オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

シェアハウス物語 2 シェアメイト 

 シェアハウス・葦埜御堂(あしのみどう)。

 宇宙(そら)は、競争率の高い大学の学生寮の選に外れてしまった。それは困ると学生課に相談をしたら、ここを紹介された。

 以前は本屋だった建物を大学が買い上げ、住居に改築したところなのだろうか。「葦埜御堂」というシェアハウスの名前を初めて聞いたとき、理由もなくそんな印象が浮かんだ。

 もしかしたら、近所のわけありのお寺のお堂を、面影も残らないほどにモダンにリフォームしたところかもしれない。だったらそれも面白い、などと勝手な妄想を膨らませたりもした。

 大学に紹介されるまま、格安の家賃が決め手となり、割と簡単に決めた大学生活の住まい。大学の学生課が仲介となり、メールと電話で手続きができたことは、東京から離れた地方に住む宇宙にとってとても助かることだった。

 間もなく、シェアハウスのオーナーからメールが送られてきた。その情報から、シェアハウスの名まえはオーナーの姓名で、家は六部屋を抱える元個人宅であるということがわかった。

「ただいま」

 夕食を調達するために外に出ていた宇宙は、意外に家からは遠かったコンビニで、ジュースと弁当を買って戻ってきた。

 玄関から中途半端な小声で帰宅を告げても、きっと誰にも聞こえない。そもそも、誰に向かって帰宅を告げる必要があるのか。田舎の実家で、家族に守られながら過ごした十八年の生活とはまるで違うのだと今更ながらに自覚する。

 玄関から靴を脱いで上がると、ちょっとしたエントランスと言える気持ちの良い空間が目の前に広がる。吹き抜けの高い天井からはシンプルなデザインの照明が下がり、住人も来客も分け隔てなく迎え入れる。

 二階に上がる階段は重厚で幅広く、調度の施された手すりが、少しだけこの家の歴史を感じさせる。宇宙は、今日この家に初めて来たとき、この階段を恐る恐る上り、紅の部屋のカギを開けたのだった。

「良い匂い」

 階段の脇の小さなテーブルに、大きな花瓶がある。誰の手によるものか、パステルカラーの春の花々が、そのままブーケになるように彩り良くアレンジしてある。初めてこの家に来た時同様、鼻先を向けた。

 壁には、伝統柄の和紙で作られた美しい折り紙の作品が額に入って飾られてあった。春夏秋冬の四季を折り紙で見事に表現している。こうしてみると、折り紙は日本の誇る素晴らしいアートなのだとつくづく思う。

「オーナーの趣味なのか」

 紅の部屋で宇宙を歓迎してくれた折り紙の紙飛行機も、芸術作品のように精巧にできていた。オーナーからのメールには折り紙アートについては何もなかったけれども。

 折り紙作品の額の前で少し寄り道をした宇宙は、思い出したようにキッチンの方へと向かった。キッチンのドアを開けたとたんに、スパイスの効いたカレーの臭いが鼻を突いた。ガスレンジの前にいるムーカイが目に入る。

「あ、ソラ、お帰り」

 宇宙に気付いたムーカイが、自身のとびっきりの笑顔を向ける。

「ソラ?」

 ムーカイの横にいたその女性は、誰がどう見ても日本人には見えない。ライトブラウンの髪に大きな青い目。ムーカイよりも背が高く、お玉を持つ手が透き通るように白い。何を作っているのかとお鍋に目を向けると、クリーム色のスープが見えた。

「ソラも俺のカレー、食べるでしょ」

 相変わらずの流暢な日本語で、ムーカイが話し出す。

「俺、コンビニで買ってきちゃった」
「それは明日のお弁当にすれば? ね、みんなで一緒に食べようよ。ソラの歓迎会」

 カレーでか、と突っ込んではいけない。実家に戻ればなんてことのない普通のメニューのカレーも、ここでは意味があるのかもしれない。そう思うと、宇宙は素直にこのシェアメイトの誘いを受けた。

 コンビニで買ってきたものは袋ごと冷蔵庫に入れて、料理の手伝いをしようとムーカイの横に立つ。

「ソラは紅の人?」
「あ、ごめん、ニーちゃん。紹介しなくちゃね」
「自分でするよ。はじめまして。私はニコールと申します。アメリカから来ました。どうぞよろしく」

 お玉を手にした大きな青い目のアメリカ人が、教科書通りの日本語を話す。「どうも」と宇宙が、教科書にはないけれどもよく使われる日本語で答える。

「ニコールのニーちゃんか」と宇宙は内心納得する。最初にムーカイから「ニーちゃん」と声をかけられたときは、「お兄ちゃん」の「ニーちゃん」かと思って返事をしたのだ。

「乾杯」
「ウエルカム・トゥー・ザ・シェアハウス・アシノミドー!」

 ダイニングテーブルについた三人がグラスを当てる。ムーカイとニコールはシャンペン。未成年の宇宙はコーラ。テーブルにはムーカイの作ったチキンカレー、ニコールの作ったポテトスープ、宇宙が切ったグリーンサラダ。

「すっげー辛い。けど、すっげーうまいよ、ムーカイ」

 宇宙は口を半開きにホフホフとさせ、カレーとコーラをせわしなく交互に取りながら、味の感想を述べた。どんだけのスパイスが入っているのだろう。

 自分としては激辛の域なのだけれども、ここは辛い、よりもうまい、を強調しなくては。入居初日だし、シェアメイトとは仲良しになりたい。

「これ、俺のベスト・ホーム・クッキング、ね」

 さほど可愛くもないウインクを向けるムーカイの英語が、どうも日本語的になまっている、とは言わない方が良いのだろうか。ま、そんなことで悩むことはないと、宇宙は出されたものをモフモフと食べる。とにかく腹が減っていた。

 ムーカイが、大学はどこだ、出身はどこだ、家族は何人だ、と休みなく宇宙に質問攻めをする。彼女はいるのか、というお約束の質問も忘れない。口をもぐもぐさせながら宇宙は首を横に振ったけれども。

 さらにムーカイは、自分のことを話すよりも先に、ニコールの紹介もする。ニコールはアメリカのロサンゼルスの出身で、日本では英会話スクールの講師。

 企業をターゲットにプライベートレッスンもしている。在日は四年で、シェアハウス暮らしも実はムーカイより長いのだという。

「ムーカイ、しゃべりすぎ。私、ソラと話せないじゃん」
「じゃん、すか」

 宇宙は食事中ずっと、二人の外人パワーに押されっぱなしだった。それでも、ムーカイの部屋が「翡翠」で、ニコールの部屋が「月光」だということだけは、宇宙の方から聞き出した。

「ソラ、今度一緒にカラオケに行こう。私、カラオケで日本語覚えたんだよ。楽しいしね」
「俺も行く」
「ムーカイはダメ」
「え、どうしてー?」
「やだよー」
「だから、なんで?」

 ニコールがケタケタと声をあげて笑う。二人とも陽気なシェアメイトだ。宇宙は二人が外国人であることに最初は緊張していたけれども、日本語が驚くほど上手なことに感心すると同時に、その語学力を尊敬もしていた。

「ただいま」

 次のシェアメイトが帰ってきた。どこの部屋の人だろう。「ワンちゃん、お帰り」とムーカイが陽気なままのノリで迎える。

 宇宙もわくわくしながら声のした方に振り向くと、きちんとしたスーツを身に着けた真面目そうな女の人が目に入った。

 肩からは書類がすっぽり入りそうな黒の通勤バッグを下げ、腕には蓋のない小箱を抱えていた。中から「ミー」と鳴く声がした。



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 シェアメイトは、ムーカイとニコール。それから、ネコちゃんを抱えたワンちゃんの登場です。


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 皆様が素敵な一日を過ごせますように。
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Comment

Name - 八少女 夕  

Title - ほう。

こんばんは。

青い目のアメリカ人語学教師ニコールと、アジアっぽいなぞの学生ムーカイ。よし、憶えたぞ。激辛のカレーということはインドとか、パキスタンとか、スリランカとかかしら。これは次回以降わかるのかな。

そして、もう一人女性、ニャンコを連れたワンちゃん(笑)

こうやって少しずつ人物が登場するのはいいですねぇ。
とても個性豊かだから、楽しいシェアハウス生活になりそうです。

それに折り紙芸術で攻めてくるオーナー。こちらの登場(?)も待ち遠しいですね。

日本のカレーと違って、ルーなしで作る本格カレーはきっとおいしいでしょうね。でも、あちらの人たちが作ると「全然辛くしなかったよ」と言われても日本人的には激辛ですよね。これまた一種の洗礼(?)

次話が楽しみです。
2016.01.11 Mon 02:43
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Name - けい  

Title - Re: ほう。

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

シェアメイトを覚えてくださって、ありがとうございます。
ムーカイとワンちゃんの国籍は次回です。
六人の住人のうちあと二人はワンちゃんを紹介した後で。
ちなみに、全員揃ったところで壮大な話が始まる、とかじゃないですから。
戦闘が始まるわけでもないし・・・(なんかの見すぎ -_-;)

オーナーもそのうちに。謎のオーナーとかじゃないですから。
でも、その方がお話的には面白いのかな? いあ、普通の人です。
登場はちょい先です。夕さん好みのオーナーになれるか。(どう描くつもり?)

そうそう。料理好きな日本人のお友達が日本人向けだから「全然辛くしなかったよ」って、どぅおこがぁな辛さ。
本格カレーはスパイスの列挙を聞くだけですでに辛い。一味もダメな私は、あまくちで(^^;)
次話も是非お越しください^^
2016.01.11 Mon 08:32
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

あたらしいルームメイト……いや、シェアメイトたちとのご対面ですね。
ムーカイもニコールも、気の良い人たちみたいだし、にゃんこをつれたワンちゃんも・・・。

いやしかし、なぜここはこんなに国際色豊かなんだろう。
ムーカイはタイとかミャンマーの子?カレーだからやっぱりインドかなあ。
ワンちゃんは名前から中国?

やっぱりけいさんの描く物語って感じがして、この後の展開も楽しみです。
なにか事件が起こるのかな??(いや、サスペンスではないよね^^)
2016.01.12 Tue 21:45
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Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

シェアメイトが続々帰宅です。
ルームに6人いたら、きっちきちですね(妙な妄想してしまった)
それぞれの出身はメジャーどころなので、国籍はバレバレですね。
(既視感が頭をよぎる・・・><)

この後の展開は・・・特にサスペンスな事件は起きなく・・・(どしよ -_-;)
limeさんのすぐそばにもありそうな展開となる、かも・・・(既視感が・・・><)
日常の中にドラマがあるってことで、よろしくお願いします(汗)
2016.01.13 Wed 07:08
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Name - あかね  

Title - ニーちゃん

ニコールのニーちゃんだったのですね。
疑問が氷解してすっきりしました。

先日、私もカレーを作りました。
市販のルーはからくないので、唐辛子を一本……二本、よし、もう一本。

三本入れたらくちびるがしびれそうにからいカレーになりましたが、からいほうがおいしいですよね。
とか言って、作った私はめったに食べませんが。

変な食生活をしていますので、和食ってあまり食べない。カレーはもはや和食ですよね。
お米も食べない、お餅も食べません。
十代に戻って、私もこのシェアハウスに入れてもらって、みんなでごはんが食べたいです。
2016.01.14 Thu 01:21
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ニーちゃん

あかねさん、コメントありがとうございます。

ニコールのニーちゃんでした(単純 -_-;)
唐辛子を三本ですか(@@)あかねさんは、カレーは辛党ですかね。
カレーは立派な和食で、私はAusでは日本食として紹介しています。
炭水化物を摂らない方は周りにも結構います。
お餅は食べたい(^^;)

シェアハウスというシチュエーションでみんなでごはん、というのはまた違うのでしょうね。
でも実際のシェアハウスでは、みんなで、というのはあまりないみたい(?)
住人にもよるらしい(?)
2016.01.14 Thu 08:11
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Name - LandM  

Title - No title

おお==。
カレーで歓迎会。
それもシェアハウスの醍醐味かもしれませんね。
沢山作れる食べ物をシェアし合うのも、味ですからね。
集団暮らしって面白いですね。
(/・ω・)/
2016.01.16 Sat 20:20
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Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

お手軽なカレーで歓迎会、です。人数対応にはもってこいです(^^;)
パスタという手もあります。AusではBBQ(バーベキュー)が一番メジャーかな。
集団暮らしはそれなりにいろいろあるようですが、それなりに面白いらしいですよ。(→未経験者 -_-;)
2016.01.17 Sun 08:05
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