オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 37 金曜日(8) 

『都会で見つける小さな秋キャンペーン』

電車の中吊り広告に目を向けた。地下鉄で目にしたのと同じものだ。電車に乗るのはほんの数日振りのことなのに、ずいぶんと久しぶりのような気がする。

これからうちに帰る。仕事帰りと違うのは、横にミヒロがいて、楽しい家族旅行の帰りで疲れきったガキのように、俺の肩に頭を乗せて爆睡しているところ。

長い前髪がだらりと顔にかぶさり、よだれをたらして寝ていたとしても、誰にも見られないだろう。いや、そんなことで、ミヒロのロン毛をうらやましく思っているわけではない。

無事に成田空港に着いた後、車は駐車場に置いてきた。あさっての日曜日、海外勤務から一時帰国するというミヒロの先輩が、空港から帰ってくるのに乗るのだという。

成田空港駅で電車の切符を買うとき、ミヒロは東京駅で乗り換えて、上のアニキの家に寄るつもりだと言った。俺も東京駅で地下鉄に乗り換えてうちに帰る。

やっと帰れるはずなのに、なぜだろう、一駅一駅東京に近づくにつれ、悲しくなるくらいの寂しさが胸にわいてくる。

「ミヒロ、次だから起きて」

小声で言ったからか、 眠りが深いからか、反応がない。だから、ミヒロの筋の通った形の良い鼻をつまんでブルっと振ってやると、一発で「んだよ」と目を覚ました。

「次だよ、東京」

まるで姫の膝枕で昼寝をしていたところを起こされた若殿様のように「うむ」とか言って、ミヒロはむくむくと姿勢を整える。今頃になって、こいつは意外に妙なヤツなのかもしれないと思い始める。

東京駅で、乗り換えのために改札を出て、地下通路を歩いて行く。都会のきらびやかさや人の多さに、つい今朝方まで物静かな海辺にいたことなど、忘れさせられるような現実に戻る。

俺の乗る地下鉄方面の通路に出た。ミヒロはここから地上に出てJR線に乗る。過ぎ去る時間など、指をパチンと鳴らすよりもあっけない。

「じゃ」
「策ぅ」

別れ際、ミヒロの紅茶色の目がふわっと近づいてきたと思ったら、一瞬視界が遮られた。「え」と言う間もなく、俺の頭が俺より背の高いミヒロの胸に収まる。あの傷の残る胸に。

「ありがと、策」

背中にミヒロの腕がまわされ、俺の体をギュウと抱きしめるから、頬がミヒロの胸に横付けになり、顔がおちょぼ口にされる。

心臓の音が聞こえる。規則正しい、リズムのある音。お前、強く生きてる。こんなに強いんだ。お前だって、トクトクと鳴るこの力強い生命の鼓動を感じているはず。

「策が手を差し出してくれたから、俺は掴むことができた」

ミヒロにギュっとされたままの俺は、何も答えられなかった。ミヒロの匂いがする。それとも、海風の残り香。

ミヒロの心臓の音と共に、駅の地下通路の雑踏が、別世界からの音のように悶々と聞こえていた。

どのくらいそうしていただろう。俺は息が苦しくなり、おちょぼ口をパクパクとさせミヒロの胸から顔を上げる。

ったく。今生の別れでもないのに。

「泣くな、ミヒロ。お前の泣きは最悪なんだ、って言っただろ」

俺は、何の余韻も残したくないんだ。

「泣いてねえよ。けど、策となんか離れたくなくて。少しだけこうしていたいだけ」

少し、なんかじゃねえだろ。さっきからずっと、身動きをふさがれている。

俺たち野球のバッテリーで、最後の一球でストライク取って勝った、とかじゃないし、サッカーのコーナーキックをヘディングで受けてゴールが決まった、なんてコンビでもない。共同研究で灯台から発射した紙飛行機が、無事に宇宙空間にまで達した、わけでもないし。

「俺たち近所なんだぜ。いつだってまた会えるでしょ」
「分かってる。でも」
「分かってんなら、ちょっと。はーなーれーろーおー」

この一方的に感激的な抱擁は、俺の方から身を引き剥がさなければ終わらないようだ。「ふう」と肩で一息ついてから、上目遣いにミヒロを見上げる。三角になったミヒロの目の端に、やはり光るものが。末っ子のミロくんは、ちょっと泣き虫に育ったらしい。

「お前のアニキたちに、ちゃんと話ししろよ。あと、岬岩の旅館の女将さんには、黙って出てきちゃったことをきっちり謝れよ。村崎岬のおじいさんにも、無事に着いたって連絡しとけ」
「分かってる」

あとのすべては、ミヒロ次第。ミヒロの心が決めること。俺は来週にでも一階下のミヒロの部屋を訪ねて、どうなったかを訊けば良い。俺たちは、同じマンションに住む、幼なじみの友だちなのだから。

改めて「じゃ」と片手を上げ、俺はくるりとミヒロに背を向けた。ミヒロが、どんな顔で俺の背中を見送っているかなんて、そんなことはどうでも良い。

・・・ミロくん、鈴木だったっけ?

そんなことも、もうどうでも良かった。



マンションのエントランス。このマンションに引っ越してきてから、マジマジと人のうちの郵便受けを見るのは初めてだ。

602号。

「鈴木。マジ?」

思わず声が出る。いやこれは、ミヒロの先輩という人の名まえに違いない。ちなみに702号の俺のところは、空欄にしてある。入れるのが面倒だっただけで、特別な理由はない。

秘密の暗号を解読したのに、誰にも認めてもらえなかった、みたいながっかり気分でエレベータに乗る。7階のボタンをしっかりと押し、部屋の前で702号の番号を確認して、鍵を差し込んだ。

ここは確かに自分のうち。それだけのことに、なぜか安心してしまう。キッチンで水を飲んで、自分の部屋に入った。定位置にある俺のギターが目に入る。今夜も練習しなければ。俺の運命の日は、あさっての日曜日なのだ。

中島さんとまず連絡を取って、きちんと説明しないといけないだろう。上田さんと佐々倉先生にも、月曜日から仕事に行くと伝えなくては。阿部君にも、話をたっぷりと聞いてもらいたい。

ああ、だけど、だけど、その前に、ちょっと休憩・・・



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あれれ? 策ぅ?(^^;)
あと、2,3話、かもしれない・・・曖昧にしておく(-_-;)



アルファポリスさんの「ドリーム小説大賞」に「セカンドチャンス」で応募しました。例年もう少し後なのに、今年はこの時期。お話を完結させての参戦予定でいたのでチョイ焦りましたあ。期間中には完結予定です^^ よろしくお願いします。いつもありがとうございます。感謝!


ご訪問、ありがとうございます^^
『セカンドチャンス』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

『今頃になって、こいつは意外に妙なヤツなのかもしれないと思い始める。』
……策、今頃か? 
ほんとにお前は……と思ったが、それが策のいいところ。
そうだそうだと頷きながら拝読していくと、まさかのハグ!
おそらくここは多くの方が感涙するシーンであろうと察しますが、
ごめん。腐った私は、「やばいやばいやばいやばい!」って、
もう何がやばいんだかってくらいモニターに向けて叫んでしまったわけです、
オージーにも届いたでしょうか。
コメントを書きながらも、にやにやが止まりませんが、
きっとここのすばらしいシーンの本当の余韻は、
じわりじわりと効いてくるであろうと思っています。

日曜日のために、この1週間があったとしたら、それはすごいギフトですね。
今頃感満載の策にはやっぱり、守護天使がついているのかもしれない。
運命の日に、どう繋がっていくのかが楽しみです。

しかし……若い男の子って、やっぱりいいな……じゅる(違う!)。
2015.03.02 Mon 14:19
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

ぷぷ。今頃、なヤツです。
この二人、類友なんで、お互いに妙ちくりんかも(?)
ぷぷぷ。城村さんのハートがキャッチできたなら嬉しいです^^
いあ、超感動したときに、熱くぎゅってするじゃないですか、あのイメージなんだけどな~^^
熱いのはミヒロだけの模様(?)

> 日曜日のために、この1週間があったとしたら、それはすごいギフトですね。
> 今頃感満載の策にはやっぱり、守護天使がついているのかもしれない。

わ。ありがとうございます。
城村さんが守護天使としてついてくださるから、日曜日はきっと大丈夫でしょう。
この一週間の時間を重ねてきたことが、策にとって大きなギフトになりました。良いこと言ってくださる^^

お話的には日曜日は何話にもならないのですが(もういいかげんいいでしょ ^^;)、安心して策を見ていただけると思います。
最後まで策を応援していただけますように。

城村さんのところの、魅惑の年齢男子(?)もじゅるっす・・・(どんな年齢 -_-;)
2015.03.02 Mon 18:10
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - 策、休憩

本当に策、お疲れ様でした。
濃厚な時間を過ごしましたね、ミヒロと。
ミヒロって本当に寂しがりやさんなんでしょうね。
策と離れ離れになる時も本当は寂しくて仕方なくて、だからあんなに覚えていたんですよ。
今回のお別れも、この濃厚な二日間(3日?)を過ごした後だけに、余計寂しいね。
「ありがとう」といっしょに「寂しいよ」って声がミヒロからビンビン聞こえてきます。
田島君に負けない泣き虫キャラがここに・・・。


反対に策はあっさり形でちょっと安心しました。
そのほうがつり合いが取れてるというか、しっくりきます^^
ミヒロには策みたいな子がいいんですよ、うん。
田島君に花園くんがついてるみたいに。(花園君、元気かしら)

でも策の優しさが伝わって、良いシーンでした。
あっさり形の策だけどきっと、策自身も忘れられないシーンになりますよね。

で、この602号室にはまたミヒロ、来るのでしょうか。
また貸してもらえるんなら毎日でも会えるのにね。

とにかく、策、お疲れ様。
明日は明日の風が吹く、です。
でもギターの練習はがんばってね!!

あ、そして、アルファさん、一緒に頑張りましょう。
あと何話で完結なのかも、気になるところです。
2015.03.02 Mon 22:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 策、休憩

limeさん、コメントありがとうございます。

策にねぎらいをありがとうございます(作者にもね ^^;)
濃いぃ時間がやっと過ぎました。
ミヒロは転校のとき、策と離れることで泣きました。

> 「ありがとう」といっしょに「寂しいよ」って声がミヒロからビンビン聞こえてきます。

おお。そうですか。私の代わりに聞いてくださって嬉しいです。
(ほら私、キャラの声が聞こえない人なので -_-;)
うん。ミヒロはきっと寂しがりやさんですね。
田島とちょいキャラがかぶるのにドッキリしますが、田島の方が号泣型かな(汗)
(ヤツは雷を伴う大型台風のように泣くこともある。大概は豪雨)

わ。limeさんがこのシーンでまた策の一面を見てくださってとっても嬉しいです。
策は現状をクリアしたので次を見ていますね。切り替えが早いのかも。
次はいよいよ自分、ということもあるのでしょう(?)
もちろん、ミヒロとのことは策にとってすべてが忘れられない思い出となりました。
このシーンもね^^

お。徹さんを思い出してくださるなんてlimeさん!
徹さんは実はこのお話の中にすでにもぐりこんでいるのですよ。
あとがきでお知らせしますね(←要チェック?)

ミヒロはアニキのところに寄って、それからこの602号室に戻ってきますよ。
先輩がマンションを解約して引っ越すまで、短い間ですが策と毎日会えます。(後日談)

> 明日は明日の風が吹く、です。

そうですね! まだ策の怒涛の一週間は終わっていないのです(←まだか -_-;)
けど、風はゆるぅ~く、薄ぅ~く、あと数話で終わる予定です。

いつも応援をありがとうございます^^
2015.03.03 Tue 16:10
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - ああ

こんばんは。

ミヒロとの旅は終わったのですね。
セカンドチャンスをちゃんとつかんで。

そして、ミヒロが泣き虫さんになっちゃった。
わかるなあ。
たった数日なのに、とても濃い時間を一緒に過ごしたんですものね。

そして、金曜日だから、ジェット噴射で頑張らないと、策!
でも、疲れちゃったよね。ちょっとだけひと休み?

あ、けいさんのところも投票してきました!
これって確か二人までなんですよね。氣づいてよかった!
2015.03.04 Wed 04:41
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ああ

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

ミヒロとの濃いぃ旅は終わりですが、今後近所付き合いができます。
はい、ミヒロはセカンドチャンスをちゃんとつかんでしかも泣いてすっきりしたものです。すっきり王子。
夕さんにミヒロの気持ちが伝わったなら嬉しいです。
十分に濃いぃ時間を一緒に過ごしました。

金曜日の策のエンジンはガス欠になってしまった模様(?)
実はへとへとに疲れちゃいました(^^;)濃すぎて(笑)
どかんとお休み。明日には復活するのですけれど(^^;)

わ。投票ありがとうございます^^
自己ベストの更新ができれば嬉しいです。
私も外からの見物人と化しています^^
2015.03.04 Wed 16:47
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Name - 大海彩洋  

Title - あぁ、策

濃厚な数日でしたね。
その前に、ミヒロ。うん、すっきり爽やかってわけにはいかない体験があるのだから、この数日だけですべてが変わったというわけではないと思うけれど、少なくとも歩いて行く道を顔を上げて歩けるようにはなったんだろうな。そして、そのチャンスは意外に身近に(1階違いに)転がっていたんですね。これからの2人の交流が楽しみです。

そして、策。あぁ、やっと、やっと練習だ~~~~!!!
どうにも策のギターの練習が気になって気になって仕方のない大海は、とにかく今夜からの策の頑張りに大いに期待します!!
阿部くん……といえば、まさか青木君が邪魔しに来たりしないよね??
もう全てを振り切って練習してね。練習しないで上手くいくなんて、祥吾も私も認めないよ!
2015.03.04 Wed 20:25
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あぁ、策

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

はい。ほんの数日でしたけれども、濃いぃかったです(^^;)

> その前に、ミヒロ。うん、すっきり爽やかってわけにはいかない体験があるのだから、この数日だけですべてが変わったというわけではないと思うけれど、少なくとも歩いて行く道を顔を上げて歩けるようにはなったんだろうな。そして、そのチャンスは意外に身近に(1階違いに)転がっていたんですね。これからの2人の交流が楽しみです。

そうなんですX2。わ。大海さんにそう読み取っていただけて嬉しいです。
そう現実は何一つ変わっていないのに、現状はちょっと変わった、みたいなイメージですかね。
策は大きなサポートになったとは思うけれど、選択するのはミヒロの心^^
二人の交流はこれから再開、というところですかね。

あぁ、大海さん。気にしていただいてありがとうございます。
大海さんは弦楽器をやっていらっしゃいますから、お分かりなんですよね。
やっと、やっと、ここまで来ましたあ。
しますします。祥吾にも大海さんにも認めてもらわねば(先の物語がなくなるっ><)

阿部くん……といえば。大海さん、鋭すぎます(汗)。プロットでまさに青木要がちょい邪魔しに来そうになりましたが、下げました。要が邪魔をするのは阿部君だけで、策は被害を被りませんのでご安心を^^ (プロット裏話)

祥吾たちとご対面するのを、大海さんに安心して見ていただけますように・・・
2015.03.04 Wed 22:24
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - 投票してきました!

遅れてしまってすみません!

ドリーム小説大賞、投票してきましたよー。まだここまでの物語までたどりつけてなくて、締切に間に合うかわからなくて先に投票してきました。すみません><!

さっと、本文をとばしてコメントだけしようとおもったのですが、気になって読んでしまいそうになり、勝手にネタバレしそうになりそうでした。

おそるべし!けいさんの物語引力!!(笑)

お時間頂きますが、読み終えたら感想をお書きしますね^^
2015.03.05 Thu 07:29
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 投票してきました!

わ。rurubu1001さん、ありがとうございます。嬉しいです^^

アルファさんの期間は限定でも、こちら本編はずっとありますのでrurubuさんのペースでお越しいただけますように。
アルファさんの小説大賞ものは、自己ベストが目標の一市民ランナーとなっております。参加に意義あり^^ 
お話がたくさんの方の目に触れると嬉しいですね。

おっと。ぷぷぷ。全然たいしたネタばれでもないですから^^
rurubuさんにどう読んでいただけるのか、大いに気になるところです。
最後まで読んでいただけますように。途中長くて濃いぃので(-_-;)

あ、コメントも是非。皆様からのコメントが素晴らしいのですよ。
そうか!、と気付きをたくさんいただいています^^
2015.03.05 Thu 18:10
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

別れ際は寂しいもの。
別れるときになって、その人の価値がわかるときがありますからね。
悲しいことですが。
それでもやり直すこともできるし、
そこから築けるものもあると思いますがね。
2015.03.07 Sat 16:32
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

寂しいですね。
そうですね。濃いぃところを乗り切った二人。
お互いにどれだけの価値があるか分かっているはず。
大切な友人として、これから築いていくことがたくさんありそうです。
あともう少し、策のお話に付き合っていただけますように^^
2015.03.07 Sat 18:59
Edit | Reply |  

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