オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 23 木曜日(3) 

「その話、痛えぞ、策」
「それ、『その話、おもしれえぞ』の別名だろ」
「塾帰りの中高生が、いくら帰りが遅いったって、最終電車で家に帰るわけないよね。わかるわかる」
「ウケたのはそこか」

ミヒロが愉快にコメントする横で、話しを終えた俺は、温泉に潜るように助手席に沈んだ。今思うと、ヤンキーの兄ちゃんに突き飛ばされたとき、エレベーターのボタンに手が触れたのかもしれない。

それよりも、中高生に見られたこと、突然突き飛ばされたこと、恐らくそれで俺はわけわからずにパニクったのだと思う。

「玄関でつまづいた時に、策、頭打ってんじゃない? それで気を失ったとか。大丈夫?」

確かに。最初にこの車の中で目が覚めたとき、こめかみの辺りが少しジンジンして気分が悪かった。今は大丈夫だけど。それとだ。

「そこからどうして、俺はミヒロの車に乗せられてたんだ?」 

ここでしょ、ここ。俺の一番の混乱の元はここにある。

「いや、俺、こうして出かける用事あったし、看病してる時間なかったし、救急車呼んだりして大ごとにするまでもないなあと思ったし。けど、知らねえヤツを自分ちに一人置いて行くわけに行かないでしょ。だから、財布の中身とか見せてもらったわけ」

ミヒロが、口を尖らせてまくし立てる。

「だいたいさあ、ちょっと駅前のコンビニに買出しに行って戻ってきただけなのに玄関に人がいて、俺のほうが、マジこれどうするよ、って夜中にすっげえ焦ったんだけど」

「これ」呼ばわりされた俺は、人質にでもされたように首をすくめて助手席に沈むしかない。

「策にベッド取られて、俺はリビングのソファでごろ寝。おかげでよく眠れなかった」

ミヒロが夕べ早く寝た理由はそれか。だけど。

「どうして朝、起こさなかったんだよ」
「起こしたよ。けど策、起きなかった。抱っこして車に乗せたときも、全然反応なくてさ。病院にでも連れて行ったほうが良いのかな、って思ったくらい」

う。ミヒロに抱っこ。そのときに目を覚ませよ、俺。

「でも、呼吸も脈も正常だったし、熱もなかったから、こいつは何かの理由でのびてるだけだって確信した」

毛布に包んだ綾ちゃんを抱っこしていたミヒロの姿を思い出す。あんな感じで俺も? いや俺は綾ちゃんよりかはデカイだろう。ちっこいけど。なんだか恥ずかしくなって、違うことを訊く。

「でさあ、その後、俺の上司の中島さんから、俺の友人の鈴木くんに、俺の様子を尋ねる連絡とか来ないのかよ」
「さあね。最初にその人としゃべってる途中で、策の携帯、電池切れた」
「は? 俺の携帯でかけてたのか。どうやってロック外したんだよ」
「誕生日で一発。セキュリティー・コード、変えたほうが良いんじゃない?」

誕生日? ああ、免許証ね。いやミヒロ、電池が切れるほど中島さんと長話をしていたのか。喧嘩に巻き込まれたとか、怪我したとか、病院にいるとか何とかっていう作り話を。

「俺の携帯は、うちに忘れてきた」

旅行に出かけるのに、その忘れ物はないでしょう。がっかりのため息を吐く。

「ったく。そうだ、お前は、大学サボってて良いのかよ」

夕べ、ミヒロの伯母さんから大学の話が出されたとき、俺はかなり焦ったんだ。あの場を取り繕ってやったかわりに、話してもらおう。

「大学は休学中。ほら、怪我してたし」
「ふーん。どこの大学?」
「東大」
「またまたあ」
「法学部。本当はもう卒業して、今年から社会人になるはずだったんだけど、休学で留年」

今年から社会人て、俺と同じ歳? てか、東大法学部?

「鈴木くんさあ、正直に生きなさいって、露天で逢ったオジサンも言ってたじゃん。東大法学部はないでしょう」
「は? 策、信じねえのかよ」

ミヒロは悪いやつではないとは思うのだけれど、俺の中ではやはりまだ、信じられるところと信じられないところとある。どこでその線引きをするかは、微妙に決められないのだけれども。

「俺、神奈川国立大学・法学部、卒。憲法・前文と、第一章・第一条から言ってみ」
「なにい。東大法学部をなめんなよ」

そう言ってからミヒロは、「近年の国際社会における地方自治行政における法的基盤と将来」なんて論題について語り出した。ゼミか卒論のテーマかそれ。彼女とデート、とかだったらつまんねえ話題だよね。

と思いきや。海外旅行で人気のある世界の町のツーリズムの話から、自分が町長になったときにできるかもしれない、町ぐるみの国際交流のアイデアなどの話になった。

ミヒロは、国際情勢と法律の絡みについて、かなりの博識で説明もうまい。国際政治学の知識も深い。お互いにアイデアを出しながら、その案が実際現実的に可能か可能でないか、過去事例も絡めた法的視点から議論し合う。

大学時代、安い居酒屋で飲みながら、友人たちと一晩中あれこれと語り合ったことを思い出す。あの場にこれほど論の立つミヒロがいたら、みんなで聞き入っていたかもしれない。

東大法学部、まあ、証拠はないげれど、頭の良さは信じてやっても良いだろうか。

「そうだ、ミヒロ」

ふと時間を思い出す。今、どの辺にいるのだろう。海岸に沿って、ずっとビーチを見ているように思うのだけれども。
ミヒロと話が弾んで、ついここまで来てしまったけれど、そろそろ時間だ。

「もう、どこでも良いから、電車の駅で降ろして」
「だめ」
「え、なんで」
「友だちだから」
「いや俺たち、言っとくけど、ナルトとサスケじゃないから」

ミヒロが「なんだそれ」と吹き出す。いや、俺のほうが「友だちだから」って、なんだそれ。心臓がきゅっとかなるじゃないか。

「言ったでしょ。俺、仕事以外でもやることがあるんだって」
「何? どんだけ大事なの?」
「言わねえよ」

少し突き放すように言うと、ミヒロも口をつぐんだ。どんだけ大事かなんて、一言じゃ言えないんだよ。話が続けられず、外の景色を見るように顔を横に向けた。ついさっきまで楽しく話していたのに、急に間が重くなってしまった。

「あっ」

なんとか駅入り口。駅名は見逃したけれど、今の信号のところを入っていけば、どこかの駅に出るんだ。

「ミヒロ、今過ぎた駅の入り口、って信号のところで降ろして。あそこからだったら、一人で帰れそう」
「まず、昼メシ食おうぜ」

即答されたけれども、それは俺の問いの答えになっていない。ミヒロは前だけに視線を向け、何の表情もない。

車のスピードが落ちる。ミヒロは、俺が頼んだ「駅入り口」とあった信号の方ではなく、ちょうど道路沿いにあったファミリー・レストランの方へとハンドルを回した。



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まずは腹ごしらえ。今朝、早かったですから。
木曜日は続く。


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - 八少女 夕  

Title - あらら

こんばんは。

策、もう情にほだされちゃってません?
友達だからって、大事だからって、言われたら駅見えているのにスルーしちゃうし(笑)

でも、こういう策のハートフルな所、ミヒロは感じ取ったから帰してくれないのかも。せめて、ギターが手元にあったらよかったのに、旅しながら練習も出来たし。
携帯、充電器がないとダメなんでしたっけ?

さて、東大かどうかはわからないけれど、実は法学にも詳しいことがわかったし、ミヒロの見かけと違う面がどんどん明らかになりそうですね。

木曜日、長いみたいですが、頑張って、策!
2014.12.13 Sat 04:27
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Name - lime  

Title - なんと

ミヒロ、そんなに優秀な学生さんだったんだ~。
うん、私は信じますよ。そんなところで嘘をつく子じゃないとおもうし。
(よく騙される私ですが)

策を連れてきた理由は、そんな流れからだったんですね^^
なんか、ミヒロにだっこされて車に乗せられるシーンを想像すると面白い。まるで誘拐じゃんw
私が描いたイラスト、すごく幼すぎたと思ったけど、けっこう近かったりして。塾帰りに間違えられるんだもん。

それにしても、ミヒロは策を解放しませんね。
ここで疑問。
ミヒロって、このあとどこへ行くんでしたっけ。聞いてたかな?
策に傍にいてほしいのかな。

「友達だから」ってことば、改めて言われるとドキッとしますよね。
青春だなあ~^^
ああ、なんだか純粋に青春もの、書きたくなった・・・。(でもきっとどうせ犯罪絡むし)
2014.12.13 Sat 08:34
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あらら

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

ええ、ほだされそうですねえ。
ハートフル、なんて、素敵なほめ言葉^^

うんそうですねえ。ギターが車のトランクに、なんて設定はなく。
いい加減、禁断症状が現れてむずむずしちゃうかも。策、ごめん。

はい。策もミヒロも法学部。うまいこと合った(?)
ミヒロについては相変わらず小出しで申し訳ない・・・最後まで小出し(><)
いえ、ミヒロにはわけが多いのかも。策から見て(?)

木曜日、長いんです(滝汗)
そして、策にとって忘れられない日に。たぶんミヒロにとっても。
引き続き、この二人をよろしくお願いします。
2014.12.13 Sat 11:36
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: なんと

limeさん、コメントありがとうございます。

そうなんです。高学歴。ミヒロに話が合わせられる策もなかなかです
ミヒロ話を信じてくださってありがとうございます~。
証拠は、えっと、いあ、limeさんを騙すだなんて、そんな・・・(-_-;)

策を連れてきた理由は、なんか言い訳っぽく・・・
実は私も描きながら、策、ミヒロに抱っこの図、を妄想して一人ニマニマ(←単なる自作ファンの作者 -_-;)

> 私が描いたイラスト、すごく幼すぎたと思ったけど、けっこう近かったりして。塾帰りに間違えられるんだもん。

いあ、もう、ばっちりですよ^^ 改めて御礼です。
それから、マフラー少年のイラスト、あれが私には策に見えちゃって・・・
目力あるせいです。
冬、阿部君と飲んで帰ってくるときの策はあんな感じかも、なんて。
で、また塾帰りと勘違いされてなぜか補導されて、同じマンションのミヒロが引き取りに来るとか・・・なんちゅう話(><)

疑問にちょっとだけお答えしましょう。
このあと、ミヒロはあるところに行くのですが、そこで策は・・・(以上)

さあ、limeさんも、青春仲間になりましょう^^
あ、春樹と隆也と黒装束の人とで青春かも・・・?
2014.12.13 Sat 12:19
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

誕生日が暗証番号って今頃いるんですかね。
・・・まあ、その人の勝手なんでしょうけど。
ちなみに私も法学部ですが、憲法の前文も言えません。
(*´ω`)

2014.12.14 Sun 09:49
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

> 誕生日が暗証番号って今頃いるんですかね。

やば・・・。ま、それが策ということで(汗 -_-;)

おお。LandMさんはなんと法学部だったのですかあ(@@)
すごいなあ。ちなみに、卒論のテーマ、どんなのでした? (←こんなところで取材 ^^;)
2014.12.14 Sun 10:42
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Name - 城村優歌  

Title - No title

う~む。ツボを突かれまくりの今回であった(笑)。

「抱っこ」。あーあーあーもー。きたきたきたきたヽ(≧▽≦)ノ
そして、なんでしょうこの「ナルトとサスケ」感は (*´˘`*)♡
その底辺に流れる、ただの男の友情よりも熱くたぎる激情は(←妄想)。
そして、飄々男ミヒロ、知性ちら見せ(〃≧◡≦〃)いや~ん

けい先生っ! んもー、だめよ~だめだめっ v(>ω<)v←喜びまくり

てことは、次は壁ドンですな(ちがう)。

そして、策に何か策はないのか!
そろそろ反撃に出る頃であろう、と睨んでおるのでするが(むふふ)。


2014.12.17 Wed 00:46
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Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

やた。城村さんのツボ、いけましたか^^
抱っこ。ふふ。描いた自分も妄想 ヽ(≧▽≦)ノ
ナルト、好きなんですよ。カカシ先生が (*´˘`*)♡
謎の(?)飄々男ミヒロ、証拠を出せ証拠を (〃≧◡≦〃)
城村先生っ! そんなそんな、だめですぅ~ v(>ω<)v (何のこと?)
(顔文字がすごいっ ^^;)

pixiv(ピクシブ)でにゃんこがどんする壁ニャンを描いた方がいらして。
イラストの方々は(も)発想ハンパなく凄いです。

> そして、策に何か策はないのか!
> そろそろ反撃に出る頃であろう、と睨んでおるのでするが(むふふ)。

ぷぷ。策も無駄な抵抗を試みる、かもしれない。
反撃というか、とりあえず、なんかしろよ、ですかね。(むむ。予告ではない)
チェックしにまたお越しくださいますように^^
2014.12.17 Wed 21:03
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Name - LandM  

Title - No title

卒論のテーマですかあ?
・・・法学部でも政治学でしたからね。
小泉政権時代の郵便選挙とマスメディアの放送の変化でした。
参考になるかどうかはともかく。
まあ、良ければ他の人の卒論テーマも教えれますけど。
政治学になりますけど。
2014.12.17 Wed 21:53
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Name - けい  

Title - LandMさん

再びのコメントありがとうございます。

うお。LandMさんは政治学系でしたか。
すごーい! とっても参考になりました。
ご学友(?)のも是非、お願いします。知りたい。

政治の話って、すごく面白いと思いませんか。
国の成り立ちとか、それを動かすこととか。国際関係とか。
いや、大学で専門に勉強したいわけではなく、一般教養として知りたいことが(自分的には)満載なトピックの一つであります。

このお話の裏話としては、策は法律系、ミヒロは政治系です。
表にはたぶん出ないだろう設定でした^^
2014.12.18 Thu 15:07
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