オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

秘密の花園 7 火曜日・カフェ(4) 

「リョウさん、あんた何か勘違いしてる。この人もだ。だからもうやめてください」

 リョウは俺を無視し、俺の言うことなど全く聞こえていないかのように鈴木未来を蹴り続けている。彼女の苦しげな呻き声が店に響いていた。

 俺は横からリョウに掴みかかって、もう一度大きな声で言った。

「彼女に暴力を振るうのはやめてください!」

 リョウの動きが止まった。

 ―――良かった。止まった・・・

 するとリョウは俺の腕を痛いほどに掴み返し、相変わらずの上から目線でジロリと睨みつけて言った。

「やめろだなんて。これからですよ、花園徹さん。台本変えないでください」
「台本?」

 ―――何言ってんだ、こいつ?

「分かった。未来のことは許してやろう。だが花園徹。お前のリクエストに答えるために、ここまで必死に頑張った俺を無視して、やめろなどとアドリブ入れて台本を変えたお前は絶対に許せない。一発殴らせろ」

 ますます理不尽でわけのわからないことを口走るリョウが、俺の目の前に立ちはだかった。

 俺の言おうとする事など聴く耳持たないであろう。俺よりずっと背が高く、権力者のように高圧的だ。俺を見下す目は明らかに憎しみに満ちている。

 けれどもその感情が一体何なのか、俺にはいまだにさっぱりわからない。ただリョウを見上げる俺の目が、今最大限に開かれた。

 リョウが拳を作り、それを後ろに引いたところで俺は観念して、最大限だった両目をぎゅっと最小限に閉じた。

 耳から聞こえるはずのすべての音が消え、ただ心臓の鼓動が倍速になるのだけが胸の内から響いてくる。俺は体中から汗がジンと噴き出すのを感じていた。

 ―――ん・・・?

 いつまで経ってもパンチが来ない。

 物音一つなくシーンとしていたはずの店内から、カウンターの後ろにかかっているアンティークの壁時計の音だけが、カチッ、カチッ、と小さく響くのが聞こえてきた。

 ―――おかしい・・・?

 そっと目を開ける。そこにリョウの姿はなく、代わりに大きな撮影カメラのレンズがあり、それを俺に向けている店の常連の三宅さんが見えた。

 目を開けた俺に向かって、三宅さんはニッコリとウインクをした。カメラが引かれると、その後ろには神妙に頭を下げるリョウと鈴木未来がいた。

「すみません、花園徹さん。すべて台本通りでした」
「え、台本、って・・・」

 いまひとつというか、俺には全く状況がつかめない。

「鈴木未来さん、蹴られたとこ」
「演技ですから、全然大丈夫です」
「演技?」

 リョウが一枚のはがきを差し出した。

「リクエストありがとうございます。男性のファンからということで、とても嬉しかったのですが、ちょっと大げさすぎました。本当にすみません」

『リョウ・ファースト写真集 ― リョウ。オリジナル特典応募はがき。リョウに関するあなたからのリクエストに、リョウ本人がお答えします! お一人様一通限り』

「俺、これに当選したんだ」

 リョウは嬉しそうに「はい」と目を細める。約4500通という応募の中から選ばれたらしい。笑顔のリョウも、先ほどの眼力を飛ばす迫真の演技を見せたリョウもどちらもカッコ良い。俳優さんて、すごいなあとしばし顔を眺めてしまう。

 ところで、俺はこんなはがきを出した覚えは、全くないのだが。

『リクエスト ― リョウの演技を目の前で見たい。できれば自分もリョウと一緒にそのドラマに出演したい』

 はがきに目を戻し、その字を見て、ふにゃふにゃと体の力が抜けた。俺の小学生の妹、安美の字だった。一気に色々なことが思い出された。

 妹の安美は確かにリョウの大ファンで、本屋に予約もしてその写真集を買った。リョウの出演するドラマも毎週欠かさずに見ているし、録画もしている。

 ああ、そういえばそのドラマ、共演が鈴木未来で、内容は、姉と弟の禁断の恋を描くどろどろの恋愛物で、視聴率も結構良くて・・・

「ちょっと、マスター知ってた?」
「もちろん」
「もちろんなの、もおー」

 どこかに隠れていたマスターが、やっと出てきて顔を見せた。てか、妹よ。きっとはがきのコピーを作って、家族全員の名前を使って出したんだ。それにしても当選だなんて。

 あとの時間は夢のようだった。いつもはテレビで見ているだけの俳優さんと女優さんに挟まれ、写真を撮って、握手して、サインもらって。

 リョウさんにはたくさん謝られ、鈴木未来さんには最後にまたハグされ。俺の目は休む間もなく、ストッパーのないルーレットのようにクルクルと回り続けた。

「はぁ~~・・・」

 マスターに見送られて、店の常連の三宅さんをはじめとする、スタッフや撮影のクルーが全員引き上げると、俺は店のカウンターにどっと突っ伏した。

「花園君、オンエアーは・・・」

 後の話しはマスターが聞いていたようだが、どうやら三宅さんの撮った今夜の映像が例のドラマの最終回後、特別番組の中で紹介されるらしい。俺にはそんなことはどうでも良かった。

 色々な意味でクタクタになった。



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   徹さん、お疲れ^^

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読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

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Comment

Name - あかね  

Title - つまりは……

「どっきり」だったわけですか。
あ、「どっきり」なんて言い方は古いかもしれませんが、他になんと言えばいいのかわかりませんで、それなんですよね?
まだもっと裏があったりするんでしょうか。

もしかしてドラマ仕立てのインタビュー? だとか、
三条さんとリョウさんが知り合い? だとかも想像していたのですが、マスターもグルだったわけかな?

先がますます楽しみです。

ところで、リンクさせていただいてもいいですか?
2012.05.30 Wed 11:05
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: つまりは……

あかねさん、コメントありがとうございます。

はい、つまりは「どっきり」だったわけです。
アシュトン・クッチャーがやっていたやつもあるのですが、
それが何て名まえだったか思い出せなくて(--;)

> もしかしてドラマ仕立てのインタビュー? だとか、

それ良いアイデアですね。メモメモ^^
裏はないです(の設定)

マスターが事前に知らされていたかどうかは不明です(^^;)
一般人が出る番組の一般人って、どうやって選ばれるんでしょうね。

リンクのほう、とっても嬉しいです。
是非是非宜しくお願いします^^
2012.05.30 Wed 17:31
Edit | Reply |  

Name - 楓良新  

Title - どっきり?

有名人が現れて、突然そういう展開になったら驚きますよね?でも結局どっきりだったんですね?

しかし花園はいい迷惑ですね。妹が出したのが自分に当たるとは思わなかったでしょうね。でもむしろ妹が可哀そうですね。本来は自分が当たりたかったのに・・。

自分も有名人に会った事あっても、なんかのイベントでしたからね。こういったいきなりはないと思います。

短編完成しました。長編もいいですが、こちらも気軽に読んでくださいね。
2013.11.24 Sun 23:49
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: どっきり?

楓良新さん、コメントありがとうございます。

はい。結局どっきりでした(^^;)
徹さんは、妹がそんなことしていたなんて全く知らず・・・
きっと妹に、なんでおにーちゃんなの、と嫉妬されたでしょう。
本人はこれのおかげでへとへとですけれど(><)
ま、そんなこともありな日々が進んでいきます。

私は有名人にばったり会うようなことがあったら、実は、お茶しながら(飲みながらでも)どうでも良い話でもしたいなあと思っています^^

お。完成ですか。参ります^^
2013.11.25 Mon 20:22
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Name - -  

Title - 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013.11.26 Tue 00:18
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Name - けい  

Title - 鍵コメさん

コメント、というか、情報、ありがとうございます。

興味深いですね。
ついこの話をしたばかりで、ばったりとはシンクロな!

意外に近くでそんなことが起こるものなのですね。
うーん、そういうことに遭遇してみたいものです。
また何かありましたら、こっそり教えてくださいね^^
2013.11.26 Tue 18:39
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Name - 大海彩洋  

Title - 妹! 面白いぞ!

でも、せっかく自分がファンなのに、自分に会ってもらえるようなリクエストにしなかったのね^^; でもちょっとわからないでもないです。会ったら、固まってしまいそうですものね。
この火曜日の下り、面白かったです。

さて、こちらも読み始めました。同じくけいさんが書かれているのに、田島君の話は田島君の話で、花園君は花園君なんですね。ちゃんと各々の話で、その絡みもわかって、楽しいです。二人ともいい味を出していて、それぞれの視点から見ると相手ってこんなふうに見えていたんだと感心したり。
田島君って、自分が思っているより?ちょっと賑やかな人なのね。花園君視点からは……とか(*^_^*)
またまた楽しく読ませていただきますね。
2013.12.03 Tue 18:39
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 妹! 面白いぞ!

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

妹ちゃんがやってくれました。それにしても凄い確率でしたね。
面白いと言っていただけるのが最高のほめほめ言葉です^^

こちらも読んでくださり、とても嬉しいです。
徹さんの一人称でお話が進むので、田島の言い分はほとんどないのですが、少しでもお楽しみいただけますように。てか、田島の言い分は次作でたっぷりとあるもので(^^;)

時系列的にも、執筆暦的にもこちらのほうが先なので、
二作を比べると、いろいろと突っ込みどころがありますね。はは(苦笑)
いや、比べちゃいけませんて。いろんな意味で(汗)

大海さんがここで徹さんと田島のどんな性格を発掘したのか、ちょっと気になりますよ。
こっそり教えてください。

そういえば、この二人の性格の違いと共通点については、頭の中にあっても、描けていないなあという気持ちが実はこの頃からあるのです。とにかくこの二人は仲良しさん、という設定ではあるのですが、兄弟ではないし。もうちょい二人の友情を掘り下げてみたいですね。いつか^^(得意のいつか・汗)(大海さんのところのような深い設定にたどり着くまでにはまだまだですぅ)

これは長いお話ではないので、最後までお楽しみいただけますように。
こっそりの件もよろしくお願いします^^
2013.12.03 Tue 20:13
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Name - LandM  

Title - No title

なるほど。こういう商売もありなのか!!
(@_@;)

元手は少なくても、商売ができる。
写真集などやシチュエーションとかはタダですからね。
人件費はかかりますが、その辺は自分の力でカバー・・・ですね。
2015.10.03 Sat 07:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

今、有名人の写真集とかって、商売になるのでしょうかね?
色々なおまけがついてやっと売れるのでは、なんて思ったり・・・

どんな業界もアイデアとクリエイションが大事ですよね。
アナログからデジタルへの移行と発展も早い早い!
2015.10.03 Sat 14:15
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - あはははは

こんばんは。

予告通り、読み始めさせていただいてます。

なんといっても花園さんからはやく徹って呼べるようになりたくて。

「秘密の花園」ってニックネーム!
そうか、そりゃ嫌がるかも(笑)

そして、祥吾が明るくて、しかもサボりやなのが意外で面白かったです。なんか瞬の死後、バンド再開するまでずっと暗いままだったという印象をもっていたので。でも、わりと普通に大学生している。浪人になったのはサボりやだからじゃなくて、ショックを引きずっていたときだったのでしょうか。

ちゃんとマスターがいて、それにここにリョウがいた! 
妹さんが書いちゃったんじゃ、そりゃ本人を見ても訳はわかりませんよね。
でも、騎士道精神を発揮して立ち向かったのは素晴らしい。そして、リョウの演技もきっと真に迫っていたんでしょうね。それも素晴らしい。

面白いお話です。またちょっと進んだらコメしますね。
2016.05.18 Wed 03:39
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Name - けい  

Title - Re: あはははは

八少女 夕さん、予告通りのご訪問、コメントありがとうございます。

徹さんのことは気軽に呼んでやってくださいな^^
秘密めいたように見えるだけで秘密も何もない人です(^^;)

田島はこっちとあっちの印象が結構違うと思います。あっちを描くときに変わった(-_-;)
こっちがオリジナル。徹さんはそんなに変わっていないと思う。
田島は高校を卒業してから大学に行く気は全くなく、デビューを夢見ていたところで事故が起き、それに関連する色々を経て大学に行こうと決めた、といういきさつがあって、それが浪人の理由ですかね。現役の時は受験の準備など全くしていなかった。

そうなんです。マスター初登場はこちら^^
リョウも何気に初登場。ここでは演技してますねえ。ええ、俳優さんですから(^^;)
妹ちゃんも初登場^^
初登場がたて込んで、いかにも初期っぽい(苦笑)
徹さんは、根っからの良い人なんですよ。(モデルあり)

わ^^ 面白いと言っていただけるのは最高の褒め言葉です。
でもこの後も、あちゃー満載です。そっちのほうが面白いかも(><)
2016.05.18 Wed 22:53
Edit | Reply |  

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