オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

秘密の花園 6 火曜日・カフェ(3) 

 ―――何で人気絶頂のイケメン俳優のリョウが、俺の名まえを知ってるんだ? 

 テーブル席にいる田島たちも、びっくりしている様子だ。マスターはどこに行った。姿が見えない。

「僕の写真集をご購入くださり、ありがとうございます。今日は花園徹さん、あなたのリクエストにお答えするため、こうしてここまでやって参りました。どうか最後までお楽しみください」

  ―――は? 

 お楽しみ、などと言いながらもリョウのその瞳は冷たく、今にも俺のことをズンと突き刺すようだ。口調はトーンを落とし、俺からのどんな返答も拒絶するようなきつさ。

 ―――てか、写真集? ご購入? 俺が? 

 何のことだかさっぱりわからない。頭の中は混乱するが、何もどうにもできなくて、俺はただなんの言葉もなく茫然と立ちつくすだけだった。

 その時、店のドアが再びカラカラというドアベルの音と共に激しく開けられ、一人の女性が駆け込んできた。

「リョウ、やめて!!」

 その声を聞いた途端、リョウはカウンターをバシンと平手で打ち、「チッ」という舌打ちと共にゆっくりと後ろを振り返った。その女性は、俺の頭をもっと混乱させた。

 ―――鈴木未来(すずきみく)!? どうなってんだ?

 俺に考える隙を与えず、その美人演技派女優が真っ赤な目をして泣き叫んだ。

「それ以上は無理よ! リョウ、お願だから、今すぐやめて!」

 鈴木未来の透き通った声が、キンと店に響く。リョウは訴えるような彼女の言葉を無視し、再びカウンターの俺のほうに向き直った。その瞳には、先ほどよりも怒りが込もっている。俺は少し怖くなって足を一歩引いた。

「花園徹さん。これは一体どういうことなんです? ちょっとこちらに出てきて説明してもらいましょうか」

 リョウはそう言うと、リーチのある長い腕を伸ばし、俺の胸倉を掴んだ。その力強い腕は、俺の体をぐいぐいと引っ張り、俺はカウンターを越えてフロアまで引きずり出された。

「アワワイテテ!」

 俺よりずっと体も大きく、腕っ節もありそうなリョウが、人から細くて華奢と言われる俺のことなど楽々と引き寄せ、吊り上げる。宙で体を揺らされた俺の混乱は、声も出せないほどの身の危険を感じるパニックとなっていた。

「花園徹さん!」

 鈴木未来が腹の底から俺の名を叫び、リョウに体当たりをした。その反動でリョウは俺の体から手を離し、俺はヘナヘナとつぶれるようにフロアに墜ちた。体中の力が抜け、意識を失いそうになる俺のことを、鈴木未来が素早く抱きとめる。

 床にへたり込む俺の体は彼女の両腕に優しく包まれ、頭はしっかりと胸の内に抱かれた。鈴木未来の心臓の音が耳元で聞こえ、彼女の胸元からは桃の花のような甘い香りがしてくる。

 ―――何、これ、何・・・?

 線のような細さに縮まった俺の目に映るものはなくなり、頬と額に鈴木未来の色香だけを感じる。俺の意識は朦朧とし、すっかり脱力していた。

 身動きの取れない俺のことを、鈴木未来はその細腕に力を込めてぎゅっと抱きしめていた。心なしか、少し震えているようにも感じられる。

 俺は、この気の遠くなりそうな、夢でも見ているような時空の中に吸い込まれようとしていた。鈴木未来という名まえの柔らかい雲の上にでも乗って、体が宙に浮いているような感覚すらしてきた。

「そいつを離せ!」

 リョウは俺にではなく、鈴木未来にそう怒鳴りつけ、この人気女優を蹴っ飛ばし始めた。その途端に俺はまた目を開き、同時に自分の心臓がはち切れるほどにドキドキし始めるのを感じた。

「離せっ! 離せっ!」

 何かに取り付かれた様にそう繰り返しながら、リョウは何度も何度も鈴木未来に蹴りを入れていた。彼女は、俺の口がオチョボ口になるくらいに強く自分の胸に俺の頭を押し付け、「だめ!」と泣きながらも必死でその仕打ちに耐えた。
 
 だけど・・・

 ―――いや、待て。よく考えろ。

 オチョボ口だった俺は、何かに惑わされそうでいた自分を取り戻し、必死に現実に戻ろうとした。どう考えてもこの展開は理解できない。

 ―――リョウの写真集に、セレブ女優の鈴木未来って、ったく何なんだよ。

 俺はするりと鈴木未来の腕から頭を抜き、足を踏ん張り、リョウに向かって立ち上がった。



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   徹さん、この妙な展開をどうさばく?

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