オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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セカンドチャンス 30 金曜日(1) 

「策、起きて」
「ん」

ミヒロの声に反応して、薄く目を開く。今までに何度、俺はこうしてミヒロに起こされただろう。

「お前の目」

うんと濃くて渋い紅茶のようなこげ茶色。そして、うんと優しい。

「起きて。日の出が綺麗だよ」

ほらほらと急かされて、体を起こす。

「わー」

外に出たとたん、飛び込んできたオレンジ色の光線に声を上げ、目を細める。

「すごい綺麗」
「でしょ」

横に立つミヒロの顔もオレンジ色だ。髪が不規則に風に流されて、またボサボサになる。長い前髪がみひろの目の前を揺らいでいるが、みひろは目を細めて目に掛かる髪の間から、海から上る太陽をじっと見つめている。

海から少しづつ上る太陽は光を増し、俺にはずっと直視はできない。

「ミヒロ、眩しくないの?」
「眩しいよ。すごく眩しい」

ミヒロは少しだけ俯いて、両手で目を押さえた。太陽を見過ぎて目が痛くなったのだろうか。俺も視線を下げて、岬の下にあるゆるいカーブの湾岸を見下ろした。崖の下に広がるそこは、自然のままに波が打ち寄せ、白いしぶきを上げていた。

夕べの夜、暗がりの中では見えるものは何もなかった。けれども、朝の今、夜聞こえた音と、目の前の景色が一致する。それは自然に取り囲まれ、素晴らしく美しい。海の青、波の白。空の青、常緑樹の緑。それらの色が朝の澄んだ空気の中で冴える。

「ここは海から何メートルくらいの高さなの?」

ミヒロに目を向け、俺はまたドキッと胸を締め付けられた。ミヒロが両手で目を押さえたまま、小さく嗚咽を漏らしていたから。

「ミヒロ?」

声をかけると、ミヒロは目から両手を離した。真っ赤な目に、涙をいっぱいに潤ませている。俺と視線が合ったとたん、崩れるように腰を曲げてバルコニーの手すりに突っ伏した。呼吸が大きく乱れ、肩を震わせる。

「ミヒロ、どうしたの?」

顔を伏せたまま、ミヒロがむせび泣く。体を震わせ、詰まらせた喉から泣き声が小さく漏れる。何かをぐっと我慢しているようなその声が、とても悲しく、辛そうだ。

俺はどうしたら良いのかわからず、ただ震えるミヒロの背中をさすってやる。しばらくそうしている間、ミヒロは足元に透明の涙の粒をぽたぽたといくつも落とした。

昨日も夕日を見て、一人で涙を流していた。何がミヒロをここまで悲しませるのか。何がそれほどに辛いのか。言ってくれないと、俺にはわからないよ、ミヒロ。

「そうだ」

ふと思いついて、灯台の部屋に戻る。ドアの横にある古い机の引き出しを引くと、やはりあった。紙とペン。ものすごく古い。

一人さんが使ったものか、それともおじいさんのか。それを拝借して、髪を振り乱してぐちゃぐちゃに泣いているミヒロの似顔絵を描いた。

「ひっでー顔」

即興の割には、まあまあの出来上がりに自己満足する。それを手に再びバルコニーへ出た。ミヒロの泣きは少し収まっているようだったけれど、それでもまだ顔を伏せたまま鼻をズズっとすすっていた。

「ミヒロ、これ見て」

俺の声に反応したミヒロが、少しだけ顔を上げた。ジロリと横目で俺の描いたミヒロの泣き顔の絵を見たとたんに、ぷっと吹き出した。

「なんだそで」

鼻声でコメントする。ズズズーっと派手に鼻をすすり、ミヒロもバルコニーを離れ部屋に入る。俺が机の上に残していた紙とペンを見ると、椅子に座ってなにやら描き始めた。

ペンを折ってしまうのではないか、ぐらいの力を込めてぎゅっと握る。一枚目、上手く描けずに紙をくちゃくちゃと丸める。眉間を寄せて描く二枚目、やはり上手くいかずに丸める。三枚目も丸める。

「何の絵を描いてんだ?」
「策の顔。笑顔。けど、上手く描けねえ。俺、絵はまあまあいけるほうなんだけど」

だんだんムキニなって、ミヒロはさらに紙を無駄にする。

「ダメダメ、ミヒロ。笑っている絵は、笑っていないと描けないんだよ」

俺がそう言うと、ミヒロの絵を描く手が止まった。

「そうだな」

そう言って俺に見せた顔が、少しだけいつものミヒロの笑顔に戻った。

「作戦変更」

ミヒロが今度は絵ではなく、紙の真ん中に大きな楕円を書く。その楕円いっぱいに、恥ずかしいくらいに大きく「策の笑顔」という文字を書く。俺の顔はミヒロの中でへのへのもへじ上級編と化したようだ。

自分のアニキたちから教わったスキルなのだろうか。そのでき上がりを見てミヒロは満足げに口角を上げると、その紙を縦半分に折った。

それをいったん広げて、上部の両角を三角に折る。それから数回さらに紙を折り、見る見るうちにスマートな紙飛行機が出来上がった。

「策も何か書いて、紙飛行機にして」
「じゃあ、俺はこのお前の泣き顔を紙飛行機にしてやる」
「えー、それ?」
「いいじゃん、いいじゃん」

出来上がった紙飛行機を手に、再びバルコニーに出た。ミヒロが「飛ばすぞ」と躍起になる。

まずはミヒロが自分のを「策の笑顔はサイコー!!」などと叫んで飛ばす。手を離したとたんに風に弾かれ、それは海のほうではなく、斜め下に広がる湾のほうへ流れていった。「あ~」とミヒロががっかりの声を上げる。

「恥ずかしいこと叫ぶからだよ」
「誰も聞いちゃいねえ」

それなら俺だって、「ミヒロの泣き顔はサイアクー!!」と叫んでやる。俺のは、向こうに投げたつもりが真下方向に堕ちて行き、二人で爆笑した。

「そういえばミヒロ、一人さんの歌で、どこかから紙飛行機を飛ばす、っていうの、あったよね」
「歌の中だと海に向かって飛んでいく、みたいな歌詞だったけど、実際のこの風じゃ、誰が飛ばしたって飛ばねえよなあ」
「一人さんもここで創作をしていたときに、こうして紙飛行機を飛ばしたんだね」
「かもね。俺と湊人がじーちゃんから教わったみたいにね」
「これも村崎家の伝統なのか」
「それウケるー。けど、俺は村崎じゃねえぞ」
「母方のつながりだから、一族じゃねえか」
「そうだな」

さっきまでさめざめと泣いていたミヒロがまた笑う。悲しみが少しだけでも離れて行っただろうか。ここが本当にパワースポットなら、ミヒロに元気をやってほしいと願う。

「なんかさあ、ミヒロ、お正月でもないのに、ここで何か誓いでも立てたくならないか。海の中から太陽が生まれるのを見て、自分も今日また生まれ変わる、みたいな」
「え、別に。お前見かけによらずエモーショナルなヤツだな」

いや俺は、今こうしてこの灯台に立っていること、横にミヒロがいること、一緒に日の出を見たこと、それがなんだかすごく特別なことのように思えてならない。

昨日、ファミレスに寄る前に見つけたどこかの駅から、電車で家に帰ってしまっていたとしたら、夕べからのこれはなかった。あ、ファミレス。

「セカンドチャンス、って、ファミレスでミヒロ言ったよな。それに付き合ってくれって。それって、この日の出を一緒に見てってこと? 決意を新たにするとか?」
「俺はお前みたいなエモの中にはいない」
「は?」

少し言い方冷たくないか。ミヒロだってさっき、かなり感情的に泣いたじゃないか。「じゃあ何?」と聞こうとするのをさえぎるように、俺の腹がググーと大きな音を立てた。いとも簡単に、これがミヒロにキャッチされる。

「策も腹減ってるよね。じーちゃんの家のほうに戻ろうか」

恐らく、とても大事なことを聞くタイミングを逃したと思う。どうしてこんなときに。全く残念な空腹サインにくじけた俺は、力なく「うん」と返事をした。



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灯台を降ります。なんだかんだあって、金曜日。まだ朝(汗)
けど、帰ります(←どのタイミングで? -_-;)



こんな螺旋階段を降りて、灯台から離れます。
ここはCape Otway(ケープ・オタウェイ)ではなくて、同じビクトリア州のPoint Hicks(ポイント・ヒックス)というところです。

Point Hicks Lighthouse VIC

二人が紙飛行機を飛ばしたバルコニー。Cape Otway(ケープ・オタウェイ)です。
風が凄くて、ミヒロでなくても髪がぐちゃぐちゃになります。このときは天気がイマイチ。

otway_lighthouse_view[1]


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

まだまだ、気持ちの中にいろんなものを抱えていそうですね。ミヒロ。
泣いちゃうほどの過去ってなんだろう。でも、話してくれないと策にはわからないよ~><
(けいさんの華麗なスルーが予想されるけど聞く)
策、オロオロしながらも、元気づけようと一生懸命だけど、似顔絵とは思いつきもしなかった。策らしいです。
とにかく策の優しさはミヒロにばっちり伝わったと思うし。
なんか相思相愛な感じがいいなあ。
紙飛行機があのバルコニーから海に飛ぶ姿はとっても絵になりますね。
ミヒロはなにを願ったのかなあ。
はやくミヒロの目指すものが知りたいです。
そのまえに、じいちゃんの家で腹ごしらえ。

「おお、二人とも遅かったな。ちょうど今、大なべに湯がいっぱい湧いたところだ。策君、すぐに・・・」
・・・違。
2015.01.10 Sat 09:06
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - おや

ミヒロ、何だか泣いたり、深刻になったり、あれこれ揺れていますね。
夜の海と朝の海は本当に違って見えますよね。でも音だけは同じ。だから朝、あぁそうだったんだって思う。
この物語は、策の物語なのかと思っていたけれど、ミヒロと策、2人の物語だったのですね。ふたりのセカンドチャンス、大きく花開きますように!

紙飛行機! いつもフミヤのコンサートで飛ばします!
(大海、昔から彼のファンで、今も1年に1度、青春時代を支えてくれたお礼参り?にライブに行きます(^^))
最初の頃は貰ったチラシとかでただ飛ばしていたけれど、最近はみんな自前で、フミヤへのラブレターつきで飛ばします。もちろん、フミヤの手元に届くわけじゃないんだけれど、想いを載せて……
2015.01.10 Sat 20:48
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - こんにちは

また泣いてる? ミヒロ、何かとても大きいもの抱えていますね。もう金曜日なんだから、早く白状した方がいいと思うよ。
策も「今日こそ帰る」とか思っていたはずだけれど、この涙の訳を訊かずに帰るなんて無理ですよね。ちゃんと迫らないと日曜日になっちゃうよ!

でも、無理矢理吐かせずに、優しく絵で慰めるのは策らしくていいなあ。
この一部始終をビデオに収めておいて祥吾に見せたら、それだけで彼は号泣して試験しなくてよくなると思うんだけれど。なんて邪な事を考えているのは、きっと私だけだろうなあ。

関係ないけれど、limeさんやっぱり沐浴がものすごく好きらしい(笑)
2015.01.10 Sat 23:42
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。
コメ返遅れてすみません。

ミヒロ、抱えているのです。
話してくれないからlimeさんにもわからないんだよね~(←(華麗な)スルー?)

> 策、オロオロしながらも、元気づけようと一生懸命だけど、似顔絵とは思いつきもしなかった。策らしいです。
> とにかく策の優しさはミヒロにばっちり伝わったと思うし。
> なんか相思相愛な感じがいいなあ。
> 紙飛行機があのバルコニーから海に飛ぶ姿はとっても絵になりますね。
> ミヒロはなにを願ったのかなあ。
> はやくミヒロの目指すものが知りたいです。

ああなんか、素敵に言ってくださってありがとうございます。
limeさんに策のことが伝わっているようでとても嬉しいです。
ミヒロの目指すもの、金曜日のうちにわかってくると思いますが、’はやく’ではないのがこころ苦しい(お待ちを~><)

> そのまえに、じいちゃんの家で腹ごしらえ。
> 「おお、二人とも遅かったな。ちょうど今、大なべに湯がいっぱい湧いたところだ。策君、すぐに・・・」
> ・・・違。

ぷぷ。どっちの腹ごしらえなんですかね。てか、野郎はうまいのか・・・
ゆで策・・・
(いかん。余計な妄想が・・・けけけ・誰かの笑いの空耳が・・・limeさん、止めてくだされ~><)
2015.01.12 Mon 19:13
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おや

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。
コメ返遅れてすみません。

ミヒロ、ここにきてあれこれ揺れて、策にもチラ見せしてます。
夜の海と朝の海を比べて、あぁって思うこと、ありますよね。
夜更かしと早起きは海辺でするもの。って違うなあ、また(-_-;)

> この物語は、策の物語なのかと思っていたけれど、ミヒロと策、2人の物語だったのですね。ふたりのセカンドチャンス、大きく花開きますように!

わ。ありがとうございます。
そう読んでいただけるとは。嬉しいです^^
この先も濃いつながりとなっていくこの二人を見守ってあげてください。
(あぁ、金曜日も長くなってしまいそうな予感が -_-;)

紙飛行機! へえ、そうなんですか^^
なんか、良いお話ですぅ。
フミヤさんもお年を重ねられて、今はどんな歌声をファンの方々に聴かせてあげているのですかね。
還暦過ぎても歌っていて欲しい人であるかも。ね。
2015.01.12 Mon 19:40
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんにちは

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。
コメ返遅れてすみません。

策にはまだわからないのですが、そうなんです、ミヒロは大きいもの抱えているのです。

> もう金曜日なんだから、早く白状した方がいいと思うよ。
> 策も「今日こそ帰る」とか思っていたはずだけれど、この涙の訳を訊かずに帰るなんて無理ですよね。ちゃんと迫らないと日曜日になっちゃうよ!

ホントそうですよね(って、引っ張るのは作者><)
金曜日、帰る曜日です。でないと日曜日は本当に目前。

> でも、無理矢理吐かせずに、優しく絵で慰めるのは策らしくていいなあ。

夕さんが策の性格をわかってくださって嬉しいです。
夕さんをじらしてしまいますが、策がミヒロから聞き出す(のか?)のをお待ちくださいますように。

> この一部始終をビデオに収めておいて祥吾に見せたら、それだけで彼は号泣して試験しなくてよくなると思うんだけれど。なんて邪な事を考えているのは、きっと私だけだろうなあ。

ぷぷ。これは良いかも d(^^)b
祥吾も夕さんのようにほだされるタイプなので、この作戦は案外上手くいくかもね。Good^^

> 関係ないけれど、limeさんやっぱり沐浴がものすごく好きらしい(笑)

ははは。関係アリアリです^^
この件に関しては、26話のコメント欄をご覧くださると、由来がお分かりになれるかと^^
2015.01.12 Mon 20:01
Edit | Reply |  

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