オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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シェアハウス物語 6 お家探訪 

 カリカリをふやかして缶詰と混ぜて与えると、子猫は良晴の言うとおりに猛烈な勢いで平らげた。こんなに小さな体なのに、いっぱしの牙をむくような食欲は凄まじい。

 トイレの砂は、洗濯場の一角に違和感なく設置されていた。子猫を砂の上に降ろすと、もよおしたのか、ぶにゅーとかわいい(?)うんちを落とした。

 それを片づけて洗面所に手を洗いに行く。

 白く明るい洗面台は、シンクが二つあるダブルボウル。カウンターとも言えるくらいにスペースは横長に広いにも拘わらず、ここは一瞬息を止めてしまうほどの濃い匂いがこもっている。

「う」

 洗面道具は、住人それぞれに与えられた引き出しに入っているはずなのだけれども、プラスチックのバスケットに入って、台に置かれているのもある。それが凄い。

 洗面系のありとあらゆるものが、ここで店が開けるのではというくらいにある。女子ものがとにかく凄い。

 ヘアケア系、スキンケア系、そこから枝分かれしたボディケア系、フェイシャルケア系。ネイルケア・フットケア系まではかろうじてわかるけれども、男子の宇宙にはよくわからない系も多々ある。

 引き出しにもバスケットにももちろん名前があるから、誰の物かわかる。ニコールの物。ワンちゃんも意外に物持ち。洗面所に垣間見る女子力を学ぶには参考となるかもしれない。

 それと、女子ものとはまた一線を画した良晴の物がもっと凄い。女子並み、いや、女子以上のメイク用品とデオドラントとガラスのボトル類と良く分からないスプレーの一群。

「匂い濃いし」

 スプレーの一本に恐る恐る手を伸ばし、匂いを嗅いでみる。案外悪くはないと思ったりするけれども、きっと自分は使わないと首を振る。

 歯ブラシなどの必要最低限のたしなみを揃えるムーカイとアリーのバスケットがとても良識的に見える。洗面所にシェアハウスの微妙な均衡を学ぶ。

 ミー。足元で子猫が鳴く。

「あ、ごめん。忘れていたわけじゃないよ」

 さっと手を洗うと、宇宙は子猫を抱き上げた。洗面所の隣の風呂場に向かう。

 夕べは二階でシャワーを浴びただけだったから、今夜は風呂に入りたい。

「うわ。すげ」

 オーナーからメールで送られていた画像よりも、ずっと広々としたユニットバス。全体的なカラーは明るいクリーム。コーナーにある浴槽は、大きくゆるい三角形で、数人がいっぺんに入れそうだ。

「ジェットバス付き。ここを一人で使うのは贅沢かも」

 だからといって、誰かと一緒に入るわけでもないと、首をブンブンと振っていらない妄想をかき消す。

「けど一人で入るのに・・・」

 これほどの入浴剤が必要だろうか。と言うくらいにローズだの、ラベンダーだの、森のなんとか、なるものまで並んでいる。

 脇にあるシャワーは二本。足元には洗面所のシーンと似たようなボトルのコレクション。どんなフレーバーかは色で判断。青と緑のがムーカイとアリーのだろうと予測。

「これでサウナでもあったら最高かもね」

 子猫に意見を聞いてみた。

 次に覗いたのは書斎。こういう部屋があるとオーナーから情報をもらって以来、見るのを楽しみにしていた部屋だ。

「わあ」

 声が上がる。広々としたスペース。ぎっしりと置かれた本棚。ハードカバーの全集から漫画雑誌までの様々なジャンル。CD/DVDのコーナーもある。簡単には読み切れない量の本が、床から天井までずらりと並んでいた。

「俺ももっと英語の勉強しようかな」

 漫画に手を出そうとしてやめる。語学関係は、英語以外にも中国語、スペイン語、フランス語、アラビア語、ヒンディー語、ドイツ語と枚挙にいとまがない。

 過去のシェアメイトたちが置いて行ったものなのだろうか。日本にいたら、きっと買えないどころか、目にすることもできないような本や写真集もたくさんあった。

 日本語学習に関する本もたくさんある。当たり前のことかもしれないけれど、シェアハウスで交わされる言葉は日本語。英語でも他の言語でもなく、日本語。

 ある程度の人数が集まったところでは、共通のコミュニケーション手段が必要になる。海外からの人員の多いこのシェアハウスで日本語が話されているということは、よく考えると、当たり前のことではなく実は凄いことかもしれないと思う。

 宇宙は本棚のちょっとしたスペースに、鶴や兜やくすだまなどの折り紙の作品が置いてあるのに気づいた。

「これもすごくね」

 割りばしの袋で作られた鶴を手に取り、思わず子猫に見せる。小さな顔に、控えめに広げられた羽。その背がお箸を休めるためのスペースとして提供される。これは箸置きなのか、食卓の飾りものなのかと一瞬迷うくらいにかわいらしい。

 そういえば、ダイニングにもリビングにも、誰が作ったのか、アートと呼べるほどに素晴らしい作品がさりげなく置かれている。

 どれも単に折り紙とは片づけられないほどに細部が精巧につくられ、日本人であってもその感動的な出来栄えにしばし目を奪われる。

 宇宙は、折り紙が日本の誇るアートであることを再確認するように箸袋の鶴を眺めたあと、元の場所に戻した。

 外国人のシェアメイトが多いこのハウスならではのオーナーの心遣いなのだろうか。なかなか粋なものだと思う。

「閲覧希望者はオーナーに連絡、かあ」

 書斎の奥の一角に、ガラス張りのキャビネットがあるのを見つけた。鍵がかかっている。ガラス越しに中を覗くと「葦埜御堂家」関係の古そうな本がディスプレイされていた。歴史的に価値のあるコレクションなのかもしれない。

「ムーカイ、歴史書なんか読んでるんだ。すげえな」

 書斎の机にある貸出帳をペラペラとめくる。基本閲覧で、住人以外には貸し出しをしない。住人が借りる場合は帳面に記入する。貸出期間は特に決まっていなく、住人の良識に任されている。

 ミー。子猫が鳴く。

「なんだよ。飽きたのか。お子ちゃまだなあ」

 この書斎には、一日中でも居られるかもしれない。けれども、今は子猫もいるし、時間もない。少々名残を惜しみながら、次の部屋へ歩みを進めることにした。

 サンルーム。南向きでガラス張りのこの部屋からは、明るい庭が良く見える。はずである。夕暮れ時で外がすでに薄暗いこの時間帯では、まだ見たことのない庭の様子は想像するしかない。

「天気の良い昼間は、気持ち良いんだろうなあ」

 すぐそばにあったロングチェアに腰かけ、足を伸ばす。紫色から紺色に暮れゆく空を眺めながら一休み。子猫も床で横になり、ぎゅーっと手足を伸ばして大きなあくびをした。

 誰が弾くのか、さり気なくアップライトピアノが置いてあるのに気づき、頭の中で春の子守歌のような優しい曲が流れ始める。

「やべ。寝ちゃいそう」

 眠りからのお誘いに、宇宙の目が半分閉じ、口が半分開きかける。

 ガタガタ!

 まるでそこだけに突発性の地震が起きたかのように、庭に通じるガラス戸が不自然に揺らされた。

 ルームに響いた大きな音に子猫が跳ね起きる。同時に、宇宙も慌てた猫のようにぎゃんと跳ね起きた。

「誰?」

 無理やりこじ開けられたドアから、四、五十代くらいの知らない男性がルームの中に入ってきた。子猫と宇宙は申し合わせたかのように同時に背中を丸め、同じような上目づかいでその男性をじっと見る。

「宇宙くんだね」

 子猫の目が丸く、宇宙の眉がハの字になった。



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 誰?
 もう一人、です。


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 皆様が素敵な一日を過ごせますように。
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Comment

Name - lime  

Title - わくわく

宇宙くんといっしょに、お宅訪問^^

そうかあ~。
ずっとワンルームだったから共同生活ってあまり経験がないんだけど、洗面用具とか、他の人の持ち物って、匂いが違うんですよね~。
洗剤の匂いも、皆好みが違うし。
匂いって言うのは、なんだかすごくリアルに感じてしまいました。

ああでも、おおきなジェットバスはいいなあ~。
え、もちろん一人で入るんですよね。男同士なら別に構わないけど(笑)かまう?

あれ? もうひとり?
だれだろう。あの人かと思ったんだけど、違うのかな??

次回も楽しみにしています^^
2016.02.10 Wed 21:11
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: わくわく

limeさん、コメントありがとうございます。


あまり詳細には描けないのですが(描写力なくて><)ちょっぴりでもお家の中を覗いていただけたら嬉しいです。


匂い、ありがとうございます。
良晴のが凄いですよ。一杯です。
宇宙も本人と会う前は、誰のこれ?で手が出せませんでした。

服装や趣味などもそうなのですけれど、プライベートにあるものって、ホントその人を表しますよね。
女子的にはやはりニコールとワンちゃんのが気になります。どんなの使ってんのかなって(^^;)

おおきなジェットバス、いいですよね~。望みがそのままお話に(^^;)
玉ちゃんなら泳ぐかも? 策は泳ぐ。いや潜る? 宇宙は?
ここのシェアハウスボーイズはかまわないと思う(?)たぶん・・・
でも、みんなそれなりに忙しいから、普段はシャワーだけという方が多い。なんか急に現実的になった(?)

もうひとりです^^
limeさんの想像するあの人って誰かな。当たるかもよ(?)
次回にお話しますね^^
2016.02.11 Thu 08:36
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Name - 大海彩洋  

Title - あ

まだいた! あ、でも、まさかのオーナー登場とか。オーナーの親戚登場とか。わくわく。あしのみどー家の誰かが出て来ないかなぁ~とやたら楽しみにしている大海でした。
ま、それはともかく! ねこちゃん、がつがつ食べてますね。うちはちょうどタケルがマコトがあんまり大きくならないって、もしかしてオレのねこまんまが悪いのかって悩む話を書こうかなぁと思っていたのところだったので(なぜって、ファンタジーだからだよ!とタケルには言ってあげたい)、何となくニヤニヤ。
風呂に図書室、素敵ですね~。うちも図書室あるけど、本棚はいくらあっても足りないなぁと思いまする。いや、捨てればいいのにね(本は捨てられない。しょうもなくても)。
みんながお勉強しながら分け合う素敵な空間、ここでこれから何が展開するのか、楽しみです。まだまだ事件らしいものは起こっていないので、これから何かが起こるの……かな?
2016.02.12 Fri 21:45
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あ

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

まだいました(^^;) あしのみどー家関係(わ^^読み方覚えていてくださった^^)、次回です。
(→いきなり予告。引き伸ばしません。なぜかここでキリリ)

ねこちゃんは、がつがつ食べますよね。この子は成長早いです。
なに。タケルが妙なことに悩んでいると。ふふ。楽しみにしています^^

大海さん宅には図書室ですか。凄いですねえ。うちも欲しい。
でも今のところに定住する予定はないので、あまり物は増やしたくなく、けど、本は増やしたかったり(絵本とかなんですけどね)
ホント本は捨てられないですよね~。売るなら良いかも。売れるなら?

わわわ~事件ですかっ。えっと、えっと・・・やばいやばい(><)
ネタバレすると、事件とか無いお話です(滝汗)
日常のあれこれを身近に感じていただければ嬉しく思います。
って地味~なお話なのですが、大海さんにまたお越しいただけますように(祈)
2016.02.13 Sat 08:27
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

まさかのオーナー!!??
Σ(゚Д゚)

ひょっとして、ニャンニャン追い出される!!??
確かに他の人が容認しないと猫を飼えないですからね。。。

まあ、オーナーとは限らないですが。
年長者ですから、このシェアハウスをまとめている可能性は・・・あるのかな。
2016.02.13 Sat 09:44
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

ふふふ。まさかの・・・次回です。引き伸ばさない^^
ニャンニャンの運命は・・・次回です。引き伸ばさない^^
このシェアハウスをまとめている可能性は・・・次回です。引き伸ばさない^^

ああ、でもなあ・・・LandMさんの疑問に答えられるだろうかが疑問だ(-_-;)
どうか見守ってください(作者を。あれれ?)
2016.02.13 Sat 14:17
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - うおお

こんばんは。

そうか。シェアハウス、洗面所は共同。みんなの使うものが揃う場所なのですね。

うん。女の子と男の子の使うシャンプーとか違うから、面白いだろうな。

そして、ジェットバス付きの広い浴槽! 楽しいでしょうね。宇宙、マイ・アヒルは用意した?

そして、そして、登場した男性は? もしかして奏ちゃんのご親戚?
猫ちゃんの運命も次回変わるのですか?

これはドキドキでお待ちしています。
2016.02.14 Sun 01:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: うおお

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

そうか。お風呂場もそうですよね。シャンプーの種類ったら凄そう。
良晴が蝋燭とか置きそう(^^;) 後で少し書き足すかも。
マイ・アヒルは・・・ぷぷ^^策に聞きましょう^^
23とマイアにも利用してもらいたいなあ。いつかね。ハラリはなしよ^^

> そして、そして、登場した男性は? もしかして奏ちゃんのご親戚?

もう、夕さんはじめ皆様にはバレバレですね。
なので、安心してください。引き伸ばしませんよ。次回です。

猫ちゃんの運命も次回です。
でもほら、私が描くお話なので、展開はミエミエかと。かな?
2016.02.14 Sun 07:25
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - どんどん増えていきますね

個性豊かで才能もいろいろ、バラエティに富んだ住人達。
こういうところで暮らすのはとても楽しく、それでいて若者にはちょっとプレッシャーかもしれませんね。

メンタルの弱い子は劣等感を刺激されて、俺なんかなにも特技もないし、とか落ち込んだりして。

飯炊きおばさんはおいしいものを作れるよう、それだけにがんばります(^o^)

猫に向かって「お子ちゃまだなぁ」と呟く宇宙くん。
それはやはりどこかしら、自分に向かって言ってるのかな?
2016.02.20 Sat 13:05
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: どんどん増えていきますね

あかねさん、コメントありがとうございます。

はい。毎日顔を合わせるわけですから、それなりに色々あると思います。人数も多いし。
ま、若いんでね、みんな(ムーカイを除いて^^;)

飯炊きお姉さまはきっと人気者になりますよ(^o^)
胃を掴め。なんのことでしょ(-_-;)

宇宙はシェアハウスでは一番年下。
たかだか大学新入学のまだティーン。
ケツは青いな。ふっ。ネコちゃんレベル^^
2016.02.20 Sat 16:45
Edit | Reply |  

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