オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

なんでもあるや 番外  なんでもあるやのクリスマス(後編) 

なんでもあるや 番外

「なんでもあるや の クリスマス
クリス・クリングルからのメッセージ - Cards From Kris Kringle (後編)」

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(うちのクリス・クリングル^^)

 駅まではちょうど五分くらい。カードに指定された、クリスマスツリーのイルミネーションがある場所はわかる。けれども、ポーラーベアについては全く当てがない。

 街を流れる季節風が、襟元をさらっとなでていく。外に出されるなどと思ってもいなかった裕美子は、その冷たさに肩をすくめる。

 どうして自分だけがこうなってしまっているのか。一体誰が裕美子のクリス・クリングルで、こんな仕掛けを組んだのか。駅前を行き来する誰かを捕まえて文句を言うわけにもいかず、ただ目的地に向かって歩みを進めた。

「石塚、こっち、こっち!」

 先に裕美子を見つけたクマが、緑に赤にと光の灯されたツリーのそばで手招きしている。

「専務? 駅前のクリスマスツリーでポーラーベア、って・・・」

 裕美子はクックと笑い出す。柔道六段の渡辺専務は着ぐるみなどを身につけなくても、十分に貫禄のクマ体型。いや、普段はなかなか接することのできない会社役員に向かって、そんなことは口が裂けても言ってはいけない。

 ポーラーベア専務、いや、クマ、おっと、渡辺専務が、この時とばかりに満面の笑みで裕美子に次なるカードを差し出す。

 この企画の黒幕を知っているなら教えてほしい、と訊きたいところだけれども、きっと受け身の固い専務は教えてくれない。裕美子は、妙にニコニコと機嫌の良い渡辺専務との温度差を感じながら、上目づかいに礼をしてカードを受け取った。

「『今から三分以内に、駅地下街の“なんでもあるや”に行き、店長の出屋さんからリングホルダーを受け取りなさい』?」
「石塚。閉店前だから急いで!」

 とっさに時間を見ると、あとほんの数分で閉店時間の七時になるところだった。専務から事情を聴き出す時間はない。「失礼します!」と慌ただしく頭を下げると、裕美子は走り出した。

「すみません」

 閉店時間ぎりぎり。『なんでもあるや』に飛び込み、息が切れるのを整えながら店長を探す。

「あの、店長のでやさんにお会いしたいのですが」
「裕美子さんですね。『なんでもあるや』店長のいずるやです」

「あ」の口の裕美子に、直は「慣れてますスマイル」でリボンのかけられた小箱とカードを渡した。

「ご注文のリングホルダーです。お幸せに」
「ご注文?」

 してないけれど。いや、そんなことはもうどうでも良かった。この小箱に入っているリングホルダーというのが、自分のクリス・クリングルなのだろうか。そんな疑問を持ちながらも、裕美子はカードを開いた。

「『これでラスト。フロアに戻って、クリス・クリングルを開けなさい』って何よ。これだけ人を動かしといて、結局は職場なのね。このプレゼントの中身をみんなに見せろってこと?」

 いい加減、裕美子はむっとした表情で呟く。肩を落として直に礼を言うと、エンジンの止まりかけたボートのようにゆらゆらと店を出て行った。そんな裕美子の後ろ姿に向かって、直は指をクロスして見送った。

 エレベーターでフロアに上がり、職場に戻る。オフィスにはまだ明かりがついていたけれども、なぜか人が見当たらない。

「裕美子、お疲れ」

 背後からの声に、「ひい」と裕美子の心臓が飛び上がった。

「敦志、いたの。驚かさないでよ」

 少しだけ機嫌を損ねた裕美子は、眉間を寄せた難しい顔をして自分のデスクに向かった。敦志が何度も「ごめん」と謝りながら後を追う。

「みんなは? クリス・クリングル、終わっちゃったの?」
「まだ終わっていないよ」

 敦志に目配せされて、裕美子は自分のデスクにクリスマス・カードが置かれているのに気づいた。椅子に腰かけ、カードを開く。

  『Merry Christmas, Yumiko.
  プレゼントを開けてください。
  From Kris Kringle』

「プレゼント? 『なんでもあるや』の?」
「ちがうよ。こっち」

 椅子に腰かけた裕美子の目の前に、小さな箱がそっと差し出された。きれいに包まれ、シンプルなリボンがかけられている。裕美子ははっとして、自分の横に立つ敦志の顔を見上げた。

「これ、敦志から?」
「クリス・クリングルから」
「名前は秘密なんじゃなかったっけ?」
「いいから開けて」

 ゆっくりとリボンを解き始める裕美子の目は、小鳥のように丸くなり忙しく瞬きをする。

「裕美子。出会ってから二年以上たったよね」

 何の予告もなく、それは始まっていたのだ。敦志は、波を立てずに水面を渡る風のように静かに語り出した。

「今まで二人でいろんなところに行ったり、いろんな話をしたりして、思い出を積み上げてきた」

 裕美子は、泳ぐように丁寧に小箱の包みを開いていく。その裕美子の手先を見つめながら、敦志は続ける。

「裕美子のご両親に初めて会ったときは、こんな俺でも緊張した」

 そのときの敦志よりも、きっと今の自分の方が緊張している。裕美子は包みから現れた小箱のふたを、その中に新しい思い出を注ぐようにゆっくりと開けた。

「今年の夏の事故で、裕美子のご両親が突然亡くなったのは、今でもすごく残念に思うよ。どうしてその前にこれが言えなかったのかと、今少しだけ後悔している」

 敦志は膝を折ると、裕美子の視線まで身を下げた。潤みだす裕美子の目が、敦志のストレートな視線を受ける。敦志は、ふたの開いた小箱を持つ裕美子の手を小箱ごと自分の両手で包み、言葉と気持ちを伝える。

「裕美子、俺と結婚してください」
「敦志・・・」

 名まえを口にするのが精いっぱいなのに、それを悟られないよう、少しだけ抵抗してみる。

「クリス・クリングルの予算は、500円から1000円じゃなかったっけ」

 こんな変化球を投げてくるのが裕美子。けれども、そんな彼女の性格などとっくにお見通しの敦志は「これは相手に相応しい」と難なく打ち返す。

「まだ喪も明けていないのに」

 敦志の笑顔が、今までで一番優しい。

「だけど・・・」

 その笑顔に答えるために、裕美子は息を吸い込む。

「よろしくお願いします」

 パパバーン!

 やっと裕美子が返事をした途端、待っていましたとばかりに「うおー」という大きな歓声と拍手と口笛と花火が鳴った。

「みんな、いたの?」

 裕美子の丸くなった目が、さらにこれでもかというくらいに丸みを増す。どこに隠れていたのか、部署の同僚たちが現れ、裕美子と敦志の二人を取り囲んだ。

「裕美子、おめでとう!」

 真弓先輩が、真っ先に裕美子に抱き付く。「先輩、もしかして、知っていたんですか」と聞くのは後にしよう。

 敦志は、お祝いなのか冷やかしなのか、佐藤課長を筆頭とする同僚たちからバンバンと頭やら背中やらを平手で攻撃された。そのあと、いつの間にか駅前から戻っていたクマ専務から背負い投げされないよう、逃げ回っていた。

「クリス・クリングルのパーティーはこれから」

 花園部長の合図でパテが開かれ、改めて会社国際部の年末の打ち上げが始まった。



「最初に二人の関係に気付いたのは、仕事も抜群にできる部長さんなんだって」
「それで、その部長さん主導で企画大成功ってわけだ」

 後日、裕美子と敦志は二人そろって『なんでもあるや』に報告とお礼のあいさつに来た。社内恋愛には厳しい会社ではない代わりに、それからしばらくは恥ずかしいくらいに冷やかされたという。

「裕美子さんが外に出ているほんの数十分の間にサプライズの準備。それにうちの店も一役買ったってこと」
「へえ。ご贔屓にしてもらうもんだね」
「そういうのとはちょっと違うと思うんだけど」

 直は幼馴染の相手に、本日の話題として、このちょっとイイ話を提供する。

「で、『なんでもあるや』のリングホルダーは?」
「そのエンゲージリングと一緒に、部屋の一番良い場所に置いてあるって。挙式はこれから予定を立てるんだってさ」

 こうしてお客さんからエピソードを教えてもらえるのは、とても嬉しい。自分の店の物が、少しでも誰かの役に立てるなんて、商売人冥利に尽きるではないか。

「やっぱりお前、名刺にフリガナ振った方が良いんじゃね?」
「いや、店の名前がひらがなだから、俺の名前とかはどうでも良いんだ」
「その理屈、全然つながりねえじゃん」

 幼馴染は「よくわかんねえなあ」と首をかしげる。直は「長い付き合いなんだから、わかるでしょ」と交わし、相手の好物に箸を伸ばす。

「くおら。俺のモンに手えだすなあ」
「こいつはお前のフィアンセか」

何の躊躇もなく、直はパクッと口の中にそれを放り込んだ。

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http://www.umbra.com

なんでもあるや 番外
「なんでもあるや の クリスマス
クリス・クリングルからのメッセージ - Cards From Kris Kringle」


おわり



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 ちょく、じゃなくて、なお君です。よろしく。

 いきなりの番外スタートでした。そんなの、アリなのだろうか?
 しかも、実は本編は始まっていないの・・・(なぬーー!?><)

 今後、というか、本編、どうなるんだろう・・・(滝汗)
 ボツフォルダーから復活できるのか・・・(わからない -_-;)



 ま、年末のお掃除と、ホリデーシーズンをのんびりとしながら考えます。
 皆様も年末のお忙しいところ、お体をお大事になさってくださいね。
 良い時を過ごされますように。

 Have a Very Merry Christmas and a Happy New Year!

 けい m(__)m


 ご訪問、ありがとうございます^^
 『なんでもあるや』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 皆様が素敵な一日を過ごせますように。
 Have a nice day!
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Comment

Name - 八少女 夕  

Title - メリークリスマス!

こんにちは〜。

そうか。ここは、花園さんの会社なんですね。
そして、「いきなり番外編からのスタート」ということは、この出屋直氏が新作の主人公なのですね! このお報せも、とても素敵なクリスマスプレゼントです!

で、お話の感想に戻ります。クリス・クリングルっていうのがいるんだ〜、サンタクロースのバリエーション、本当に様々だなあ。

そのちょっと変わったクリスマス企画が壮大なプロポーズ大作戦になっているとは。

ご両親を突然なくしてとてもつらかっただろう裕美子は、敦志の存在にどれだけ救われただろうなあと、じーんとしてしまいました。その絆があるから、プロポーズの答えなんて知っているという風情の敦志も、照れ隠しにあさってのことをいい出す裕美子も、とても自然なんですよね。いいなあ、こういうプロポーズ。

そして、物陰に隠れている皆さんたちも(笑)

とてもとても素敵なクリスマスプレゼントでした。

けいさん、ご無理をなさらずに、ゆっくり養生してくださいね。新作は、忠犬ハチ公のごとくゆっくり待っていますので。それに、小説のことなども、そのうちにゆっくり語り合いましょう〜。(こんなスレ違いのところでお返事)

来年もけいさんに素敵なことが沢山起こりますように!
2015.12.26 Sat 00:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: メリークリスマス!

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

徹さんと、会社の皆さんにご登場いただきました。
瞬パパは今回出てこなかったけれど、今や副社長(@@)みんな順当に昇進してる(?)

なんでもあるや、店長の出屋直(いずるやなお)君です。どうぞよろしく^^
幼馴染君もレギュラーになるかも(?)名まえは次回出てくるときに。
次回がいつ? というのが問題なのだけれども・・・(-_-;)

クリス・クリングル、スイスでは聞かないのですか。
うーん。ますますこれって、Ausだけなのだろうかと・・・?
ちなみに今年、うちの職場でこれやるか、と提案があった時に、即座にNah...の声が上がり、秒ボツ。
私もNo!と言った。みんな忙しくてそれどころではないのが見え見えでしたから(><)

さて、お話としてはよくありそうなサプライズ^^
二人の気持ちを理解してくださってありがとうございます。
この二人だけでなく職場のみんなもハッピーを共有できました。
さすが、徹さんの企画力(?)とクマ(今や)専務のサポート(?)

夕さん、お気遣いをありがとうございます。マイペースは得意なところに、目のこともあって、のんびりしていますよ。
夕さんとも色々なことをゆっくりとお話したいですね。
夕さんのところは雪深いのでしょうか。雪はもう何年も見ていないし、触っていない。食べたい・・・
こちらはいよいよ熱い。危ない。大雪警報ならぬ、山火事警報に注意(-"-)

夕さんもお体にお気をつけて、ご自愛くださいね。
良い時期を過ごされますように。

Merry Christmas!
2015.12.26 Sat 08:47
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - そっか~

こんなドキドキサプライズだったのですね。
ああ~、すっかり擦れてしまった自分には、この素直な若者たちがキラキラ眩しいです。
ここの会社は、社員もパートも役員も、みんなあったかいなあ^^
きっとこの二人は、このあと幸せになりますね!

そしてここで登場した「なんでもあるや」。
もしかして、新しいシリーズになるのでしょうか。
でやちょく・・・いや、出屋直さんのキャラも楽しくて、気になります。

来年はまた彼らに会えるかな?
でも、けいさんのペースで、のんびり書いて行ってくださいね。
あったか番外、ありがとうございました。
良い休日を^^
2015.12.26 Sat 10:08
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: そっか~

limeさん、コメントありがとうございます。

ちょいドキサプライズでした。
クリスマスの幸せのおすそわけですかね。
limeさんのところの皆さんもキラキラしてますから^^

「なんでもあるや」はシリーズ化したいものなのですけれども・・・
今のところ、まだボツフォルダーに潜んでおります(-_-;)
ぷぷ。でやちょく、でなく「(そう読まれるのに)慣れてます」フェイスのなお君とお店と仲間たち(?)のお話になる予定なのですが・・・

うん、来年ですかね。それまで気に留めておいていただけたら嬉しです。
limeさんも色々とお気遣いをありがとうございます。
お陰様で、クリスマスはのんびりできました^^
limeさんもlimeさんのペースで良い時間をお過ごしくださいね。

Merry Christmas から Happy New Year へ^^
2015.12.26 Sat 11:11
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

メリーーーーークリスマス!!!!
から。
ハッピーニューイヤー!!
ですね。
(/・ω・)/

そして、幸せな年の瀬。
・・・ということになったようで、お後がよろしいですね。
\(◎o◎)/!
2015.12.26 Sat 21:21
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

おおお。三つ目のコメント、ありがとうございます。

日の経つのは早いですね。というか、年が経つ・・・(-_-;)
年の瀬を幸せに迎える・・・なんて幸せ・・・

LandMさんも良いお年をお迎えください。
Have a Happy New Year!
2015.12.27 Sun 07:49
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - 遅ればせながら~

クリスマス物語なのにコメントの時機を逸してしまいました。コメを残す時間が無くて……でもしっかりお話はクリスマスの日に読ませていただいておりました。
お。けいさんのお好きなサプライズものですね! こういうサプライズものには、けいさんの筆(いや、指?)が冴えますね~。細工物の重ね箱の中身を次々と開けていく、あるいはマトリョーシカの中身をどんどん開けていくみたいに、楽しい時間でした。読んでいる私たちにも、裕美子にもね(^^)
そして、お~、これは花園君の会社だったんですね。みんなのノリノリの加勢も楽しく、そして何より、ストレートには返さない裕美子と、それをわかっていて心から彼女を想っている敦志も、ほんとにハッピーなグループで素敵なお話でした。
そしてさりげなく紹介される次作の主人公。この辺りの演出もニクイです(*^_^*)
けいさんに素敵な休暇と新年を! 今年も色々とお世話になりました! この先もよろしくお願いします!!
2015.12.29 Tue 13:45
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 遅ればせながら~

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

まさかのお昼休み訪問ですか?
お忙しいところ、お昼はお休みくださいね~^^

大海さんのクリスマスはどうでしたか。
ジャパンは普通にお仕事日だったのでは?

サプライズ、パターン化していますかね(ちょい汗 -_-;)
好きっちゃ好きです(^^;)
なんか、二人のイチャイチャに付き合わせてしまって申し訳ないような気もしています。
徹さんは相変わらずよくできる人のようです。良い上司っぽそう(?)
ネタがない時は(も)徹さんに頼る自分・・・(-_-;)

新作は・・・(汗る)
今のところラフ案のみで本編はまだなのですが、えっと・・・(さらに汗る)
まだまだ練る必要がありそうです(-_-;)

大海さんもお仕事あとひと踏ん張りですかね。
三が日はゆっくりできますように。
こちらこそ色々とお世話になりました。
今年あとちょっとと、来年もよろしくお願いします!!
2015.12.29 Tue 16:36
Edit | Reply |  

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