オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 2 月曜日(1) 

夏から秋へ。季節の変わり目。出勤前、女性ならば長袖を着ようか半袖を着ようか、迷うのかもしれないけれども、男の場合は、スーツというフォーシーズンいける優れ物があるから、面倒くさくなくて良い。

今日もA型(血液型)らしく、きっちりと時間通りに家を出る。通勤は地下鉄だから、車窓の景色を眺めることもなく、ゴーという濁音だけを耳にする。乗客は携帯をいじっているか、本を読んでいるか、寝ているか。

そんなみんなの顔を上げさせ、思わず見てしまうくらいの面白い中吊り広告でもあれば、少しは通勤が楽しくなるかもしれないのに。などと、どうでも良いことを考える。

地下鉄内の人間観察は、下車と共に終了。いつもと変わらず、駅から十分ほど歩いた商店街の終わり辺りにある、白く小綺麗なビルに向かう。

「あ、佐々倉先生、おはようございます」

国会議員の佐々倉志郎(ささくらしろう)先生は、朝が早い。党本部経由で永田町の議員会館の事務所に向かう前、七時にはここ上野にある東京事務所に顔を出しに来られる。

俺は先生より三十分は早くこの事務所に来て、鍵を開け、新聞を揃え、お茶の用意を整える。朝のラッシュに巻き込まれないこの出勤時間を、実は結構気に入っている。

「おはよう、鍵鳥君」

グレーの髪を軽く6:4ぐらいに分け、今日も先生は颯爽と現れる。若い頃に剣道をされていたという、背筋のぴんとした立ち姿の先生は、五十八歳という年齢よりもずっと若々しく見える。きちんとした身なりのせいもあるかもしれない。

「夕べこれ書いたんだけど、どうかな」

先生は趣味で書道をされる。はがき大の上質紙に書かれたそれを、朝から満面の笑顔で俺に見ろと差し出す。両手で受け取り、まじまじと見つめた。いつものごとく、達筆だ。

「涼風? りょうふう、ですか? すずかぜ、ですか?」
「どちらでも」

先生の書は、ユニークに形を崩したインテリア系書道。文字のレイアウトに懲り、全体的に丸みを帯びたなかなかの書風を見せる。

事務所内には、程よく間を取って先生の作品がいくつも飾られている。俺が飾って管理しているのだけれども。

それらの作品が、ここを議員の事務所というよりも、アートギャラリーであるかのような、清潔感にあふれる空間をかもし出している。それも、俺のディスプレイのセンスによるところだ。ほんのちょっとだけ自画自賛。

「あとで飾っておきますね」

上がりたての書をカウンターに置き、チョコレート色の革張りのソファに腰掛ける先生にお茶を出す。新聞はコーヒーテーブルの上に揃えてある。

政界という戦場に出かける前に、朝のひと時、ここで一服するのが大事なのだと先生は言う。実は先生は、このマンションビルの最上階にお住まいなのだ。一階のこのフロアを私設事務所としている。

いつもは先生が新聞に目を通されているあいだに、事務所にいくつかある観葉植物の鉢に水をやるのだが、いまは書を収める額を探すために、戸棚や引き出しを探る。

この事務所で働く俺は、名刺の肩書きには一応、私設秘書とあるのだけれど、ご覧のとおり、実際は後援会事務所留守番、兼作品管理、兼お茶係、というところだろうか。自分でもよく、これのどこが秘書なのだろうかと思う。

「おはようございます」

おっと。佐々倉先生の仕事の相棒、政策秘書の上田実(うえだみのる)さんだ。額縁探しの手を止め、「おはようございます」と上目遣いに視線を合わせる。

アラフォーの彼は、今日も格好良くダーバンのスーツを着こなしている。俺の初任者スーツとは大違いだ。シャツはフレンチカフスで、クラッシック・イタリアンのブランドだろう。ネクタイは・・・

「どうした、鍵鳥? 朝からでっかい目で人のことじろじろ見て」
「あ、いえ、上田さん、えっと、身長何センチかなあと思って」

やばいやばい。思わず観察してしまった。

「身長? うーん、175センチくらいかな。おまえは?」
「いや、俺には聞かないでくださいよ」

俺は、160センチにあと少しというところで届かない。実は触れては欲しくない話題だ。何で自分からこれを振ってしまうかなあ。これ以上、話を広げるのはやめよう。朝で時間もないんだし。

ちなみに上田さんも、このマンションにご家族と住んでいて、毎朝、佐々倉先生とこの一階の事務所で待ち合わせをして一緒に出かける。

いつも上田さんは、先生が新聞を読み終え、お茶を飲み干す頃に姿を現す。どこかに隠しカメラでも持っていて、先生の朝の行動をモニターで見ているのではないかと疑うほどにタイミングが絶妙だ。

「鍵鳥お前、出かける支度できてるのか?」
「え? 俺が? 出かけるんですか?」

俺のその返答に、上田さんは少しだけ眉を寄せて先生に流し目を送る。

「先生、お話しされていないのですか?」
「上田が話すって言ってなかったっけ?」

お互いにとぼけ顔で小さな責任を投げ合う。この場合は、単に俺に話をするのを忘れたというケースなのだろうが、こんな小さなことでさえ、二人とも絶対に非を認めない。政治家議員のおとぼけと、出来る秘書の対応を垣間見る。

「まあ良い。三十秒で支度しろ。成田だ」

話題はどうでも良いことが多いので、大抵上田さんが先に折れる。けれども。

「え、成田は中島さんが対応するのでは?」
「あいつ、ぎっくり腰で動けないんだと。夕べ遅く、連絡が入ったんだ」

というわけで、俺は先生の代理人として先生の地元の成田事務所に出かけることになった。先生は今日は本会議と大事な委員会があって、出かけることが出来ない。

俺でなくても、地元に人材あるでしょう。なんてことはもちろん言えず。俺は「はい」と新人トップであるかのような良い返事をして、三十秒で支度を済ませた。



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今日は、書道に囲まれてのんびり、とは出来ない模様。
東京上野から、千葉県成田市に向かいます。

二話目って、描くの結構、いや、すっごく大変なんですね(-_-;)
大学卒業後の策の近況でした。まだ、まったり・・・


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

おお、策くん、議員さんの私設秘書とは、なんだかイメージが違って面白いです。
そして、160センチ、・・・なかったですのね・・・。
これは男の子には聞いちゃいけない質問だったかな。
(もう青年か)
塚本は先日190センチになりました(余計な報告をしてみる)
この佐々倉さんの趣味がいいですね。アートな書道なのですね。
私が字が小学生並なので、こういう特技はうらやましい。
ええ、小学生並なんです。(親は書道の師範代なのに。ほっといてください)
さあ、成田に向かった策君、ちゃんとお遣い、できるのでしょうか。
2014.05.25 Sun 08:21
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Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

お堅そうな肩書きですが、やっていることは・・・(^^;)
新人なので事務所の番頭を真面目にやっています^^

おお。塚もっちゃんはまだ伸びているのか。
策とは30センチの身長差。並んだら大変だ。ぷぷ。
頑張れ、策。ああでも、それは頑張れないトピック・・・
じゃあ、塚もっちゃん、その辺で止まっといて、って何のお願い(-_-;)

アートな書道って、結構気軽にされる方多いですよね。
決まった法則とかが少ないからかな。自由で、感覚的で。
私も字は(><)なので、綺麗に書ける方がうらやましいです。
え、limeさんの親御さんは書道の師範代(@@)
それでは、limeさんにはDNAが!
うん、ブログにアップされている製作ノートからそれが垣間見えます^^

さあ、成田に向かった番頭、策。
ちゃんとお遣いができるかどうか、見てやっていただけると嬉しいです^^
2014.05.25 Sun 10:43
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Name - 大海彩洋  

Title - 本当だ

意外です。議員さん秘書(と言うより、事務所留守番)だったなんて。
意外さもあるけれど、何だかけいさん、大変と言いながらも、素晴らしく読みやすい文章です。
あ、いえ、これまでも読みやすかったのですけれど、すらすら入ってきます。適度に描写があって、適度に会話があって。
やっぱりこういう配分の才能って、天性のもの、なんでしょうね…・・

そんなことはさておき、塚本と策くんの身長差にびっくり!
そうだったのか。もう、お笑いコンビ組んじゃって!(巨人阪神……^^;)
およよ。
しかも、塚本ったら、竹流よりちょっと背が高いなんて…・(って、怒らんでも(-"-))
そう言えば、私がずっとファンをしている藤井フミヤさんも小さい。彼は時々言います。「チビでデブでハゲになってもついてきてくれるかな~」って。もちろんよ!
私は比較的チビな人のファンになりやすいらしいので、会ったら、策くんのファンになっているかも^m^
またまた続きを楽しみにしています。
2014.05.25 Sun 19:32
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 本当だ

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

わわわ。読みやすい、と言っていただけるのは極上の喜びです^^
いやいや、今回、二話目の奥深さを(も)知らされました。
遅筆なので描いているときはすらすら感がなかなか実感できないのですが、すらすらと読んでいただけたならとても嬉しいです^^

策、一応、大学の法学部卒なんです。
ちょっとしたご縁でこの留守番のポジション(?)に(^^;)

ぷぷ。塚もっちゃんと策は並んではいけないかも。
高いと低い。切れ目とでか目。やばいやばい(><)
竹流と田島が黙っちゃいないかもね(なんでだ?)

大海さんは、フミヤさんのファンさんなのですか。ほう。
彼はあの鼻にかかった甘ったるい(甘いではない)声が変わらなければ、OKでしょうか^^
策のこともかわいがっていただけると(策が)嬉しいです^^
えっと続きは・・・(また汗)
2014.05.26 Mon 18:17
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Name - rurubu1001  

Title - なんと!

おおっ!まさかの成田市!?

自分の生まれ育った故郷の登場にびっくり&どっきりです(笑)。
今は実家も引越してしまったから、そこにもう家はないんですけど。

のどかでのんびりできるいいところなんですよ~。空港のおかげで都会風味。自然のおかげで田舎風味の二つが味わえて。あと成田山というお寺もあって少し古都風味も。

というか、策くんのお仕事にびっくりです!

まさか議員秘書さんだったとは!!バンドマンから想像ができなかったので、ギャップにやられています。私ちょっと議員秘書さんって憧れなんですよね。(昔、深津絵里さんがドラマで演じていたからだと思うんですけど。キムタクが総理大臣役でその秘書さん役でした)

カッコいいーー。

次回いよいよ成田かな?策くんと一緒に久しぶりに帰らねば~^^
2014.05.27 Tue 22:56
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Name - けい  

Title - Re: なんと!

rurubu1001さん、なんと! 返し!

わっわっわっ! まさかrurubuさんの生まれ育った故郷だなんて(@@)
びっくり&どっきり&どうしよう&焦るぅ~~!!
えっと、横浜出身の作者を温かい目で見てくださると(><)

策の仕事ですか。ギャップとかを狙ったわけではなかったのですが、そう言ってもらえると嬉しいです。
基本は留守番ですから。秘書さんというよりも、事務員さん寄りかな(^^;)
秘書らしいかっこ良い系の仕事は、先生の近くにいらっしゃる方々が行います。

でもね、政治のことはこのお話にはほとんど出て来ないんです。
私、政治のこと分からないですから。これ、社会派系のお話でもないですし。
てか、そんな恐れ多いこと、描けるわけがないっす(まずはそれだ ><)

おお。そのドラマ、ネクタイ姿のキムタクだけちらっとお見かけしたことがあります。
ドラマは見たことはないのですが。
深津絵里さん、カッコ良かったんだろうなあ。
Youtubeるか。

はい。次回、成田です。
策と一緒に帰郷、いかがでしょうか^^
2014.05.28 Wed 17:33
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Name - あかね  

Title - No title

政治家の秘書って感じですか。
うわあ、大変そうな仕事。
もしかしたらけいさんは、それに近いお仕事をなさっているのでしょうか。
いえ、もちろんノーコメントでよろしいのですよ。

書道って昔は嫌いでしたけど、今になってみるとちょっと興味が出てきています。
書道家でもあり政治家でもある若々しい五十代の先生、かっこよさそうですね。

すみません。
この主人公くんはけいさんのお作のどこかに出てきていたのですか?
なにぶん頭がザルですので、記憶にないんです。すみません。
出てきていたのだったら教えて下さいまーせ。
2014.05.29 Thu 01:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

コメントありがとうございます。
肩書きは議員さんの秘書なのですが、実際の仕事は雑用ですかね。
(コメントごとに策の仕事のレベルが下がっていくのは気のせいかな -_-;)
私の職業は、皆様のお近くに良くあるものです^^

私も書道にちょっとだけ興味ありますね。もろもろの理由で。
最近は筆ペンもおしゃれになってきているらしく、お手軽らしいです。(←これも理由の一つ)

> 書道家でもあり政治家でもある若々しい五十代の先生、かっこよさそうですね。

ありがとうございます。日本の政治家さんも頑張って欲しいですね。
私ら下々も頑張っているのですから。ね、センセ^^

策は、はい、出てきているのです。
でも、このお話の印象とは少し違うかも。ここでは主人公ですから。
ふふ。実はあかねさん、さらりと通り過ぎていらっしゃる。

忘れてくださっていた方が、こちらを新しいお話として読んでいただけるかも。
という淡い期待を抱かせてくださいませ^^
策の事情については、お話のなかでもう少し述べる予定です。
2014.05.29 Thu 17:12
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

今まで、バンドの話を読んできたので、
そのノリで待ちうけていたら、
政界~。未知な業界なので興味しんしんです。
頑張ってついていきます。

確かに、二話目って難しいですよね。
策ちゃんの日常、いろいろありそうですね。
楽しみにしています^^

2014.05.29 Thu 23:28
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - No title

こんばんは。

策が、こんなカッチリした仕事をしているのはちょっと意外でした。しかも、なんだかちゃんとした居場所っぽい。いいセンセイのもとで、彼らしく働いている様子が微笑ましいです。

策とほぼ同じ身長だあ。ぐっと親しみがわきましたよ。
次回は火曜日ですか? また楽しみにしていますね。
2014.05.30 Fri 04:23
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます

政界~は、私にも未知な業界です~(^^;)
全く深入りはしないのです。てか、できないっす(-_-;)
策の周りの方々の方がお詳しい、と振る(汗)

> 確かに、二話目って難しいですよね。

そうなんです。共感がいただけたなら嬉しいです。
皆様のところでも、一話目と最終話の話題は時々お見かけするのですが、今回、二話目にやられました。
一話目でお話の印象を描いたとして、二話目にどうつながり、さらにどうもって行くのか。
いや~物書きはやっぱり深くて・・・なんて、二話目ですでに悶々となっているのでした。
先が思いやられるのですが、まだまだ修行中。一話一話、心を込めて頑張ります^^

策のこれからの日常日々(のはず)がどうなるのか、見守ってあげてください^^
2014.05.30 Fri 17:14
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Name - けい  

Title - 八少女 夕さん

コメントありがとうございます。

はは。肩書きはカッチリかもしれませんが、実際の仕事は何でも屋、ですかね。新人なので^^
ちゃんとした居場所っぽい、とは、うれしい表現です。
夕さんに策らしく働いていると見られて良かったです。いえ、これでも一生懸命に働いています^^

おお。夕さんと策がほぼ同じ身長だとは。ふふ。並んでやってくだされ^^
次回は・・・まだ月曜日が続きます。近場の成田に出張です。
ちゃんと仕事してるか、チェックしにお越しくださいね^^
2014.05.30 Fri 17:27
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

政治家が安息できるのは自分の事務所か家だけ・・・。
というのが佐々倉議員を見て分かりますね。
そういえば、議員は事務所も家みたいなものですね。
仕事の家みたい。
2014.08.21 Thu 21:35
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

議員さんの私生活ってどんなのか全く知りえませんが、偉くなれば総理大臣公邸という歴史あるお家も与えられるわけですから、きっちりと仕事して欲しいですよね。
そこを歴史に残る政治の舞台とできるくらいの器量のある政治家でも現れて欲しいものです。
2014.08.22 Fri 17:30
Edit | Reply |  

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