オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 26 木曜日(6) 

祥吾さんのバンドの曲。どうして? しかもこれ、俺の課題曲の一つ。やっべー、これと他にも数曲アレンジして、日曜日に祥吾さんの前で演らなくちゃいけないんだよ。

「策、起きた?」

横にいるミヒロが目に入った。なぜだろう。違和感なくこいつに目を向けられる。鼻をすすりながら、黒皮製のドライビング・グローブでごしごしと目をこすると、ミヒロも俺と視線を合わせた。

「夕日が綺麗だよ」

ミヒロの目が透き通るように紅い。夕焼け色が映っているのと、目じりに残るものに夕日が反射しているのと。

「策、コーヒー飲んで、どうして寝ちゃうかな」

話題をそらそうとしてるけれど、俺は薄く目を開いたときに、ミヒロの頬に涙が流れているのを見た。気付かない振りをしてやったほうが良いのか。

「俺のコーヒーに何か入れただろ、ミヒロ」
「自動販売機の缶コーヒーに、俺が何入れんの」

車は、狭い駐車場に止まっていた。目の前には、名も知らないどこかの海岸。向こうに見える太陽が、空を紅色に染めて、海に沈もうとしている。水に触れたら、ジュッという音でも聞こえそうなくらいに紅く大きい。

音楽は、ホルダーに収まった携帯から、低い音量で流れていた。

「ミヒロ、携帯あるんじゃん」
「ああ、うちに置いてきたと思ったら、あった」
「あった、かよ。じゃあ貸してよ」
「俺のはプリペイドで、今は残金ゼロだから、受けられてもかけられない」

なんだあ、それ。ミヒロの携帯話しには、毎度がっかりさせられる。

「それに、どうせ明日帰るんだったら、今日あわてて連絡する必要ないでしょ」

本当に明日、帰してくれるのか。ここ、まだ疑いポイントだけれど、ま、どうせかけられないのだ。

「策、このバンド、すっごく良いんだぜ。スリーピースバンドでバランスが完璧。この完成度で、まだアマチュア。早くデビューしないかな」
「ミヒロ、結構マニアックなバンド、好きなんだな」
「策も知ってるの? サイトもユーチューブも凄い人気だからね。聴いてると、悩みとかふっ飛びそうになる。ホント、カッコ良いよね」

いや俺は「知ってる」どころではないのだけれども。言ったらミヒロ、驚くかな。ま、その話は良い。

「目的地まで、あとどのくらい?」
「村崎岬までは、ここから一時間もしない。もうすぐだよ。行こうか」

ミヒロは車のキーに手を伸ばし、エンジンをかけた。海に沈みかける太陽を背に、先を行く。

「今夜はどこに泊まるの? まさかそこの岬にあるラブホ?」
「ちげーよ。何言ってんの、策。俺はお前とクイーンベッドで一緒に寝る気なんかないからな」
「俺だってねえよ」

声を大にして強調する。

「今夜はじーちゃんの家」
「じーちゃん? また親戚なんだ」
「また、じゃないの。夕べ泊めてもらった旅館は、綾ちゃんのことがあって予定外だったけど、じーちゃんちは予定通り。来るの久しぶりなんだ。事故以来」

事故以来か。ミヒロの胸に、Y字型の酷い傷を残したその事故の話は、まだ聞いていない。話してくれないかもしれないけれど、俺の方からただの好奇心で訊くこともない。

車は海岸から離れ、坂道を上り始めた。もう岬に入っているのだろうか。だんだんとカーブが増えてきて、車のハンドルを握るミヒロのドライビング・グローブが、忙しげに仕事をする。そのうちに、木々の間から見え隠れする海が、下のほうへと遠ざかっていった。

道路から離れたと思ったら、舗装されていない山道をさらにくねくねと進む。辺りが少し暗くなってきたところで、前方にかすかな明かりが見えてきた。

その弱く薄い明かりの中に浮かんできたのは、石造りで瓦屋根が横に広がる平屋の建物。西洋風のような日本風のような、明治のような、昭和初期のような、歴史を感じさせる住まいがたたずんでいた。

車を止め荷物を手に取ると、ミヒロは慣れたように玄関に向かう。軽くノックするとドアを開けた。鍵は閉まっていない。そうだとわかっていたかのように、ミヒロは家の中へと進んでいく。

玄関を入る前に、ドアの脇にちらりと見えた「村崎」という表札。村崎岬に住む村崎さんだなんて、きっと昔からの地元の人なのだろう。「鈴木」とミエミエの嘘をつくミヒロの本当の苗字は「村崎」なのだろうか。

天井の高い廊下を、ミヒロの後について行った先はキッチン。ぷーんと調理の匂いがする。

「じーちゃん、元気」

ミヒロが声をかけると、じゃがいもと包丁を手にしたその人は、振り返って驚きの声を上げた。

「三広! お前」

本人であるのを確かめるように、グッとミヒロを見つめてから、皺くちゃの笑みを見せた。

「髪伸びたなあ」
「髪? そうだなあ」

ミヒロも目を細めて、長く不ぞろいに伸びた自分の髪をかき上げた。



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親戚のじーちゃんの登場。


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Comment

Name - lime  

Title - ますます・・・

村崎・・・。ん?
地名だと思ってスルーしていたけど、苗字だとしたら、あの人と同じ?
珍しい名前ですもんね。
何か関係ある??

そういえば肝心の事故の事がまだ何も分からない。
策、そこんとこ聞いてよ。ミヒロのことがきっとわかるよ。
田島君たちのファンだというミヒロ。本当に策の事を知らないのかなあ。
だとしたら、知ってびっくりですよね。

どんどん謎が増えていくけど、これ全部年越し??
何て長い一週間なんだ><

ミヒロって、何者なのかなあ。
なんで、泣いてたのかなあ。

2014.12.27 Sat 09:32
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Name - けい  

Title - Re: ますます・・・

limeさん、コメントありがとうございます。

村崎、について突っ込んでくださってありがとうございます。
次回に詳しく。今は伏せ、で。(ワンコではない -_-;)

事故については、これからの小出しにご注目を。なんちて。
ミヒロが策のことを知ってびっくりするのはずっと先で(^^;)
その前に、策がミヒロのことを知ってびっくりします。
お互いにびっくり野郎だったりして。

作者、こんなに必死に描いているのに、謎が増えていくのはなぜ(-_-;)
ミヒロにまだまだ語ってもらわねば。
あ、ちなみに、元旦は木曜日ですね。
カレンダー、合ってるじゃないですか(←なんかが全然合ってない)
木曜日で週納めの年越しっす・・・(-_-;)

limeさんの疑問には・・・ミヒロも策も、その辺によくいる兄ちゃんたち、です。とだけ。
あとは言わないよーん(^^;)
これからの小出しもキャッチしていただけますように^^
2014.12.27 Sat 12:47
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

最近はバンドも行動しやすくなったかな。
自分の演奏を見てもらえることもできるようになりましたし。
私たちも自分の小説をネットに公開できるようになりましたからねえ。
それを考えると便利な時代になりました。
本当に。
2014.12.27 Sat 15:54
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね。YoutubeとかFacebookとかいろいろな発表の場があって。
小説の世界は・・・私は今のオンラインで発表する、という形以外は、全くわからないので何ともいえないのですが、昔はどうだったのでしょう。

自分は今のところ、ブログという狭い中で個人的に楽しんでいます^^
便利な時代に感謝です^^
2014.12.27 Sat 19:08
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Name - 八少女 夕  

Title - ああ〜

こんばんは。

策! なぜそこで言わないの〜。
「この祥吾さんに言われていて、ギターを練習しなくちゃいけないんだ」って。
「帰してくれないなら、せめてギターを調達しろ」って!

ミヒロの謎と彼への愛着は増える一方で、練習できる時間はどんどん減り、いいのかなあ、策ったら。

泣いていたのは「スクランプシャス」の曲を聴いていたから? それとも別件?
ううむ、謎のまま年越しですか?
2014.12.28 Sun 02:49
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Name - 大海彩洋  

Title - お

ようやく祥吾君の名前が表舞台に?出てきましたね。ずっと、策の練習期間はあと何日、なんてのを気にしている大海は、いまもちょっとハラハラ。祥吾くんに認めてもらえるというのは分かっているけれど、でもね~早く練習を~~
でも、ミヒロは策の状況を知っているわけではないのですね。
それにしても、ちょっと離れて考えたら、そんな勝手な都合に付き合わせるなんて、ってことだけれど、なんとも憎めないミヒロですね。
そしてまた、今度はじーちゃんの登場。けいさんのお話には基本悪人が出て来ないので、安心して読めます(え?裏切ることある?)。limeさんと私だと……^^;
2014.12.28 Sun 13:28
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - そうそう

私や大海さんの小説には、いい人と見せかけた怖い人が・・・。

ここのじいちゃんをわたしが描けば
「おお、ミヒロ、遅かったじゃないか。晩御飯に間に合わないかと思った。大なべにお湯を沸かしてあるぞ。策君、さあ、服を脱いでゆっくりと・・・」
って、どんな怪奇童話。

すみません。良いお年を><
2014.12.28 Sun 18:09
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ああ〜

八少女 夕さん、叱咤激励、ありがとうございます。

この時のバンドは、数あるスカウトのオファーを断っている時期で、そんな時期の新メンバー加入の情報を知っているのはメンバーのみ。
それを外に漏らすわけには行かない策。
それでなくても、素性のわからないミヒロにはなるべくプライベートなことは言いたくないところですかね。
けれども・・・続く(^^;)

泣いていたのは・・・別件です。とだけ。
年越し前に、もう一話、アップの予定です^^
2014.12.28 Sun 20:43
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Name - けい  

Title - Re: お

大海彩洋さん、追いつきのコメント、ありがとうございます。

策の練習期間は、金(の夜)と土で、日がテストです(><)
大海さんのハラハラが妙に嬉しい作者です。

はい。策の状況と、ミヒロの状況は全く別物で。
ミヒロペースにすっかり策は付き合わされてしまっていますが・・・
憎めないですかね。嬉しいです^^
私も、策・ミヒロ、策・ミヒロ、って気持ちが・・・(^^;)

> そしてまた、今度はじーちゃんの登場。けいさんのお話には基本悪人が出て来ないので、安心して読めます(え?裏切ることある?)。limeさんと私だと……^^;

あはは。裏切りはないです^^
そそ。limeさんと大海さんは容赦ない。目つぶっちゃいますよ。
じーちゃんはですねえ・・・次回なので、ここでは伏せ(腕立ての話ではない)
2014.12.28 Sun 20:58
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Name - けい  

Title - Re: そうそう

limeさん、乱入、ありがとうございます^^

そそそ! ホントですよ~~。その辺にホントいそうで怖いです。

じーちゃん・・・そうだったのか(-_-;)
このあと、釜茹での刑が待っていようとは。
是非漫画に。いえいえ、しないでくださいっ。懇願(><)

釜茹でじーちゃん、じゃないっ、ミヒロのじーちゃん、あと数時間後に登場w
2014.12.28 Sun 21:10
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Name - 城村優歌  

Title - No title

広美で三広。
で、「お前、髪伸びたなあ」ってことは、じっちゃん、
そんなにものすごい久しぶりってこともないのかな。
少なくとも「大きくなって」ではないくらいの期間?
そして、ミヒロは策のこと知ってて関わってるんじゃなかったのか。
それとも、カマをかけてスクランプシャスを流しているのか。
事故……事故って、もしかして……。
はまりそうで、なかなかはまらないパズル。
なのに、策、どんだけお人良し。
「仕方ない。付き合ってやるか。」って、明日帰れる保証もなしに、
クレジットカードで長男風吹かしてて、マジで大丈夫なのか!?
策がいろいろ心配です(笑)。
2014.12.28 Sun 23:07
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

城村さ~ん。下ネタネギにやられてしまって、思い出してはニヤけてしまって・・・
まずはこれ↑が言いたくて(^^;)

はい、広美で三広です。こちらもよろしく(何のトピック?)
じーちゃんと三広が会うのは事故以来なんです。
って、その事故の話がまだでしたね(-_-;)

この再会話にはモデルがあって。自分の話で恐縮なのですが・・・
息子が小学生の頃、息子を連れて久しぶりに私の友人のお宅をお邪魔したとき、お約束の反応としては「息子、大きくなったねぁ~」と来るはずのところ、「息子・・(間)・・黒くなったねぇ~」と。
季節は夏、息子は連日のプール通いでこんがりと日に焼けていたのでした。
そんな話がモデルのじーちゃんとの再会でした^^

ここまで(この先もですが)、策視点の一人称で来ているので、ミヒロの気持ちや想いが全くわからないですよね。
この作戦、実は良いかもと作者は気に入っていて(←どんな作戦やら。いえ、自己満足系です -_-;)
パズルがはまるのは、(たぶん)最後まで引きます。それまでは小出し作戦続行で(^^;)

城村ママ、策の心配をありがとうございます。
長男風(笑)吹かせるヤツほど心配ですかね。

策が主人公で、策の一週間なのですが、ミヒロもよろしく。
ってなんか、矛盾していますが、二人共によろしくです^^
2014.12.29 Mon 09:56
Edit | Reply |  

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