オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 14 水曜日(1) 

これは・・・。

俺も好きなポップパンクのバンド、ストレッチャーズ。聴きたいと思っていたニュー・アルバムがガンガンにかかっている。

「んがっ!」

一気に目が覚める。けれども体が動かせない。どうなってるんだ。薄い毛布で、体がミイラのようにきつくぐるぐる巻きにされている。後部座席に横にされた状態で、シートベルトに固定された体には、疲労感がありひどくだるい。

少しだけ自由になる首を立て、後ろから前の運転席をのぞく。かろうじて見えるハンドルを握る手には、黒皮のドライビンググローブ。何かパンクっぽい?

いや、そんなことはどうでも良い。運転しているのは、毛先の揃わぬロン毛ボサ頭の男。全然知らない奴。

車は高速ではなく、国道らしき一般道を走っているようだ。この体勢では外をのぞき見ることも出来ず、見上げる窓からは灰色の曇り空しか見えない。

「策君、目覚めた?」

ロン毛ボサ頭が、前を向いたまま俺に向かって声をかける。ちょっと待て。何で俺の名まえを知っているんだよ。

ロン毛男が首を伸ばして、バックミラー越しに俺の様子を伺っているようだ。ロン毛には俺が見えても、俺にはロン毛の顔は見えない。声の感じは、若そうだけれども。

「良く寝てたね。疲れてるの?」

いつどこで誰が何をどうやってどうしたなんで? 思いつく疑問のすべてに答えがない。まずは、この質問から。

「誰?」
「俺? 鈴木君」

それ、本名じゃないでしょう。こんなときに「伊藤」にだまされた経験が役に立つとは。鈴木は伊藤よりもあるあるな名まえじゃないか。自分で君とか付けてるし。

「鍵鳥って、本名? 鍵盤の鍵に鳥。カッコ良い苗字だよね。芸能人みたい。策っていう名まえも。戦国武将の片腕の戦略策士みたいだよね。俺、歴史大河ドラマ大好きなんだよ」
「名まえは?」

俺は少しイラついて、こいつのしゃべりを遮った。お前が誰だか名乗れよ。

「あ、ごめん。珍しい苗字がうらやましくてつい。名まえはミヒロ。この名まえの方は結構気に入ってる」
「どうして、俺の名まえを知ってるんだよ、ミヒロ」
「党幹部で衆議院議員、佐々倉志郎の上野後援会事務所勤務。肩書きは秘書の鍵鳥策、君。さすが立派な政治家の秘書さんは、ちゃんとご自分の名刺を常に携帯されていらっしゃる」

絶句して固まる俺をよそに、ミヒロは続ける。

「ポケットにあった財布の中を見て身元を確認させてもらったけど、何も抜いていないから。だって、策君は俺の知らない間にうちにいたからさ。俺の方が先に、あんた誰? ってシチュエーションだったんだけど」

何のことだか、さっぱりわからない。けれども、まず頭に浮かんだことが口に出た。

「仕事! 今、何時?」
「十一時も過ぎて、もうすぐ昼」

それを聞いて俺はあわてる。けれども、毛布で包まれた体をモソモソとずらすことしか出来ない。昨日、阿部君の家を出て、山手線の最終電車に間に合って。電車降りて・・・。何てこった。何時に家に帰ったのか、覚えていない。

「大丈夫。あわてないで。第一秘書の中島っていう人の名刺が一番上にあったんだけど、その人に連絡しといたから。政治家さん本人には連絡していないけど、良いよね、それで」
「何て?」
「夕べ策君は、友人と飲んだ帰りに酔っ払いの喧嘩に巻き込まれて、顎を殴られるという被害にあった。骨折ではなかったものの、酷い打撲のため、骨がずれてしゃべれなくなる。その場に一緒にいた友人の鈴木君の俺が今朝、病院から仕事先に電話した。で、一週間くらい仕事休む、ってことになってるから」
「一週間!?」

目を見開き、声を上げる俺。マジか。それ。なんとデタラメなことを。まさか中島さん、その話し信用したわけじゃ・・・。いや、どうなんだろう。これから先の状況が全く見えず、心臓だけがもやもやする。

そんな俺の気持ちなど、こいつにとってはきっと、どうでも良いことなのだろう。さっきからバックミラーでチラチラと俺のことを見るミヒロが、明るい声を放つ。

「策君、目、でか。自分のことより、仕事のことを先に考えるなんて、真面目なんだね。俺、策君のこと誘拐したんだけど」
「誘拐!?」

さらに声を上げる俺。ジタバタできずに、モソモソする。

「誘拐と言っても、バイト。誘拐のバイト」
「バイトォ??」

声が裏返る。目が泳ぐ。

「時給良いんだ。こっちも人生かけてるからね」
「俺は、カネ持ってねえぞ。実家も」

さっきから湧き上がりっぱなしの疑問が、頭の中で溢れまくっている。俺にはたった一つのこと、このロン毛ボサ頭の名まえが「ミヒロ」ってことだけしかわかっていない。

「そんなバイト、あるわけないじゃん」

俺の反応を面白がって、ミヒロがケタケタと笑う。やな奴だ。顔を見せろと言いたい。今は運転のほうが大事だから言わないけれど。

「これはただのドライブ。でも、せっかくだからさ、俺に付き合ってよ。とりあえず、もうすぐ最初の灯台に着くから、そこで昼メシにしよう」
「灯台?」
「そう。策君、海、好き?」
「好きだけど」
「良かった」

ミヒロは嬉しそうに呟くと、ブンとアクセルを踏み、少しだけ車のスピードを上げた。ここまでミヒロと話した中で、今の毛布にくるまれている俺の状況を説明できるものは、一つもない。わからない事だらけで混乱する。

しかも何だか、こめかみの辺りがジンジンして気分が悪くなってきた。二日酔い? いや、夕べ阿部君とはそれほど飲んでいない。じゃあ、車酔いか。吐き気を催す前に、眠ってしまいたい。このロン毛とも、もうしゃべりたくない。

不規則な車の揺れに居心地の悪さを感じながら、ぎゅっと目を閉じる。すると、カーオーディオから流れていたストレッチャーズの音楽が、だんだんと遠くなっていった。



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ロン毛ボサ頭・・・誰?

台風!(@@)  皆様がご無事でいらっしゃいますように(祈)


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Comment

Name - LandM  

Title - No title

仕事は仕事だと思いますが。
いい加減でもいいのだろうか。。。
と思ってしまう心境もありますが。
納得していればいいんでしょうね。
2014.08.11 Mon 09:06
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

仕事はいい加減ではいけないと思います。
できるできないは別にして、心を込めてさせていただいています^^
(コメ返になってます??-_-;)
2014.08.11 Mon 17:07
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - おおお?

策くん、なにやってんですか!  
って、不可抗力か(笑)

なんだかとんでもない事になってますが、いいんですか、これ。
なんだろう。悪の秘密結社に捕まったのか?

なんとも緊迫感の感じられない誘拐犯(バイト)だけども、どこかキレてる奴って、意外とこんなしゃべり方だったりするんですよね。
策くん、どうする?

そもそも、策くん、家に帰ったんじゃなかったの?
どっか、間違えて入り込んじゃったの?(それ面白い)

今回はなんの手がかりも無いから、次回を待ちますっw
(またこっから新たな一週間が始まるとか、ないですよね? 急いでください、私の方はもう木曜日ですよ!←関係ないか)
2014.08.11 Mon 18:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おおお?

limeさん、コメントありがとうございます。

不可抗力(^^;)です。
いいんです。よね(誰に確認?)
だんだん、怒涛ってきましたかね(←テーマこれ)
ぷぷ。悪の秘密結社 → 触蚊屋?(番組違う -_-;)

とりあえず、命を狙われているようではなく、お金は狙われても手持ちになく。
おかしいなあ。策、家に帰ったはずなんだけど・・・

今回は落とすのみでした。
水曜日の終わりには拾う予定なのですが、この水曜日、長いんです(><)
木曜日のlimeさんに先を行かれる~(競争ではない。10年は行きませんから -_-;)
2014.08.11 Mon 20:05
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Name - ポール・ブリッツ  

Title - 

セキュリティーとか大丈夫なのかあの議員……(^_^;)
2014.08.11 Mon 22:25
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

コメントありがとうございます。

たぬきのセキュリティーは、策ではなくあのたぬきが握っているので、大丈夫かと……(汗 ^_^;)
(コメ返になってますかね -_-;)
2014.08.11 Mon 23:17
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - なになに

水曜日になって、いきなり何が始まったの??
起きてみたら、誘拐されてた??
しかも、触蚊屋??
(なかなか手広く商売してるな、触蚊屋め。お前も悪よのう~~)

って冗談はさておき、週の半ばで突然様相が変わりましたね。
さすが、けいさんの怒涛1週間物語、展開がド派手になってきました。
う~む、どこへ連れて行かれるのだろう。
まさか、閉じこもってギターの練習をさせられる、新たなコードG??
阿部くん、ぐる?
何はともあれ、誰がこの黒幕か、楽しみに待ちまする。
2014.08.12 Tue 23:59
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - あ、触蚊屋?

ここにつながるのか。(つながらないって!)

なんか急展開すぎ。
だめだよ中学生を誘拐しちゃ。(あ、それも違う)
ダメです、もう脳内メージはlimeさんのイラストになっちゃった。

飲み過ぎちゃった間に、なんかあったのでしょうか。
それにバイトの誘拐屋ってことはどこかに黒幕が?
氣になりますよ。早く続きだしてください〜。
2014.08.13 Wed 05:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: なになに

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

いきなり何か、始まっちゃいました(^^;)
触蚊屋の手のものだったら、策、どうするんだろ??

起承転結のまだ承なのか、転に来てしまったのか、作者、わかっていなくて(汗)
まだお話半ばにも来ていなくて、(水)のパートが長そうで(滝汗)

とりあえず、灯台に連れて行かれる模様。
閉じ込められるわけではありません。ランチタイム。

> 阿部くん、ぐる?
> 何はともあれ、誰がこの黒幕か、楽しみに待ちまする。

ぐるだったらどうしよう。青木が黒幕とか。中学生マフィア。それやばい。
ハードなお話ではないので、ゆるゆるとお付き合いいただければと^^
2014.08.13 Wed 18:47
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あ、触蚊屋?

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

ぷぷ。ここにつなが・・・(^^;)

急展開きましたあ。中学生はこの誘拐をかわせるのか。ちゃう。
私も脳内メージはlimeさんのイラストになっております。
ナチュラル・ショート(わかったってば ><)

珍バイトですよね(←ないない)
黒幕かあ。そういう展開も良いですねえ。メモメモ。

夕さんに氣にしていただけて嬉しいです。
えっと続きは・・・頑張らずに頑張ります(-_-;)
2014.08.13 Wed 19:03
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Name - 城村優歌  

Title - No title

深夜の山手線か~ら~の~、誘拐っ!www

阿部くん、一枚噛んでるのかな?
酒に何か仕込んだでしょ。
そもそも策はちゃんと家に帰ったのか?
そして、いやに名前に拘る男、ロン毛ボサ男ミヒロ。
身の危険はなさそうだけど、
策ちゃん相変わらず、平穏な日々を生きてませんな。

ランチは、いいもの食べられるといいね~♪

2014.08.14 Thu 10:24
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

全然深刻さのない誘拐です(?)
ここで阿部くんが一枚噛んでいたら、酒に何か仕込んでいたら、阿部君の良い人伝説が崩れる(^^;)

> そもそも策はちゃんと家に帰ったのか?

うん。ここから切り崩していきましょうか。
謎解きとかではないです。

> そして、いやに名前に拘る男、ロン毛ボサ男ミヒロ。

ぷぷ。何かキャッチフレーズのよう^^
鈴木君の登場のおかげで、現在策は車酔い中です(^^;)
ランチは、いいもの食べられるのかなあ・・・
2014.08.14 Thu 19:59
Edit | Reply |  

Name - 鬼藤千春の小説  

Title - 有り難うございます。

「鬼藤千春の小説」のブログへ訪問いただきまして、有り難うございます。今後ともよろしくお願い致します。
2014.08.23 Sat 22:06
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 有り難うございます。

鬼藤千春さん、コメントありがとうございます。

こちらこそ、よろしくお願い致します^^
2014.08.24 Sun 09:22
Edit | Reply |  

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