オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

セカンドチャンス 12 火曜日(4) 

阿部君は、大学時代から教員志望。けれども、学校に収まる前に、社会勉強をしたいと一般の就職活動をした。結局、教育関係に就職してしまったとサークルで報告したときは、みんなに笑われた。

学生時代は大学の学祭実行委員会の委員長を務めるなど、教員に必要な資質の一つであるリーダーシップに長ける。近い将来、学校の教壇に立つときは、きっと良い先生になるだろう。

「青木は、走るのが好きなんだ。ああ見えて、元陸上部。じゃ、乾杯」

部活動か。何だか懐かしい。そういえば、体だけは大きい青木は、いかにも運動部に入っていそうに見えた。陸上とは意外だ。いや、やつなら何部でも意外に思える。

「陸上の競技大会のときは、コンビニ弁当とカップサラダ持参。手作り弁当なんて作ってもらったことないって」
「へえ、栄養は良さそうだね。家がコンビニだっていうのは聞いたよ」
「そうか。陸上の選手としては、良い記録も持っていた。中三で引退したけど。だから体がなまるって、しょっちゅう走りに行ってる」

まあ、元気だけは良さそうなところは認めてやろう。

「そういえば。この間の『伊藤』って電話、何だったの?」
「あれも分けわかんなかったよね。策ともっと話したかったんだって。最初に携帯を取ったときの印象が、相当良かったらしい」

最初と言っても、相手が阿部君だと思って「話を聞いてくれ」って言っただけだったのだけれども。俺はビールを手に、首を傾げる。

「それとあいつ、今日策が『要(よう)』って名まえを呼んでくれたことが、もの凄く嬉しかったって」
「そんなこと」

「なんで?」と理由を聞こうとしたところで、玄関がガチャリと開き、青木が戻ってきた。三十分どころか、二十分も経っていない。阿部君と顔を合わせた。

「ただいまあ」と青木は機嫌良くあがってくる。「はい、お土産」と今夜の大人たちの酒のつまみになりそうなスナック菓子やおやつの類をテーブルに置くと、ニッコリして見せた。

「なかなか気が利くでしょ」
「要これ、万引きしてきたやつじゃないよね」
「策君、それきつい。ここが痛む」

青木は胸を押さえ、眉をハの字にして苦笑する。

「策、万引きの話、聞いたんだ」

阿部君が、急に真剣な顔になった。俺は、ただのブラック・ジョークのつもりで言っただけなのだけれども、なんか悪かったのかな。

「こいつさあ、夏休みに入ってすぐの都大会で、100メートルと幅跳びで優勝したんだ。大会新記録で都中学新記録だった。関東大会と全国大会出場の切符も手にした」
「それはすご・・・」
「でもそれが、万引きでパー。都大会終了直後には、早稲田実業(高校)から陸上でスポーツ推薦の話もあったんだ。でもそれも、万引きでパー」

阿部君の横で、青木が耳を垂れた犬のようにしゅんとうなだれている。

「部活は即、引退と言う名の退部。学校では駅前のコンビニの子でちょっと有名だったから、噂になって親にも迷惑をかけた」
「そうなんだ。要、ごめん」
「大丈夫だよ、策君。俺もうとっくに、阿部先生のお陰で復活してるから」

青木は、笑顔で顔を上げた。それに少し安心する。それにしても、青木の陸上の才能には驚いた。それが無駄になってしまった事情にも。

「夏休み中はこいつ、さすがに落ち込んじゃってさあ。大変だったよ」
「俺が策君に話すよ、先生」

青木が横から入ってくる。阿部君がどれだけ大変だったのか、本人から聞こう。

「そのときは俺、マジ自分にがっかりして、塾の教室で死のうとしたんだ」
「自殺未遂?」
「こいつ、どうやったと思う? 俺のネクタイを教室のカーテンレールに結んで首吊りしようとしたんだ。けど、こんなでかいやつをカーテンレールが吊るせるわけないでしょ。そっちが破壊」

色々なことが万引きで流れたからといって、死ぬことはないだろう。青木が「伊藤」と名乗って電話をしてきたとき、阿部君が職場で自殺未遂をしたと言ってきた。あれは、自分のことだったのかと察する。

「阿部君のネクタイはまずいでしょ」

阿部君が「そうそう」と口元を緩める。

「甘いよな。人生なめてる」

確かに。阿部君に同意する。阿部君が教室に駆けつけたとき、青木は折れたカーテンレールの下で丸くなって転がっていたという。青木は苦笑して、続けた。

「俺に怒鳴りつける前に、阿部先生は『ネクタイを返せ』って言ったんだ。ネクタイ、先生必要だからって」

そのときは、今朝のような阿部の不動明王ではなかったのだろう。

「それから俺にも。『先生には生徒が必要なんだ。だから、俺にはお前が必要なんだ』ってはっきり。カッコ良いよね」
「生徒数が減ると、給料が減るからだよ」
「それで『お前も俺のことを先生として必要としてくれるなら、俺は嬉しい』ってさあ、もう、俺はやられた」

憧れのまなざしか、尊敬のまなざしか。青木が阿部君に「一生ついて行きます」とご主人様を見つめる忠犬のようなまなざしを向ける。阿部君はわざとらしく視線をずらす。

「俺は先生のこと、超必要」
「そうだろう。数式と図形だけは、きっちりとできないとな」

なるほど。そうして阿部君は、青木のどこかをズキュンと射抜いて手なずけたのか。いや失礼、青木がグレないように必死に引っ張ったんだ。

「いいからもう、あっち行け。俺は策と話があるんだ」
「じゃ、シャワー浴びてくる」
「こっちに戻って来ないで、そのまま寝ろよ」
「はーい。じゃ、策君、おやすみ」

けど、俺にウインクは必要ない。



< 前話  TOP  次話 >



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村   ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!

人気ブログランキングへ  Thanks again for the click!




これでやっと策も阿部君と話が出来ます。
策にも阿部君が必要。
やっぱり、策と青木は同レベル? 

PS: 前回アップのMH17の記事にコメント・その他、ありがとうございました m(__)m


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

忠犬要くん、胸きゅんだなぁ。
この年頃の男子の、世にすれてない青々しさが、眩しいですね~^^
信じるとか必要とか、
社会に揉まれてしまうと、もう別次元の事象になっちゃったりして
……って、我が身の汚れっぷりに、うぐぐ。

策ちゃん、明日早いんですけど、まだまだ寝れそうにありませんね。
遅刻しないでね、おばちゃんはそれが心配。
2014.07.28 Mon 12:31
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

要はまだまだ青いっす。クサ青春しました(^^;)
大人がちゃんと見せてあげないと、どこかに行ってしまうタイプかもです。
汚れっぷりといえば、自分も人のことは言えない(沈 -_-;)

城村さん、また鋭い。
そうです。策は明日も通常営業ですよ。
たぬきが仕事回してくるんでね。

今夜は何時まで阿部君と話すのでしょうね。
して、翌日は・・・
お姉さまの心配はまだまだ続くのかもですよ~^^
2014.07.28 Mon 19:07
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

阿部君、さらっと説明してくれたけど、なかなかハードな日々だったのですね。
もしかしたら策くんよりも大変な・・・。

なんでそんな順風満帆な時期に万引きなんか。
出来心なのか、癖なのか・・・。
(私がいま下書きしてる話にも、手癖の悪い女がでて来るんだけど、それとはきっと違うなあ)
だけど、要くんの感情を掘り下げていったら、きっとこのお話は要くんでうまってしまう気が・・・。

いったいこの二人、策くんの一週間の、どのポジションに・・・。(ってまたポジションを訊いてしまう・笑)

今はまだ火曜日でしたよね(たしか)
まだまだ一週間は長い! じっくり行きましょう^^

私なんて、あと2日半を、今年いっぱいやりますから(爆)
お互い、ジワジワ行きましょうね^^どっちが先に終わるかな・・・。(そういう問題じゃないかw)
2014.07.28 Mon 21:58
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

そうですね。阿部君の大変さは一週間では収まらないかも(^^;)
でも、とんでもない生徒の担当になってしまったとは思っていないでしょう。
そんな阿部君です。

> なんでそんな順風満帆な時期に万引きなんか。
> 出来心なのか、癖なのか・・・。

↑次回にお答えいたしましょう^^ 次回予告です。
なんと。「手癖の悪い女」とは。ふふ。先取り情報ゲットです^^
要の感情は・・・大丈夫です。阿部君がいるので、安心して見てあげてください。

> いったいこの二人、策くんの一週間の、どのポジションに・・・。(ってまたポジションを訊いてしまう・笑)

うお。limeさんたら(汗)
今のところ、日・火に登場・・・
はい。まだ、火曜日です^^ (ニコってる場合か -_-;)

> 私なんて、あと2日半を、今年いっぱいやりますから(爆)

ぷぷ。これ↑、爆です^^
策の一週間も、今年いっぱい、いや、下手したら来年も行くかも、です。
(それって「一週間」かい??)

じっくり同盟か、ジワジワ同盟でも、結びましょうか。
さあ、どっちが先に終わるかなあ~~^^
2014.07.28 Mon 23:00
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - No title

こんばんは。

火曜日の夜にじっくりお話って、きついですよ〜。
歳の私には不可能だぁ。
でも、これを聴かずには眠れないし(><)

要、阿部君がいてよかったね。
そりゃ、犬っころになっちゃいますよ。懐いちゃいます。
たぶん、人生で一度か二度しかない、とっても大切な出会いですよね。

阿部君という素晴らしい友達がいるのも策の人徳かなあ。
2014.07.29 Tue 05:14
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

ふうむ。犯罪にめげない心も大切ですけどね。
万引きしたって、陸上がなくなるわけでもないですし。
推薦がなくなっても、実力でパスすればいいですし。
人生はやり直しがきくものです。
遠回りするのも一興。
・・・と思っているのは私だけですかね。

ようやく「水仙を育む」の連載が終わりました。
('ω')ノ
ここまで読んで、
毎回コメントを下さり誠にありがとうございました!!
2014.07.29 Tue 08:55
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 八少女 夕さん

コメントありがとうございます。

そうなんですよ。
最初は、日曜日にあった事を、電話で阿部君に言いたかっただけなのです。
それが、月曜日も話せなかったし。
要の事情も加わって、火曜日にずれ込んでしまった(-_-;)

はい。要にとっては、大きな出逢いですね。
阿部君にとってはどうなのかな。
要が阿部君の大切な生徒になれるかどうかは、要次第。

> 阿部君という素晴らしい友達がいるのも策の人徳かなあ。

わ。ありがとうございます^^
策も阿部君に面倒を見てもらっているくちかもですけど(^^;)
策も帰って寝ないと。明日も普通に出勤ですから。
2014.07.29 Tue 17:57
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

まさに。1がこけても、2、3、とあるのですよね。

> 人生はやり直しがきくものです。
> 遠回りするのも一興。

これ共感です^^
私もそう思います。そうして成長していくんだよね。

お、結末を拝見に参ります!
2014.07.29 Tue 18:22
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - ここにきて

「けい節」が炸裂している~!!と思いました。
何がって、エピソードの中身も「けい節」、話の展開も「けい節」、そして何より動いている人物が「けい節」~~~
面白くて可愛い。いや、起こっていることは自殺未遂って笑えないことなんだけれど、それをこんな優しいエピソードでくるんでしまうとは、さすがにけいさんです。
それから、ふと思ったのですが、けいさん、過去のエピソードの語りが以前より軽妙になりましたね。何ていうのかするっと入ってくるというのか。
でもまだ火曜日……どうなる、策くん!?
2014.07.30 Wed 21:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ここにきて

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

わ。節っちゃってますか。ぷぷ。
自覚ないところが何とも(-_-;)

> 面白くて可愛い。いや、起こっていることは自殺未遂って笑えないことなんだけれど、それをこんな優しいエピソードでくるんでしまうとは、さすがにけいさんです。
> それから、ふと思ったのですが、けいさん、過去のエピソードの語りが以前より軽妙になりましたね。何ていうのかするっと入ってくるというのか。

わ2。超嬉しいです。楽しんでいただけるのが何よりです^^
過去エピの説明って、難しいですね。
大海さんにそう言っていただけると凄く励みになります^^
これからも精進します。

火曜日、次回で終わる予定……恐る恐る予告。前科アリなもので(-_-;)
2014.07.30 Wed 23:00
Edit | Reply |  

Add your comment

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。