オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 29 木曜日(9) 

「この灯台は、十八秒に一回の閃光を発する」

上のレンズを見上げる俺の背後から、ミヒロが説明をしてくれる。

「その十八秒っての、微妙だね」
「光度は、十万カンデラ(100,000cd)」
「それがどのくらいの光なのか、全然わかんないんだけど」
「うーん、じーちゃん曰く、五十キロ先の向こうからも見える、っていう光度。結構大きくて強い方じゃないかな。外に出てみよう」

ミヒロが、回廊バルコニーへ出るドアを開けた。外に出ると、ビューと音を鳴らす海風が強くて、体が流される。

流されるほうへ足を進め、バルコニーを海とは反対方向へまわると、おじいさんの住む家の明かりが見えた。暗くてよくはわからないけれど、横に長い、大きな屋敷だ。

ぐるりと一周して海側に戻ると、ミヒロもバルコニーに出ていた。ミヒロのロン毛が風でめちゃくちゃに乱れている。

「凄い風だね」
「策、寒くない?」
「大丈夫」

ミヒロの横で、バルコニーに両肘をついて寄りかかり、海のほうを見る。頭の上から、灯台の光が海に向かって放たれる。

けれども、光は真っ暗な海のほうに吸い込まれていくだけで、五十キロ先まで見えるというその光が、どのくらい強いのかがよくわからない。

「うーっ、寒!」

ミヒロがブルリと肩を震わす。塩分を含んだ湿った風は、思った以上に重く強い。真冬ではないにしても、十分に寒気を感じさせる。暗闇の中では見えるものもなく、灯台の中に戻った。

改めて小部屋を眺めると、机の上や壁に写真がたくさん飾ってあるのに目が行く。どれも潮風にさらされているせいか、色が落ち気味で古そうだ。そのうちの一枚に近づく。

「湊人?」
「違うよ。それ、一人さん。今の湊人とそっくりだよね。じゃなくて、湊人が本当に良く似てるんだよね。この若いじーちゃんとこの一人さんも良く似てると思わない?」

ミヒロが、セピア色に色抜けした古い写真を指差す。確かに。血筋というか、DNAというのか、そういうのが確かにつながっているのがわかる。湊人もこんな風に歳を重ねて行くのだろうか。いや、それを語るにはまだ若いか。

「湊人はこっち」

お母さんに抱かれている赤ちゃん。一人さんと、おじいさんも。今よりずいぶん若いな。横の人はおばあさんかな。幸せそうな家族写真だ。こんな幸せのなかで、笑えよ湊人。

思わずニヤニヤしてしまった俺の横で、ミヒロもニヤニヤしていた。

「この灯台は、村崎岬のパワースポットなんだぜ」
「パワースポット?」

首を傾げる俺に、ミヒロの説明は続く。

「ここは、一人さんが創作をしたところ。ここで数々の名曲が生まれたんだ」
「確かにここで海に向かっていると、イメージわきそうだよね」
「それからここは、一人さんが奥さんの真理子さんにプロポーズをしたところ」
「それはロマンチックだね」

一人さんのそんな素敵なエピソードを、甥っ子のミヒロが知っているなんて。岬岩の旅館の話の時も感じたのだけれど、ミヒロの親族はとても近しくて、うらやましいくらいに仲が良さそうだ。

「じーちゃんもばーちゃんとここで‘逢引’したんだって。ばーちゃんが亡くなってからも、ずいぶんたつなあ」

ミヒロが、また別の写真を指差す。

「これは、俺たち従兄弟が集まって撮ったやつ。真ん中が湊人と俺。この女の子たちは、みさきちゃんと妹のかおりちゃん。かわいいよね。後ろが俺のアニキたち。懐かしいなあこれ。俺も湊人も幼稚園だよ」

ミヒロがひときわ目を細める。写真の中の湊人とミヒロは、肩を組んで良い笑顔をしている。今でも二人は、仲が良いのだろう。

「策、外から灯台を見ようぜ」
「外?」

ミヒロは、コツコツと足早に螺旋階段を降りはじめた。ミヒロは言い出してからの行動が早い。中島さんみたいだ。一人受けする。

「寝袋忘れた。ソファーにあるやつ、取って」
「オッケー」

一度降りかけた階段から戻って顔を出したミヒロに、寝袋の一つを投げてやる。それを「サンキュー」と受け取ると、ミヒロは軽やかに螺旋階段を降りていった。

もう一つ、自分の寝袋を手に取ろうとして俺は、ふとソファの背に立てかけてあったそれを見つけた。こげ茶色のすごく古いギター。これも一人さんのだろうか。

何かに促されるように手が動く。それは俺の意識とは別の行動。けれども、気づくとそのギターをがっちりと掴んでいた。それから寝袋を抱えて、俺は螺旋階段を降りていった。

灯台から外に出る。向こうの、少し離れた芝生の上にミヒロは腰を下ろし、寝袋を広げて羽織っていた。

「そんなのが上にあったのか」

俺の手にあるギターを指差してミヒロが言う。「そうそう」と答えながらミヒロの横まで行き、くるりと灯台に振り返った俺は、その光景に一瞬息が止まった。

閃光。ぱっと光が走った。次の十八秒間、黙して再び閃光が放たれるのを待つ。

灯台から海に向かって、光の帯が飛び出す。暗い空間の中、白くて真っ直ぐで力強い。ほんの一瞬だけ姿を見せる美しい閃光。俺の目の中を通り抜けるように、素早く光が入って、出て行く。次のも、その次のも。

「策、突っ立てないで座れよ」

ミヒロの声が足元から聞こえて、顔を下げた。ミヒロが、難しい本でも読んでいるような顔で、俺を見上げていた。

「十八秒に一回って、ホント微妙な時間だよね」
「それで策、どこか異空間にでも行っちゃったわけ?」
「いや、ミヒロは見慣れているのかもしれないけど、俺は灯台の光っていうのをこんなに間近で見たのは初めてだから」

ギターを芝生に置き、俺も借りた寝袋を羽織って、ミヒロの横に腰掛けた。再び灯台を見上げる。灯台とその光の向こうに天の川と星々が瞬く。

夜空に灯台の光が白く通っても、さらにその向こう側から星の光が透けて見える。十八秒ごとに閃光が発せられるけれども、星の光はそれに臆することなく、輝きを押し通す。

天空を見上げたまま、星座を探す。流れ星が見えたりも。閃光が走るのを待つ間の十八秒が、長かったり短かったりする。そう感じるだけなのだろうけれども。

十八秒ごとに繰り返されるその夜の光景は、無限のドキュメンタリーを語るようでいつまで見ていても飽きない。

思い出したように、灯台から下ろしてきたギターを抱える。このギターもだいたいのチューニングが合っている。湊人はこれも弾いたのだろうか。

祥吾さんの曲の中に、満天の星と天の川を綴った歌がある。それを静かに弾き始める。イントロがすむと、ミヒロが歌い出した。テンポとリズムを合わせる。

こんな夜空の下で、語るように歌われるその歌詞に、今とても親しみを覚える。祥吾さんの持つ曲のイメージと、通じたような気がして心地良くなる。

「この歌、知ってるんだ、ミヒロ」

終わってから訊ねた。

「湊人のバンドの歌だからね」
「もしかして、全部覚えているとか?」
「そうだなあ、結構いけるかも」

本当かどうか、試してやろう。俺はバンドの曲を片っ端から弾き始めた。ミヒロは、シャープでパンチのある祥吾さんの声とは違うけれど、ソフトな良い声をしている。「次はこれ」と弾きまくる俺の横で、リズムを取りながらうまく歌う。

「策、凄いなお前、全部弾けるのかよ。実はファンなのか?」
「お前も、よく歌詞覚えたよな」

そっちのほうが、俺的には凄いと思う。さすが、休学中とはいえ、東大生の記憶力。休学中、ヒマでやることなかったからか。そんなことないよね。

「策、そろそろ中に戻ろうか。灯台消して寝よう」
「俺は、もうちょっとここで練習するよ」
「練習?」

ミヒロがまた難しい本の顔をする。俺は「趣味だから」と適当に理由を言った。

「中でやれば? 外は風が冷たくなって来るんだ」

星は相変わらず綺麗だけれど、確かに先ほどよりしっとりと寒くなってきているように感じる。もし今が真夏であったとしても、海風の吹きっさらしのこの場所は、きっと夜中は冷えるのだろう。

「俺は勝手に寝るから、子守唄代わりに弾いてよ。策のギター、すごく心地良い」

ミヒロはそう言って、立ち上がった。

「じゃあ、甘えん坊の三男が寝るまで、子守唄を弾いてやるか」

俺もそう言って、ミヒロに続く。

灯台に戻って螺旋階段を上がる。小部屋の室内灯だけを残して、灯台の電源を消す。レンズを回すモーターの音は消え、代わりに波の音が静かに浮かぶ。

ミヒロは寝袋に包まり、部屋の隅にある年季の入ったソファに腰掛けると、リラックスした様子でソファのアームに体を傾けた。

俺は机の横にある木製の古椅子に腰掛ける。改めてギターを抱え、バンドの曲をインストで弾き始めた。

そのうち、ミヒロが横にいることも忘れて、一心に弾いてしまっていた。ふと我に戻りソファを見ると、ミヒロが寝息を立てて眠っていた。なぜか安心する。

そういえば、今朝は出発が日の出前で、早かったことを思い出す。俺は車の中で居眠りができたけれど、ミヒロは一日中運転していた。

いい加減、俺も練習を切り上げる。ギターを元あった場所に戻し、室内灯を消す。俺もミヒロの横で寝袋に包まり、ソファの反対側のアームに体を傾け、眠りについた。

海から聞こえる波と風の音が、ミヒロの笑顔のようにうんと優しかった。



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やっと練習できた。ちょっとだけど。策とミヒロはまた一緒にねんね。
というわけで、木曜日、終了です。(長かったね ^^;)



策とミヒロが、星空を見上げていたときのイメージです↓
[pixiv] より、ツジキさんの作品「少年と宙 星めぐり」からトップの一枚をお借りしました。
素敵なイラストですよね (*u_u)

少年と宙 星めぐり ツジキ
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47405466



策とミヒロが、星の中で閃光を放つ灯台を見ていたときのイメージ↓
このタイムラプスの動画も素晴らしい (*u_u)

星景微速度撮影 タイムラプス#21 犬吠埼灯台と天の川
Star Timelapse in Japan#21~Lighthouse & Milky Way

https://www.youtube.com/watch?v=Wne-T7GdK34



この双方の素晴らしさに文章がついていけてなくてしょぼくて申し訳ない(泣く T^T)


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!

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Comment

Name - 八少女 夕  

Title - わあ

こんばんは。

灯台の描写がとっても素敵です。
海の方から見る描写はいくつか読んだ事があるのですが、こうやって灯台の中、照らす方がどうなっているのかって、考えた事もなかったかも。
18秒に一度。50キロ先まで届く光。不思議なパワーが宿っても不思議はないですよね。ここで代々デートしてるんだ。でも、ミヒロ、策は男の子だよ……。

そして、策、今日は一杯練習できてよかったね。
ただの練習じゃなくて、ミヒロと出会って、村崎一族全部の守護霊が集合しているような所で練習したから、ただの練習じゃなくてもっと心が豊かになるんじゃないかなあ。

そして、ミヒロは全部歌えるって、やっぱりただのファンじゃないでしょう。
ううむ。次回はもう少しミヒロが語ってくれるかしら。楽しみです。
2015.01.07 Wed 06:14
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Name - lime  

Title - いいなあ

このあたりの、ミヒロと策のシーン。
灯台の中、18秒に一回の光と共に浮き上がる思い出。二人の波長がぴったりで、数日前に出会ったとは思えない空気感。
ミヒロって、温かい中で育ってきたんですねえ。
策はミヒロのことをじわじわ知っていくわけですが・・・。これはなかなかいい絆が生まれそう。
湊人の事も、いろいろ知っていくわけですが、このことも、ミヒロが今からしようとしていることにつながるのかな?
私もこんなふうに、まったりと語るお話を書いてみたくなりました。

星空のイラストも、灯台の動画も素敵ですね。
けいさんの今回のシーンにぴったりです^^
2015.01.07 Wed 08:15
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: わあ

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

わ。灯台を褒めてくださり、って灯台じゃないっすね。
すごく嬉しいです^^ (灯台自体はもちろん良いところ^^)

お城めぐりも素敵ですが、灯台めぐりもなかなか良いものですよ。
海の景色とワンセットでいかがでしょう。

18秒に一度。50キロ先まで届く光。というのは、モデルのケープ・オタウェイの灯台の情報です。
でもこの灯台は今は歴史保存建造物で、もう光は灯さないのです。
往年の情報のみ。なので余計に妄想(^^;)

ぷぷ。ここで村崎一族は代々デートです。
じーちゃんの若いころはしわもなく、今でいうところのイケメンだったのか?
ミヒロは厳密に言うと一族ではないような、いや、直系でないだけで立派な一族なのだろうか、えっと、策は男の子・・・はっ(なんでしょ -_-;)

うお。守護霊ですか。一族集合ですか。それは強力だあ。
ここでパワーを溜め込んで、一族背後につけて、味方にして、日曜日はきっと大丈夫でしょう。

次回、金曜日は灯台での目覚めの朝からスタートです。
もう少し、策とミヒロの灯台での会話を聞いてやってくださると嬉しいです。
2015.01.07 Wed 10:34
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Name - けい  

Title - Re: いいなあ

limeさん、コメントありがとうございます。

わ、なんか素敵に言っていただけてとても嬉しいです。
この二人、妙に波長が合っちゃうみたいですね。
一見、全然違うのに。

ミヒロはアニキたちに守られ、家族に守られて、温かく育ってきたので、ドンと大きなことがあるとダメになる、かも。
策はこれでも意外と見た目と違ってしっかり者です。(言ってやったよ、策^^)

はい。この一週間のうち、策にとってミヒロと出逢ったのはとても大きなことで、じわじわと、いい絆となって行きます。そしてlimeさんの疑問にはお約束のスルーで(><)

星空のイラストと灯台の動画は本当に素敵で(*u_u)
limeさんの青い目の青年のイラストのように模写を試みましたが、無理~でした(-_-;)
精進します・・・

> 私もこんなふうに、まったりと語るお話を書いてみたくなりました。

お。良いですねえ。まったり同好会でも主催しましょうかね。
合宿は寝袋抱えて村崎岬の灯台で。ミヒロのガイドツアー付き^^
2015.01.07 Wed 11:04
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - やっと!

練習できた~~~!!!!
って、そこに感動? はい。もうずっとずっと気がかりで、そればっかり気にしておりましたよ。しかも、さすがけいさん、こんなすごい環境で練習できたら、これまで練習できなかった時間も吹っ飛びましたね。
そうそう、10回の練習よりも1回の本番なのです。この「舞台」での練習は、策にとって濃厚な本番並みの練習になったのでは……
あぁ、よかった。
(私は、週末の営業に向けて久しぶりに練習しすぎて腱鞘炎が悪化中……ダメだわ~)

そして。あぁ、灯台のシーン、かっこいいなぁ。
おいらもこんなシーンが書きたいよう……(しくしく)
でも、星空のシーンはいつでも素敵ですね。
ミスチルあたりの歌に出てきそう。
こちらのギタリストさんも素敵ですね。
いや、何よりこれで祥吾も納得してくれそうで、そしてこれから一人さんの霊が降りてきて、すごいアレンジだってできちゃうんだわ。うふふ。
早く祥吾が出て来ないかな~
2015.01.09 Fri 22:02
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Name - LandM  

Title - No title

灯台を眺めるのはいいかもしれませんね。。。
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・ただし、日本が夏のときで。
ロマンチックでいいですよね。
寒いと風情が吹っ飛ぶので。
2015.01.09 Fri 22:44
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: やっと!

コメ返できた~~~!!!!

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。
コメ返遅れてすみません(><)

ずっとずっと気にしてもらっていましたか。やっと、でした(^^;)
この環境は、練習、という環境とはきっと違うと思うのですが、ま、別件扱いで(^^;)
何か、大海さんがとても安心されたようで、それが良かったです。
楽器奏者に腱鞘炎は痛いですよね。くれぐれもお大事になさってください。

灯台のシーンすか。ありがとうございます^^
夜の灯台は行ったことないのですが、行ってみたいですね。
点いているのを探すのが大変そう。
あ、そういえば、横浜のマリンタワーなら夜行ったことがある。
けどあれはやはり別格だ・・・
ミスチル、歌ってくれないかなあ(*u_u)

> いや、何よりこれで祥吾も納得してくれそうで、そしてこれから一人さんの霊が降りてきて、すごいアレンジだってできちゃうんだわ。うふふ。

あはは。これはすごいアレンジというか、ジャンル変わっちゃうくらいのすごいことになっちゃいそうですね。
一人さんが出てきちゃあ、祥吾も平伏すでしょう。
(この図が受ける↑)
2015.01.12 Mon 18:17
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

こちらにもコメントありがとうございます。
コメ返遅れてすみません。

灯台を眺めるのはいいですよ~^^
海の景色とセットです。

上るのもいいですよ~^^
いつ行っても、風のすごさったらないですけどね(^^;)
2015.01.12 Mon 18:51
Edit | Reply |  

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