オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

なんでもあるや 番外  なんでもあるやのクリスマス(前編) 

なんでもあるや 番外

「なんでもあるや の クリスマス
クリス・クリングルからのメッセージ - Cards From Kris Kringle (前編)」


Santa-holding-Kris-Kringle-card1.jpg
https://acrf.com.au/2012/stuck-on-what-to-buy-your-colleague-this-year-for-kris-kringle/


「なんでもあるや」には、なんでもある。
 季節物の注文だって、何だって受け付ける。



「三分です。一分遅刻ですよ」
「は?」

 渡されたのは、またカード。裕美子はそれをまじまじと見つめ、さらに固まる。ここでも「読んでください」と促され、教科書を棒読するように仕方なく声を出した。



「クリス・クリングル(Kris Kringle)?」

 クリスマスの三週間前、裕美子はそのイベントの名前を初めて聞いた。日本ではあまり馴染みがない。会社の年末の打ち上げに、これをするのだという。

 裕美子だけではなく、クリス・クリングルという言葉を初めて耳にする他の同僚たちも、この企画を持ってきた会社国際部・花園部長の説明を真剣に聞く。

「サンタクロースには、サンタや聖ニコラスなど、いくつかの呼び名があるんだけど、クリス・クリングルもそのうちの一つ」

 要するに、クリス・クリングル、イコール、サンタクロース、であるということをまず理解する。クリス・クリングルは、花園部長が数年前のオーストラリア赴任中、地元で体験したクリスマス・イベントなのだという。

 参加者の間でクリスマス・プレゼントを交換する、というのが基本のルール。その際、企画者(今回の場合は、花園部長)が前もって誰が誰にプレゼントを用意するのかを決める。そして、それぞれの名前は企画者以外には秘密とされる。

 参加者は、企画者からプレゼントを渡す人の名前の書かれたメモを受け取るが、その相手には自分の名前を明かさない。プレゼントは全てクリス・クリングルからとする。

「予算は500円から1000円で、相手の人に相応しいプレゼントを考えて用意してください。もちろん、手作りでもOK」

 裕美子が花園部長から受け取ったメモをチラ見すると、そこには先輩の真弓の名前があった。

 真弓には入社以来ずっと世話になっている。今までの感謝を込めて、何か良いものを用意しなくては。

 裕美子は、思いを声に出せない代わりに目を細め、部長からのメモを小さく折りたたんだ。



「良いですよ」
「わ。ありがとうございます!」

 店長の好意に、敦志は頭を下げた。

「お店が少しでもお手伝いできるなら、僕も嬉しいです。上手く行くと良いですね。グッドラック」

 店長が親指を立てると、敦志も目じりを下げた照れ笑いを返した。

「そうだ。店長さん、是非お名前を教えてもらえませんか」
「あ、申し遅れまして、すみません」

 店長は、レジのそばに常備してある名刺を敦志に渡した。『出屋直』とあるその珍しい名まえを読むのに、敦志は少しだけ時間を取り、今までの人生で学んできた漢字の知識をフル稼働させた。

「でやちょく、さん、ですか。珍しいお名まえですね」

 店長は、慣れているとはいえ「それって、どこの国の人の名まえですか」と一度くらいは客に聞き返したくなる気持ちをぐっと抑える。

「『なんでもあるや』のいずるやなお(出屋直)と申します。ご注文ありがとうございました。今後もよろしくお願いします」
「わ、すみません」

 敦志は、店長の名前を全く読み違えた申し訳なさに顔を真っ赤にすると、さっきよりも深く頭を下げ、自分も直に名刺を渡した。



「敦志、クリス・クリングルは誰の名前もらった?」
「秘密。言っちゃいけないことになってるだろ」

 敦志は、会社国際部の同期。そして、裕美子の彼氏でもある。初任の時期からプロジェクトを一緒にする機会が続くうちに気が合い、付き合い始めてからもう二年以上になる。

 社内恋愛に厳しい会社ではないのだけれども、なんとなく周りには内緒にしてきた。今日は一緒に、クリス・クリングルの買い物に来ている。

「地下街の『なんでもあるや』に行こうよ」

『なんでもあるや』は裕美子のお気に入りの店。友人の誕生日などに、これというアイデアがない時、必ず良いものが見つかるのがこの店なのである。

「わあ、きれい」

 店のショーウインドウに裕美子の目が留まる。煌びやかなクリスマス・ディスプレイの中で、ハウス型デザインのアドベント・カレンダーが、クリスマスまでの日々を数えている。

 裕美子は、季節やイベントごとに変わる『なんでもあるや』のショーウインドウのディスプレイが大好きで、いつも楽しみにしていた。

「真弓さんには、こんなのどうかな」

 しばらく店の中を見て回ってから、裕美子は、サンタやツリーの形をしたクリスマス・クッキーの詰まった箱を手にした。

「うん。仕事に疲れた時につまむおやつに良いかも」
「コーヒーにも紅茶にも合うよね」

 これに決めた、と裕美子はそのクッキーの箱を手に抱え、カードも選んでレジに持って行った。

「敦志は? 良いの見つけた?」
「俺はまた別のところを見てみる」
「別のところ? 一緒に行こうか?」
「良いよ」
「どうして? なんか秘密っぽい」
「秘密だもん」

 敦志の秘密の相手に少し嫉妬するように、裕美子は「えー」と言うと口を膨らませた。



「ありがとう。クリス・クリングル!」

 花園部長が包みを開くと、部署は笑いと拍手で盛り上がった。部長がプレゼントされたのは、赤と緑のクリスマスカラーに彩られた救急セット。金色の絆創膏など、どこで見つけたのだろう。なぜか怪我の多い部長を気遣ってのプレゼントに場が湧いた。

 今日は部長の計らいで、定時が二時間引き上げられた。会社国際部のフロアでは、かねてからの予定通り、クリス・クリングルのイベントで部署の今年の打ち上げが行われていた。

「次。真弓さん」

 裕美子の先輩だ。真弓は包みの中から出てきたクリスマス・クッキーを見ると、嬉しそうに目を細め、早速ハイハイとみんなに分けて回った。

「え、真弓さん、良いんですか?」
「メリー・クリスマスのおすそ分け」

 クッキーを手にするみんなが、凄く良い笑顔を真弓に返す。それがこの先輩にとっての一番のクリスマス・プレゼントなのだ。裕美子はそんな先輩の性分に改めて尊敬の念を抱き、自分も真弓にとびっきりの笑顔を向けた。

「これはシャレにならないよ~」

 燃えたぎる炎がデザインされたTシャツを手に、佐藤課長が泣きそうな声を上げる。課長は数年前、まだ営業部にいた頃に、住んでいたマンションが火事の被害にあい、大変だったことがあるのだ。

 向こうの方で、派遣の相田さんが肩を揺らして笑っている。当時も、彼女が落ち込んだ課長のことを、おいしいお茶で癒してあげていたのだろう。もしかしたら、炎のTシャツは相田さんからのクリス・クリングルなのかもしれない。

 その後も一人一人のクリス・クリングルが紹介され、みんなの前でプレゼントが披露された。予算内でそれぞれに苦労したであろう、個性的なプレゼントに声が上がる。内心、来年は自分もこれにしようとアイデアの参考になるものも多くあった。

「最後、石塚さん」

 やっと裕美子の番が来た。まさか最後だとは、本人も思っていなかったに違いない。受け取ったのは、クリスマスカード。

「みんなに読んであげてください」

 司会の佐藤課長に言われて読み上げる。

「『今から二分以内に、一階の総合受付に行って、メッセージをもらってください。クリス・クリングルより』え?」
「石塚さん。それ、面白そうですね。早速、一階に行かないと」

 裕美子は、小鳥のように目を丸くしたまま、忙しく瞬きをするばかり。「戻ってきたら、プレゼントを見せくださいね」と佐藤課長から背中を押されると、わけのわからないままみんなの拍手に送られ、部署から追い出されてしまった。

 とりあえず、エレベーターに向かい、一階のボタンを押す。「受付で何?」と頭の中を疑問符がぐるぐると回るが、とにかく降りて行ってみるしかない。

「三分です。一分遅刻ですよ」
「は?」

 渡されたのは、またカード。裕美子はそれをまじまじと見つめ、さらに固まる。ここでも「読んでください」と促され、教科書を棒読するように仕方なく声を出した。

「『今から五分以内に、駅前にあるクリスマスツリーのイルミネーションの前に行って、ポーラーベアを見つけなさい』なにこれ?」

 受付のお姉さんは、お嬢様スマイルでニコニコするばかり。「行ってらっしゃいませ」と言われるのが、何かの指令のように聞こえる。反抗期の中学生のようなしかめっ面を作り、裕美子はしぶしぶと歩き出した。


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 初のクリ企画です。前後編・二話です。
 久々の物書きに、あれれ~な部分も多々あるのですが、アップに踏み切りました(汗)
 よろしくお願いします。


 ご訪問、ありがとうございます^^
 『なんでもあるや』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 皆様が素敵な一日を過ごせますように。
 Have a nice day!
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Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

クリスマス企画、短編いいですね!
時期物ってわくわくします。
しかも宝探し的! どうなるんだろう!
読みながら脳裏にクリスマスソングが流れてきました。
ジャパンの今年のクリスマス、雨の後で冷え込んでます~(涙)。

けいさんもすてきなクリスマスを!
2015.12.24 Thu 08:22
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

初クリ企画です^^
兼、物書き復帰に向けてのリハビリですかね(^^;)

ゆかさんの脳裏に流れるクリスマスソングはどれだろう・・・
こちらはきっちり、30度のノルマは超えております。
40度超えの日はこもります。危険なので(^^;)

ゆかさんのもとにもクリス・クリングルがやってきますように。
Have a Very Merry Christmas!
2015.12.24 Thu 10:51
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - メリークリスマス

わあ~、久々のけいさんの短編だあ~。うれしい。
なんと、花園君の会社のお話じゃないですか!
いいなあ。皆、良い社員さんばかりだ。

クリス・クリングルって、初めて聞きました。
なんか、楽しいですね。中学生の頃に戻ったみたいに、わくわく。
これ、日本でも流行ればいいのに。
金額が大きくないってところがいいですね。

さて、裕美子はいったいどこにたどり着くのかな?
後半、楽しみにしています。
2015.12.24 Thu 18:07
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: メリークリスマス

limeさん、コメントありがとうございます。
メリークリスマスです!

短編から復帰を狙います(^^;)
徹さんの会社と覚えてくださっていて、嬉しいです^^
身近なところからエピソードを拾ってみました。
困った時の徹さん頼み(田島みたい -_-;)
 
クリス・クリングルって、調べていたら、なんかオーストラリアだけ? のような気もしてきました。
どうなんだろう? 基本、楽しいプレゼント交換なのですけれど・・・
誰からのプレゼントなのか分からない、ところにわくわくしますよ。
日本でもどこかでやらないかな^^

裕美子がたどり着くところは・・・
後編は間もなくのアップです^^
2015.12.24 Thu 21:48
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

メリーーーーークリスマス!!!!
・・・って、時期が遅れましたね。

日本ではクリスマスが終わる即効で正月準備ですからね。
その辺が海外とは違うところですね。

クリスマス企画もいいですよね。
私も来年はやりたいですね。
2015.12.26 Sat 20:58
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。
メリクリでしたあ!!!! (すでに過去形 -_-;)

こちらはまだお飾りとかありますよ。
片づける時期はそれぞれです。

お。LandMさんのクリスマス企画! 
来年ですか。一年待ちます(^^;)
2015.12.27 Sun 07:45
Edit | Reply |  

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