オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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セカンドチャンス 32 金曜日(3) 

車に乗り、シートベルトをする。横でミヒロが黒い皮製のドライビング・グローブをはめる。この車は別にスポーツカーではないのに、どうしてそんなものをつけるのだろう。まさか、カッコ付けでそれをするわけじゃないよね。

「ここにはいつでも泊まりにおいで、三広」
「うん。また友だち連れてくるよ」

おじいさんが、しわいっぱいの笑顔でお見送りに出てくれる。

「運転に気をつけるんだよ。東京の家に着いたら、必ず連絡を寄こしなさい」
「わかってる。必ずする」

ミヒロもおじいさんも笑顔で手を振り、俺も車の中から会釈をする。村崎岬を後にする。初めて訪れたここで、俺は忘れられない思い出ができた。

車は、昨日上がってきた道を戻る。ふと、思い出したようにミヒロが優しい声で言う。

「策、灯台に一緒に来てくれて、ホントにありがとう」
「なに改まっちゃって。どした?」

ミヒロは、ただ紅茶色の目を細めるだけで、何も答えない。

程なくして山道を抜け、舗装道路に出る。もう海のほうには行かずに、街のほうに向かうようだ。

車内にはFMが流れる。最近よく耳にするこのDJは、とても明るく感じが良い。そのDJのしゃべりの心地良さと共に、俺は何の心配もなく、車窓の景色に目を向ける。

今日こそ本当に、東京に帰れるのだろう。順調だ。俺は安心してミヒロに視線を移した。けれども次の瞬間、その俺の安心がガラスを割るように砕かれた。

「ミヒロ、顔色悪いよ、気分でも悪いの?」

ミヒロの顔は血の気を失せ、真っ青になっていた。さっきまでのリラックスした様子とは全然違う。額には、夏でもないのに、尋常でない汗をにじませていた。

「どうしたの? 具合が悪いなら運転代わろうか?」
「策。もしこの先、俺の様子が変になったら、一緒にハンドルを握ってくれ」

ミヒロがなんのトーンもなく、そんな物騒なことを言う。俺は首を傾げ、運転する先を見据えるミヒロの目に何が映っているのかを探る。

「これから、俺が二年前に事故った現場に行く。母親と彼女を殺して、俺だけが死に損なったところ」

聞いた瞬間、脳天を何かでカチ割られたかのように、目の中がくらくらした。

「え、ちょっと待って、ミヒロ。何言ってんの」

俺は必要以上に車の中で声を荒げ、「車を止めてくれ」と騒ぎ立てた。お母さんと彼女を? 殺した? 俺のほうが血の気が引く。

「事故の話、してよ」

そんな風に言われたら、こっちから聞かざるを得ないだろう。

ミヒロは、見通しの良い直線に入るとスピードを落とし、ゆっくりと路肩に車を止めた。

「ミヒロは、お母さんに会わないんじゃなくて、会えないんだね」

ハンドルから手を離し、ミヒロはちらりと俺に横目で視線を送る。それから静かに話し出した。

「二年前、大学三年のとき。就職も決まって、残りの大学生活を謳歌できるという良い時期。彼女と母親と旅行に出かけたんだ。特別に理由があった旅行じゃない。

大学に入ってからすぐに付き合い始めた彼女は、策みたいにしっかりしたとても良い子だった。母親に紹介して以来本当の親子みたいに仲良くなっちゃって、それまでにも、何回か一緒に旅行に行っていたんだ。

そのときのルートは、今回のドライブと同じ。東京から岬岩の旅館に行って、伯母さんに就職が決まったことを報告して一泊。

ビーチ沿いをのんびりと寄り道しながら進んで、コンビニで会った友だちの実家の磯懐石レストランで昼食。あのファミレスでおやつタイム。

じーちゃん家で夕べみたくみんなで晩御飯を作って、彼女に灯台を見せてあげた。泊まったのは家のほうだったけど、早起きして、日の出も見せてあげた」
「本当に同じルートだね」

ミヒロと辿った道がフラッシュバックする。それと共に、ミヒロが時折とても遠い目をして景色を眺めていたのを思い出す。

「で、その帰り」

ミヒロが、一つ間をおく。

今ここはその先の場面に来ている。ミヒロの悲しみの理由が語られると思うと、俺は神妙に黙って耳を傾ける。

「この先、カーブの道に入る。カーブはゆるいけれど、結構長い。当時周りは開発途中の原っぱで、見通しは良かった。彼女と母親が、ここに何が建つんだろうね、なんて話をしていた。

新企業の工場地なのか、大型の住宅開発なのか、せっかくのウオーターフロントなんだから、そのコンセプトでアミューズメント・パークにしても良いだろう。なんて、そんな他愛のない話が楽しくて、俺もカーブを運転しながら会話に加わっていた。そのせいで、気づくのが遅れた」

ミヒロは努めて淡々と、新作映画の説明でもするように話す。

「そのとき、道路はすいていて、前の車との距離もあった。長いカーブに入ってすぐに、向こうから反対車線に大型のトレーラーが来るのが見えた。

すごく大きな長距離フルトレーラーで、後ろは長方形のトレーラーを電車のように二連結で引いていた。

高速じゃない一般道でそんなに大きなトレーラーを見るのは珍しくて、目にも留まっていたんだけど、母親と彼女とも話をしていたから、注目していたわけではなかった。

お互い同じくらいのタイミングでカーブの真ん中に差し掛かろうとした時、それは最悪のポイントで最悪のタイミングで起こった」

ミヒロは、見たくないものから目をそらすように、ぎゅっと目をつぶる。

「ミヒロ、続けて。聞いてるから」

ミヒロが記憶の中に見ているもの、ミヒロの体を震わせ、涙を流させるもの、それを知りたい。ここまで付き合ったんだ。もしかしたら俺にだって少しぐらいは理解できることがあるかもしれないじゃないか、ミヒロ。

閉じた目を薄く開き、ミヒロは話を続ける。

「トレーラーの頭はカーブに沿って走っていた。話に気を取られていたけれど、俺の目には入っていたんだ。トレーラーの頭と後ろがずれ始めて、『え!?』って思ったときには後ろのトレーラーがこっちに向かっていた」

「え、連結が外れたって事?」
「そう。二連結の後ろのほうが、カーブの遠心力で振り払われるように外れて、俺たちの車に突っ込んできた」
「そんなこと」
「あったんだよね、その時。俺には見えていた。それが制御不能なドリフトのスローモーションのように」

そしてミヒロは、黒皮のドライビング・グローブに包まれた両手を自分の目の前にふわりと浮かした。

「今でも思う。もしもそのとき、しっかりとハンドルを切ることができたら、それを避けられた」

俺は首を傾げ、息を飲む。

「手が滑ったんだ」

ミヒロが黒皮のドライビング・グローブをする意味と理由が、そこにあるのだろうか。そのときの運転に、ミヒロが後悔を残している。その象徴なのか。

俺は何の言葉もかけられず、ミヒロと共に、空間に浮かされた黒く深い影のようなそれを見つめた。

「そのまま、何トンもある四角いトレーラーが車の右脇に突っ込んできて、車が吹っ飛ばされた。宙に飛ばされた車は地面に落ちた後、だだっ広い造成地で何回転したかわからないくらいに回転した。

車の中では、思い出したくないくらいの悲鳴が上がった。体の右側に強烈な痛みが走ったのは当たったときだけで、あとは頭の中に、破壊の音と妙な静寂とが混在していた」



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Comment

Name - lime  

Title - そうだったのかあ

確かにこれは壮絶に重い過去の記憶でした。
事故の事をだれも語らないので、きっとあの事故になにかあるとは思ってましたが。

ミヒロ、自分のせいじゃないのに、自分のせいだと思い込んでしまってるのが悲しいね。
でもこればっかりは、誰が慰めても、ミヒロの気が晴れることは無いよね。
ほんの一瞬の出来事で、大切な人を二人も失ったんだもん。
自分が生きてるのが辛くなってしまうよね。
灯台で泣いてたのも、わかります。

ミヒロは、この場所に来たかったのかな。
来なきゃいけない理由が、あるんでしょうね。
策は、この重いシーンの立会人になるわけか・・・。
何て言ってあげればいいのかなあ。
とにかく、策~。一緒に居てあげてね。><

少し前に、『衝撃の瞬間をカメラがとらえた』っていうTV番組で、まさに横転したトレーラーがぶつかってくる瞬間をドライバー目線で見ました。
これはもう、何もできないよね。本当に恐ろしい・・・。
2015.01.20 Tue 18:07
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: そうだったのかあ

limeさん、コメントありがとうございます。

そうだったのですう。
誰も語らないから、策の方から訊きましたよ。

おお。limeさん、ミヒロの気持ちになってくださって、共感してくださって、ありがとうございます。
ミヒロは今回、実は意を決してこのルートを辿ってきました。
立会人かあ。うまくなれるかどうかは策しだいですかね。
どんな会話が成されるのかは先ですが、まずはミヒロがいきさつを話します。
とりあえず策は一緒に居る。それが大事だったり・・・

おお。そんな番組が。実験の中だけのことであって欲しいですよね。
続きも濃いぃく行きますので、よろしくお願いします^^
2015.01.20 Tue 20:52
Edit | Reply |  

Name - ポール・ブリッツ  

Title - 

これって、策くんメインの記憶取り戻し旅だとばかり思っていたら、ミヒロくんの巡礼の旅だったのですか!

ううん、ちょっとやられた。

ミヒロくん、まさか馬鹿なことなど考えてないでしょうねえ……。
2015.01.20 Tue 22:23
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - そうだったんだ……

こんばんは。

だからあんなに泣いていたのですね。
それは、ミヒロのせいじゃないよ。
そんなときにジェイムス・ボンドみたいに華麗にハンドル切って避けられる人なんていないよ。
きっと、周りのみんなもそう言ってくれたんだろうけれど、それでもミヒロは自分を責めちゃうんでしょうね。
そうか、ここに来る勇氣、策がいたから出たのかな。
ここから踏み出さないと、永久に進めませんよね。策、やっぱり帰らないでよかった! これで練習できなかったって説明したら、祥吾は絶対許してくれますよね。
2015.01.21 Wed 02:55
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

コメントありがとうございます。

策メインの怒涛の一週間のお話です。なのですけれど(-_-;)
ほう。ミヒロの巡礼の旅か。そうだったのか(?)
とにかく策はミヒロに振り回されっぱなしです。

はっ。ミヒロがなにすることを考えているんですって? ポールさん?
2015.01.21 Wed 12:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

でえええ~~~
城村さん!!! m(__)m m(__)m m(__)m
すみません、すみません、すみません!!!
せっかくいただいたコメントをけけけ消してしまいました(@@)
大パニック(><)
ああぁぁ~~泣く~~号泣と慟哭。家の窓、これで揺れてます・・・
本当に申し訳ございません m(__)m

落ち着け。コメ返します。

ミヒロの孤独に入ってくださり、ありがとうございます。
一度抱えてしまうと、それを手放すのは容易ではないのですよね。
ミヒロが策に何かを求めるのか、策がミヒロに手を伸ばすことができるのか、それはわかりませんが、この場面を見守っていただけると嬉しいです。

現実世界を見ると、似たような場面がいくつもあると思うんです。それぞれにドラマがあって、それぞれに時間があって。共通することは、それぞれ必死に生きているというところでしょうか。その辺がヒントになり、自分のお話の中に織り込むことができればなあなんて思っています。

ミヒロが語り、策が聞くという場面。うまく描けるかどうかわかりませんが、頑張ります。コメ消しちゃいましたけど m(__)m、またお越しいただき、またコメいただけると(滝汗)嬉しいです。本当にすみませんでした m(__)m
2015.01.21 Wed 12:52
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: そうだったんだ……

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

そうだったんです・・・
ああなんか、ミヒロを慰めてくださってありがとうございます。
そうそう、ミヒロはジェイムス・ボンドじゃなくて普通の人。
けれども、ここから踏み出すのかどうか、先に進むのか永久に進まないのか・・・

策との絡みは・・・
↑言わないよ~ん。きっとたいしたことない。と思ったり(-_-;)
ホント、帰らないでよかったですね!
うん。祥吾は絶対許してくれると思います。
だから、策は絶対に言わないと思います。そばに湊人もいるだろうし。そんなヤツ^^

普通の人の普通のお話なのですが、この先もお付き合いくださると嬉しいです。
2015.01.21 Wed 13:36
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - およよ

前回のところで驚いてる場合じゃないのでした。そうかぁ、この物語はやっぱり、策の軌跡を辿るだけじゃなくて、ミヒロの軌跡でもあるんだな。今回でしっかり納得しました。
ミヒロ側から見たら、策が自分ちのドアんところで寝てるの見た瞬間から、自分に何かが降りてきたことを感じたんでしょうね。
事故は、本当にどうしようもないことがあって、わずかな時間の中でできることなんてなくて、後はもう運命で。でも、その人のせいじゃなくても、どんなにみんながそのことを分かっていても、残されたもの、あるいは間違えて加害者になってしまった(と少なくても本人が思っている)ものは、何をどうしたらいいのか、もうくちゃくちゃですよね。
100%乗り切ることはできないと思うけれど、それでも、前を向くことはしなくちゃ。策、君は実は救世主なのだね。頑張れ。
きっとこの大きな経験が生きるよ。祥吾の前で演奏する時にね。祥吾は何かを読み取ってくれそう。
やっと事情は分かったので、この先、どうやって這い上がっていくかを楽しみに待ちたいと思います。
2015.01.22 Thu 00:08
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: およよ

大海彩洋さん、三連続のコメントありがとうございます。

> 前回のところで驚いてる場合じゃないのでした。

はは。もう、策にとっては驚きの連続です。ミヒロに心臓鍛えられている。
大海さんにも納得してもらえて良かったです。

ミヒロ側からの思いは、策の一人称でお話が進んでいるので上手い具合に伏せられていますね。
この感じ、結構気に入っています(自己満足の域^^)

まさに、くちゃくちゃです(笑)
事故については、この先ももう少し濃いぃく行くのでそのときにまた。
えっと、スルーですみません(><)
策は救世主(!?)になれるのか。
普通に良い友人ではあると思います。だよね、ミヒロ。

この経験は、策にもミヒロにも忘れられないものになります。
祥吾は詳細を言わなくてもわかってくれる。彼もある意味同士。
成ちゃんも祥吾側から。湊人もミヒロ側から。ね。

うお。どうやって這い上がっていくのだろう・・・
そんなに大がかりではないです~(←予告? -_-;)
2015.01.22 Thu 11:05
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

結果論は結果論ですね。
なっちまったもんは仕方ない。
それはあるのですが。
ハンドルが切れたら・・・というのも後悔でしょうが。
それを乗り越えて、受け入れることが大切なんでしょうね。
2015.01.24 Sat 09:17
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

再びのコメントありがとうございます。

そうなんです。仕方ないんですよ。
その先がポイントです。
ミヒロはまだうわべでは受け入れているようで実のところは受け入れていない。できていない・・・
2015.01.24 Sat 10:51
Edit | Reply |  

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