった。近いうちに、この話、聞かせてよ。で、その時、俺の話も聞いてくれ。

食事の後、俺は部屋に戻ると早速ギターを抱えた。完璧にマスターするまで一週間。めちゃくちゃ練習する。決意を新たに、俺は新しいピックに手を伸ばした。



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鍵鳥策です。

今の策には、とにかくギターの練習をしなくてはならない事情があるのですが・・・
ふふ。できるかな。

これから精一杯、策のとんでもない怒涛の日々をお届けいたします^^
お話は怒涛の予定なのですが、更新はゆっくりのマイペースで進みます。
どうぞよろしくお願いいたします^^


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。
皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

ははは!面白いw
なんですかこの電話の向こうの二人の会話ww

のっけから引き込まれてしまいました。
もちろん策くんの現状のお話もめっちゃ楽しみです。
今回は1人称なんですね^^

やっぱりけいさんはこういう軽快な若者の会話を書かせたらたのしいなあ。
阿部君もレギュラー入り?
次回も楽しみにしていますね。
2014.05.17 Sat 09:38
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Name - 大海彩洋  

Title - おお~

のっけから、気になる冒頭でしたね。
阿部くん、何者? 阿部くんにもすごい1週間なのか? と思ってしましました。
そして、そうかぁ、1週間に選ばれたのは策くん。
確かに、あの1週間、気になる1週間でしたものね。
ほんと、のっけからやっぱり策くんだぁ、という展開と怒涛感に溢れていて、楽しみです。
2014.05.17 Sat 10:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

早速のコメントありがとうございます。

limeさんに気に入ってもらえそうならとても嬉しいです^^
ふふ。電話の向こうはどうなっちゃっているんでしょね。
阿部君は阿部君で奮闘している模様。
策は自分のことで手一杯で、阿部君の助けにはなれないでしょう。

人称については、まだまだよく分からなくて。
描き始めた頃、一人称で描いていたので、その初心の頃に戻って描いてみようという思いもあるんです。ちなみに、最初は一人称なんて用語(?)すら知らず、自分の描いているものがそうだということなども全く意識せずに、描いていました。今思い出しても懐かしい本当に何も知らなかった時代(^^;)
いえ、今でも十分によく分かっていないし、手探りです~

若者の会話ですか。嬉しいです^^
本当は自分も加わりたいのですが、自分は若くない。あれれ~(><)

ああ、またですっ・・・阿部君の名まえをつけてあげられる自信がない(-_-;)
阿部君も良い奴なんで(策の友人ですから)、よろしくお願いします。
2014.05.17 Sat 12:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おお~

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

気になっていただけましたかね。やた。
阿部君も厄介なこと(?)を抱えていますが、それも追い追い。

策のこのときの一週間を気にしていただいて嬉しいです。
ええ、実はこんなことがありました、な一週間にしてあげたいです。ふふ。
策、ごめん。って、今から謝っとく(^^;)
2014.05.17 Sat 13:07
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Name - 城村優歌  

Title - No title

いよっ、待ってました!

策くんだった(誰を期待していたのか瞭然ですが)。
策くんも実は気になっていた人でした。
立ち位置が祥吾に隠れて、ちょっと見えにくかったので、
真正面から彼を見れるのは楽しみです~^^
2014.05.19 Mon 15:35
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Name - けい  

Title - 城村優歌さん

待ってていただき、ありがとうございます。

ぷぷ。成ちゃんですよね。
成ちゃん(と鏡一族)のことは頭にはあるのですが、いつ出てくるかは全く・・・(-_-;)
城村さんのなかで筋トレさせて待たせておいてくだされ^^

策も実は気にしてくださって嬉しいです。
田島とは身長差20センチ以上あるので・・・
けど、コアなギターファンは策を見つめていたはず。(コア?)

ギターどころではない一週間になりますが、応援してあげてください^^
2014.05.19 Mon 17:26
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - 策くん回きた!

おお~!新作がはじまっているー!!!

しかも策くん回きた!きた!
確かに彼はあの時「セカンドチャンス」でしたもんね。

策くんサイドから、田島くんたちがどう見えていたのか、策くんのまわりはどういう感じだったのか…って、すでに何か面白そうな友達が登場していますね^^

阿部君はいったい何があったんだろう??

何よりファン待望のけいさんの執筆再開、感謝です~!
ぜひ私の自分的ブログ大賞2連覇を狙って下さいませ^^

全然自分ペースで無理せずやって下さいね。私もそうですし。
これからも楽しみにしています。
2014.05.20 Tue 21:41
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 策くん回きた!

rurubu1001さん、新作の方にもコメントありがとうございます。

策をよろしくお願いします。
田島はえっと(汗)ほとんど絡みはないのです。
策の周りの動きをお楽しみいただければと(^^;)

阿部君もその一人なのですが、阿部君は・・・
最初っからネタバレはしないのです。
でも、のばしませんから~^^

わ。rurubuさんにファンになっていただけたら幸せです~~^^
2連覇。すでに強豪揃いですが、頑張ります^^

あーも、すでに自分ペースです(><)
rurubuさんもそうですか。良かった。
ゆるゆると行きますが、よろしくお願いします^^
2014.05.21 Wed 18:32
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Name - あかね  

Title - No title

長く書いていた小説は愛着があって、終わってしまうと寂しいですよね。
だから私はフォレストシンガーズをおしまいにできないのです。
すかっと終わらせられる潔いひとがうらやましくも思いますが、可愛い我が子たちと別れたくないですよね。

ですから、ひとつの作品にエンドマークをつけたあとで、スピンオフみたいな形で書くというけいさんのお気持ち、よくわかります。

いつも過去作品ばかり読ませていただいていましたが、一度はリアルタイムで追いかけてみようかと思いまして、こちら、読ませていただきますね。

このストーリィは時期的には、祥吾くんが大学生のときのものなのでしょうか。

2014.05.23 Fri 00:49
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

コメントありがとうございます。

> 長く書いていた小説は愛着があって、終わってしまうと寂しいですよね。
> だから私はフォレストシンガーズをおしまいにできないのです。

分かります~。長く描かなくても、愛着あります。必死に描いてきたものですから。
フォレストシンガーズで、どんどん先に進まなくても、時を止めるという方法があるのかと学びました。

このお話は、田島とは絡まないのです。
背景には前作「夢叶」がちらつきますが、全く新しいお話として見てもらえると嬉しいです。
そういうのをスピンオフと言うのでしょうか。
すみません。分かっていない(><) まあ、用語は、ね(←何の、ね?)

あかねさんが、リアルタイム(何か良い響きです)でお越しくださると嬉しいです。
遅筆なので間延びしそうですが(><)、頑張ります。
2014.05.23 Fri 18:47
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Name - LandM  

Title - No title

とりあえず、読み直してみる。
こっから策くんはドタバタ劇場が始まるとも知らずに。。。
振り返ってみれば楽しい日々に・・・なっているのかもしれない。
策くん。ガンバレ!!
(^v^)
2015.05.30 Sat 11:27
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

おお。何と。二度読みに耐えられるお話かどうか全く自信が無いのですが、嬉しいです^^
はい。こっから行くんです(^^;) まだ何も知らない策・・・

> 振り返ってみれば楽しい日々に・・・なっているのかもしれない。

うん。かもしれないよ、策。
応援ありがとうございます(^v^)
2015.05.30 Sat 12:33
Edit | Reply |  

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