オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 3 月曜日(2) 

「鍵鳥?」
「中島さん?」

佐々倉先生の地元、成田(千葉県成田市)の後援会事務所で顔を合わせた俺たちは、お互いにクエスチョンマーク付きで名まえを呼び合う。

「何でお前が?」
「中島さん、ぎっくり腰なんじや・・・」
「ぎっくり腰?」

ぶはは、とはじけるような中島さんの大笑いが、事務所内に響き渡った。

「上田さん、忙しいんだか暇なんだか。あの人も小細工するなあ」

クックと肩を揺らす中島さんの笑いがしばらく続く。どうやら俺の一言で、上田さんから中島さんだけに分かるメッセージが伝わったらしい。横で首を傾げる俺には、全く展開が見えないのだけれども。

「まあ良い。分かった。親父がぎっくり腰で動けないんだろう。それで代理として上野の事務所からお前を寄こした」
「いえ、先生はお元気ですけど」
「いいから、いいから。ぎっくり腰のGで、『コードG』ね。これで行くぞ。まずは、挨拶回りね。鍵鳥、話し合わせてよ」

「じゃ」と中島さんは、成田事務所所長の前田さんに後を頼むと、さっと上着を羽織った。俺も眉をハの字にしたまま前田さんに頭を下げ、先を行く中島さんについて事務所を後にする。

中島健一さんは、佐々倉先生の第一秘書で、ご長男。先生と奥様は中島さんがまだ中学生のときに離婚された。そしてその奥様は、詳しいことは知らないが、数年前に交通事故で亡くなられたと聞かされている。

中島さんは、普段は永田町の議員会館事務所で、政策秘書の上田さんと一緒に仕事をしている。それと、なにかと忙しい先生の代りに、地元の成田にしょっちゅう顔を出していて、地元と先生をつなぐパイプ役の仕事もしている。

「鍵鳥、上田さんから話し、どんな風に聞いてる?」

道すがら、事務所の車を運転する中島さんから確認される。

「九時半までに事務所に行って、近隣に挨拶をして、一時からの中学校の創立記念式典に参加。その式典については、事務所長の前田さんに聞きなさいって」
「オッケー。予定通りね。コードGのオプションが入っただけで」

中島さんの中では、すべてが納得らしい。上田さんから与えられた、予定外の「コードGのオプション」を楽しんでいるようにも見える。臨機応変に対応するのは、秘書としては基本の基。

どんな時もポジティブな中島さんからは、そばに一緒にいるだけで元気がもらえる。この人には、栄養ドリンクとかいらないんだろうなあと思うくらいに、いつもはつらつとしている。今日は一日、中島さんについていけば間違いはないだろう。

「あ、そうだ。鍵鳥、上田さんに『コードG』ってだけメールしといて」

はい、と二つ返事で、俺は自分の携帯を取り出した。そのキーワードについては、いまひとつ俺には通じていないのだけれども、中島さんからの伝言として上田さん宛てに送信する。

携帯には、上田さんから挨拶回りに行くところのリストをもらっているのだけれど、もうそっちを見る必要はなさそうだ。

中島さんは、事務所の車をクルクルと慣れたように運転しては、迷わず目的地で止まる。革靴の音をコツコツとさせながら、どんどん先を行く。

俺は、皇居のお堀で親の後を追うカルガモのヒナのように、とにかくそれについていく。親鳥の中島さんは、行った先々で先生が腰を痛めたという話をし、ついでに東京から来た俺のことを紹介して回る。

「あら、健ちゃん」

ちなみに、この事務所近隣の支援者の方々は、中島さんのことを子どもの頃から知っていて、顔を見るとみんな「健ちゃん」と呼ぶし、中島さんもかなり親しげに話す。

「まあ、志郎さん、腰悪くされちゃったの」
「それほど酷くはないらしいのですが、大事を取ったみたいです。あ、こいつは鍵鳥策で、今年東京の事務所に入った新人です。よろしくお願いします」

行く先々で、中島さんが俺のことを紹介してくれるから、俺は「よろしくお願いします」と頭を下げるだけですむ。

「あらこの子、前に後援会事務所でお見かけしたことあるわね」

う。まずい。俺には、この綺麗どころの小料理屋のおかみさんのことが、全く記憶にない。成田に来るのはそう何回もないから、で言い訳になるだろうか。てか「この子」なのか俺。

「お世話になっています」

そう笑顔で口にはするものの、それ以上突っ込まれないようにと緊張した心で祈る。

「おかみさん、俺たちこれから東中学校の式典に行くんですけど、その前に、ここで昼食っていっても良いですかね」
「もちろんよ。ランチ定食で良いわよね。その辺の席に適当に座ってて」

中島さんからの助け船に、ほっと胸をなでおろす。さすが親鳥。美人のおかみさんは、満面の笑みを見せてから厨房に下がった。

「中島さん、最近成田に来たのはいつです?」
「先週」
「え? じゃあ、今日は別に挨拶回りとかしなくても良かったんじゃ?」
「俺じゃなくて、お前が挨拶必要でしょう」
「俺? なんすか?」
「今日、親父が来られない理由も適当に説明しなくちゃならないし」
「適当? なんすか?」

上田さんからの「コードG」だから、と中島さんは爽やかな笑顔でごまかす。そのシークレット・メッセージが何なのか、少しだけ気になるけれども、どうせ俺には分からない。

佐々倉先生の優秀な秘書である、上田さんと中島さんのお二人の間で納得があるなら、それで良いのだろう。今日の俺は、カルガモのヒナと決め込む。

「ごちそうさま」

せっかくの定食を、少し早食い気味で終える。おかみさんにまた挨拶をしてから、俺たちは一時から始まる記念式典に参加するために、この近隣からは少し離れた中学校へ向かった。



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策はまだまだついていくだけのヒナ、おっと、新人君。


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Comment

Name - lime  

Title - No title

上田さんのあとをチョコチョコついて歩くカルガモの雛・・・いや、策がかわいい^^
ちっこいから、本当に雛みたいなんでしょうね。(本人に言ったら傷つくね)
上田さんって、息子さんだったのですね、納得。

コードGはきっと「ぎっくり腰」のGで、策にいろいろ勉強させようって暗号なんだろうなと、勝手に^^
策くん、このあとどんな見聞をするんでしょうね。
楽しみですww
2014.06.01 Sun 09:52
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

> ちっこいから、本当に雛みたいなんでしょうね。(本人に言ったら傷つくね)

ぷぷぷ。策がチョコチョコついて歩くカルガモの雛の図、がlimeさんに見えたのなら嬉しいです。
ちっこいことは受け入れているはずなのに、それでもちょっぴり気にしてしまう策です。

limeさん、相変わらず鋭いです。
「コードG」に大きな意味はないのですが(ミステリーではないので)、成田に出されたのにはちょっとだけ意味があって・・・すぐに分かります。引き伸ばしませんからあ^^

策のこのあとの見聞も見守っていただけますように^^
2014.06.01 Sun 12:27
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

私も、ぎっくり持ちなので、今度から腰に来た時は、
「コードG」使わせていただきます。
一瞬、ギターの話かなと思ったんですが、
そうじゃなかったですね。
雛カルガモの策ちゃん、かわいいかも鴨^^
2014.06.05 Thu 08:33
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

城村さん、ぎっくり持ちなのですか。おはしより重いもん持っちゃいけませんね。
息子さんに頼んでくださいね。合言葉は「コードG」で。
私も使おうかな(^^;)

> 雛カルガモの策ちゃん、かわいいかも鴨^^

ぷぷ。ありがとうございます。
かわいいって歳ではないはずなのですが、見た目と行動がね^^
この先、ギターどころではなくなる・・・の予定(汗)
まだ月曜日(この件にも汗)
2014.06.05 Thu 17:50
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - コードG

ちょうど私も腰が痛いんです。
前に友達から安く譲ってもらったバランスボールに空気を入れたせいと、久しぶりでバランスボール運動をしたせいで、腰のみならず全身筋肉痛なのです。

ぎっくり腰ではありませんので、「コードK」にしましょうか。
筋肉痛のK。

「今、永田町ではもっぱらの噂なんだけどね……」
「そんな、よそのご町内の噂なんて私は知らないよ」

柴田よしきさんの小説に出てくる高校生の女の子が、永田町をよそのご町内と言っていたのが記憶に焼き付いていまして、永田町と聞いたり見たりするたびに思い出します。
2014.06.06 Fri 01:17
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: コードG

あかねさん、コメントありがとうございます。

あらら、お腰、「コードK」ですか。
バランスボールって、実は適度に激しい運動・・・です?
ぷぷ。筋肉痛のK、ローマ字で通すところが好きです。

おお。面白い。よそのご町内。確かに^^
そちらのご町内で起きることはまさに、このお話には全く絡まず。です。
よそ様なんで、そちらは先生方にお任せしましょう。
難しそうだし(^^;)

「コードK」、あとに残らないよう、ゆっくりと休養をお取りくださいね^^
2014.06.06 Fri 17:26
Edit | Reply |  

Name - ポール・ブリッツ  

Title - No title

コメントに心を込めるということ自体がなにを意味するのかよくわからなくなっている人間が恥を忍んで通ります。

策さん、あなたには選択の自由と、向かうべき道の果てにある光と、友人たちがいる。

「光あるうちに光の中を歩め」であります。

がんばれ!
2014.06.06 Fri 18:38
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

お越しくださり、ありがとうございます。

コメだの何だの、何も気にせずにお通りくださいませ^^

> 策さん、あなたには選択の自由と、向かうべき道の果てにある光と、友人たちがいる。
> 「光あるうちに光の中を歩め」であります。
> がんばれ!

策の応援をありがとうございます。
このお話の中では、策は少しだけ迷走するのですが、光に向かって頑張ります。
道の果てに良いものが見えるよう、祈っていてくださいね^^
2014.06.06 Fri 21:17
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

正直に言うのが良いのか。
それとも社交儀礼を重視した方がいいのか。
日本では判断が分かれるものですね。
あまり記憶にないと話すのも辛いものがありますしね。
日本の政治だと社交儀礼を重んじる傾向にありますからね。
2014.08.18 Mon 22:13
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

ここは、あたしのこと覚えてる? と突っ込まれなかったのが幸いでした(^^;)
上司の中島さんが上手く話を進めてくれたので良かったです。
新人なので、まだあまり期待もされていないかも(?)
2014.08.19 Tue 20:09
Edit | Reply |  

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