オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 25 木曜日(5) 

「あるとき、学校の友だちを連れてきて、旅館の調理場を借りて料理をしていたんだよね。家庭科の宿題とかで。

でも、子どものクッキングなんて、ちょっと羽目外すと遊びになっちゃうでしょ。それで騒いでいたのを伯父さんに見つかって怒られたんだ。

罰として与えられたのが、座卓に正座して、旅館の夕食のお品書きを墨と筆で半紙に百枚書くこと。ほら、策が晩御飯食べた、あの小部屋でやらされたんだよ。正座がきつくて、終わった後立てなかったって。

でもその出来上がりを見て、伯父さんが仰天した。子どもの書く字じゃないって。そのときアニキが書いたお品書きの百枚は、綺麗な和紙に貼られてお客さんに配られた。宿泊の良いお土産になったと大好評。

それ以来、旅館のお品書きはずっとアニキの仕事。時々は小遣いを貰ってたみたいだけど、ほぼボランティア。いまだにメニューが変わると、伯父さんが北海道にいるアニキに連絡をして、送ってもらっているんじゃないかな。

さすがにもう百枚の直筆はないだろうけど」

兄弟の思い出話を、ミヒロが目を細めて話す。俺は、旅館で過ごしたミヒロの子ども時代を垣間見ることができ、旅館とのつながりが深いことを理解する。

「で、ミヒロの武勇伝は?」
「武勇伝? 俺にはそんなのないよ。俺は三男で、末っ子の典型」

アニキたちと違って自分は、とミヒロは声を細める。けれども、そこは疑いポイント。だって、東大だろ。それだけで自慢の弟、になるじゃないか。俺たちが泊まったスタンダードの和室で、受験勉強に励んだとか?

「俺の名まえを漢字で書くと、ミヒロのミは三男の三で、ヒロは広美という母親の名まえから。それで三広」
「お母さんから一文字もらってるんだ。広美と三広かあ。良い名まえだな」
「うん。俺はアニキたちから少し歳が離れていて、サプライズ・チャイルドだったみたい。母親自身、三人姉妹の三女。それで三男の俺に自分の名まえを入れたんだって」
「良い話だなあ。それじゃあ、ママ大好きっ子だろ、お前」
「そ。マザコンレベルかも」
「えー、その自虐ネタ、引くーー」

俺のリアクションを狙っていたかのように、ミヒロが声を上げて笑う。

「そうだ、お前のお母さんもまだこの辺に住んでるんだろう。車なんだから、ぱっと行って、顔出せよ」
「別にいいよ」

途端に、ミヒロが海の方へそっぽを向いた。親戚の伯母さんには簡単に顔を出すのに、どうして。自分の母親には、遠慮する理由でもあるのだろうか。マザコンのくせに。

「もしかして、家過ぎちゃった? 戻ったって良いじゃないか。親なんだし」
「いや、住んでないから。いいよ」

そっぽを向いたままのミヒロの紅茶色の目が、また、何か姿のないものを探すように海のほうに向かう。俺は簡単にその視線の外に置かれた。これ以上話を続けるのを拒まれているようで、口を開くのをやめる。

もしかして、お母さんは最近再婚でもして、ミヒロは相手の人に気を使って会わないようにしてるとか? そんな余計なことが頭に浮かぶ。

いや、他人の家庭事情を詮索するのはやめておく。ミヒロが良いと言うなら、別に構わない。俺には関係のないこと。

「策は、兄弟は?」

ミヒロが思い出したように、また顔をこちらを向ける。話題を変えに来たか。俺も、兄弟の話くらいはしてやっても良い。

「俺には妹がいる。今、大学生」
「へえ。妹かあ。策と似てるとしたら、目がクリッと大きくて、背がちっちゃくて、かわいいんだろうなあ」

クリ目とチビなのは確かに同じ。生意気だけど。かわいいかどうかは、好みだな。

「策は、アニキなんだ。ちょうど良いじゃん」
「なに?」
「俺さあ、いっつもそばにどっちかのアニキがいたから、大学に入ってから一人っていうのになじめなくてさ。三男は、お子様で甘えん坊なんだよね」

だから、なに? さっきまで海の上を漂っていただけのミヒロの視線が、今は俺を捉える。簡単にアウトからインになった。

「だから、一人でドライブっていうのが、ちょっと寂しかったり」
「しねーしねー」
「俺、お一人様には慣れないんだよね」
「俺はぜんっぜん平気」

話題に展開力を付けてきたミヒロに、俺は警戒する。

「サラダとポテト、あげるから」
「いらねえよ」

ミヒロの目の色が、紅茶の渋みを増すようにさらに濃くなり、妹もよく見せるお願いモードになってきた。末っ子パワー全開となるのか。

「このまま俺に付き合って」

来た。ハの字の眉に、三角の目。体からかもし出される、帰しませんオーラ。一応、俺に発言権を与えてくれているらしい、微妙なこの間。なぜか瞬きが増える、俺。

俺は帰らなくてはならない。帰ってやることがあるんだ。それは俺にとって、間違いなく一生に関わる重大なこと。三角の目に、瞬きの目で対抗する。

「お願い、策。俺のセカンドチャンスに付き合って」

胸が一つ大きくドクンと波打ち、俺の瞬きが止まる。セカンドチャンス。ミヒロも俺と同じように、今それに向かっているというのか。お前のそれは一体。

「なに? セカンドチャンスって、どういう意味?」
「策が俺と付き合ってくれるなら話す」
「お前、俺に告ってんのか。悪いけど」
「は、何言ってんの、策。何だよそれ、全然ちげーだろ」

ミヒロが顔を赤らめて引く。成功。ペースを崩してやった。長男をなめるなよ、三男。

急にミヒロの色々が知りたくなってきた。こいつはかなりのワケアリ。一緒にいてやったら、どんな話をしてくれるのだろうか。

実のところ、これからどこに行くのかも気になっていた。このまま、こいつを放してしまって良いのだろうか、ということも。

「んー」と鼻から言って腕を組み、ゆっくりとテラスの上空に広がる青い空を仰ぐ。わざとらしく大げさに考える振りをしてから、勿体付けたように告げる。

「仕方ない。付き合ってやるか。けど、今日までね。ホントそれが限界。明日は絶対に帰る」

ミヒロが眉間を寄せ、開き直った犯罪人でも見るような目をする。俺の言うことが信じられないのだろうか。付き合ってやるって言ってるのに。

「明日は絶対ね」

念押しをする。今日は木曜日で、明日は金曜日。マジで帰らなくては、ギターの練習ができない。金曜日の夜と、土曜日に賭けると計算する。

マンゴジュースをズズッと飲み干してから、伝票をつまみ、席を立つ。「あ」の口をするミヒロに向かって「べー」と舌を出す。

ここは、社会人の長男が払ってやるよ。心配すんな。クレジットカード使うから。



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こうして、この先も策は、ミヒロに付き合ってやることになったのでした。ちゃんちゃん。
木曜日、まだまだ続く(-_-;)

世の中、クリスマスですが、こちらは普通に更新です(^^;)
あ。クリスマス、木曜日ですね^^

違うストリートのご近所↓ (ここんち、毎年凄い)

IMG_5856_convert_20141223203139.jpg

Wishing you a Very Merry Christmas!

Kei (*^^*)


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - 八少女 夕  

Title - あらら

こんばんは〜。

ほだされてる、ほだされてる……。
また一日練習の日が〜。

でも、まあ、こういう一週間って、人生でそんなにないだろうから、無視するのはもったいないですよね。でも、策、あなたの、セカンドチャンスも!

そうか、タイトルは策のだけでなくミヒロのセカンドチャンスでもあったのですね。さて、どんなチャンスなのか氣になります。

次回も楽しみにしていますね。
2014.12.24 Wed 05:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あらら

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

はは。ほだされましたあ~^^
こんな一週間が、木まで来ています(-_-;)

策がセカンドチャンスをものにするための一週間のお話のはずなのですが・・・ミヒロも、な展開に。
ミヒロのほうも気にしてくださって、ありがとうございます。
相変わらずの小出しで行きますが、こちらも追っていただけますように。
2014.12.24 Wed 18:49
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - ミヒロのセカンドチャンス

ミヒロは、なにか希望に向かって進んでるのかな?
だったら策、応援してあげなきゃあ。
兄貴の事は本当に自慢みたいですね。いいなあ、みんな才能にあふれてて。
ミヒロだって東大生だもん、すごい。
お母さんの事はあまり話したがらないのか心配だけど、大好きなのは同じみたいですね。
愛されて育ったミヒロ、どこへいくのでしょう。
策も、もうすっかりミヒロにほだされてる^^(夕さんの真似)
いい関係じゃないですか。
まだ分からない事いっぱいだけど、何気ない二人の会話を聞いているのが楽しいです。

お、夏のクリスマスでも、やっぱり電飾はするのですね。
なんか、冬のイメージがあったから驚きです。
じゃあ、サンタさんは、あの赤い冬服を来てるのですか?
それとも、夏服のサンタ?? 気になります。おーじ―なクリスマス。
「夏服のサンタ」・・・ってなんか、絵本的タイトルな気がする(w)
2014.12.24 Wed 19:22
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ミヒロのセカンドチャンス

limeさん、コメントありがとうございます。

ミヒロは何に向かって進んでるのでしょうかね。
言わないよーん。策はそのとき、応援してくれるでしょう。とだけ。

ミヒロ兄弟は絆深いです。一人親家庭だったし。
ミヒロは末っ子で家族のみんなから愛されました。
limeさんちのお子さんたちとは違って、幸せな家庭環境だったのでは。

ぷぷ。策、ほだされてる。ですね。
ミヒロのお願い勝ちか、策の性格か・・・(←後者だね)
いい関係と言っていただけて良かったです。

二人の会話を楽しいでいただけて嬉しいです。
ミヒロ、こんなにしゃべっているのに、分からない事がいっぱいなのはどうして(-_-;)
まだ木曜日。もっとしゃべります。

夏のクリスマス、うちのほうは田舎地方なのですが、田舎でもこれやるんか、という感じで電飾キラキラしてます。
サンタさんは、もちろん! あの赤い冬服を来てますよ。
なので、彼の登場するところは、クーラーがんがんにかかってます。
「夏服のサンタ」・・・かわいい^^ limeさん、是非^^

夏服のサンタを想像しつつ、メリクリ~^^
2014.12.25 Thu 10:23
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - しまった

コメントを書く前に次が出てしまったので、続きは気になるけれど、先にコメントを書くぞ!(って、何の意気込み??)
何よりも、随所で妙なところに拘っている策(長男とか、何とか……)、そして、よく考えたら、まだまだわけのわからないままで巻き込まれている状態で、こんな巻き込まれている場合じゃないのかって思うけれど、結局はいい奴なんだなぁ、策って。
そして、ミヒロは、やっぱり何か知ってるんだよね~。自分のセカンドチャンスに引っ掛けて、策にもセカンドチャンスをくれそうな気がします。
あぁでも、1日半でほんと、祥吾君の耳を誤魔化せるかしら? って、妙に自分に重ねて考えちゃう。明日から正月のライブに向けて、毎日練習しようっと!と日々考えている大海なのでした。
2014.12.28 Sun 01:25
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: しまった

大海彩洋さん、まずはこちらに、コメントありがとうございます。

意気込み、嬉しいです^^
ホント、巻き込まれている場合じゃないのに、車という足をつかまれてしまっていて。
あ、って駅のほうに行く道、見つけたんですけど・・・(-_-;)
ミヒロのセカンドチャンス、策のセカンドチャンス、それぞれにどうなっていくのか。
まだ言わないよ~ん。

お。大海さん、お正月ライブがあるのですか。華やかそうで良いですね。
一日練習しないと自分にわかり、二日練習しないと他人にわかり、三日練習しないと観客にわかり、ですよ~。
策の場合は、田島にわかり・・・
2014.12.28 Sun 20:18
Edit | Reply |  

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