オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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セカンドチャンス 18 水曜日(5) 

「ああ、これすか」

ミヒロは、湯につかる自分の胸のほうに少しだけ視線を下げるが、表情は全く変わらない。

「これは、交通事故のときの傷なんです」

ミヒロは淡々と話し始め、俺の心臓はドキドキを増す。

「二年前、衝突事故で車ごと吹っ飛ばされたんです。そのとき、右半身つぶれて。目が覚めたときは病院で、体動かせなくて」

四日間の意識不明、と聞いたとき、俺もギラ眼の男性も目を丸くした。そんな痛々しい経験があるんだ、ミヒロ。

「それはすごく大変だったね。でも、そんなに大きな事故にあっても、意識が戻って良かったね。ご家族が喜んだでしょう」

そのとき、ザザっと風に流された雨が露天に吹き込み、ミヒロはそちらに目を向けた。男性の問いかけには答えない。

「うちの長男も、高三のときに交通事故にあってね。打ち所が悪くて。長男の意識は戻らなかった」

俺は目を見開いて、その男性をじっと見た。交通事故。意外に身近にあることなのだと改めて思う。ミヒロの視線も男性に戻る。

「音楽が大好きな子で、バンドでギターをやっていたんだ。結構うまかったんだよ。大学でも仲間とバンドを続けて、絶対にプロになるって言ってたんだけどね」
「そうですか。家族を失うのって、本当に辛いですよね」

ミヒロが相槌を打つ。俺の心臓が早打ちをする。それはお湯が熱いせいでも、のぼせ始めているせいでもない。それを自分の中で確認しながら、二人の会話に耳を傾けた。

「俺もたぶん事故のときに一回死んでる。でも運よく生き返った。だから、今生きてるこの時間が何なんだろう、ってよく考えるんです」
「なんでもないよ。一度止まりかけた時間が、また動き出した。また正直に生きていけば良いだけのことだよ」

ミヒロは、はっと目を見開いて、ギラ眼と視線を合わせる。

「正直に・・・ですか」

何かを確かめるように、ミヒロがつぶやく。ギラ眼は、まっすぐにミヒロを見つめ返すだけで、何も言わない。雨の音が、少しだけ大きくなったような気がする。

俺もふと考える。俺には交通事故にあうとかいう、命にかかわるような経験はない。けれども、今までの人生、結構正直に生きているのではないかと思う。いや、どうかな。

今、ミヒロと過ごしているこの時間、俺はどうしてきただろう。ふと今日のことを振り返ってみる。俺はミヒロのことを、どう信じてきただろうか。

「今ね、長男の親友たちが、長男の音楽の夢を叶えようとしてくれているんだ。もう、とっくに止まったはずの長男の時間を、動かそうとしてくれている。それに凄くわくわくしていてね。その子たちを応援してあげたいと思ってる」

ぐっとギラ眼を細めて息子さんの話をするこの男性に、突然俺の頭の中に聞きたいことが山のようにあふれてきた。

「長谷川部長、そろそろ行きましょう。宴会の時間に遅れそうです」

このギラ眼、おっと失礼、男性には、連れがいたのか。まあ、確かにこの露天に浸かっていたのは、俺たちだけではなかったのだけれども。けど待って。まだ行かないでほしい。ちょっと聞きたいことが。

「おい、クマ、こんなところで役職名で呼ばれると、恥ずかしいじゃないか」
「何言ってるんですか。クマとか、動物呼ばわりされるほうがもっと恥ずかしいんですけど」
「ゴリラより良いだろ」
「部長。そんなことはどうでもいいから早く」

少しだけ名残惜しそうに「じゃ」と俺たちに軽く会釈をすると、男性はそこにいた数人と露天からあがって行ってしまった。

俺は、頭の中では「もしかして」、けれども口先では「どうも」と言ったきり、瞬きもできずにじっと男性を見送った。

「会社の慰安旅行で、部下を連れて温泉に来た。みんなから信頼される理想の上司。カラオケは音痴。俺の人間観察は、結構いい線を当てるんだぜ」

俺は「え」の口でゆっくりと振り返り、ミヒロに視線を戻そうとした。

「うわっ」

そうしたらミヒロのヤツ、忍者の印のように指を組んだ手から、俺の顔にめがけてバシャリと水鉄砲を飛ばしてきやがった。

「なんだよ」

俺も速攻、両手のひらで水をすくって、タオル頭に向けて応酬する。

「策! それ反則」
「露天にルールなし」
「なんだそれ。お前ルールか」
「おう。俺がルールさ」

俺たち以外、露天に人はいなくなった。それを良いことに、俺たちは風呂場で羽目を外す修学旅行中の中高生と化す。とにかく取れるだけの湯を手に、バチャバチャと相手に向かって投げ合った。

ガラガラ・・・

大浴場につながるドアが開いた。誰かが来る。その音に、一瞬にして二人とも二十歳を過ぎた良い大人に戻る。

ガキが「おお」とか言いながら、ジャンピングダイブで足から露天にバッシャーンと飛び込んできた。俺たちは即、あがった。



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ミヒロの事情、まだチラ見ですみません。 
策の事情ともニアピン。(←これはわかりずらくてすみません・汗)
次回で水曜日の最後になります。二人の浴衣姿を妄想しつつ、頑張ります^^


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - 八少女 夕  

Title - こんばんは

うわぁ、瞬パパでしたか! ですよね?そりゃ策はドキドキしちゃいます。
そしてミヒロの事情もなんか深刻そう!
事故もそうですが、ご家族の件が……?

そして、そもそもなんで策を誘拐したんでしたっけ?

露天風呂は大好きです。
真夏でも真冬の雪見風呂でも、朝風呂もお月見風呂も全部好き〜。
日本に行ったら、グルメとならんで温泉ですよね。
こうやって遊んじゃったら、策とミヒロ、いい友達になりそうですよね。
2014.11.09 Sun 03:52
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんばんは

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

です^^ なので策はドキドキでした。
(瞬パパ、ってナイスな呼び名だ。夕さん、ありがとー)
ミヒロの事情は小出しですみません。もうちょい引っ張ります。
てか、肝心なところは最後まで引っ張ります~(><)

> そして、そもそもなんで策を誘拐したんでしたっけ?

あ、これは明日語ります。えっと、明日です(-_-;)

露天、良いですよねえ。でも私、実際に行ったのはほんの数回(3回くらいかも)
憧れのほうが大きいです。(泳ぎたい・・・なんか勘違いしてる自分)

> こうやって遊んじゃったら、策とミヒロ、いい友達になりそうですよね。

そんな予感、していただけますかね。
この一週間は策にとっては大事な一週間になるのですが、ミヒロにとっても策とのこの数日が忘れられない数日となる、といいなあと作者は願っております。
夕さん、どうか二人を見守ってあげてください。
2014.11.09 Sun 10:22
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - わあああ、ごめんなさい

17話と18話が更新されてるのに、今気づきました!!
一番トップの記事が変わらないから、ポチ下だけで毎日帰ってきてました。
うわ~、早速読ませていただきました。
そしたらずいぶん濃い部分だった・・・・。

ミヒロと露天風呂♡ (いや、そこではなくて)
ミヒロの体の傷、そして過去の事故。そんなことがあったんですね。
ミヒロがまだちゃんと語らないという事は、言いにくい辛いことが隠されてるんでしょうね。

そしてそこに居合わせたのが瞬くんのパパだなんて。
パパの口から語られる瞬くんの事故。これは辛いです。
策君は、瞬くんの事、知ってるんでしたっけ。
まさかこれが、田島君の親友の話だなんて思ってもみなかったでしょうね><
うーん、なかなか気になる部分に差し掛かりました。

ああそれにしても気づかなくてごめんなさい。
今度から注意しなきゃ><
2014.11.09 Sun 13:29
Edit | Reply |  

Name - ポール・ブリッツ  

Title - No title

うわー、あの人がここでこうからんでくるんですか。

予想外のところから飛んできたパンチを食らった気分(^^;)

アルファポリスがんばってくださいね!
2014.11.09 Sun 15:55
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: わあああ、ごめんなさい

limeさん、気づいてくださって、ありがとうございます^^

ミヒロと策の露天風呂♡ お楽しみいただけましたようで(いや、そこではないんっすよね)
ミヒロの事情については、これから小出ししていくので、だんだんとわかってくると思います。
(隠しませんが、引っ張ります・・・?)

策は、瞬パパとは面識なくても、瞬のことはよく承知しているんです。
なにせ、瞬は策の高校時代のギターヒーローだったので。
策は瞬のスタイルとフレーズをほぼコピーしきっています。
しかし、それが災いして先週末のオーディションでは田島に落とされたという・・・
そんないきさつでした。

実は、今回のエピソードを描くにあたり、ちょっと気にしたことがあったんです。
この策のお話は、全く新しいお話として、このお話から読まれる読者様にもお楽しみいただけるように描いているのが基本なのですが、それと共にもう一つ。今までずっと応援してくださって、過去作を読んでくださっている読者様にも、過去作を知っているからこそ、お、むふふ、とわかるような場面も今までの感謝の意をこめて織り込みたいなと思っていて。それにちょっとトライしてみたエピソードでした。うまくできたかどうかは疑問ですが、誰が出てきたのかはわかっていただけましたかね(^^;)
2014.11.09 Sun 18:43
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

コメントありがとうございうます。

えへへ。予想外の(?)あの人、絡ましちゃいました。
ポールさんにもわかっていただけましたかね。
名まえ出したからかな(?)
やた。パンチ当たたっ(?)
いつも応援をありがとうございます^^
2014.11.09 Sun 19:16
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

俺がルールだ。
言ってみたいセリフでもありますが。
まあ、それはそれですね。
王様だとマジでそれを地でいきますからね。。。
2014.11.09 Sun 20:33
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

このセリフを取り上げていただいて嬉しいです。
言ってみたいですねえ、この王様セリフ。
ま、お風呂場で水かけっこして遊んでるときに言ってもねえ(^^;)
現実に言ったら自分で笑っちゃうね~^^
2014.11.09 Sun 21:26
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - あら

(一度コメを書いたのに、急にパソコンがストを起こしてしまった……最近、負荷が多すぎたのかしら?? 気を取り直して……)
そうかぁ、こんなところにも現れる瞬パパ。偶然の出会いなのか、あるいは?なんて思ってしまうのですが。
それにしても、ミヒロ、自分の怪我が大変な事故だったというだけじゃなくて、何だか他にも傷つくことがあったのかしら。つまり、家族は?なんて勘繰っております。
その後の水鉄砲ごっこも、結構何かを隠しているような感じで。
でも、これと策を誘い出すこととの因果関係はなんだろ??
この後、旅館のお泊り会(まくら投げありですか?)で何かが語られるのかしら。

いやいかん。あれこれ勘ぐってばかりじゃだめですね。
でも、あれこれ気になっちゃうのです。どうなるのかな~(*^_^*)
続きを持っていますね。
2014.11.11 Tue 21:48
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あら

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。
あぁ・・・二度目。がっくり来ますよね。ありがとうございます。

瞬パパに関する読みは、ミヒロのほうがいい線いってます(^^;)
ミヒロ自身についてはこれから小出しで、しかも最後まで引っ張っちゃうのですが、そこまでいかなくてもそれとなーくわかるようにもなっていく、かも(-_-;)
大海さん、鋭いですから、途中でわかるんじゃないでしょうか。とだけ。
ってことで、ここはスルーですみません(><)
あ、お泊り会にまくら投げないんですよ。20歳を超えたいい大人のはずですからやつら。水鉄砲はするくせに(?)
ついでに、語りもないんだ。どき。ミヒロが語るのは明日なんです。どき2。
えっと、明日はですね・・・(滝汗)
大海さんに待っていてもらえますように・・・
2014.11.12 Wed 18:07
Edit | Reply |  

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