オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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セカンドチャンス 28 木曜日(8) 

俺はもう、どうにも我慢ができなくなって、おじいさんにお願いした。

「おじいさん、あの、そのギター、ちょっと弾かせてもらっても良いですか?」
「策、ギター弾けるの?」

ミヒロが少しだけ驚く。

「うん。俺、趣味でずっとギターやってるんだ。一人さんの曲、弾ける。良いですか?」

おじいさんは、自分の横にある椅子に座るように置かれていたギターを掴んで、「いいよ」と俺に渡してくれた。

そのギターを抱える。

「チューニング、ほとんど狂ってない」
「ああ、孫が来ると、これを弾いてくれるから。でも、前に来たの、お正月だなあ」
「そうなんだ。湊人もこれを」

自分だけに聞こえるように小さくつぶやく。これが一人さんのギターであるということよりも、湊人もこれを抱えたということのほうが、俺にはジンとくる。

ピックをつまんで弦を弾(はじ)く。空間に真っ直ぐに響く良い音だ。

肩でひとつ息をして、一人さんの大ヒット曲の一つを弾く。この曲は、月曜日に成田へ行ったときも、後援会の飲み会で弾いた。

「あ」

ミヒロが歌を。視線を向けると、ミヒロは歌いながら目を細める。なかなか良い声をしてるじゃないか。

続けて、一人さんが三年連続で音楽大賞をとった代表三部作をメドレーで弾く。ミヒロもリズムを合わせて一緒に歌った。

「すげー、策」

一通り終わると、ミヒロからの拍手喝采があがった。

「湊人もうまいけど、お前もうまいなあ。感動した」

ミヒロに褒められて、素直に嬉しく思う。

「一人さんといえば、『灯台岬のバラード』。策、知ってる?」
「もちろん、知ってるさ」

この曲の入ったアルバムを発表して、鳴り物入りでツアーに出ていた途中で、一人さんは倒れたんだ。人気絶頂であったところの謎の急死。日本中が悲しみにくれた。

この曲は、一人さん亡き後も、その年の音楽賞で何とか特別賞みたいなのを取ったんだ。弾き始めると、ミヒロもまた歌い出した。歌、意外にうまいな、ミヒロ。

「さあさあ、おかわりして、もっと食べなさい」

曲が終わると、おじいさんがカレーの皿を温めると言って立ち上がった。そう、食事がまだ途中。

キッチンでボーっという音を立ててレンジに火をつけ、鍋をコトコトとかき回す音の間から、おじいさんが鼻をすすっているのも聞こえた。

実は一人さんの最後の曲を弾いていたとき、おじいさんが目に涙を溜めていたのに気づいていた。けれども、おかわりを盛ってテーブルに戻ったときは、さっきの笑顔に戻っていた。遠慮なくそのカレーをいただいた。



「策、灯台に行こうぜ」

夕食を終え、片付けも済ませると、ミヒロが声を弾ませて言ってきた。

「灯台?」
「そ。村崎岬の灯台は、世界中にある灯台の中でも穴場中の穴場」

毎度のことながら、俺の意向は無視され、ミヒロがおじいさんに声をかける。

「じーちゃん、寝袋貸して」
「おう。いつものとこにある」

借りた寝袋を抱え、裏口から外に出ると、手入れの行き届いたきれいな芝生が広がっていた。海の匂いがして、波と風の音がする。向こうの暗がりに細長く見える白い建物が灯台だとすぐにわかった。

「個人宅なのに、灯台があるなんて」

芝生の間に敷かれた、灯台まで続く石畳を、ミヒロと肩を並べて行く。

「この村崎のじーちゃんの家は、代々、村崎岬の灯台守をしていたんだよ」

ミヒロがガイドをしてくれる。

「村崎岬の灯台は、江戸時代に油で烽火(のろし)を焚いて、岬の常夜灯としての役を務めたところから歴史が始まるんだ。開国・維新のときは、明治政府の灯台建設計画に組み込まれて、時代の流れで西洋式の灯台に建て替えられた。

戦争を経験してそれが過ぎ去った後、千葉県の海上保安庁管轄から払い下げを受けた。今は公には灯台としての機能はしていないけれど、じーちゃんが整備してるから、建物自体はまだ現役。

今も家の一部屋に、江戸時代からの資料を残してある。じーちゃんは、自分が死んだら全部県に寄付する、って言ってるんだ。でもそれまでは、ここは自分の家だって。昔の技術者だからね、頑固だよ。

策、人の話聞いてる?」
「え、あ、聞いてるよ」

ミヒロの話を聞いていなかったわけではない。歴史ロマンの香る、面白い話じゃないか。けれども、その話を聴きながら、俺の目は灯台のてっぺんよりも上を見ていた。

理由はこの星。満天を埋め尽くすような、無数の星が瞬いている。天空には天の川。大きくうねるように、星の流れが夜空を渡っている。関東でこんなに星が見られるところがあったなんて。

「気に入った?」

ミヒロに顔を覗き込まれて、俺は足を止めていたことに気づいた。ミヒロはニッコリと目を細めるだけで、灯台に向かって先を行く。

ミヒロに続いて灯台に入り、くるくると回る螺旋階段を上る。ミヒロの足音を追い、いい加減、息が切れた頃に、頂上の小部屋に着いた。

外の回廊バルコニーに出るドアの横に、古いけれども太い造りの木製の机と、これも古い木製の椅子。隅の方に年季の入ったボロボロのソファ。そこに寝袋を置いた。

上を見上げると、灯台のレンズが空間のほとんどを占めていた。のこぎりの歯のようなギザギザの段差のある独特な断面をしている。

ミヒロがスイッチを入れると、空間の真ん中に明かりがついた。ウイーンと機械が鳴り、レンズが光る。

最初だけガチャガチャとギアをあわせる音がしたが、ゆっくりとレンズが回転を始めると、それからは規則正しい回転速の音になった。



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やっとギターに触れた策。そしてミヒロと灯台へ。



この灯台のモデルは、ビクトリア州、グレート・オーシャン・ロードの一角にある、ケープ・オタウェイの灯台です。

10735233_828173797225839_1746039294_n[1]

こちらの動画で中へどうぞ↓
GREAT OCEAN ROAD - CAPE OTWAY – LIGHTSTATION

https://www.youtube.com/watch?v=RBFurbBv7VI



灯台のレンズ - フレネルレンズ

灯台は、沖合を航行する船舶に光を送ります。光を絞って遠くに送るためには、大きな明るい光源と、その光を集めて送るための大きなレンズが必要になります。遠くまで光を送るための灯台用のレンズとして、「フレネルレンズ」というのが設計されたのだそうです。

Cape Otway Lighthouse のフレネルレンズ↓
Cape_Otway_Lighthouse_lens[1]

光を集めるために考案されたフレネルレンズは、レンズの表面を細かく分解して平面に配置したような断面をしています。球面レンズの表面部分を細かく分解して平面上に配置することになるので、レンズの厚さが薄くなります。まるでプリズムを並べたような形になります。

図解もなかなか興味深いです。元記事↓ 「フレネルレンズの原理と仕組み」
http://optica.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-806b.html


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - ポール・ブリッツ  

Title - No title

きょうは初詣に行ってきました。

お賽銭を投げ、「新人賞新人賞新人賞」と願をかけ、

お守りを買って、

おみくじをひいてみたら、

「小吉 願いごと 高望みはかないません」

と書いてありました。

とほほ(^^;)
2015.01.02 Fri 21:36
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

家に灯台があるとは・・・・。
スケールが違いますね。
それはそれで冬が寒そうだ。。。
2015.01.02 Fri 22:48
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - おお

明けましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします!

そして、策! よく言った! その調子で練習してして。
ミヒロも歌えるんだ。そしておじいさんは、一人さんのことを思いだして、湊人の事も思いつつ、涙しているのですね。優しい味のカレーに違いない。

そして、灯台か。発想が貧困なので、イメージはムーミン谷でしたが、こんなに素敵なモデルがあるのですね。ここはけいさんのお住まいの近くなのかな。そういうわけじゃないのかな。同じ国にあると言っても、オーストラリアは大陸ですものね。

そして、灯台でお泊まりなのか。ロマンを感じます。
2015.01.03 Sat 06:01
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - いいなあ

策、やっとギターに触れましたね。
水を得た魚。
策がこんなにギターがうまいことを知らなかったという事は、やっぱりミヒロは策のこと、よく知らなかったのですね?

でもいいなあ。楽器が演奏できるって。ほんの一瞬でその場の空気を一つにして、泣かせてしまえるんだもん。
物書きはそうはいかないのが辛いところ。
なにはともあれ、少しは練習できたかな?策
いや、こんなんじゃ足らないよね^^;

そして灯台。
このお話で、灯台は何かを象徴するものなのかもしれませんね。最初は単に、風景の一部だとしか思わなかったのだけど。

灯台って、中まで入ったことが無いので、とても興味深かったです。
じいちゃんは今も、ここを守ってるんだな・・・。
ミヒロ、ここにはすごく思い入れがあるのですね、きっと。
2015.01.03 Sat 08:49
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

コメントありがとうございます。

お。初詣、良いですねえ。どちらに? 成田山?
ということはですよ、小さな願い事はかなうってことじゃないですか!

小さな幸せを集めれば大きな幸せになるってもんですよ^^
良い年になりそうじゃないですかー^^
2015.01.03 Sat 11:37
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おお

八少女 夕さん、明けましておめでとうございます。
こちらこそ大変お世話になりました。
今年もどうぞよろしくお願いいたします!

やた。夕さんに褒められたよ、策^^
ミヒロが歌えるというのも夕さんに読まれていた(汗)
策もミヒロもカレーをたらふく食べて満足です。

ぷぷ。ムーミン谷とは夕さんならではのご当地トピックですね^^
この灯台は同じ州内にあるのですが、うちは内陸、ここは海辺、ってことでなかなか行けないのですがそれでも何回か行ったことがあって。良いところなんです。

オーストラリアも良いところが沢山あるので旅行には事欠かないのですが、建物や歴史のロマンはやはりヨーロッパかなあとも思いますね。王族の歴史と連邦政府の歴史はかなり違いますよ。

次回、野郎の灯台お泊まり会を覗き見してやってください^^
2015.01.03 Sat 11:58
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: いいなあ

limeさん、コメントありがとうございます。

はい、やっと水を得た魚になれました(^^;)
あも、limeさんの質問にことごとくスルーなのをお許しくだされ~(><)
答えはお話の中で必ずうぅ・・・(><)

楽器って、ホント良いですよね。アコギサウンドが(も)大好きなんです。頭の中まわってます(^^;)
物書きさんは発表の場が音楽とは違うだけで、どうなんでしょうね。
limeさんのお話は皆さん(含自分)をうならせ、泣かせていると思いますが。

> そして灯台。
> このお話で、灯台は何かを象徴するものなのかもしれませんね。最初は単に、風景の一部だとしか思わなかったのだけど。

わ、象徴ですか。そんなふうに言っていただけるなんて嬉しいです。
いえ、そんな大きな意味はなく(存在はありますが)、単なる風景の一部、の方が近いです^^
そう、おじいさんのものだし。一人さんがあとを継げず、湊人も継げないので、おじいさんの代で灯台守の代は終わるのです。ちなみに、ミヒロも継げない。

灯台って、一つ実際に行ってみると、はまってしまうかもですよ^^
動画の方で中に入っていけるので、そちらも是非^^
2015.01.03 Sat 12:29
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。コメ返遅れてすみません。

家といっても昔は海上保安部の管轄下で宿舎(官舎)、みたいなものだった模様。
でも、良いですよね。灯台、うちにも一つ欲しい・・・
冬は海風が吹きっさらしできっと寒いですよ~
2015.01.03 Sat 13:05
Edit | Reply |  

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