オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 31 金曜日(2) 

夕べ出てきた裏口から、おじいさんの家に戻る。リビングのテレビから朝のニュースが流れ、キッチンからはコーヒーの匂いがする。

「じーちゃん、おはよう」
「おはよう、三広。あ、えっと。三広、友だちの名まえ、何だっけ?」
「策だよ」
「ああ、ごめん。策くん、灯台は寒くなかった?」
「大丈夫です。素敵な灯台ですね」

おじいさんの返答は、くしゃっとした笑顔。

「朝はトーストで良い? トーストしかないんだが」
「はい。あ、自分でやりますよ」

トーストくらい、自分で焼ける。キッチンに入り、おじいさんからあれこれを教わる。

「策くん、コーヒー飲む?」
「ミロ入れてやるよ。策、ミロ好きだよな」

ミロ? ミヒロが横から割り込んでくる。まあ、好きっちゃ好きだけれども。別にコーヒーでも緑茶でもミロでも何でも良い。

ミヒロは俺の返事など聞かずとも、慣れたように棚から缶入りのミロと、カップを二つ取り出す。飲み物はミヒロにまかせて、俺はミヒロの分のトーストも焼く。

おじいさんが、自分のトーストとコーヒーを手に、リビングに向かう。朝食をとりながら、ニュースを見るのだろう。

「ミルクたっぷりが好きだよな、策」
「まあ、そうだけど。何でも良いよ」

妙に朝のサービスが良いじゃないか、ミヒロ。旅館仕込みのマナーか。俺は秘書の仕事ではいつもお茶を入れる方の役だから、誰かに入れてもらうのは久しぶり。

「俺、小学校のときに『ミロくん』て呼ばれていたことがあるんだ」

お湯を沸かしなおす間、俺の横に立つミヒロがふと話し始める。

「クラスで一番仲の良かった子が、俺のことミヒロって言えなくて」
「その語呂、なんとなくわかるなあ」
「その子がうちに遊びに来ると、ミロばっかり飲んでた、っていうのもある。母親が『ミルク入れる?』って聞くと、でっかい目して、『たっぷり入れて』とか言って。うちの子みたいだった」

ミヒロの子ども時代の話。いよいよ東大生が神童だった頃の武勇伝か。相槌を打つ。

「ミロくんちでミロか。それって、まさか成田時代の話?」
「そ。成田から転校するとき俺が泣いたのは、その子と別れるのがいやだったからかもしれない」
「よくそんな昔の話、覚えているよな」
「うん。俺もその子の名まえがちゃんと言えなくて、『さっくん』って呼んでたから」
「へえ、俺も昔の友だちからはよくそう呼ばれ・・・」

ちょっと待った。トーストにバターを塗る手が止まる。「ミロくん」に「さっくん」だと。俺の頭の中で、記憶の渦が起き始めた。

家に遊びに行って、ミロをご馳走になる。何度も遊びに行って、その度にご馳走になった。もちろんそれが目当てだったのではなく、そのくらいに仲の良かった友だちがいた。

俺の子どもの頃の記憶が嵐のように巻き起こり、急激な速さで竜巻のように大きくなっていく。かっと頭に血が上ると、ざっくりとその記憶が掘り起こされた。

「それ、それ、それって・・・」

ミヒロに向かってバターナイフを突きつける。二時間ドラマで主人公に包丁をかざす実は正直者の殺人犯のように、腰が引けて手がプルプルと震える。心臓なんかもうバクバクだ。

確かに家によく遊びに行った。ミロくんだって、何回もうちに遊びに来た。学校ではいつも一緒だった。すごく昔のことなのに、今でも懐かしく思い出せるほどに仲が良かった。ミロくんが転校しちゃったとき、俺だってものすごく寂しかったんだ。

「それって、もしかして。てか、ミロくん!? マジ?」
「そ。さっくん、やーっと思い出した?」

俺は「でえええ」と声でないような声を上げた。

そんなこと、とっくの昔に忘れたことだった。小学校一年なんて、学校生活の始まりの始まり。その後、友だちなんていくらでもできて、いくらでも別れてきた。

けれども、その小学校に上がって一番初めにできた友だち。それがミロくんだったのだ。覚えている。俺の友人の歴史のリストでもあるならば、ミロくんの名まえはトップに来る。

「お前・・・背伸びたなあ」

バターナイフで指したまま、今のミロくんの第一印象を述べる。

「策も大きくなったよね。目」
「目だけでっかくなったのか俺は。怪人のように育ったみたいじゃないか」

ぷっと吹き出すミヒロをバターナイフで刺してやろうか、と一瞬浮かんだ衝動を抑え、ナイフと共に手を下げる。正直者の殺人未遂犯、ここに敗れる。

「ミヒロは、最初から知ってたのか」
「そ。策がうちの玄関で転がっているのを見つけたときから。けど、あの時はホント焦ったよ。再会を喜ぶどころじゃなくて、どうしよう、って。俺のほうが先に驚かされた、って最初から言ってるじゃん」
「なんだよう」

さらりと言ってのけるミヒロに向かって、大きくため息を吐く。この事実によって、肺にある空気のすべてが絞り取られたように感じる。

「策は俺の顔を見ても、名まえを言っても全然気づいてくれなくてさあ。ファミレスで小学校の名まえを出したって、スルーされるし」
「そうか。あの時、どうして唐突に小学校の話が出たのか、おかしいと思ったんだよ。そうだったのか。言ってよ」
「うちでミロ飲んでは、あんなに仲良く遊んでたのに、つれないよね」

ピピっとポットが鳴る。沸いたお湯をカップに注ぎ、「ミルク、ミルク」とつぶやきながらミヒロが冷蔵庫を探る。

「本当の友だちだったんだ。本当に」
「そうだよ。だから、旅館の伯母さんにもみさきちゃんにも、村崎のじーちゃんにもそうだって、紹介したでしょ」

体の力が抜け、目の前のトーストの上で溶けていくバターのようにドロドロになっていく。俺の生気もパンに吸い込まれてしまうようだ。

「トーストできたら、こっちに持ってきてよ」

ミヒロが目を細めて、リビングのほうを顎でしゃくる。手には二つのマグカップのミロ。きっと俺仕様でミルクがたっぷりと入っているのだろう。

俺は、このちょっぴりノスタルジックな思い出空間の中に立っているのがやっとだった。



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ミロくんとさっくん^^


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Comment

Name - 八少女 夕  

Title - ええ〜

こんばんは。

友達だったの、っていうより、そこまで完璧に忘れていたのね、策!
でも、策の肩を持つわけではありませんが、ええ、私も小学校のときの友達の顔憶えていないかも。だから、「ひどい」とおもいつつ「でも、でも、忘れちゃったらしかたないよね」と一人で二つの意見の間をウロウロ。

ミヒロが泣いていたのは、策が完璧に忘れていたから、ではないですよね?

いや〜、さっさと帰っちゃわなくてよかった、そりゃ、帰っちゃダメでしょう。でも、もう金曜日なんでしたっけ……。
2015.01.15 Thu 05:09
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Name - けい  

Title - Re: ええ〜

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

友達でしたあ。けど、すっごい昔の。
なので、当然のように完璧に忘れていました。
いや、普通に忘れてますよね。小一のことですから。
忘れちゃってもしかたない、なのですよ。
ミヒロの記憶力がすごい、ということで。

ミヒロが泣いていたのは・・・
はい。もう(やっと?)金曜日なので、次回から本人に語ってもらいましょう(←予告^^)

ホント、さっさと帰っちゃわなくてよかったです。
あそこで帰っちゃってたら、お話終わってました(^^;)
まだまだ終わらないこのお話(汗)ですが、まだまだ夕さんにもお付き合いいただけますように^^
2015.01.15 Thu 09:03
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - おお~

そうだったのかあ~。
小学校1年の時の友達だったなんて。
策はすっかり忘れてたんだあ><
1年も一緒に居なかったのなら、仕方ないよね。
ミヒロがそのぶん、しっかり覚えててくれたんだなあ。

そう思えば、今までの妙な言動が全部納得できます。
いろいろ話して聞かせたくなりますよ、うん。

策って、昔からあまり変わってないんだね(笑)
ミロとさっくんw
(そういえば子供のころ10年くらいいっしょに暮した猫が、ミロだった。なつかしいなあ・・・。)

ノスタルジーに浸ってる策。
そして次回は、いよいよミヒロ、語ってくれるのですね。
金曜日も濃いかな^^
2015.01.15 Thu 17:38
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おお~

limeさん、コメントありがとうございます。

そうだったのです~^^
策でなくても、普通に忘れていますよね、そんな昔のこと。
ミヒロの記憶力のなせる業です(-_-;)
今まで妙でしたかね(苦笑)

策は昔からちっちゃくって、目が大きくて・・・
ミヒロはアニキ頼りの貧弱系だったかもね。
ミロくん・さっくんコンビです(^^;)
なんと。limeさんの愛猫ちゃんと同じ名まえとは!(@@)

策は驚きっぱなしですが、次回もまた驚くことが(予告)
ミヒロが語ります。濃いぃですよ~^^
2015.01.15 Thu 18:57
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Name - 城村優歌  

Title - No title

追いつきました。

そして、でぇぇぇぇ。
幼馴染だったのですねえ。
ミヒロが策のことをすぐわかったというのは、
それだけ策の外見が変わってなかった、
とまではいかないけれど、面影があった、
ということなんでしょうね。
しかし、ここまで打ち明けなかったのも、
ミヒロの忍耐力のすごさを感じます。
言いたくなるし、気づかせたくなるし、
だからこその思わせぶりだったわけですね。
しかし、こんなに手のこんだ思わせぶりも、すごい。
ミロ、めっちゃ懐かしい。そういえば、子どもの頃よく飲んだっけ。
ミロはやっぱり牛乳で割るのがおいしいですよね^^
2015.01.16 Fri 20:56
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

わ。お時間のあるときに追っかけてくだされば^^

そして、でぇぇぇぇ←のリアクション、ありがとうございます^^
ブランクあるのですが、昔っからの関係でした。

> ミヒロが策のことをすぐわかったというのは、
> それだけ策の外見が変わってなかった、
> とまではいかないけれど、面影があった、
> ということなんでしょうね。

そうですね。策は子どもの頃から目力あったようです^^
あとはミヒロの記憶力、ですかね。

> しかし、ここまで打ち明けなかったのも、
> ミヒロの忍耐力のすごさを感じます。
> 言いたくなるし、気づかせたくなるし、
> だからこその思わせぶりだったわけですね。
> しかし、こんなに手のこんだ思わせぶりも、すごい。

手、込んでましたかね。
策が全然気づいてくれないから、ミヒロはがっかりしていたかもしれないし、
気づかないままでどこまでいけるか試していたかもしれないし、
全然気にしていなかったかもしれないし、どうなんでしょうね(^^;)

ミロ、子どもの頃のいっとき、よく飲む時期ってありません?
そうそう。牛乳で割るのがポイントではないかと^^

またこの二人を追いかけてください^^
2015.01.16 Fri 22:48
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

おお~4周年おめでとうございます。
(●^o^●)

これからも読み続けますので、
のんびりマイペースに執筆してくださいませ。
2015.01.17 Sat 11:42
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

お祝いありがとうございます。

読んでいただけるとそう言っていただけるのが一番嬉しいです(●^o^●)

お言葉に甘えて、のんびりマイペースで行きますが、よろしくお願いします^^
2015.01.17 Sat 12:29
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - こちらも遅ればせながら

しまった! また次回分が先に出てしまった!!
でもよく前にこちらにコメを……再びの言い訳ですが、寝落ちが~。しかもこちらもアップされて間もなく拝読して、えええ~~~~とか叫んでいたのに……あれよあれよと4周年記事におおお~~~となり。
1人で騒いでいてすみません。
ということで、気を取り直して。
いやいや、そりゃないやろ、策、と思う反面、実際には私だって、子どもの頃いつも遊んでいた子と10年後に再会しても絶対分からんわ~と思っておりました。年賀状の交換はしていても、顔はね……
いやいや、逆にミヒロは凄いなぁと思っちゃいました。やっぱり東大生??
ということで、今回はビックリのきもちをお届けするコメントでありました。
さ、続き続き……
2015.01.21 Wed 20:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こちらも遅ればせながら

大海彩洋さん、二連続コメントありがとうございます。

大海さ~ん^^ 大海さんのペースでね~^^

はは。ビックリしていただけましたか。
東大生の記憶力は伊達じゃない、ということで。

子どもの頃いつも遊んでいた子、と実は会ってみたいですねえ。
みんなどこに行っちゃったんだろう、と時々思います。
自分も日本にいないわけで、だから余計にそんなふうに(^^;)

続きも大海さんのペースでね~
描くほうもマイペースですから^^
2015.01.22 Thu 10:18
Edit | Reply |  

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