オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 13 火曜日(5) 

「飲もうぜ、策」

阿部君と乾杯をやり直し、青木が買ってきてくれたつまみを遠慮なく広げる。部屋の向こうからシャワーの音が聞こえてくると、阿部君は話を再開した。

「青木は、いわゆるお勉強は苦手かもしれないけれど、バカじゃない。頭の回転は速くて、わかりが良い。素直な子だよ」
「行動力もありそうだね。人の電話を取るとか、学校サボって事務所に来ちゃうとか」
「そうなんだよ。その行動力・実行力を別のことに使えよ、っていつも言ってる」

なんだかんだ言って、阿部君は青木がかわいいのだろう。目を細めて青木のことを話す。

「策、どうしてあいつ、万引きなんかしたんだと思う?」

どうしてと言われても。物が欲しかったのか、ただむしゃくしゃしてやったのか。青木の行動力のなせる業だったのか、それとも。

「結果、大きな間違いになったけど、あいつなりの考えもあったんだ」

青木の家のコンビニは駅前にあり、四六時中、多くの客が訪れる。売り上げも高いが、それなりに問題も多い。特に、万引きには青木の両親も困っていた。大概は見つけて対処するが、被害にあってしまうことも多かった。

学校の夏休みに入り、その件数が格段に増えた。連日両親が眉を寄せて対策を練っているのを見て、青木は自分も息子としてひとつ協力しなくては、と思ったらしい。

あちこちのコンビニやスーパーを訪れると、どこも似たような問題を抱えていることがわかった。実際に現場を目撃したこともあった。それで、万引きのパターンや、方法も自分なりに研究していった。

「刑事か、探偵みたい?」
「ただの中坊。どうやったら店にばれて、どうやったらばれないか、研究して報告するだけなら良かったんだけど」

ある日青木は、自分なりに研究したことを実際に試してしまった。けれども、たかだか中学生のやることは簡単に見つかり、捕まった。

「ありえない。自分のとこで研究して、自分のとこでやれっての」
「俺も同じこと言ったよ、阿部君」
「実は、秘かにやって親の役に立ちたかった、というのが元々の動機だったんだけどね」

息子の青木が研究するまでもなく、両親は対策を立てていただろうに。素人の自分でさえ想像がつく。

「両親の仕事が少しでも楽になって、コンビニを人に任せることが出来るようにでもなったら、全国大会で自分が走るところを見に来て欲しい、という思いもあったらしい。いやたぶん、そっちが本音」

青木の両親はコンビニが忙しくて、青木が大会で走る姿を見たことがないのだという。大会でもらってきた賞状やメダルに喜んではくれるものの、やはり青木の本心としては親に会場に来てもらって、応援してもらいたかったのだ。

「だからと言ってね。やっちゃダメなものは、ダメでしょ」

阿部君が話を現実に戻す。かわいそうといえばかわいそうかもしれない。けれども、自分のやったこと。仕方がないと言う阿部君に、俺も同意する。

「あれもこれも全てが流れて、青木の中学校生活最後の夏休みは終わった」
「いや、阿部君、ホント大変だったんだね」

夏の間、阿部君がずっと「忙しい」と言っていたのを思い出す。夏季の特別講習というのをこなしながら、保護者もひっくるめて、青木の面倒を見ていたわけだ。

「ま、青木は大きな間違いを起こしたけれど、一回くらい良いじゃないか」

阿部君が笑顔で言う。そして「セカンドチャンスをやった」と。

「あいつはチャンスを生かせる奴。セカンドチャンスを与えれば、ちゃんと考え直して道に戻ってこれる。だから、今からきっちり勉強して、とにかく高校に行けって」

一回の間違いで、青木はスポーツの全国大会と、進学のスポーツ推薦を棒に振ったのだ。きっと、自暴自棄になっていたであろう。阿部君がついていなかったらと思うと、想像がつかない。

「陸上も高校でまたやれば良いんだ。中学でコケたからといって、この世の終わりじゃないんだから。ついでに、今度こそスポーツ推薦で大学にも行けって言った」

阿部君が軽く笑い出す。そのときの様子を思い出したらしい。

「そしたらあいつ、推薦じゃなくて普通の受験で行きたい大学に行くとか言い出して。だから俺に勉強見ろって。冗談じゃねーよな。どこに行く気なんだか。大体、青木が大学受験の頃は、俺は教員になっていて、三十人の世話で忙しいっつの」
「要が無事に大学生になったら、教育実習生にでもなって、手伝いに来てもらえば?」
「冗談じゃねえ。絶対に無理。俺が無理」
「教科、きっと体育科だろうから、大丈夫じゃない?」
「教科関係ないって。策、そんなこと絶対にあいつに吹き込むなよ」

いや、将来どうなるか、わからないよ、阿部君。とは言えずに、ビールを飲んで一緒に笑う。

阿部君が手をかけているのだから、青木は意外に大物になる可能性だってあるかもしれない。少しだけそんな気がしてきた。俺のこの予測に対して、阿部君はどんなコメントをするだろう。

「策の話は何? 何か面白いことがあったんだろ」

やっと俺が阿部君に話をする番が来た。日曜日に電話で言いたかったことを聞いてもらおう。

「うん。阿部君、祥吾さんのこと覚えてる? 田島祥吾さん」
「ん? ああ、覚えているよ。大学の近所のカフェでかっこ良いライブやってた先輩だよね」

その大学の先輩の田島祥吾さんから、突然連絡が来て彼のバンドに誘われたこと。祥吾さんは大学卒業後に海外に行っていたけれども、今年の初めに帰ってきたこと。今は仲間とバンドを組んでライブハウスで活動をしていること。それらを阿部君に説明する。

「それで、新しいギターリストが欲しいんだって」
「良かったじゃないか。策、大学のとき祥吾さんと演りたがっていたし」
「そうなんだよ。大学で会ったときに、俺が渡した名刺を持っていてくれて。凄く嬉しかった」

大学で祥吾さんと会ったときは、俺の方から一緒に組んで欲しいと願った。けれども、そのときはあっさりと断られてしまった。理由は、祥吾さんには祥吾さん自身のバンドがあったから。でも、当時祥吾さんはバンド活動はしていなかった。

「バンド活動をしていなかったのに、どうして俺にそう言ったのか。今ならわかるよ」

祥吾さんは、あの時から今のことを見ていたのだ。バンドで活動し、演奏する今の自分の姿を。

「俺のギターの音を聴きたいって言われて、この間の日曜日、池袋のスタジオまで行ったんだ。一応、オーディションだったと思う」

何の巡り会わせか、俺はその祥吾さんのバンドに加われるかもしれないチャンスを与えられた。けれども、そのときの音は、祥吾さんが途中で歌うのをやめてしまうほどに酷かったのだ。

そしてそのとき、祥吾さんも言った。俺に「セカンドチャンスをやる」と。

「それで、今度の日曜日に、もう一度演ることになっているんだ」
「策、それすっげー話だよ」
「でしょ。今度は絶対、モノにしたい」
「それで、もし祥吾さんのバンドに入れたら、今の秘書の仕事やめるのか」
「すぐにはやめないよ。ライブハウスのバンド活動なんかじゃ、食っていけないでしょ。でも、祥吾さんと一緒にやれるなら、きっとデビューも出来るし、メジャーにもなれるって気がするんだよね」

何の根拠もないけれど、そう思わせる期待と魅力が祥吾さんにはある。それを信じてもいる。だから。

「挑戦はしたいと思う。ま、ダメだったらもう本当に音楽は諦めて、マジで政治家の秘書の仕事をやるよ。この仕事も楽しいし」
「良い話じゃないか、策。頑張れよ」
「策君、すごい。頑張れよ」
「要!」

音も立てずにそこにいた青木に、阿部君も俺も目を丸くした。心の中の俺が突っ込む。頑張れよ、じゃねえぞ。敬語、使えっつの。どこから話し聞いてたんだよ。

「お前、ずっとそこで話し聞いてただろ」

背後のドアのほうに目配せする阿部君は、即座に青木の動きを確認する。さすが。

「策君がいるなら寝てらんない、って言ったじゃん」

その言い草に、阿部君より俺の方が、脱臼するほどに深く肩を落としてため息をつく。

「良いよ、阿部君。話し済んだから俺は帰るよ。帰って少しでもギターの練習しなくちゃだし」

明日も通常出勤だし。俺は缶に残っていたビールを飲み干し、立ち上がった。

「策君、グットラック」

青木の見送りに一瞥だけを与え、阿部君に「じゃ、またね」と軽く手を振る。青木の再登場の後、とっとと阿部君宅を後にしたお陰で、山手線深夜の最終電車に何とか間に合った。

青木、べつに親指立てて俺に見せなくても良い。阿部君に英語もきっちりと教えてもらえ。敬語もな。それから、君はやめろ。それから・・・



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策の家も、阿部君の家も、都内山手線圏内。 
ちょっと長かったけど、青木の事情と策の事情でした。
火曜日の夜も更け行く、です。 水曜日に続く・・・^^

策と田島祥吾という大学の先輩との関わりについては、こちらから  → 『夢叶』(142話~)

今回のエピソードをアップする前になんとっ。

すばらしい晴天。(朝はマイナス2度だったけどさ -_-;)

Blue Sky

ぽちっと見える白いのは雲ではなくて、月です。(外でびしっと仕事してました^^)

そして。

アクセス数33333HITに達しました! 皆様のお陰です!!

ちなみに、どなたに踏んでいただけたのでしょうかね。
真冬のプレゼントに大感謝です^^

えっと、お礼は・・・33333HIT記念のちょっとしたお話を描きますので、そちらを楽しんでいただければと・・・
そそそんなんで、すみません m(__)m

毎回のご訪問、応援をありがとうございます! 
これからも、どうぞよろしくお願いいたします^^


けい (*^^*)


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - LandM  

Title - No title

馬鹿と勉強ができないはまた違いますからね。
その辺は現場でよく分かることです。
官僚とかになるとまた違うのですが、秘書は現場仕事も多いですからね。
2014.08.07 Thu 09:15
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Name - ポール・ブリッツ  

Title - 

青木くん……それはお調子者とか親切とかのレベルじゃなくて、犯罪だぞ……。

とにかく少年法があってよかった。そうでなければ、若きみそらで「前科者」だもんなあ。

やはり少年法は必要だなあ……と主張すると「人権派」と呼ばれて非難される今の世の中は、やっぱりおかしいと思う人権派。
2014.08.07 Thu 15:36
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Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

脳の使い方か使われ方が違うのでしょうかね。
自分の脳もうまいこと働いて欲しいです。

秘書さんをされている方って、どのくらいいるのでしょうかね。
珍職でもなさそうですが・・・?
2014.08.07 Thu 20:39
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

コメントありがとうございます。

現実を見てくださって、嬉しいです。
そうなんです。悪いものは悪い。犯罪は犯罪です。
きっちりと追求され、お咎めを受けなくてはならない思います。
それから先がどうなるかは・・・
2014.08.07 Thu 20:52
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

要くん、そういう理由で万引きを・・・(笑)
いや、笑い事じゃ無いけど、手癖が悪かったり、むしゃくしゃして・・・とかいうんじゃなくてよかった^^

少年法うんぬんより、こういう万引きは、初犯だったり、たちが悪かったりしなければ、お店からの厳重注意で終わること、多いです。

私の息子の中学は、なんと男子の4分の1が、ある駄菓子屋で万引きしていて、その子たち全員が放課後残されて説教食らっていました^^;
(たしか30人以上・・・。芋づる式に、悪事がばれたのね。みんなでやれば怖くないって事なのかな)
お店の人の配慮で、警察沙汰にはならなかったんですけどね。

要君は、選手だったので処分が重かったんですね。
理由を、ちゃんと信じてもらえなかったのねえ(涙)

そしてここで、田島君やバンドの話が!!
なんか、田島君の話がでてくると、ちょっとうれしいな。
このちっこい策くんが、やがてメジャーバンドのギタリストになるって言うのが、またうれしいですねえ^^(親の気持ち)
あの小さい策が~w

さあ、そしてようやく水曜日ですね!
私も今、水曜日なので、追い抜かされないようにしなきゃ^^
(そういう話?)
2014.08.07 Thu 21:22
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

そんな理由でした(-_-;)

わ。集団万引きでお咎め緩いですねえ。と思ってしまう方です。
警察に突き出さない方が子どものためになるのか、
警察に突き出した方が子どものためになるのか、
意見の分かれるもののようですね。

いまや懐かしい(?)名まえの登場ですかね(^^;)
「夢叶」を終えたときに、余韻を引きずるかもしれないとちょっと心配して、次のお話に向かう前に、策のこの話をクッションにするつもりだったのですが、意外にさっぱりとしているんです。あれはあれでエンドマークをつけたからかなあと思っています。それと、今は策を一生懸命に描いているというのもあるみたいで^^ 

策と田島が再会したとき、この一週間がすっぽり抜けています。大事な一週間だったのに、策は一体何を・・・。お陰で短い話の予定だったのが、長くなりそうです(^^;) 特に水曜日は(木曜日もたぶん?)、なーがいんです。今から予告(><) limeさんのお話のように深く掘り下げて描けるかどうかは難しいですが、頑張ります^^

> あの小さい策が~w

ぷぷ。策は成長止まってるんで、小さいまんま。大きくはなりません。
あ、ごめん、策・・・。limeさんが親(ガモ。え、ガモ?)になってくれるって言ってるから。ね^^
目はいろんな意味で大きくなるかも^^
2014.08.07 Thu 22:44
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - 33333!

おめでとうございます!!!!
こういうゾロ目って、テンション上がりますよね。
けいさんの「じわじわ」と迫ってくるブログや物語の魅力、「しとしと」沁み込んでくる感動、ゆっくりだけれどみんなが待っている、そんな素敵なブログの引力が読者を惹きつけて、そしてこの大きな数字に(*^_^*)
これからもじわじわけいさんの引力で、私たちを引っ張ってくださいね!

さてさて、やっと田島くんの話が出てきたよ~
良かったよ~
いつ繋がるのか、とっても気になっていたのですが、一応火曜日で登場して良かった。まさか金曜日だったらどうしようと思っていたけど。
あ、そうか、そもそも策くんが阿部くんに連絡したのって、そういうことだったんだね。
ようやく話がリンクして、これからどんな一週間になるのか、ますます楽しみになってきました。

しかし、青木!
ま、若さって……そうなんですよね、衝動なんだよね。そして考えが浅い。だから困るけれど、この「衝動」で許されるものとそうでないものがあって、見極めて指導する大人の役割って大きいんだよなぁ、ここで間違えたら大変なことになるんだよなぁと思いました。
青木君は、セカンドチャンスの重みをちゃんとわきまえているようでよかったです。

といわけで、ほんと、あれこれけいさんにはお世話になります!
これからも次々ゾロ目を目指して、頑張って下さいね!
むちゃ、応援しています。そして、すごく後ろだけれど、ゆっくり追いかけていきます!
2014.08.09 Sat 09:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 33333!

大海彩洋さん、お祝いありがとうございます。

テンション上がりますねえ。
ありがたいお言葉、嬉しいです^^
アクセス数は、大海さんをはじめとする皆様のお陰ですので、本当に感謝です。
ブログって、だから良いなあと思うし、すごく励みになります^^
こちらこそ、いつもお世話になっておりまする~~(*^_^*)

ふふ。田島、名まえだけで登場です。このお話の中では、姿は現さないのです。
本当は、日曜日には早々に登場して、策のそもそもの事情がわかるはずだったのにね。
気にしていただいてありがとうございます。(一個目の?)つっかえが取れたかな。
次の日曜日までがまた、長いのですが・・・(><)

青木、わきまえているのか。ふふ。
阿部君の苦労はまだまだ続く、です。そっちの事情はここでは詳しく描かないけれど。
阿部君には安心していろいろと任せられるんで(^^;)

子どもって、一緒にいる大人によって変わるんですよね。
子どもは一人では育たない。
大海さんのおっしゃる通り、教育と指導ってとても大事だと思うんです。
ってことで、阿部君、迷えるワンコの青木をよろしく^^

大海さん、いつも応援をありがとうございます! とっても励みになっています!
記事の豊富さでは大海さんに及びもしませんが、このままお互いに続けていけると良いですよね^^
これからもよろしくお願いします^^
2014.08.09 Sat 12:36
Edit | Reply |  

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