オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 22 木曜日(2) 

「朝メシ、コンビニで良い?」

俺の返事を聞くまでもなく、ミヒロは道路沿いのコンビニに車を止める。くねくね坂を下りきり、向こうにビーチが見えていた。どこのビーチだろう。まだ南房総なのだろうか。辺りはすっかり明るくなっているのだけれど、今いるここがどこなのか全くわからない。

「お前の財布、バックパックのほうに入っているから。自分の金で、食いたいもん買えよ」

そうぶっきらぼうに言うと、ミヒロは先に車を降りてコンビニに入っていった。俺は言われたとおり、後ろの座席にあるバックパックを開けた。

「あった」

財布も、携帯も、家の鍵も全部。携帯のスイッチを入れる。

「電池切れ。なんで?」

二、三日はもつはずなのに。おかしいとは思いつつも、続いて財布の中身も確認。現金はあまり覚えていないけれど、とりあえず札はそろっている。カード類もすべて収まっていた。けれども、ミヒロの言った、中島さんの名刺なんか見当たらない。

自分の名刺は入れてるけど。そういえば、上田さんのだって、佐々倉先生のだって、財布には入っていないのだ。携帯のアドレスを見たのだろうか。どうも腑に落ちないが、まあ、今となってはどうでも良いことかもしれない。

全部をジーンズのポケットに入れ、コンビニに向かう。昔はどこのコンビニにもあったはずの公衆電話、やはりここも撤去されている。連絡は後で、ミヒロの携帯を借りよう。

「いらっしゃいませ」

夜勤のバイトの兄ちゃんが、棚の整理をしている。もうすぐ朝の人と交代かな。俺は夕べの食事が大きかったから、今はあまりお腹が空いていない。フルーツの棚をのぞく。

「ミヒロー! お前、ミヒロじゃねえか。ちゃんと生きてんのかー」

首を伸ばすと、さっきのバイトの兄ちゃんが、レジの前でミヒロに抱きついているのが見えた。ミヒロも目を細めて嬉しそうだ。知り合いなのだろうか。

「お前も元気そうだな」
「俺は相変わらずだよ。ミヒロは今、なにしてんだよ」
「俺はなんにもしてねえ。まだ東京にいる」

あの旅館つながりか。それにしても、なんという感動の再会なのだろう。一度死んだ人間が蘇って戻ってきた、ぐらいの喜びようだ。

「ミヒロ、体は?」
「大丈夫。心配ないよ」
「そうかあ。良かった」

コンビニの兄ちゃんが、ミヒロのことを上から下からマジマジと見る。事故のことを知っているのだろうか。俺はぶどうのパックを手に、ゆっくりとレジに向かった。

「ミヒロ、旅館には寄ったのか」
「うん、夕べね。今帰り。今日はこれからちょっとこの辺のドライブ。それでお前にも顔出しとこうかな、と思って」
「なんだよ。来る前に連絡よこせば良かったのに。そうだ、今夜泊まっていけよ。ジェットバス付きのクイーン空けとくから」
「はは。今夜は当てがあるんだ。また今度」
「そうかあ。運転には気をつけろよ。もうあんなニュースは聞きたくない」

ミヒロは苦笑し、「あ、これ」と手にしたものを差し出すと、バイトの兄ちゃんはニッコリして、さっとカウンターに入った。俺はミヒロから一歩下がったところに列をつくる。

「ありがとうございました」

会計を済ませて車に戻ると、ミヒロは買ったパンをかじっていた。

「あのバイトの兄ちゃんとミヒロ、知り合いなんだ」
「あいつはバイトなんかじゃねえぞ。ここのコンビニと向かいのラブホテルとこの先の磯割烹レストランを経営する会社の若旦那だ。高校時代の友だち」
「へえ。会ったの、久しぶりなんだ」
「うん。事故以来」

ミヒロはさらりと言うと、車のエンジンをかけた。その「事故以来」というのがどのくらいなのか俺にはわからず、リアクションに困る。

「綾ちゃんのことがなかったら、夕べはあいつに頼んであそこのラブホテルに泊めてもらうつもりだったんだ」
「ラブホテル?」

ハンドルを回しながら、ミヒロがコンビニの向かいの海沿いに立つ建物を指差す。瓦屋根の昭和の町屋敷風な外観で、伝統的な銭湯のようにも見えるのだけれども、あれ、ラブホテルなんだ。

「そ。全室内風呂付きの温泉ラブホ。あいつは、あれを若者や家族向けのヨーロッパ風ペンションに建て替えたいらしい」
「へえ」

って、ちょっと待った。俺とミヒロとラブホテル? ジェットバス付き、クイーンベッド? いやいや、何の妄想もするな。今夜の話ではない。夕べだって何もなかったじゃないか。鼻つままれただけで。

「策、今日は村崎岬まで行く」

どこそこ? いや、どこでも良い。今夜はラブホにもどこにも、ミヒロと一緒に泊まる予定はない。

「ミヒロ、帰してくれ。東京。俺は忙しいんだ」

やっと、このセリフが言えた。

「ミヒロの携帯貸して。連絡したいから」
「策、なに言ってんの。覚えてる? 策は仕事休むって、友人の鈴木くんが鍵鳥くんの職場には連絡済みなの」
「中島さんが、お前の話を、鵜呑みに信じたとは思えねえ。ちゃんと話す」
「ああ、その人、良い人だったよ。策をよろしく、だって」

ちょっと。マジかあ、中島さん。政治家の第一秘書、もう少し、物事疑ってみてよ。俺は天井を仰ぐ。車の天井だけれど。

「だから、仕事のことは気にしないで」
「ミヒロ、俺には仕事の他にも、大事なことがあるんだ」
「なになに?」
「言わねえよ」
「なにい。気になるじゃん。週末に彼女と約束があるとか? ま、策も二十三歳だから、プライベートは色々あるかもしれないよね」

どうして俺の歳・・・免許証からか。身分証明は持っておくものだと、この場合は自虐的に思う。

「帰してよ。それか、その辺の駅でいいから、降ろして」

俺はイラついて、少し強めに言った。ミヒロは眉間を寄せ、不機嫌そうな声で返す。

「だいたいさあ、策、おととい、どうして俺んちで寝てたの?」 
「は?」

ミヒロんちで寝てた? 俺が? 何で? ミヒロを凝視する。

「うわ、目、でか。そんなに驚いた? つーか、俺のほうが驚いたんだけど」
「何で俺が、知らねえヤツんちで、寝なくちゃなんねえんだよ」
「だから、俺がそれを聞いてるんだけど」

なに言ってんだこいつ。一瞬ぶっ飛ばしてやりたい衝動に駆られるが、運転中はやめておく。

「駅前のコンビニにちょっと買い出しに行って戻ってきたら、お前、玄関で靴はいたまんま転がってたんだぞ。声かけても起きねえし、腹から血でも流してたらどうしようって、怖かったー」

なんだそれ。どういうこと。思い出せ。何があった、俺。

「玄関で倒れてた策は、酔っ払ってる様子もないのに、死んだみたいにクターってなっててさ。ベッドに連れて行っても、全然目を覚ます感じじゃなくて」

ちょっと待て。あの日は、阿部君の家に行ったら要がいて、それで泊まっていくつもりだったけど、やめて終電で帰ってきて。電車でうとうとして、危うく駅越しちゃう前にギリギリ降りて。改札出てうちに向かって。

「あ」
「何?」

エレベータで、酔っ払いの姉ちゃんに絡まれたんだ。たぶん、同じ最終電車から降りた同じマンションの人。

「ボク、塾の帰り?」 かなんか言われて顔に手を伸ばされて。で、連れの男に「ガキのくせに色目使うな」とかいいがかりつけられて突き飛ばされて、その勢いでエレベータの壁に頭ぶつけて。

エレベータのドアが開いたから、逃げるように降りて、頭クラックラしながら部屋に着いたんだ。ドアにカギ入れたのに回らなくて、何でだよって、ドアノブを回したら開いた。で、中に入ったら、玄関でつまずいて・・・

「ミヒロ、お前んち、何号室?」
「うち? 602」

うち、702。マジか。



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策、やっと思い出しました(遅いよね -_-;)
ミヒロは、同じマンションの下の階にお住まいだったらしい。
話は続きます。


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
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Comment

Name - lime  

Title - そうか

ミヒロは下の階の住人なのか。
すごくスッキリしました・・・が、まだ分からないことがいっぱい。
なんで策を連れ出しちゃったのかな。
初対面じゃなかったのかな。
策の仕事の事、知ってそうだったけど。
この一連のミヒロの行動には、なにか理由があるのか、それとも思いつきなのか。
けいさんったら、じらすんだから~~~。

昨夜はそうか、ラブホに泊まる予定だったんだあ。
それも楽しかったろうに。(いや変な妄想はしておりません!)
まだまだ先は長そうなので、ゆっくり見守りますね。
2014.12.06 Sat 08:49
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Name - けい  

Title - Re: そうか

limeさん、コメントありがとうございます。

ミヒロは下の階の住人でした(王道設定。王道好き ^^;)
limeさんにスッキリしていただけて良かったです。ホッ(-_-;)

なんで策を連れ出したのか - 次回です(予告)

> この一連のミヒロの行動には、なにか理由があるのか、それとも思いつきなのか。
> けいさんったら、じらすんだから~~~。

それほど大げさではないところが心苦しい・・・ほらこのお話、ミステリーでも、アドベンチャーでもないので。ファンタジーでも、恋愛でもないし。ジャンルにはちょっと困る。日常のつもり(-_-;)
そのくせにじらすのは、limeさんの、マネ~~~^^

そそ。二人でラブホでジェットバス、だっかもしれませんでした。
どっちが良かった? (ちゃうっ ><)

はい、まだまだ先は長く・・・
中島さんのときはついていくヒナガモで、ミヒロの場合は連れまわされるコガモ。
策を鳥に例えると、カルガモ(のヒナ)。決定っす^^
2014.12.06 Sat 09:52
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

ジャパンはさみい。。。
(/・ω・)/

いや、冬将軍到来です。
この一週間で一気に寒くなりましたね。。。
ガチガチフルフルの冬がやってまいりました。

しかし、日本にいないのに、日本にいるみたいな小説が書けるのもすごいですね。ってふと、思いました。

策とミヒロは同じところだったのですね~~。
これからどうなんだろうか。。。
2014.12.06 Sat 21:36
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Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

ジャパン、さみいっすか。Ausも適度に暑いっす。
まだ序の口。これから熱いに向かいます。
エアコンをフル稼働させるため、電気会社さん、よろしくです。

> しかし、日本にいないのに、日本にいるみたいな小説が書けるのもすごいですね。ってふと、思いました。

わ、これ、とっても嬉しいです。ググッてます(キリリ)
横浜と千葉はお向かいさんなのですが、間に東京湾があって、意外と行った事がないのです。
違うよっていうところがあったら、教えてくださいね。

策とミヒロは同じマンション、というベタな王道が好きで・・・(-_-;)
先を気にしていただけるのは嬉しく、ありがたいことです。
LandMさんがこの先もチェックしにお越しいただけますように。
2014.12.07 Sun 10:11
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Name - ポール・ブリッツ  

Title - 

602号室に部屋を借りた時点で作為を感じる(笑)

そもそも策くん、一服盛られたとか(笑)
2014.12.07 Sun 21:34
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

コメントありがとうございます。

なに。そこに作為が・・・
一服盛られたのか。い、いつの間に。

話のジャンル、どうなる・・・オロオロ・・・
2014.12.08 Mon 15:59
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

工作員ミヒロ、相変わらずの飄々ぶりですね。
どこまでがたくらみなのか、さっぱりわからないです。
階を間違える策も策だけど、部屋も心もオープンなのね^^

しかし、寝てる時に鼻をつまむとか、ラブホとか、
そっち系なのか、そっち系にいくのか、いくのかいくのかー!?
とドキドキしておりますよ。
「夕べだって何もなかった」って、
策、何を期待してんのっ!(期待しているのは私だが)
2014.12.09 Tue 00:42
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - なんと~

そう来ましたか。実は顔見知りだったのか、いや、策は認識していなかったのでしょうか。どこかで見たって感じ?
で、脳震盪でちょっとぼや~んとしているうちに間違えちゃったと。
あはは~、ちょっと策っぽいというのか、こういう感じが策のキャラなんだね。真面目で泣き上戸の祥吾には、こういう天然キャラの存在は必須だわ。
でも、ミヒロにも、ミヒロの行動にもまだまだ謎がありますね。
ちょっともどかしいけれど、また先を楽しみに待ちまする。
木曜日も長そうですね^^;
2014.12.09 Tue 01:23
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - わ〜

これ、日本の都会らしい話! 日本あるあるですよ。
ほら、同じマンションに住んでいるのに顔も見た事ないなんて、うちの田舎じゃありえないし。(けいさんのところとおなじで、うちの村で私を知らない人いない状態だし)

なんて事実が判明されて、ついスルーしそうになりましたが、携帯の電源が死んでいた謎はまだ何かありそうですね。

ううむ。木曜日中には帰れるんだろうか。それとも、このまま誘拐(?)されたまま、当日ぶっつけ本番?
2014.12.09 Tue 06:43
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Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

ぷぷ。涼しい顔でひょ~っとしてるんですよ。
たくらみはないけど、いたずらっ気はあるかな(僅差?)
部屋はねえ。近所のコンビニに行く程度ではカギかけない(?)
ちょっとの外出でもカギをかける策はA型だけど、ミヒロはB型だなきっと(←血液型の話)

ふふ。城村さんたら、なにを期待してくださっているのかなあ~^^
そっち系ですか。どっちのことかなあ~。あっちには行くよ~^^

策は期待していないが、ミヒロは期待している(?)
なにをだーー?? 言えないーー。けど、危なくはない。
大人の城村さん含め、全人向けのお話です^^
2014.12.09 Tue 16:06
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Name - けい  

Title - Re: なんと~

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

王道の展開で行きました^^
そうそう。エレベータの壁にぶつかって、軽い脳震盪起こしたのかも。
ぼや~んは危ないですよね。

策は見た目の甘さと、プレイの激しさとのギャップ萌えキャラ(?)でしたが、この性格が加わって、この先どうなるのか。

まだ策とミヒロの行動にちぐはぐする部分がありますが、木曜日にだんだんとわかってくる予定です。
木曜日、ミヒロがたくさん語ります。ミヒロのことがだいぶわかるようになるミヒロデー。
全てではないところが心苦しいのですが、ミヒロが語らずとも、大海さんにもそれとなくわかるのではと。
そんな木曜日です(^^;) またお越しください^^
2014.12.09 Tue 16:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: わ〜

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

そそ。普通に知らないんですよね。都会だと。
夕さんもやはりそうなんですね。
うちも田舎で良くも悪くも、いや、良いことのほうが断然多いな。時々苦笑(^^;)

携帯の電源が死んでいた理由は(も)ミヒロが木曜日のうちに話してくれます(予告)
木曜日中に帰れるかどうかは、おそらく夕さんの予想通り(?)

当日ぶっつけ本番は避けたいです。
田島が許すはずない。絶対にばれるだろうし。
さあ、策、どうしましょかね。

なかなか週末に至りませんが・・・
確実に来年の・・・いつだ><
えっと、またお越しくださいますように^^
2014.12.09 Tue 18:32
Edit | Reply |  

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