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セカンドチャンス 34 金曜日(5) 

ミヒロが涙を流す理由、悲しみの理由が少しずつわかってくる。けれども、その心の影をどれほど伸ばしているのかにまだ触れていない。ミヒロの心の声を逃さぬよう、自分も心静かに耳を傾ける。

「体のほうは、酷いと言われた怪我の割には、医師の予想よりも早く回復していったんだ。リハビリも頑張った。それでも、リハビリの期間を含めて退院するまでに数ヶ月かかった」

「数ヶ月の入院って、それはやっぱり、普通の怪我じゃなかったよね」

「そだね。退院してからも一人暮らしは難しいだろうって、東京に住む上のアニキのところに居候することになったんだ。それからすぐに、彼女の実家に退院の報告に行って、お墓参りにも行った。

ある程度落ち着いてからは、大学にも復帰した。大学では、大怪我から復帰した病み上がりの人、みたいな目で見られることもあったけれど、以前からの友だちは全然変わらずにいてくれた。

月一回の定期検診で病院に行く以外は、問題なく日常に戻ったように毎日を過ごしていたんだ。でもね」

ミヒロが一息つく。「でも」どうしたのか。早く先を聞きたい気持ちを抑えて、ミヒロを見つめると、ミヒロも視線を合わせてきた。未だに心を隠すようなミヒロの紅茶色の目が、さらに濃く渋みと深みを増したように思えた。

「そのとき、アニキは数日の泊まりの出張でいなかった。俺は夕方、大学から戻ったらなんだかものすごく疲れて、晩御飯までの間休もうとリビングのソファで横になったんだ。

ちょっとだけのつもりが、目が覚めたのは次の日の昼。大学の友だちからの電話で起こされて。慌てて大学に行ったせいか、帰ってくるなりまたソファに倒れ込んじゃうくらいに疲れていて。

でも、なんだろうこの疲労感、って疑問に思ったとき、季節の変わり目でもないのに事故のときの傷が疼いてきたんだ。誰かに一箇所を引っ張られるような、突かれるような変な感じ。

自分ではどうにもできなくて、ソファにもたれてただじっとしていたんだけど、そのうちに傷のところがズキズキと痛くなってきたんだ。怪我自体は治っていたはずだったから、俺にはその痛みが理解できなくて不安になった。

その痛みがどんどん大きくなって、何かに刺されるような感覚になったとき、どうしてだか、事故のときの痛みを思い出したんだ。

大型トレーラーと車が当たった瞬間、右半身に走った刃物でざっくりと削られるような痛み。同時に、何色なのか、何色あるのかもわからないぐちゃぐちゃな色が、目の中でフラッシュした。

その瞬間を思い出したら、ものすごく怖くなった。ぎゅっと目をつぶってソファで丸くなったら、少しだけ意識が飛んでしまったみたいで、はっと気づくと涙を流していた。

それまでの傷の疼きと痛みが嘘のようになくなっていたけれど、今度は流れる涙が全然止まらなくて」

「まるで何かが、ミヒロに『思い出せ』って言ったみたいだね」

「その時の痛みを思い出した、というよりも、俺は事故について本当は何も理解していないんじゃないか、っていう疑問が波のようにわき上がってきたんだ。

それまで全然自覚はなかった。アニキたちと散々話をして、俺は納得したつもりだったんだ。でもそれはただの気のせいだった」

「それをその時に意識したんだ」

「うん。策、露天で逢った、会社の理想の上司風のおじさん、覚えてる?」

「覚えてるよ。やけに目がギラギラしていて、ミヒロの胸の傷を見てそれについて突っ込んできた人だよね」

もしかしたらあの人は、いや絶対に俺の知っている人のお父さんだろう。やはり確信する。自身の経験を語ってくれたあの時間は、短かったけれども忘れられない。

「正直に生きれば良い、ってあの人は言った。俺はアニキたちや親父や病院から言われたことに従って、入院中も退院後も正直に生きていたつもりでいた。でも、違ったんだ。

俺の本心は、疑問だらけだった。事故のとき、どうしてあんなことになってしまったのか、どうして俺だけが生き残ってしまったのか、どうして母親と彼女だけが殺されたのか、俺の運転のせいじゃないか、俺の手が滑ったせいじゃないか、俺が・・・」

そこで俺は何も言わずに、ミヒロの肩をぎゅっと強く掴んだ。そのままゆさゆさと体を揺らしてやったら、それでミヒロは息を乱していたことに気づいたようだ。

「違うよ。って、ミヒロのアニキたちも親父さんも言ったんだろ」

ミヒロが、いまさら俺が横にいるのに気づいたような目をする。息を一つ吸って吐いて呼吸を整えてから、ミヒロは続けた。

「本当は、何も納得していなかった。認めていなかった。アニキたちも親父もいろいろなことを話してくれた。特に、親父とは十五年のブランクをこの時とばかりに埋めるように、本当にたくさん。

だから俺は、この家族を心配させてはいけないと思って、言われたことの全てに『うん』と答えて過ごしてきた。納得している振りをしていたんだ。

体は医師と病院に預け、心はアニキたちと親父に委ね、俺自身の魂はどこかに放った。残ったのは、自分を偽ること。

だから疲れちゃったんだ。本当は疑問があるのに、本当の思いがあるのに、それを潜めて押さえているのに疲れて、その疲れがそのときにどっと出たんだ。

アニキたちと親父と、俺を支えてくれた全ての人たちに対して正直ではなかった。何よりも自分の気持ちを感情を、自分自身がずっと偽ってだましてきた。それがもう押さえられなくなっていた。

それを認めたら、何かが急激に沸騰するように体の中がかっと熱くなって、ブルブルと震え出した。震えたまま、土砂降りの雨の中にいるように、涙がボロボロと流れた」

「放出したんだ。受け入れるばっかりで、受け皿に積もったものが溢れたんだね」

「うん、そうだったんだと思う。そのとき、はっきりと自覚した。だから、もう物分りの良い従順な弟の振りして、アニキと一緒に暮らすことなんかできなくなった。

それで、アニキが出張から帰ってくる前の日に、旅行に出るってメモだけ残して家を出た。アニキとも親父ともそれっきり。半年以上前の事」

「そうなんだ」

俺は小さく相槌を入れた。そして、考える。今ここで俺は、ミヒロの心の重みを少しでも受け止めてやっているだろうか。ミヒロの心は今何を求め、魂は今どこにあるのだろう。

これから俺がミヒロにしてやれることなど、今更あるのだろうか。こうして横にいてやること以外に。



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Comment

Name - lime  

Title - 分かる気がする

どれだけ家族に優しくされて、お前のせいじゃないんだよっていわれたも、ミヒロ自身は納得していなかったんですねえ。
でも優しいから、家族に心配かけ無くなくて、傷が少し癒えたような顔をして。
そういうの、だんだんと心に降り積もってたんだなあ。
やっぱりミヒロは、自分を責めてしまってるんですね。

なにか、あの場所に行って気持ちにけりをつけたいのかな。
でも、罪滅ぼしなんてできないものね。
答えなんてないし。
悪いのはトレーラーなんだって、そういう納得もできないだろうし。

終わらない迷走になるかもしれないけど。
策、こうなったら最後まで付き合ってあげてね!
2015.02.01 Sun 10:36
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - ぐるぐる

家族が慰めてくれても、どんなに愛されていても、その現場にいた自分にしかわからないことってありますよね。家族が心配するから言えない、ってのもよく分かります。ミヒロは自分でみんな抱え込んじゃったんだね。というのか、そうするよりないですよね。
時々、家族の運転する車で、後にいる子供に気が付かなくて……とかいう記事を見ると、もう本当に辛くて辛くて。この家族、この人、どうなっちゃうんだろうって。
優しくされたらされるほど、一人になった時に苦しんじゃうんですよね。……多分一生抜け出せないってことはミヒロも分かっているんだろうな。抜け出すというよりも、何か大きなものでその傷が包まれたらな、と思います。
きっと、それは音楽の力、なのかも。
聞き役に徹している策も、ここからミヒロと一緒に歩くことで前に一歩、出ていく……のかな。
2015.02.01 Sun 11:00
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 分かる気がする

limeさん、コメントありがとうございます。

ああ、なんか、うまく描けなかったのですが、そう言ってくださると嬉しいです。
ミヒロは優しかったのか、弱かったのか。どうなんでしょね。
自分でも実は分かっていないのかも。
それもアニキのところを出た理由の一つだったかもしれません。

> なにか、あの場所に行って気持ちにけりをつけたいのかな。

ああ、このシーンはちょっと・・・実は作者悩み中。
limeさんがよく読者様の反応についてコメ欄に書かれますが、それと似たような心境になっております。
どうだかなあ、と。実はまだ先(まだかっ -"-)
ったく、お話をどんだけ先に送るやら~(-_-;)

> 終わらない迷走になるかもしれないけど。
> 策、こうなったら最後まで付き合ってあげてね!

それはやばいです。こうなったら、策頼みかも。策ぅ~~(息切れそう)
なかなか金曜日を越えられませんが、またお付き合いいただけると嬉しいです。
2015.02.01 Sun 14:15
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ぐるぐる

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

わ。ミヒロの心情を読み取ってくださり、ありがとうございます。
こうして策に話し、今何思う、というところですかね。
策も話を聞いて、今何思うで・・・(←車内同じ空気 -_-;)

うんうん。車と子どもと親がらみの事故の話は、気持ちの持って行き場がないですよね。
こんなこと、起こらないでくださいと願うばかりです。

一人って、やっぱ辛いなあ。一人で解決できることもあるけれど、一人じゃなくて誰かと一緒に解決できることもたくさんありますよね。
策とミヒロの距離はどんな具合なのかなあ。
今は聞き役ですが、策はこの先ミヒロと一緒に歩いてやることができるのでしょうか。
(↑いや作者、わかってないのかおまえ、のところを彷徨っている・・・ -_-;)

大海さん、また策とミヒロを包みに来てやってください。
2015.02.01 Sun 14:49
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - なるほど

こんばんは。

体の傷の方は順調に回復しても、心の問題は右肩上がりに順調に、なんて具合にはいきませんよね。
自分がその場にいなくて何もできなかった状態だとしても、悲しみからの回復という問題があるのに、この状況で、自分だけ生き残ったということがあって、罪の意識が悲しみを追い越してしまったのでしょうか。

仮定ですけれど、もし誰かが「全てお前のせいだ」と断罪していたら、そのことでミヒロは罪の意識と早めに向き合えたのかもしれないけれど、誰も攻めなかったことが更にその苦しみを大きくしてしまったのかなと思います。

ミヒロ自身が、この問題と立ち向かわなくてはならないと同時に、出てきてしまったことで生まれた、お父さんやお兄さんたちとの関係にも向き合わなくてはならないのですね。

あと二日では、けっこう大変かも……。策も、オーディションのことと、こっちと、心が引き裂かれて大変ですよね。でも、自分のことより人のことを優先させちゃいそうな……。

次回、お待ちしています。
2015.02.02 Mon 01:03
Edit | Reply |  

Name - -  

Title - No title

ミヒロのお兄さんやお父さんの気持ちになれば、
ミヒロにそう接して当たり前だと思うし、
お父さんにしてみれば、ミヒロだけでも助かったと喜びたく、
でも妻の死は受け入れがたく、
よその娘さんを亡くしてしまったという状況の中で、
複雑な感情を自分の中に押し込めて…。
誰しも、自分の本当の感情に向き合うのは難しいと思うけれど、
ミヒロの場合は自分が原因な(と思い込んでいる)だけに、
想像を絶するのではないかと推察します。
不慮の何かで家族が一人欠けると、家族のバランスが変わるよね。
分子構造が安定しなくなってしまったみたいに。
ミヒロが乗り越えることで、家族も変わると思う。

「これから俺がミヒロにしてやれること」
を考えている策ちゃんは、すごい。(文末が反語なだけに特に)
ミヒロが策のそういうところを知ってて巻き込んだんだったら、
よっぽど信頼してたんだなって、感じました。
2015.02.02 Mon 08:47
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

す、すみません、名無しで入ってしまいました。
無題の「ミヒロのお兄さんや~」は私です~(滝汗)。
2015.02.02 Mon 09:17
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: なるほど

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

何でも右肩上がり、というのは難しいですよね。
ミヒロの心情をいろいろと汲んでくださり、ありがとうございます。
いろいろがなかなかうまく描けなくて、伝わりにくいところもあると思うのですが、もう少しミヒロがしゃべるので(まだしゃべるん?)お聞きいただけますように(汗)

> 仮定ですけれど、もし誰かが「全てお前のせいだ」と断罪していたら、そのことでミヒロは罪の意識と早めに向き合えたのかもしれないけれど、誰も攻めなかったことが更にその苦しみを大きくしてしまったのかなと思います。

おお。仮定ですね。なるほど。
トラクターを管理する運送会社と整備に不備があった点については法的に裁かれているはずです。
ちなみに、スピードは法定速度内でした(←再び表に出ない裏設定)
↑なので、プロのドライバー並みのハンドル捌きのスキルを持っていたら、よけられたかも???
いや、やっぱ、無理だったかな??? 
こっちまで悩む(><)

> ミヒロ自身が、この問題と立ち向かわなくてはならないと同時に、出てきてしまったことで生まれた、お父さんやお兄さんたちとの関係にも向き合わなくてはならないのですね。

おお。夕さん、鋭い。これは金曜日以後です(スルーですみません -_-;)

策も体一つしかないので、目の前にあるものから取り組んでいきます。
って、策ができることはほとんどないのですが・・・

次回、まだ金曜日なんですけど(汗)、またお越しいただけますように。
2015.02.02 Mon 18:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。
追コメで情報ありがとうございます^^

身内のことって、ホント繊細だと思います。
でも、一方で大雑把だったりして。微妙ですね。

ミヒロの事情を読み取っていただき、ありがとうございます。
なかなか文字に起こせなくて、いまひとつはっきりしないところもあるかと思いますが(汗)、もう少し、ミヒロにしゃべらせてやってください。(まだしゃべるん -_-;)

> ミヒロが乗り越えることで、家族も変わると思う。

おお。そうなんです! これに向かっているところです!

策がミヒロにしてやれることは、残念ながらほとんどないっす(-_-;)
ミヒロと策の信頼関係は確実にこのドライブで出来上がるのですが・・・
この先にもまたお越しください^^
2015.02.02 Mon 19:03
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

う~~む。私は医療関係だから。別視点になるのですが。
怪我にしても克服するのは難しい。
痛みはそもそも医学的にも「主観的なもの」なので、その事故とかのフラッシュバックで痛みがやってくるときはありますからね。そこまで医療が関われないのは、従事者としては辛いところですね。(/ω\)

怪我は治す。
しかし、心の怪我は自分で治せ。

・・・って、いう姿勢は嫌いなのですが。
そこまでケアするだけのお金もベッドも病院にはない。。。
2015.02.07 Sat 15:17
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

う~~む。そうですよね~。
医学的な痛みと心理的な痛みと、全然違うのでしょうね。
医療の関われる主観と、反対の関われないのは、客観になるのでしょうか。
難しい~。

今や医療の分野も多様化して、チームで色々なことに取り組まれていらっしゃるように思うのですが、実際の現場はどうなんですかね。興味だけは大いにあるのですが・・・
2015.02.08 Sun 00:22
Edit | Reply |  

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