オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

セカンドチャンス 38 土曜日・日曜日 

日曜日の夜。

「もしもし、阿部くーん」

夕刻、家に戻った俺は、玄関で靴を脱ぎ捨てるのと同時に、ポケットから携帯を取り出していた。

阿部君に良い知らせがしたくて。今日の俺の話を、きっと喜んで聞いてくれるはず。

『なになに? どしたの?』

「え?」という俺の小さな驚きの声を、相手は聞いていない。てか、相手、要じゃねーか。

『策くん、阿部先生が連絡取れないって心配してたんだよ。どーし・・・策かっ。今どこ?』
「今うちに帰ったとこ。阿部君、要また何かしでかしたの?」
『もう、こいつとは毎日だよ』

それは、この二人の師弟関係が順調に行っているということかな。

「俺も先週はあれから色々あってさ。連絡しなくてごめん」
『いや、俺もこいつのせいで忙しかったから』

阿部君の声が、何かをあきらめたような、いや逆に何かを悟ったようなトーンに聞こえる。要とのことを微笑ましいなどと思うだけで、阿部君にド突かれてしまうだろうか。

『策、今日確か、バンドの二度目のオーディションだったよね。どうだった?』

さすが友人の阿部君。俺の話したいことをきっちりと聞いてくれる。

俺は昨日の土曜日、中島さんと連絡を取った後、時間をかけて必死に練習した。

アレンジは木曜日、村崎岬の灯台に泊まったときにすごく良いのが頭に浮かんで、その時すでに出来上がっていた。それを昨日一日かけて、納得がいくまで自分の身に叩き込んだ。

ミヒロは灯台のことをパワースポットだと言ったけれども、あながち伊達ではなかったかもしれない。

祥吾さんがくれた、セカンドチャンス。二回目は一回目より上手くいくって決まっているんだ。要だってミヒロだって、それを掴んで先に行った。俺も。

日曜日の今日、先週と同じ池袋のスタジオに行き、セッションで俺のアレンジを披露した。今思うと、なんだったのだろう、あのサウンド。スタジオという狭い空間だからというわけではなかった。

成太郎さんのドラムは腹底にまで響き、湊人のベースはラインが流れるように滑らかだった。どちらも後から入った俺のギターを吸い込むように受け入れ、上手く乗せてくれた。

祥吾さんの声は先週と変わらず、シャープでものすごく切れが良かった。一つ一つの言葉が、語りかけるようにストレートに宙に放たれる。

それは、俺も含めて聴く者の心を捉えて離さない。祥吾さんは単に「良い」とか「凄い」とかの一言で言い表せるようなボーカリストではないのだ。

全てがかみ合ったところで、空間に大きな波がうねった。その波に飲み込まれないよう、必死に演った。やればやるほどサウンドがうねり、体全体に当たり、残響でさえ脳天にまで達した。

始めの一曲が終わっただけで、俺は緊張やらなんやらで汗だくになっていた。水のボトルに手を出そうとしたところ、後ろから湊人に抱きつかれた。

『策ちゃん、凄い! カッコ良過ぎ!』

首をギュウギュウと絞められ、酸欠になるかと思った。この時、ミヒロ一族はハグ好き、が俺の中で定説となった。てか、「ちゃん」なのかよ。

湊人には話したいことが山のようにある。でも、今でなくても、きっとあとで話せる時間が来る。そのときにたっぷりと聞いてもらおう。

『良い音だった。やっと鍵鳥策と一緒に演れて、俺は嬉しいよ』

成太郎さんもそばに来てくれて、俺の頭を必要以上にぐっちゃぐちゃになでた。

『策・・・』

横に立つ祥吾さんをぐっと見上げる。俺より軽く20センチ以上は背が高くて、めちゃくちゃカッコ良い。

祥吾さんは俺に歩みを寄せると、いきなり俺の左手を掴んで自分の目の前に持っていった。俺の手の指を見て眉間を寄せる祥吾さんに、俺は「見られた」と少し焦る。

昨日、とにかく弾きまくり過ぎて、俺の左手は人差し指から小指まで、指先がヒリヒリと真っ赤になっていたから。

『お前の腕がつる前に、良いニュースをやろう』

俺の目を真っ直ぐに見て、祥吾さんが言った。そして表情を崩すと『よろしく』と、とびっきりの笑顔で握手をしてくれた。俺の手が震えたのは、喜びで鼓動が弾けたから。俺の望む、俺の居場所ができた瞬間だった。

これをかいつまんで阿部君に話した。

『やったなあ策。何かすっげー嬉しいよ』

この大学の友人は、いつも俺の話を自分のことのように聞いてくれる。そしてこうして一緒に喜んでくれるのだ。何でも話せる聞き上手の良い友だち。今目の前にいるわけじゃないのだけれど、笑みになる。

「その後も、バンドの曲を十曲以上、時間にして2時間近くたっぷりと音を合わせた。ライブを想定してのリハーサルみたいなもんだったと思う。先週と全然違った」
『そうなんだ。良かったじゃん。俺が言うのもなんだけれども、策のギターがある程度主張を持って入ったことで、バンドの音に厚みができただけでなく、バンドとしてのバランスが一つステップアップしたんじゃないかな』

阿部君、実は鋭い。何事も見る目が、高い空から獲物をしとめる鷹のように確かなのだ。俺も実際、バンドの中に入って音が共鳴したことで、それを体感していた。

「結局は、メンバーになるのが一週間遅れたことになったけれど、長い人生のうちのたかだか一週間がずれたことなんか、どうってこともないよね」
『そうさ』

鷹の阿部君が同意してくれる。しかもそのずれた一週間で、俺は全く別のところから一生分のものを得たわけだから、人生一度は落とされてみるもんだ、ぐらいにも考えてしまう。

『策にとって、手に入れることができたという方がずっと大事だよね。おめでとう。早く策が入ったバンドのライブを見に行きたいよ』

そう。俺もミヒロのように掴むことができたのだ。セカンドチャンス。ものにした。祥吾さんから良い言葉をもらった。

『すっごいよお、策くん』

要。携帯をスピーカーにして聞いていたのか、阿部君。鷹の庇護のうちにあるこいつが、そこにいたのをすっかり忘れていた。

要も一度落とされて阿部君に拾われたのだ。そんな要の事情になぜか親近感を持ってしまう。いや、持たない。

『わりい、策、中学の二学期の期末試験と、学期末の保護者面談を控えて、こいつ、落ち着きがないんだよ』
「阿部君が保護者面談について行ってやれば良いのに」
『冗談じゃねえぞ、策。俺はこいつの親じゃねえ』

そこ、阿部君がムキになるのが、やはりちょっと笑える。要、受験はきっちりと頑張れ。それは応援してやる。いや俺はむしろ、要の面倒を見る阿部君のほうを応援する。だな。

阿部君には、聞いてもらいたいことがたくさんある。ミヒロのこと、ドライブのこと、灯台のこと。他にもたくさんありすぎて、時間がいくらあっても足りないかもしれない。

『おう。いつでも聞いてやるよ。ただ、今日だけはちょっと。青木がうるさいからな。ごめん。また来週にでも飲みに行こう』

うん、電話より飲みながらの方が全然良いよね。大丈夫だよ阿部君。俺の胸に残るこの話は、絶対に忘れないから。じゃ、また。



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策の大学時代のご学友、阿部君も忘れてはいけません。
阿部君こそ、策のサポーター(^^;)

次回、策、仕事に復帰します。
たぶん、あと、二話ぐらい、かもしれない・・・(-_-;)

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皆様が素敵な一日を過ごせますように。
Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - おはようございます

なんと、もう日曜日!
でも土曜日のことは、夢叶でちゃんと見せてもらったし、この電話で策の興奮も伝わってきます。
阿部君も要君もひさしぶり。やっぱりくっついていましたね^^
怒涛の1週間だったけど、策には本当に濃厚な1週間だったんですよね。
忘れようにも忘れられない再会と、セカンドチャンスを掴んだのかあ^^
あ、でもまだお仕事の件がありますね。
人生を左右する決定が、このあとあるのかな。
ラストスパート、けいさんもがんばってください!!

それにしても、やっぱり田島君はかっこいいなあ~^^
2015.03.10 Tue 07:40
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Name - けい  

Title - Re: おはようございます

limeさん、コメントありがとうございます。

日曜日に飛んだ・・・(-_-;)
いえ、土曜日は策、指先が真っ赤になるほど、腕がつりそうになるほど、練習しましたから。
阿部君と要のペアはお約束^^
limeさんにも久々に田島と会ってもらえて良かったです^^

お陰さまで、策の怒涛の一週間といいますか、濃厚な一週間といいますか、田島から言い渡されたセカンドチャンスを掴むことでハッピーエンドなのですが、仕事の方、休んだ件の言い訳をしなくてはなりません。
相手タヌキなんで(^^;)

最後二話、職場でのやり取りを覗き見にいらしてください。
ラストスパート、がんばりまーす。
いつもありがとうございます^^
2015.03.10 Tue 16:54
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - わわ

一気に日曜日なんですね!
そして頑張って練習したんだぁ~、策。うんうん。おばちゃんも君の頑張りに感動したよ!
でも、なぜか青木に(呼び捨て?)に絡まれ慕われ続け地得る阿部くんがいいわぁ。そんな阿部くんがいるから、策には心の支えがあるんだよね。そして、ミヒロが新しく加わって……
事務所には辞表を出しに行くのかな……ドキドキ。あれこれ作戦があったけれど、あの中には「策のデビュー」も含まれていたのかしら? 何はともあれ、スクランプシャス誕生、おめでと~!
うん、祥吾はカッコいいなぁ。二代目真にはきっと憧れのバンドだったかも(^^)
あともうちょっとなのですね。ラストシーン、楽しみに待っています。
2015.03.11 Wed 02:25
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - 策、おめでとう

そっか、こっちはあっさりと日曜日に。
結果は、もう読者の皆さん知っていますものね。
久しぶりのスクランプシャス、みんなかっこいい〜。

策、そりゃあ、一週間前とは違いますよね。とっても濃い一週間でしたもの。
たぶん、月曜日から土曜日まで、ただギターを弾いていただけじゃ、ここまで急激にみんなを納得させる音は出せなかったんじゃないかなあ、そうな風に思います。

阿部君たちとも何ヶ月ぶりみたいに思うのですよね。
そして、職場の先生方にも一週間ぶりかあ。何があるのかな。
あ、「辞めます」って言わなくちゃいけないのかしら?

次回も楽しみにしています。
2015.03.11 Wed 05:36
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Name - けい  

Title - Re: わわ

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。
(てか、なんてお時間ですぅ?)

土曜日は、練習日に当てました。
策、指先ひりひりで、腕つりそうですよ~
そのぐらいやらないと大海さんにもダメだしされそうでしたから(^^;)

おお。阿部君に注目してくださって、嬉しいです^^
阿部君は、ちょい妙なミヒロとは違って、正統派好青年です。と思う。
(正統派って何だ? 妙ってのも妙だね?)
策と阿部君もずっと友だちです。要は不明・・・?

え、辞表っすか。あのタヌキに? そうなの、策? ドキドキ(まだ言わないよ~ん)
バンドは、田島の意向で、ギターを入れたかったのでした。
策に、とほぼ狙っておりましたが、それでもこの二回目できっちり期待通りにできなければ危なかったわけで(-_-;)

バンドが二代目真の憧れになるのなら、それはとっても嬉しいですね。
またいつかニアミスか共演か(?)できると良いなあ(^^)
ちなみに、田島の憧れはヤマサダ。覚えていらっしゃるでしょうか・・・
はい、あともうちょっとです。え、ラストシーンすか(滝汗)
2015.03.11 Wed 17:39
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Name - けい  

Title - Re: 策、おめでとう

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

いあ、その前までが濃いぃかったもので(^^;)
バンドのメンバーは、一週間前(?)と変わらず、元気でした。
夕さんとも無事お会いできて良かったです。

そうですね。夕さんにそう言っていただけると、この怒涛というか濃いぃ一週間をサバイブした意味がありますね。
弾きながら色々思っていたんだろうな。湊人もすぐそこにいたし。

はは。阿部君たちとは火曜日ぶりで・・・ちょとまてください。
調べたところによると、8月以来の7ヶ月(!)ぶりでしたあ(笑)
職場も三日欠勤の、(実質?)7ヶ月の欠勤(!?)ぷぷぷ・・・

えっ。「辞めます」なんて、タヌキに向かってそんなことが言えるのか、策?
次回に^^
2015.03.11 Wed 18:06
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

脳内キャスト、成ちゃんが窪田くんで動いております
(頭なでなでされた策がうらやましすぎゅる…)。
祥吾は個人的にクールな風貌の奥底に情熱と人情深さを秘める高良くんで。
策は、やっぱり背丈から絞ると、浅利陽介くんか濱田岳くんか…。
湊人は岡田将輝くんで180あるから、バックハグが絵になって……(ギャー赤面)。

あやや…ビジュアルの話じゃなく(汗)。

音って、正直ですね。
そして、バンドって、やっぱり簡単じゃないですね。
だからこそ、ぴったり合った人(=音・センス)じゃないと、
それみんなわかってるから、余計にこだわるし、
こだわっただけ、いいもの作れるってわかってるから、さらに求めるし。

策の1週間、阿部くんに語る時には、
感傷も深まって、思い出を凝縮した琥珀のように輝いたものに、
なっているんじゃないかと思います。

次回、またカルガモ生活に戻るのね~(笑)
2015.03.12 Thu 11:23
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Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

わ。ビジュアル化、とってもとっても嬉しいです^^
成ちゃんが窪田正孝さんのところは堅いです。
なで手が大きそうです。ぎゅる(イミフ)
おおお。祥吾がああ、策がああ、湊人がああ・・・
イケメン揃いだあ・・・心臓バクバク・・・
バックハグ、っつーんですかっ。
こうして教えていただけるとテンション上がります!
ありがとうございます!

城村さんも音楽をされるので、音には敏感でいらっしゃる^^
策がバンドのぴったり合った人(=音・センス)となれたことは本人の喜びでもあります。
策を加えたこのバンドの四人(プラスいち)もこの先ずうっとこだわりの音を作っていくと思われます^^

阿部君のことは、要のこともあって詳しく書けませんでしたが、大学のときからの信頼できる友人なのです。
話すときは感情移入しちゃうんだろうなあ。大丈夫。阿部君は聞き上手。

ぷぷ。カルガモ生活^^
琥珀のように輝く世界とはギャップだなあ。
そういえば、阿部君は鷹なのに、策はカルガモ。相手はタヌキ^^

次回、カルガモ策の様子を見にいらしてください^^
2015.03.12 Thu 16:39
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

「全てがかみ合ったところで、空間に大きな波がうねった。その波に飲み込まれないよう、必死に演った。やればやるほどサウンドがうねり、体全体に当たり、残響でさえ脳天にまで達した。」

すごい文章ですね。
音を身体で感じる。
・・・ということを表現したものですごくいいと思いました。
私自身出不精でそういうのにあまり参加しないので。
音楽は身体で感じる・・というのを教えてくれます。
2015.03.14 Sat 13:54
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

わ。褒め褒めの言葉、ありがとうございます^^
LandMさんにも音を感じていただけたのならとっても嬉しいです^^

スタジオライブ(?)だったので、体に来るかな、と思って描きました。妄想です^^
久々にこのバンドのことを考えて描いたのが楽しかったのと、嬉しかったのと・・・
自分がバンドのファンなもので(^^;)
2015.03.14 Sat 17:36
Edit | Reply |  

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