オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 35 金曜日(6) 

「ミヒロはそれ以来、このドライブで久々に身内に姿を見せたのか」

旅館の女将さんが、すごく心配そうな表情でミヒロを見つめていたのと、村崎岬のおじいさんが目を丸くして驚いたのを思い出す。

「うん。すごく気を使わせちゃったみたいで申し訳なかった。旅館の伯母さんには特に。最初は、岬岩の灯台に寄るだけで、旅館に顔を出すつもりはなかったんだ。でも綾ちゃんのことがあったから」

俺は、黙ってミヒロに頷いてみせる。あの時、綾ちゃんを旅館に連れて行ったミヒロの判断は、正解だったと思う。

「お陰で伯母さんにまた借りを作っちゃったけど。あの時、伯母さんから東京のアニキに連絡が行っていたと思う」
「だからあんなに朝早く、逃げるみたいに旅館を出たんだ」

「そう。追いかけられると面倒だな、と思って。アニキも親父も行動力あるんだ。すごく早い。でも来なかったみたい。
夕べもきっと、湊人のお母さんとじーちゃんの両方からアニキに連絡が入っているはず。それでアニキは俺が今日東京に帰るって、もうわかっているんじゃないかな」

「ミヒロんちの情報網、すごいね。一族って感じだよ。でも、ミヒロの携帯に直接連絡すれば良いのに」
「アニキの家を出たときに置いてきたんだ。それは実は大学の先輩のやつ」

ミヒロはそう言って、ホルダーに収まっている携帯を指差した。

「策と同じマンションの部屋もその先輩の。アニキのところを出て、どうしようってなったとき、ふと思い出して、俺の事故のことを知らない卒業生の先輩に久しぶりに連絡をしたんだ。

住むところがない、って簡単に話をしたらすぐに『泊まりに来いよ』って言ってくれて、とりあえず2,3日泊めてもらおうと訪ねたのがあのマンション」
「そうなの? お前、それから半年もあそこにいるのか?」

声が上ずってしまった。さすが東京の都会。朝の出勤が早く、帰りもそれなりに遅い俺とは、同じマンションとはいえすれ違うことはなかっただろう。

「タイミングが良かったんだ。先輩はそのとき、就職先の会社から六ヶ月の短期で海外赴任を打診されていた。
六ヶ月なんて、長いような短いような期間で、マンションを引き払おうかどうしようか迷っていたんだって。そこに俺が転がり込んできたから、ハウスキーピングを兼ねての居候が簡単に決まった」
「もー、言ってよ、ミヒロ」
「いや、俺だって、上の階に策がいたなんて全然知らなかったし」

お互いに小さな秘密を暴露し合ったかのように苦笑する。

「でも、その先輩から数週間前、一時帰国をするって連絡が来たんだ。滞在が長期延長になるから、いったん戻ってマンションを解約して、持ち物も処分するなり実家に移すなりするって」

「じゃあ、ミヒロは近いうちに部屋を出るって事?」

「そうなるよね。けど、引越しまでは先輩の手伝いをするよ。居させてもらったんだし。それで、その先輩が一時帰国で帰ってくる日、というのが実は、あさっての日曜日なんだ」

「マジ? もしかしてこの車も」

「そ。先輩の。このあと、成田空港までこの車を持っていって、先輩が乗って帰って来られるように、駐車場に置いてこなくちゃいけないんだ。だから、俺はちょっと急いでいたんだよ。車を借りていられる今、行かなくちゃって」

「そうなんだ」

「マンションに来てからは、適当にバイトをしながら気ままに日々を過ごしていた。良い弟を演じることも、死の淵から蘇った奇跡の人という目で見られることもなく、気が楽で自由だった。

それでも何ヶ月か、ずっと考えていた。俺の中では、あの日から何かが止まってしまっていた。その何かを動かすためには、物理的にあの日にあの場所に戻らなくてはいけない。

でも、そんな時間を戻すようなことが、実際できるのかどうか分からなくて、ずっと迷っていた。頭の中だけで考えると、やっぱり怖くてなかなか決断ができなかった。

そうこうしているうちに、いよいよ先輩が帰ってくる時期になっちゃって、やっと行こう、って覚悟を決めたんだ。火曜日」

ミヒロの思いとは全く別の、そんなせっぱ詰まった状況でもなければ、もしかしたらミヒロは、頭の中で考えているばかりで未だに行動していなかったかもしれない。

「火曜日って、あの火曜日?」
「うん。あの晩は、すごく緊張していた。だから勇気づけにビールの一本でも飲んで、それでぱっと寝ようと思ってコンビニに行ったんだ」
「それで、帰ってきたら俺がいたのか」
「そうだよ。知らない野郎だぞ。どういうことよ」
「俺のせいなの? てか俺、お前の飲酒運転を止めたんじゃね?」
「確かにあの時買ったビール、飲めなかった」

ミヒロが目を細めて文句を言うのに、少し安心する。

「救急法の『見る・聞く・触れる』をフル活用して観察したら、こいつ、なんとなくずーっとむかーしの友だちと似てるんだけど、って思って免許証を見たら、さっくん本人だったでしょう。焦ったし。

何でこのタイミングでって。俺は意を決して、行くっていう気持ちになっていたから、どうしようって。もう分けわかんなくなって、その夜は全然眠れなかった」

次の日、ミヒロは旅館でイビキをかくほどに良く寝ていた。筋の通った形の良い鼻をつまむと、うが、とか言ったのを思い出す。

「策、起きたら俺の顔見て気づいてくれないかなー、って期待してワクワクしていたんだけどさ」
「俺には、お前みたいな強力な記憶力はないんだよ」
「途中で駅に降ろせとか言い出すしさ。気づくまで帰さねえ、って意地になったね。ま、気づいても帰す気はなかったけど」
「それで三角の目して、これがミヒロの『セカンドチャンス』だって俺に告ったんだ。それ、どういう意味? ここまで付き合ったんだから、説明してよ」

これだけ話を聞いたのだから、たぶん俺にはわかる。けれどもここは、ミヒロがミヒロの言葉で言うのを聞きたい。思いを言葉に発することができるなら、その思いはその言葉の通りになるのだ。俺に言ってみろ、ミヒロ。

「セカンドチャンスの意味は、そうだなあ、良いお題だ」
「自分で言ったくせに、考えてなかったのか」
「今考える」

今かよ、と突っ込みたいところをグッとこらえる。ミヒロは、車のフロントガラスから先の方をじっと見つめると、目を向けた方へ言葉を飛ばすように言い放った。

「俺はあのときあそこで死んだ。運良くこうして体は戻ったけれど、まだ魂は死んだままなんだ。それを拾いに行く。そして、あの道を通り越して、時間をもう一度動かす」
「うん、それだ。じゃあ、ミヒロ、それを体感しに行こうか」
「なんか、策の方が変なノリじゃね?」
「は? 何言ってんの。ミヒロのセカンドチャンスに、俺はワクワクしているんだよ」

ミヒロが眉間を寄せ、目を三角にして首を傾げる。

「二回目は上手く行くんだ」
「なんで? それ、根拠ないだろ」
「世の中の仕組みはそうなっているんだよ。根拠も理由もいらねえ。一度やるって決めたら、やりゃあいいんだ」

あとは行動するのみ。ミヒロの背中を押してやるつもりで言ってやる。

「つべこべ言わずに、行け」
「お、おう」
「あ、ちょっと待って」
「なに」
「ミヒロは、その黒手袋をしていないと運転できないのか」



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いよいよ(やっと -__-;)、現場に行きます。
あでも、ちゃんと描けるかちょっと・・・
頑張ります(-”-)


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - そうかあ

旅館の伯母さんの反応や、おじいさんの反応の理由が、改めて分かってきました。
策を連れてきてしまった理由もその時のミヒロの気持ちになったら、なんだか分かる様なきがします。
懐かしさだけじゃなくて、自分の哀しい思い出をまるで知らない策に、一緒に居てほしかったのもあるでしょうね。
ちょっとお守りみたいに、横にいてほしかったのかな。
見知らぬ人なら連れて行かなかっただろうし(本当に誘拐になるw)、ミヒロの事故の事を知っている友人だったとしても、やっぱり連れては行かなかったような気がします。
策だったから、連れて行ったんでしょうね。
なぜって訊かれてもきっと、明確な答えは出せないんじゃないかな?
セカンドチャンスの意味だって、まだおぼろげなミヒロだから。

策といっしょに、ここから再出発だああ。がんばれ。
2015.02.10 Tue 19:13
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: そうかあ

limeさん、コメントありがとうございます。

わ。いろいろと読み取っていただけて嬉しいです。
実はここ2話、イメージ通りに上手く描けなくて苦労しています(><)
いえ、いつものことと言えば、いつものことかも(-_-;)

> 懐かしさだけじゃなくて、自分の哀しい思い出をまるで知らない策に、一緒に居てほしかったのもあるでしょうね。
> ちょっとお守りみたいに、横にいてほしかったのかな。

お守り策、良いですね。まさにちょこんといるw
そうですね。知らない人だったら、即警察か病院に連れて行きますよね。そっちの方が普通だ。
お一人様がガチ苦手なミヒロです。
一人だったら、綾ちゃんのときも対処できなかっただろうし、じーちゃんの灯台にも行っていなかったかもしれない。この先の現場も・・・

セカンドチャンスに向かう、おぼろげミヒロをお守り策と一緒に見守ってくださいね(←妙な和風?)
あ、ついでにうまく描けるかどうか自信の無い作者の方もよろしく(^^;)
2015.02.10 Tue 20:54
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - こんばんは

なるほど。

伯母さんたちにご無沙汰って、本当にそれ以来だったんだ。
それじゃみんな「来たあ!」ってわ〜っとなりますよね。
だから速攻で逃げだしていたのですね。

たまたま、よく知っているけれど、事故の事情は何も知らない策が飛び込んできて、誘拐ぎみにしてでも連れて行こうとしたの、今になってみれば納得です。

そしていよいよ、セカンドチャンスなのですね。
がんばれ、ミヒロ! あ、策もだけど。

あ、今、氣がついたんですけれど。
もう、ずっと前からけいさんとリンクさせていただいているつもりになっていて、伺ってもいなかったんですが、まだお願いしていなかったみたいで。
お嫌じゃなかったら、リンクさせていただてもいいでしょうか?
2015.02.11 Wed 05:03
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - ふむふむ

策はすっかり「アニキ」役になっていますね。祥吾の前では弟役って感じだったけれど、彼はアニキ役、見守り役が似合うんだなぁ。
もしかすると、スクランプシャスの中での立ち位置も、策の本来の「らしさ」が出た後では変わっていくのかな。
策の物語だったのかミヒロの物語だったのか分からないくらい、2人の関係が見事にシンクロしているんですね。運命、というのか偶然というのか、私はあんまり偶然を使わないんですけれど(必然の理由をくっ付けちゃう)、この2人の場合、偶然の運命がいい形で際立っているような気がします。
2人ともが何かを掴んでくれたらいいなぁ……
大きな1歩じゃなくていいから、小さな1歩を。
2015.02.11 Wed 14:55
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんばんは

八少女 夕さん

はい。裏でみんな「来たあ!」ってわ〜っとなりました(^^;)
でも、事が終わるまで自分で、って思うときってあるじゃないですか。
そんな感じですかね。その割には一人で揺れていたミヒロです・・・

策の件は、本当にたまたまで(-_-;)
夕さんに納得していただけたなら良かったです(汗)

ひき続きミヒロと策の応援をよろしくお願いします。
ついでで良いので、作者の方もね(^^;)

あ、私も今・・・
夢叶のときにとっくにさせていただいていたと思いきや。失礼しました。
リンクって、すっごく嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします^^
2015.02.11 Wed 17:40
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ふむふむ

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

策の「らしさ」を見てくださって嬉しいです。
祥吾には徹さんと成ちゃんという二人のアニキレベル以上に強力な友人がいるので、策の出番はあまりないのですが・・・(→ちっとはある。田島が超ヘタレだから)
その分、バンドの中では自分のやる仕事に集中できます。そうして田島を見守っています。
バンドの中での立ち位置も、そうですね、策の本来の「らしさ」は、ファンがすぐに分かってくれます^^

> 策の物語だったのかミヒロの物語だったのか分からないくらい、2人の関係が見事にシンクロしているんですね。運命、というのか偶然というのか、私はあんまり偶然を使わないんですけれど(必然の理由をくっ付けちゃう)、この2人の場合、偶然の運命がいい形で際立っているような気がします。

わ。ありがとうございます。
けどホント、誰の物語かといえば、策の物語のはずなのですが(汗)
えっと、ミヒロにも事情がありまして、なお話となっております。
策にとって忘れられない一週間、ミヒロにとっても忘れられない数日間。
二人にとって一生の思い出となるように・・・描けたら良いなあ(頑張る -_-;)

二人が掴むのは何かな。違うようで同じもののような気がします。
大きいかも知れないし、小さいかもしれない。
それは二人がどう捉えるかにもよるような(?)

お話もだんだんと終盤に入っていきます。
大海さんに見えるものも何かなあと気になります。
あ、最後まで、どうぞよろしくお願いします^^
2015.02.11 Wed 19:19
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

そうだったのかぁ~、と思いながら拝読。
策同様に、わからないままにミヒロに連れまわされてきたけど、
ここに来てやっと、ミヒロの隣に立てた、そんな気がします。
だからこそ、策も背中を押せたわけですね。

期が熟したミヒロの元へ、
策が階を間違えてやってきたのは、運命的ですね。

ミヒロはずいぶんと軽くなったはず。
ミヒロ、立ち向かえ! おばちゃんも背中押しちゃる!(ドガッ!)
2015.02.12 Thu 11:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

そうだったのですぅ~。
その節はわからないままに連れまわしで(何かの刑? -_-;)

そうですね。策はミヒロの隣にずっといたわけですが、ここからが本当の意味の隣、なのかもしれません。
作者はイメージ通りに物書きが進まず、ちょっと苦心中なので、そう読み取っていただけるとは、とても嬉しいです。

ミヒロ、こんだけしゃべれば軽くなるだろう(><)
運命なのか、ただの偶然なのか、なんでもないのか、描いている作者にはわからないのですが(実はなんでもないと思っていたのですが・汗)、 ドガッ! っとね。姉御に押していただきましょう。
作者の背中は、指圧でお願いします^^
2015.02.12 Thu 21:47
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

セカンドチャンスか。。。
タイトルよろしくなところもあるのでしょうが。
チャンスは一度だけではありませんからね。
失敗したらやり直せばいい。
チャンスをもう一度作ればいい。
それはもっともだと思います。
2015.02.14 Sat 14:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

こちらにもコメントありがとうございます。

やば・・・いかにも、よろしく、ですよね(汗)
どうもこのタイトル、自分でつけたにもかかわらずなのですが、描き始めの初期の頃からなんかなあと思っていて・・・
このまま最後まで行く予定なのですけれども・・・

そうなんですよ~。ベタでもっともにありがちな設定です。
誰の中にもある気持ちや経験なのではないかなあと。
どうかな・・・

ここ数話は描くのにちょっと苦心していて。
普通のお話って、何が普通なのかと考えるとそれって普通じゃないのかもしれないとか。
自分の中でもじもじしていますが、頑張ります。
そんなんですが、LandMさんにまたお越しいただけると嬉しいです。
2015.02.14 Sat 16:21
Edit | Reply |  

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