オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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セカンドチャンス 19 水曜日(6) 

「鍵鳥様。どうぞこちらにお上がりください」

髪にドライヤーなんて、女の子みたいなことを言うミヒロは、部屋に残してきた。食事が用意されていると知らせのあった個室に向かうと、ミヒロの伯母さんが部屋で俺を迎えてくれた。

「磯懐石。すげー、本格的」

上座に促され、厚手の座布団に腰を下ろすと、伯母さんは俺の斜め前に正座して、丁寧に頭を下げた。

「鍵鳥様。本日は岬岩温泉『憩』にお越しくださり、ありがとうございます。『憩』の女将、岩瀬優子でございます。今夜は、どうぞこちらでゆっくりとおくつろぎください」

この温泉美人の女将さんが、ミヒロの伯母さんという人物だと思うと、それだけで緊張してしまう。「様」っていうのはちょっと。

「女将さん、俺はただのミヒロの友人ですから、普通に呼んでください」
「そうですか。それでは、鍵鳥さん、でよろしいでしょうか。お飲み物は、ビールにしますか、それとも、日本酒にしますか。ジュースもございますが」
「ビールを、お願いします」

一応、二十歳を超えていることを控えめにアピール。けれども、日本酒はやめておく。グラスに注がれるビールを眺めながら、たった今自分が言った言葉を心の中で繰り返す。

俺は、ミヒロの友人なのか。

人気旅館の女将が、お一人様を相手にする暇などないはず。ミヒロが食事に来るのを待っているのだろう。髪にドライヤーなんて適当にして、早く来れば良いのに。

「女将さん、ミヒロの代わりに、一緒に乾杯してくれませんか。一人じゃちょっと」
「そうですか。それではせっかくですので、いただきます」

笑顔で「乾杯」を合わせてから、女将さんが今晩の磯料理について解説をしてくれる。

刺身の舟盛り、金目鯛の煮付け、さざえの浜焼き、海藻の酢の物。地元で水揚げされたという新鮮な魚貝が、どの器にも美しく盛られている。漬物とご飯に伊勢えびの味噌汁もかなり贅沢。

女将さんがご飯をよそってくれるところで、まずは気になるあのことについて聞いてみた。ミヒロはいないけれども、やはりどうなっているかを知りたい。

「あの、綾ちゃんは?」
「そうそう。まずはそれをお話しなくちゃね」

女将さんは「はい、どうぞ」とご飯を渡してくれると、話を始めた。

「綾ちゃんが少しだけ夕食をとってくれて、良かったです。まだ少し熱っぽいけれど、丘元からお母さんも来られたし、安心したみたいですよ」

丘元は、岬岩よりも海から内陸に入ったところにある隣町なのだという。岬岩は小さな漁港の町だが、丘元はもっと小さな町で、小学校も一つしかない。小さな町同士、季節のまつりごとなどを合同で行ったりする関係もあるのだという。

「どうして、猫と一緒にあの灯台にいたんですかね」
「あの子、しゃべれないから詳しいことはわからないんですよ」
「え、綾ちゃんて、しゃべらないんじゃなくて、しゃべれない子なんですか?」
「神経系に障害のある子でね、手先とか体の先の部分がうまく使えないんですって。舌もうまく回らなくて、それでしゃべれないって聞いています」

極端に人見知りなのかと思っていたら、そうではなかったのか。それにしても、ミヒロを見る目と俺を見る目に差、あったよなあ。きっと、自分を助けてくれたヒーローのことは、わかっていたんだよね。

「綾ちゃんのお母さんね、本当のお母さんじゃないです」

三年前、綾ちゃんが丘元の小学校に転校してきたその日に、母親が失踪。一人親家庭で転校してきた綾ちゃんに身寄りはなく、急きょ当時のPTA会長さんの知り合いに面倒をみてもらったところ、そのまま好意でずっとそこに暮らしているのだという。

当時その話は、丘元から岬岩の町まで知れ渡り、それで女将さんも綾ちゃんのことを知っていたらしい。

「とても大切に育てられているんじゃないかな。でも、置いていかれたときの記憶がトラウマらしくて、学校の帰りなんかに道端で捨てられたい子犬とか子猫とかを見つけると、放って置けなくて拾ってきちゃうんですって」
「あの猫もきっと捨てられていたんですね」
「たぶんね。だからあの猫は綾ちゃんにとって、とても大事な子なんですよ」

車の中で愛おしそうに猫を見つめて抱いていた綾ちゃんを思い出す。あのとき、俺のことは全く眼中になかった。いや、もちろん、俺が猫に嫉妬とかしていたわけではない。

「今日、学校は?」
「綾ちゃん、実は昨日から体調を崩していて、今日は学校をお休みしていたんですって。その体調を崩していた理由、というのも動物絡みで」

昨日、学校に行っている間に自宅の動物小屋がキツネに襲われて、面倒を見ていた動物たちが被害にあってしまった。外に逃げ出した動物たちを探しに行ったまま、家族が心配するほどに遅い時間に家に戻った綾ちゃんは、倒れるように床についたのだという。

今日、仕事のあったお母さんは、綾ちゃんにゆっくり休むように言って家を出たのだけれども、綾ちゃんはいなくなった動物たちを探しに、再び家を出ていってしまったらしい。

「岬岩の灯台に行ったのは、お母さん曰く、当てがあったのかもしれない、って」

その当てがあたって、猫を見つけたのは良かったが、ということなのだろうか。ミヒロが綾ちゃんをこの宿に連れてきて、女将さんが小学校に連絡を取るまで、誰もこのことを知らなかった。

夕方、和室スイートの部屋から見えた灯台に、波が打ち付けていたのを思い出す。あそこに綾ちゃんが気を失ったままいたとしたら、ということを想像すると、ミヒロが灯台に寄ってくれて本当に良かったと思う。

「綾ちゃんのお母さんが、明日の朝、改めてお礼の挨拶をしたいとおっしゃっています。だから明日の朝は、時間は気にしないで、ゆっくりしていってくださいね」
「お礼の挨拶だなんて、そんな」

綾ちゃんが元気になってくれればそれで良い。ミヒロもきっと同じように思うだろう。友人だから、気持ちは一緒。たぶん。

「あの、鍵鳥さんは、ミヒロの大学のお友だちなのでしょうか?」
「あ、えっと、ミヒロの・・・」

大学生だったのか、あいつ?



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す、す、すみませーん(><)
一体何度目だろう。終わりませんでした(-_-;)
あ”~~、っとに、っとに・・・(滝汗)
大学生です。ってそれだけ(滝汗)


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Comment

Name - 大海彩洋  

Title - ミヒロペース

どんどん巻き込まれていきますが、まだまだ謎解きは先の話のようですね。
でも、そうかぁ高校生や大学生にもてあそばれいてる策くん、本当に人がいいんだろうなぁ。綾ちゃんにはちょっと怖がられちゃったけれど、綾ちゃんにも大変な事情があったのですね。ねこちゃん、優しい人たちに助けられて良かったなぁ(^^)
それにしても、思わぬ旅館宿泊、楽しそうですよね。で、ミヒロくん、まさかの女子力高し?
2014.11.15 Sat 10:55
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Name - けい  

Title - Re: ミヒロペース

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

策とミヒロは今日逢ったばかりで、綾ちゃんのこともあって、お互いの話をする時間がまだあまりないんです。
その分、明日、話します。なので、明日のエピソードも長い。すでに(-_-;)
けどその前に、今日がまだ終わってない(><)

綾ちゃんとねこちゃんにも、お気遣いありがとうございます。
みんなのおかげでもう大丈夫でしょう。

本当にこの宿泊は思わぬ予定外、だったのですよ。
で、ミヒロのまさかの女子力ですか。ぷぷぷ。大海さん、ナイスです。
私は知らなかったぞ、ミヒロ?
2014.11.15 Sat 12:34
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - あれれ?

明け方にコメントを送ったんだけど、消えちゃってます。汗
あのコメ、どこに行ってしまったのかな。
どこかに迷い込んでいたら、笑って消してください><

……気を取り直してもう一度。
(ぜったい違う事書くなあ)

ミヒロのことが少しずつ分かってきましたね。
ドライヤーを丁寧に掛ける子だという事もばっちり。
でもまだまだ・・・。(けいさん、小出しすぎる~w)

そして綾ちゃんのことも。
綾ちゃんはそう言う事情があったのですね。
綾ちゃんを救ったのは本当に偶然だったのかあ。
このあと綾ちゃんは物語に絡んできますか?

そして、誘拐の謎が一番気になるところ。
水曜日、まだ続いてもいいですよ。^^
2014.11.15 Sat 12:54
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あれれ?

マジすかあ、limeさん。なぜでしょう?? どこへ??
二度目、ありがとうございます。

> でもまだまだ・・・。(けいさん、小出しすぎる~w)

いえいえ~! limeさんほどでは! 皆さんここ、共感してくださるはず。
でも、小出しは今日だけで、明日から大出し(?)していきますよー。
えっと、明日、なんですけどね(^^;)

綾ちゃんはちょいわけあり、でした。綾ちゃんのことがあって旅館へ、の流れでした。
綾ちゃんのことがなければ寄ることはなかった。
露天もなかったし、瞬パパにも会わなかったし、ドライヤーの件もなかった(-_-;)

> そして、誘拐の謎が一番気になるところ。

はい。ここ、策には優馬のように記憶のないところなので、ミヒロが教えてくれます。
優馬にもミヒロのように語ってくれる人、いるんですかね?

水曜日・・・あ、も、次回で、っとに終わります(><)
limeさんのところの金曜日に追いつけない・・・
2014.11.15 Sat 14:18
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - こんばんは

「ミヒロの友人ですから」って断言しちゃっていますが、誘拐された件はもう水に流しています?

そうか、綾ちゃんが策に冷たいのに猫には優しかったのはそういう事情が。だから放置しないで連れてきてくれたミヒロにも心酔するのですね。

そして、ドライヤーに時間がかかるんだ。サラサラなのかな……。

それにしても温泉旅館いいなあ。浴衣きてゆっくり寛ぎたいです。

次回こそ、誘拐事情が明らかになるんですか? 
2014.11.16 Sun 01:43
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんばんは

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

> 「ミヒロの友人ですから」って断言しちゃっていますが、誘拐された件はもう水に流しています?

ミヒロの伯母さんの手前、一応取り繕っている策です。
綾ちゃんのことがあったために、話をするタイミングがなかなか取れませんでしたが、ミヒロがいろいろ話してくれます。木曜日にです。で、まだ水曜日が・・・(><)

> そうか、綾ちゃんが策に冷たいのに猫には優しかったのはそういう事情が。だから放置しないで連れてきてくれたミヒロにも心酔するのですね。

綾ちゃんにとってミヒロは、白馬にまたがった王子様、だったかもしれません。
通りがかりの素浪人というより(?)
で、策はお供。いえ、眼中なかったらしい・・・

> そして、ドライヤーに時間がかかるんだ。サラサラなのかな……。

ミヒロのロン毛は、夕さん、是非想像していただければと。
自分も妄想中(^^;) 浴衣姿も妄想。単なる自作のファンと化す作者(-_-;)
そうそう。温泉旅館いいですよね。合宿しましょ!

誘拐事情については・・・えっと、えっと、ミヒロの語りをお待ちいただけますように~(滝汗)
2014.11.16 Sun 10:53
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

そういえば、最近旅館に行っていないな~~~。
いつも女将じゃないですけど、
挨拶がありますもんね~~。
それがいいですよね。
2014.11.16 Sun 14:55
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Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

旅館、良いですよね~。ホテルだって良いですし~。
バックパッカーのホステルだって、良いんですよ~。
いつもと違う、っていうのが良いんですね~。

飛行機に乗ったときに機長の挨拶っていうのがありますが、女将の挨拶も良いですよね。
わざわざ部屋まで来られなくても良いけど、なにかちょこっとでもあると、粋だなって思います。
2014.11.16 Sun 20:16
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - No title

ここに書いていいのかどうか迷ったのですが。

たおるさんがポチの絵を描いて下さいました。
けいさんはたおるさんをごぞんじでしたっけ?
そのあたりのつながりもよくわかりませんが、一応、ご報告まで。

http://ll050023.blog.fc2.com/blog-entry-133.html

ぜひ見て下さいね。

2014.11.19 Wed 23:12
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

おお^^ お知らせ、ありがとうございます。

早速伺わせていただきます^^
2014.11.20 Thu 17:09
Edit | Reply |  

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