オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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セカンドチャンス 33 金曜日(4) 

ミヒロの話に、俺は相槌も打てずにいた。ミヒロの右胸に、脇まで伸びる酷いY字型の傷を残した大事故。

「俺の頭が覚えているのはそこまで。その後は病院だった」

傷を残したのは体だけではない。脳に刻まれた瞬間の記憶。黒皮のドライビンググローブに投影される運転の後悔。それ以上に何が、どんなことがいまだにミヒロを苦しめているのだろうか。

「目が覚めたとき、水の中から物を見ているように目がぼやけてよく見えなかった。車が回転した後、そのまま海の中にでも落ちたのかと思った。

すぐに俺は、息をしているのに気が付いた。そうしたら、はらはらと涙が出てきた。悲しかったんじゃないんだ。きっと、生まれたばかりの赤ん坊が、最初に肺に息を通して泣き出す、っていうのと同じだったんじゃないかと思う」

「その時、ミヒロはまたこの世に生まれ出たのかもね」

「うん。親父にもそう言われた」

「親父さん? お父さん?」

「そう。俺は意識は戻っても、体が全く動かせなかった。手も足も頭も。うっすらと見えていたのは、真っ白な病室の天井。涙をぬぐうこともできずにいたら、疲れた顔をした男の人が俺の顔を覗き込んで、ハンカチでそっと目を押さえてくれた。

俺の名まえを小さく呼びかけるのと同時に、親父だと言うから俺は驚いてしまった。母親の離婚以来、親父には会ったことなくて、小学校一年のときから数えて十五年ぶりぐらいの再会。

その時、血圧と心拍数が急に上がっちゃったらしくて、ナースコールで呼ばれた看護師さんに親父は『何をしたのか』と怒られた」

「お父さんも、ミヒロが顔を覚えていないだろうと思って名乗ったんだろうね」

「うん。実際、俺は親父の顔なんか覚えていなかった」

「どうして? 小学校一年で別れた俺の顔は覚えていたのに?」

「策とは毎日会っていたけど、親父とは同じ家に住んでいたにも関わらず、顔を合わせることは少なかったから。会話もなかったし。大体当時、毎日家に帰っていたのかどうかも知らない。離婚の原因もそんなところにあったのかも。聞いてないけど」

「そっか」

「俺の意識が戻ったという知らせを受けて、医師もやってきた。簡単な問診に答えながら基礎検査を受けると、医師は書類になにやら書き込んで『また様子を見ましょう』と言うだけで病室を後にした。

まず俺は親父に、母親と彼女のことを訊ねた。そっちは二人のアニキたちがそれぞれに対応しているから任せろ、というのが答えだった。

それから親父は、俺の容態について話し始めた。俺は四日間の昏睡状態だったこと、怪我は骨折やら損傷やらが酷くて、生きているのが奇跡なくらいだったということ、そんなことを教えてくれた。

緊急の処置では、二人のアニキも親父も輸血に協力した。家族の血を採っている分、まずは自分が回復することに集中して、元気になることだけを考えるように言われた。

十五年も会わなかった親父から『家族』なんて言われてその時はぴんと来なかった。でもとにかく、余計なことは心配はしないで、母親と彼女のほうは、アニキたちに任せるように繰り返された。

ま、俺もそれなら安心だと納得したら、また意識をなくしちゃって。それからまた丸二日、のびてた」

「実際、ミヒロ自身が誰かのことを気に掛けられるような状態じゃなかったってことだね」

「そういうこと。二度目に目が覚めたときも、体は相変わらず動かせなくて、俺が意識を戻したことに気がついたアニキたちが、顔を覗いてくれた」

「ずっとそばにいてくれたんだ」

「うん。アニキたちも親父も仕事を休んで、いつ目を覚ますかわからない俺に付きっ切りだったらしい」

「家族、じゃないか」

「うん。本当に。それと、母親と彼女のほうにも手を尽くしてくれていたから」

「お母さんと彼女の話は、きちんと聞いたの?」

「うん。そのときに聞いた。でも最初、二番目のアニキがいきなり葬式をすませた、ってところから切り出したせいで、俺はパニックになって病室の機械がピーピー鳴り出してね。

駆けつけた医師に『何したんですか』ってアニキも親父も怒られた。ったく、親子そろって、ってそのとき病院から思われたみたい」

「それって、笑えないエピソードだよ」

「事故の直後、救急隊が到着したとき、かろうじて息があったのは俺だけだった。俺の怪我も酷いと言われたけれど、母親と彼女は車の中でもっと酷い即死の状態だったらしい。そこのところは、未だに詳しく知らされていないんだけどね」

「自分の大切な人を一度にに二人も失うなんて、辛いね。そんな経験のない俺には想像できないよ」

「うん。辛くて悲しくて、アニキと親父の前でずっと泣き続けた。泣いている間、親父が俺の涙をぬぐってくれた。その時俺は、寝返りも打てない寝たきりの状態で生かされたことをすごく恨んだ。

俺が車を運転していたのに。俺がコントロールできたはずだったのに。俺のせいなのにどうして俺だけ、って。そうしたら、アニキと親父の三人からものすごく怒られた」

「そりゃそうだ。大体、お前のせいじゃないだろう」

「三人から切れ目なく銃撃を撃ち込まれるみたいにドカドカと色々な言葉をうたれて、その勢いで俺の泣きが引っ込んだ」

「はは。男家族の荒療治だな」

「三人共、それでなくても口が立つんだ。今でも、一人じゃ絶対に太刀打ちできねえ。で、その後はおとなしく怪我の治療と検査に専念。

俺の体にたくさんの人のたくさんの手が掛かって、俺の体のはずなのに、俺のじゃないみたいだった。

意識は朝夕の関係なく、寝たり起きたりの感覚が短くて、その頃の一日のサイクルはきっと新生児のように一つ一つが短かったんじゃないかな」

「やっぱりその時、生まれなおしたんだ」

「うん。今はそう思うことにしてる。死にかけた、というよりも、一回死んだんだって」



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Comment

Name - lime  

Title - No title

ここのシーンは、ミヒロの気持ちや、その時の状況が、じわじわと伝わってきますね。
最悪な事故だったけど、ミヒロの家族は本当に優しくミヒロを見守ってくれてたことが、すごく救いです。
辛いのに温かいです。
お父さんの事も、また家族に戻れてよかった。
お母さんが呼んでくれたのかなあ。私の代わりにミヒロを慰めてやってって。
どうにもならない悲劇だけど、再生はきっとできる。
ミヒロは、三広からミヒロに生まれ変わったのかな。

このあと、その場所に向かうんですね。
2015.01.24 Sat 08:52
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Name - LandM  

Title - No title

ああ医療、ってそんな感じと言われますね。
治療されるのは自分の身体ではなくて、他人にいじくられる・・・というと言葉が悪いですが。そういう印象を受けるということがあると聞きますね。
2015.01.24 Sat 09:13
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

じわじわきましたかね。セリフだけで進めてみました(←新しい試み ^^;)
(いやそうでないと果てしなく長くなりそうで -_-;)

limeさんの温かいコメが嬉しいです^^
limeさんにも優しく策とミヒロを見守っていただき、ありがとうございます。

お父さんとは二人のアニキたちのほうがミヒロよりも近しいのです(←表に出ない裏設定1)(ミヒロは末っ子でマザコン(?))
お母さんとはもしかしたら復縁していたかも・・・(←表に出ない裏設定2)

> どうにもならない悲劇だけど、再生はきっとできる。
> ミヒロは、三広からミヒロに生まれ変わったのかな。

わ。お話を描いている私より、読んでくださるlimeさんのほうが、ずっと深くお話を理解してくださっている~。
はい。この後、もう少しミヒロが語ってから、その場所に向かいます。
大きなことは起こりませんが(←です -_-;)、引き続き濃いぃところを見守ってくださると嬉しいです。
2015.01.24 Sat 10:31
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうなんです。
ミヒロは自分ではどうにもできない状態でした。
医療もプロ集団ですからね。それぞれの分野の専門性が高いというか。
久遠先生のように、そこはプロとしての仕事を発揮させるというか。
それでミヒロは助かりました。
2015.01.24 Sat 10:45
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - おはようございます

今回の感想は最初に「けいさん、すごい!」でした。
死に近い場所にいて、意識も時間も感覚もめちゃくちゃになっている状況ですよね。実際に自分が体験したことじゃないのに(違いますよね?)、こんなに詳細に書けるのって、もしくは、書いてみようとトライするのって大変なことだと思うのですよ。でも、これを書かないと、ミヒロの「一度死んで生き返った」という感覚が今ひとつ読者に伝わりませんものね。この描写をなさったことに尊敬の念を隠せません。

そして、そうか、体の傷の方はお医者さんに任せるしかないでしょうけれど、口のたつ男三人組が、わーっとしゃべってくれて、ミヒロの心の方を救ってくれたのですね。

お兄さんたちも、両親の離婚のことはこの際脇に置いておいて、一致団結してくれたのがよかったなあ。
2015.01.24 Sat 20:13
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Name - けい  

Title - Re: おはようございます

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。
おはこんばんちは。スイスは何時でしょう?

わわわ。そんなそんな。全然そんなことないですよ~。
けどそう言っていただけるのはとても嬉しいです。
えっと、全て妄想です(事実とはほど遠いな・汗)
夕さんにその、ミヒロの「一度死んで生き返った」という感覚が伝わったなら描いた甲斐がありました^^

> そして、そうか、体の傷の方はお医者さんに任せるしかないでしょうけれど、口のたつ男三人組が、わーっとしゃべってくれて、ミヒロの心の方を救ってくれたのですね。

そうですね。体と心は分野が違うので、それぞれに担当がつく、みたいな。
どのみち動けないミヒロは、野郎たちの手の内で何もできず(^^;)

アニキたちは、ミヒロの知らないところで、すでにお父さんとのコンタクトがあったのです。
お母さんとの復縁計画もあったかもしれません。
↑表に出ない裏事情です。

次回、もう少し(まだ)ミヒロが語ります。
また夕さんにお付き合いいただけると嬉しいです^^
2015.01.24 Sat 22:41
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

ミヒロぅぅぅぅぅぅ…(えぐえぐ)。

「そうしたら、はらはらと涙が出てきた。悲しかったんじゃないんだ。きっと、生まれたばかりの赤ん坊が、最初に肺に息を通して泣き出す、っていうのと同じだったんじゃないかと思う」
ここんところ、リアルに迫ってきて、すごいですね^^

そして、父との再会……。
こういう場合、どうも親の立場に立って見てしまうと、
とーちゃんの心中いかばかりか、と想像してまた
読みながら苦しくなったりもしています。

ミヒロ、生きて、生き返って、生かされて、
よく頑張ったねとハグしてあげたい(泣)。
2015.01.25 Sun 00:46
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

えぐえぐコメント(?)、ありがとうございます。

わ。リアルっすか^^
セリフの(語りの?)ピックアップ、ありがとうございます。
スラムダンクの「あきらめたらそこで・・・」のような、お話の中に一つでも何か良いセリフを残すことができたらなあと常々思っているので、これはとても嬉しいです^^

親父、離婚しているとはいえ息子。
アニキからの知らせに飛んで来ましたよ。
仕事休んでいる間、親父の仕事を回されちゃった人は大変でしたけどね
(↑「怒涛の一週間」のこーじ君みたいだ←何気に宣伝 ^^;)

> ミヒロ、生きて、生き返って、生かされて、
> よく頑張ったねとハグしてあげたい(泣)。

城村さん、ハグしてハグして^^
このあと、ミヒロはもうちょい頑張る。
そのときもハグしてくださいね^^
2015.01.25 Sun 09:42
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - うん、そうかぁ

策はやっぱり偉いなぁ。こうして頷いて、とても辛い話なのに、ミヒロの気持ちを支えながら話を聞いてあげれている。これって、訓練されてできることじゃなくて、そもそもの本人の資質に依るんだろうなぁと思ったりして。
策がスクランプシャスの中でどういう立ち位置なのか、こういうことからも分かったような気がします。祥吾が策に一緒にやろうって声をかけたのは、初めの出会いの時からどこかで策の人となりを直感で見抜いていたからなのかなぁ。そんな気がしました。

ミヒロの体験は……うん、かなりよく分かります。
私は生死の境をさまよったことはないけれど、彷徨っている人は見たことがあって、まさにそんな感じなのかなと。
むしろある程度意識が明瞭になった時、周りがどう支えるかは大きいのですね。その点、ミヒロの家族はすごい、えらかったなぁと。
一瞬の出来事……人の運命を分ける道って本当に細いのですね。そして、その一瞬で選び取れることもあれば、どうすることもできないこともある。ただ、どんな出来事も、いつかはその人を支える礎になればいいな、と願います。
2015.01.25 Sun 15:36
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: うん、そうかぁ

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

わ。策の人となりを見てくださって嬉しいです。
はい。策は見た目の幼さとはギャップの実はしっかり者なのです。
ここでは聞き上手ですね。ミヒロはここに来るまでにアニキたちから散々言われているので、いまさら策が何かを言ってどうなることはないのです。

策のバンドの中の立ち位置は、リードギターなので重要です。
祥吾が策にそこを任せるのにはスキルも大切ですが、人となりももちろん見ています。
大海さんにもすでに見抜かれているようで嬉しいです。
策のスキルには一回目のセッションで祥吾は満足しているはずです。
二回目を与えたということは、違う部分を見たいから。さてどうなる。
まだ(まだ)先(まだなのか><)ですが、大海さんにそこまでお付き合いいただけますように。
えっと、日曜日です(←はるか先だけど、いちお予告 -_-;)
えっと、今、金曜日(わーてるっ ><)

ミヒロのことも支えてくださってありがとうございます。
はい。そんな感じですね。こういうことって、一人のことではなく、全体のことなんですよね。一番近くにいる家族が本当に大きいと思うんです。ミヒロの家族はよくできてますね。対応も早く、力も大きく強かった。

> 一瞬の出来事……人の運命を分ける道って本当に細いのですね。そして、その一瞬で選び取れることもあれば、どうすることもできないこともある。ただ、どんな出来事も、いつかはその人を支える礎になればいいな、と願います。

あぁいぃお言葉です~(*u_u)
分かれたところにある礎がずっと先まで支えてくれるような道を歩けたら良いですね。
まだこの先も大海さんが策とミヒロを支えてくださいますように。
2015.01.25 Sun 18:15
Edit | Reply |  

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