オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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シェアハウス物語 4 新しい友人 

「無いし」

 宇宙は、昨日コンビニで買ったジュースと弁当を今日の昼ご飯として持っていくつもりだった。名まえを書かなかった。

「名まえの無いものは、みんなのもの」

 その呪文が、どこかのお城にでもかくまわれている皆の衆を救うことなどないだろう。いや、あれをみんなで分けたとは思えない。昨日は一緒に晩御飯を食べたのだから。

「誰だよ。昨日のケンタッキーもお前だろ」

 声に出したところで、「それは私だ」と犯人が現れるわけでもない。

「俺ンだぞ」

 ため息とともに肩を落とす。記すのは名まえでなくても良いのだ。「紅」の一文字でもあれば、セーフになる。次からは必ずと決意を新たにした。

 まあ、大学には学食もあるのだし、昼にありつけないというわけではない。

 今日から通う大学のことを考えると、機嫌が良くなった。

 朝、シェアハウスの誰とも顔を合わせることはなかった。全員の生活時間はもちろんバラバラなのだ。

 宇宙も時間を見て、紅の部屋を出た。電車に乗り、大学に向かう。

 神奈川国立大学。地元では、諸学の殿堂としてその歴史と共に親しまれている。今日から理工学部新入学生のオリエンテーションが始まる。

 大学構内の地図を確認をして、指定された建物の指定された講義室に入り、時間となるのを待つ。四人掛けのテーブルの一つに席を取り、なんとなく周りを見る。

 宇宙が籍を置く環境地質学科は、最近人気も高まり活気がある。世界の異常気象とそれに伴う環境破壊、その問題と解決に取り組もうと意気込む学生も多い。

 自然と災害に関する研究は、頻繁に新たな発表がなされている。良いことだ。そういう分野に目を向けて、人々に情報を発信しようとする姿勢は素晴らしい。

 この講義室にいる学部学科生と、これから四年間一緒に勉強するのだ。どんな奴と友達になれるか。宇宙の心は期待に高揚していた。

「あの、すみません。消しゴム貸してもらえませんか」

 友人候補となるかもしれない学生が、隣の席についていた。

「どうぞ」
「すみません。忘れちゃって」

 渡された大学登録用の書類は、電算処理をするとかで、HBまたはBの鉛筆でマークシートするように説明がされていた。

 前もってオリエンテーションについての説明書類が届いているはずなのだから、準備しておくべき。大学生なんだから。という第一印象。

「ありがとう」

 その学生は、自分の用紙を修正すると、隣のテーブルに座っていた女の子たちのグループに、「消しゴム、あるよ」と宇宙から借りたそれをひょいとパスした。

「それ、俺の」と言う間もなく、宇宙の消しゴムが女の子たちのテーブルの上をポンポンと転がって行く。女の子たちの感謝の言葉がそいつにかけられた。

 目の前で「モテ男」として大学デビューするためにすぐできる小ワザを披露されたような気分になった。この学科は人気に伴うものなのか、理系にしては女子が多い。それも特徴の一つだった。

「俺、桧山(ひやま)。よろしく」
「どうも。俺はソラ。漢字は宇宙って書くんだけどね」
「へえ。うちゅう君かあ。天文学が得意そうだね」

 これで桧山の名前が、宇宙の友人候補のリストに挙がることはなくなった。宇宙は「うちゅう」と呼ばれるのが好きではないのだ。天文学が得意なこともない。

 名前の読み方を説明するのに少し時間を取るから、自己紹介をするときはいつも名前からする。小学校の時から、クラスが変わるたび、担任の先生が変わるたびにそうしてきた。

 自分の名前が嫌いなわけではなく、大好きだから、きちんと正しく呼んでもらいたい。いつもそう思っている。

 それからの時間、宇宙はあれこれの説明を聞いて理解することに集中し、桧山とはほとんど口をきかなかった。

「学食に行こうぜ」

 あっという間に、午前のオリエンテーション・プログラムが終わった。宇宙が席を立つと、桧山が声をかけてきた。

 宇宙は別に桧山とツルむ気は全くなかったのだけれども、無視することもない。まあ、今日だけの付き合いかもしれないし、とりあえず、一緒に学食に行くことにした。

「これ、新入生ばっかりだろうね」

 学食に溢れる学生を見て桧山がつぶやく。昼は学食、と考える学生の多いこと。

「新入生は試食に来ている人も多いんじゃないか」
「かもね。この大学の学食はうまいらしいよ」
「うん。俺もその話は聞いてる。わざわざ校外に食べに出ることはないって」

 宇宙はバラエティーに富むメニューをさらっと見ると、値段の安さでチャーハンに決める。

「俺、シェアハウス暮らしだから、あんまり贅沢はできない」
「俺も学生会館だから、遊んで暮らすわけにはいかないんだ」

 学生会館は、宇宙が選に漏れたオンキャンパスの学生寮だ。

「桧山はどこの出身なの?」
「富山。宇宙は?」
「長野」

 お互いに地方出身なのを知ったところで、なぜだか少し親近感を持つ。

「宇宙、これってさ、消しゴムの縁だよね。良かったあ、良い友達ができて」

 宇宙の消しゴムで大学デビューを果たした桧山の方が、あの消しゴム取り返して来いよ、と言い出せない宇宙よりもテンションが高くなる。二人はチャーハンと水の乗ったトレーを手に、学食の一角に席を取った。

「宇宙は温泉好き?」

 モグモグと平和にチャーハンを口にする宇宙は、そんな不意の問いかけに返事ができない。全く気にする様子もなく、桧山は続ける。

「俺さあ、山が大好きなんだ。富士山とか死ぬほど好き。宇宙、ゴールデンウィークになったら、一緒に河口湖あたりの温泉に旅行に行こうぜ」

 その意外な趣味の紹介と予期せぬ休暇のお誘いに、宇宙はただ目をパチクリさせた。どうリアクションして良いのかわからず、無用に口をモグモグさせる。

「箱根でも良いよね。箱根は生きてるからなあ。温泉卵とか、最高だよね。黒いやつに萌えるよなあ。食いてえ」
「お前って」
「言っとくけど俺は、火山フェチで温泉オタクな自分が気に入ってるから。俺のDNAは、絶対に太古の原始火山噴火の時代から始まってる」

 そう信じていると桧山は熱く語る。こういうフェチでオタクの類は、少々変わり者扱いされるかもしれない。けれども、理系にはそもそも変わり者が多い。宇宙は、まさに同じ理系である自分のことを棚に上げた分析をする。

 初対面の宇宙に、自分の得意分野について説明しようとする桧山は、研究者向きかもしれない。まあ、悪いやつではない、と。

「宇宙は?」

 と振られて、ポカンとする。

「どうしてこの学科を選んだの?」
「ああ」

 そう。宇宙はこの学科に入るために、地元大学の推薦を蹴って受験勉強に励んだのだ。

「俺は、水資源に興味があってこの学科を選んだ。うちの学科にすごく良い研究があるんだ。将来は、水に関わる仕事に就きたいと思ってる」

 目的志向は、結構高い方だと自負する。やる気もみなぎっていた。

「俺たち水つながりだな」

 桧山が嬉しそうに声を高めた。これでゴールデンウィークの予定は埋まったと確信するように目を細める桧山に、

「いや、火と水の予定は合わないかもよ」とやんわりと言おうとした宇宙の言葉が、

「ソラ~、元気!?」

 と背後からかけられた声に遮られた。



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Name - 甲辰  

Title - No title

青春だなあ・・・

風景が目に浮かんできます。
2016.01.26 Tue 20:38
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 甲辰さん

わ^^ 甲辰さん、読んでくださっているのですね。コメントありがとうございます。

大学新入学。初日。青春です^^
風景に甲辰さんが目を細めてくださると嬉しいです。
是非またお越しください^^
2016.01.26 Tue 20:58
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - あちゃ

宇宙ったら、また名前を書かなかったのですねw
ああ、だれかの血肉になっちゃったお弁当。
ひとりでボヤク宇宙がなんともかわいい^^
(でも次はちゃんと描こうね)

そしていよいよキャンパスライフですね!
初々しいなあ^^
気の合う仲間がいっぱいできそう!  とおもったら。
なんと消しゴムの出会いは、かなり微妙w
桧山くん、良い子だったらいいね~。
(ファーストネームで呼ばないのかな?)
けいさんらしいテンポがとっても楽しい4話でした。
つづきも楽しみにしていますね♪


話しは変わるけど、最近にわかにワンオクにハマりまして。
ハロスリとワンオクエンドレス。
「欠落オートメーション」という曲がめちゃくちゃいいんですよ。
こんなのを主題歌にして書きたい!!と、密かに萌えてしまったけど、書けないだろうなあ・・・^^;
2016.01.27 Wed 16:44
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あちゃ

limeさん、コメントありがとうございます。

昨日また、うっかりしちゃいましたw
誰の血肉になっちゃったのでしょうね。
はい。次はきっと、と決意しました。(小さな決意?)

キャンパスライフ~^^
消しゴムの出会い・・・そんなもんですよ(^^;)
桧山くんは、フェチでオタクだけど良い子ですよ。うちのブログの子ですから(^^;)
ファーストネームは・・・優作かも(?)
つづきもよろしくお願いします♪

おおお! limeさん! ワンオクといえば。私ハマってますよ。ずっと。「夢叶」のときから。
ハロスリとワンオクのダブルエンドレス! 良いですね。ノリノリだあ。
「欠落オートメーション」、良いですよね~(*u_u)
歌詞と曲がアンバランスのような絶妙なバランスをとっているような・・・
うん。limeさんの描く世界と合いそうですね。主題歌、良いかも。カッコイイーー

おととし、メルボルンに来たんですよ。知らなくて残念。Youtubeでシドニーライブを見ました。
今、前にブログでも紹介したMIYAVIがAusに来ているらしくてにわかにドキドキしています^^
ワンオクもまた来ないかなあ。毎年来てくれないかなあ~
あーもっと語りたいけど、この辺で我慢します・・・また次回に^^
2016.01.27 Wed 19:25
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - おや

ソラったら、また名前を書かなかったのね。それじゃダメじゃん。なんというのか、学習していませんでしたね。それとも、実は誰も食べないんじゃないかって確認したのかも? でも、自分が買ってきたのではなかったら、日本人ならたべなさそうだから、そこもまあ、多国籍シェアハウスの醍醐味? なのかも。

桧山は何だかミヒロを連想させますが、ミヒロよりもかなり考えなしの能天気にみえますね。北国の子にしては珍しい鷹揚さ。きっと賑やかな大家族で育ったんだろうな。
しかも初対面で温泉に誘ってるし……^^;
新しい友も(おしかけ?)できたようだし、さて、キャンパスライフも楽しみですね(^^) 
そして、お、声を掛けてきたのは誰かしら?
2016.01.28 Thu 00:51
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おや

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

夕べは帰ってきてすぐにカレーに誘われて、はーいと乗ったは良いが、それだけで終わってしまった(^^;)
そうそう。日本人なら誰かの物には手を出さないのですが、日本以外では持っていかれます。
海外旅行では全てのものに記名してご注意を~

お。ミヒロを思い出してくださるなんて嬉しいです。元気かな。
桧山君は富山出身なので、意外とマイノリティーかも。家族も能天気そうだ(?)
緊張しいの宇宙よりは人懐っこい系ではあるかもです。デビューもとっとと済ませたし(^^;)
温泉へのお誘いは、彼にとってはお約束^^

声を掛けてきたのは・・・次回です。
引っ張りません。(だから?)
2016.01.28 Thu 16:30
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

猫の話が飛んで行った!!??
Σ(゚Д゚)

それはそうと。
火と水は相性は良さそうですけどね。
火山見るついでに湖も見に行けばいいと思いますけどね。
火と水。どちらもないと大地は作られませんからね。
相性は良さそうな二人。。。に見えますけどね。
2016.01.30 Sat 09:08
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

猫の話・・・うを(><)
すみません。次回に復活いたします(予告)

火と水。大地かあ、なるほど。片方があってこそ片方、ですかね。
富士山に行ったら富士五湖、ですよね(?)(桧山談)
二人の相性は・・・どうか見守ってやってください・・・(汗)
2016.01.30 Sat 12:17
Edit | Reply |  

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