オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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シェアハウス物語 8 アリーの事情 

「そっか。中で話そう、アリー。サンルームで」

 現は夜桜を照らしていたライトを消して、サンルームに足を向けた。アリーは黙ってついて行く。

 ルームの白いカーテンを引きながら、現はアリーに座るようとガラスのアウトドアテーブルに促した。

「現さん。私、社長の家にお世話になることになりました」
「そう。それは良かったね」

 現も椅子に腰かけると、アリーと面と向かう。

「アリーはずっとここに居ても良いよ、って社長には話してあるんだけど」
「でも、タダで住むのは私もちょっと。みんな家賃払っているのに」

 アリーが困ったように苦笑する。

「難民認定の話はどうなってる?」
「全然進まないです。そこはこの国、厳しいと思います」

 アリーの出身国、シリアは複雑な国内紛争がずっと続いている。国民の多くが激化した内戦のために住む場所をも追われ、国を後にするという事態が起こり、国際的な難民問題を起こしている。

 アリーは日本ではまだいわゆる難民ビザというものを持っていない。入国時に期間限定の在留を許されたビザを取得し、難民認定を申請した。アリーのビザは滞在中の就労が許されるものであるが、そこから難民認定までの道のりは長い。

「せっかくシェアハウスの暮らしにも慣れてきたところなのに。残念だなあ」
「現さんにも今まで本当にお世話になりました。でも、電気関係で何かあったらいつでも呼んでください」
「たぶんみんなが寂しがって、用事がなくても声がかかるかもね。アリーの会社はここからも近いし。まあでも、今すぐ出て行くというわけでもないんだし、引っ越しまではここの生活を楽しんでいってよ」

 現の言葉にアリーが「ありがとうございます」と笑顔を向ける。

「えー! アリー、引っ越しちゃうの?」
「ムーカイ!?」

 現とアリーの会話のはしを耳にしたのだろうか。目を丸くしたムーカイが、足早にサンルームに入ってきた。そこにはムーカイだけでなく、ワンちゃんと宇宙も一緒にいた。

「二人とも遅いからこっちを見に来たら。アリー、まさか、シリアに帰るとか?」

 ワンちゃんが身を乗り出す。

「いや、国には帰りたいけど、まだまだ帰れないよ」
「アリーの家族はどうしてる? ヨルダンにいるんだよね」

 ムーカイの問いに、アリーが声を下げる。

「難民キャンプの生活は大変。住むところはかろうじてあるけど、食料や水の配給は分量が決められていて、医療や教育も十分じゃない。日本での生活とは全然違う。まあ、姉は子供たちの養護施設を手伝っていて、母親もなんとか暮らしているみたい」
「まあ、三人とも立ってないで座りなよ」

 現が促す。六人掛けのガラステーブルを五人で囲む。

「ねえ、アリー、日本に来る前のこと、聞いても良い?」

 昨日シェアハウスに着いたばかりの宇宙は、もちろんアリーの事情については全く知らない。

 けれども、アリーがこのシェアハウスに来たのもほんの数か月前のことで、ムーカイとワンちゃんも、アリーの詳しい事情についてはあまり知らなかった。

「シリアにあったうちの実家は、機械関係の工場を経営していました。私はあとを継ごうと大学で工業を学んでいました。でも、内戦が激しくなると、大学の機能はストップして通えなくなったんです」

 アリーの話に、全員が耳を傾ける。国の内戦。そこで起こっていること。それは平和な日本で暮らす限り想像に難しい。

 複雑なところは、みんなより少し事情に詳しい現が補足説明を入れてくれた。現実とは思えないようなその話に、全員が驚きの色を隠せなかった。

 政府軍の暴挙が続くなか、アリーの父親は工場を失ってしまう。父親と民主化運動の「平和的デモ」に参加していたアリーは、政府軍の弾圧と発砲にあい、目の前で父親を失った。

「人と人が向き合った時の暴力は、昔も今もあまり変わらない。怒りのエネルギーはマイナス方向に強大なんです」

 アリーは目を伏せ、気持ちを整えるように間を置く。

 緊迫した事態から逃れるために、アリーは母と姉と共に国を後にしてヨルダンに向かった。

 家族はもともとドイツに行くのが希望だった。けれども、中継地のフランスで、いまだに良くわからないトラブルに巻き込まれ、アリーは家族から引き離されてしまった。

 家族とはドイツで再会できるとブローカーに言われて、なぜか日本経由の飛行機に乗せられた。その後母親と姉もドイツに行くことはならず、フランスにも入国できずに結局ヨルダンに戻されることになってしまった。

「日本は平和でとても良い国。暴動の心配も空爆の心配もない。理不尽に家族や友人が殺されたりすることもない。

 夜寝る時に暗がりから聞こえる音、朝起きるときの空気の匂い。全然違う。どちらが本当で現実なのだろうと、日本に来たばかりの頃は夢でも見ているようでした。

 家族と離ればなれなのは悲しいけれど、日本に飛ばされた私は、実はラッキーだったのかもしれないと今は思います」

 世界のあちこちで紛争は起きているというけれど、庶民レベルの情報はなかなか耳には届かない。アリーの貴重な体験談を、聞く方はそれぞれに受け止める。

「アメリカとロシアが介入しているのに、情勢はどうなってるんだろうね」

 現が疑問を投げる。実はこの二大国がシリアの紛争に関わっているのも、事が複雑化する原因の一つとなっていた。他にも目の離せない国際情勢が色々に絡み、いくら説明しても説明しきれない。

 それでも国の人口の半分以上が難民となってしまっているシリアの状況は、国際的にも何とかしなければならない。遅々としながらも事態を収束させる方向へと向かっているのだという。

「これ以上、空爆に恐れることもなくて、家族みんなが安心して暮らせればそれで良い」 

 シンプルな望み。アリーが言うと、重みがある。平和、それは当たり前にあるものではない。全員が確認するように大きく頷く。

「今お世話になっている会社の社長は、私を家族のように思ってくれていて。それで一緒に住みなさいと言ってくれたんです」
「そうかあ。アリーがいなくなると寂しいけど、アリーに新しい日本の家族ができるのは良い話だ」
「ムーカイのカレーが食べられなくなるのも寂しい」
「いつでもここに食べに来れば良いよ」

 ムーカイが笑顔で言う。

「そうそう。アリー、日本の生活はまだまだ落ち着かない日々が続くのかもしれないけれど、このシェアハウスでできたつながりはこれからも大切にしてほしいな」

 現の言葉に全員が頷いた。

 ミー。ネコの鳴き声。

 その場の全員が一斉にはっとした。

 シンクロの演技のように、全員が揃ってドアの方に鼻先を向ける。そこには子猫もいたのだけれども。

「よっ。ここで何の会議?」

 子猫を抱いた、背の高いイケメンがいた。



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 良晴じゃないよ。



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Comment

Name - 八少女 夕  

Title - そっか

こんばんは。

けいさんの作品、時事的に超タイムリーです。
(へんないい方だ)
どういう運命のいたずらでアリーが日本へ行ってしまったのか謎ですけれど、バルカンルートを閉ざされて絶望している人たちとはまた別の意味で、日本についてしまった難民は大きな壁に戸惑うんだろうなと思います。なんせ全然受け入れないし、たとえ書類上で受け入れられても受け皿はまだあまりなさそうだし。

でも、アリーにはすでにこんなに頼りになる仲間がいるから、かなりラッキーなのでしょうね。

私の大学の先輩、開発の仕事でヨルダンにいます。もともとはシリアにいたんですが、現在ヨルダンの事務所に間借り中。友人や知り合い、そしてその家族に起こった事にとても心を痛めている様子をみると、やはり私たちは安全なところで高みの見物しているなあと心を痛めます。とはいえ、あまりの押し掛けぶりにヨーロッパ的には「もうやめて!」ってなるのもよくわかるし、本当に難しい問題ですよね。

きちんと正面から見据えて取り上げたけいさんの勇氣に惜しみない拍手を送ります。本当に。お話の中のアリーだけれど、幸せになってほしいです。
2016.03.14 Mon 05:12
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: そっか

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

時事的に2016年2月27日にシリア停戦が発効となり、ホント超タイムリーになりました(-_-;)
エピソードを練りはじめたところだったので、ちょい焦りました(汗)

アリーが日本に飛ばされたのは、ブローカーの適当な割り振りだったらしい(?)
いろいろググっていてアップするのに時間がかかってしまったのですけれど、いやこれ、まだまだ道のり長い情勢です。

おお。夕さんのお知り合いの貴重なお話をありがとうございます。
ご承知のように、とても大きな問題なのですが、ここは物語なので、アリーの事情だけにフォーカスしました。
停戦が発効となったので、アリーが難民として認定されるのはますます難しくなるかもしれないのですが、家族との再会、国への帰国をあきらめないで希望を持ってほしいです。会社の社長さん、アリーをよろしく。ってのが裏ストーリー(?)あ、これはもちろんフィクションです。(一応 -_-;)
微妙に身近でないトピックを身近に持ってこようとトライしたエピソードにコメありがとうございました^^
2016.03.14 Mon 12:49
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

軽いタッチの住人交流物語だと思っていたら、ここでぐっとリアルな展開になって来て、気を引き締めて読み直したところです。

やはり国際色豊かな顔ぶれ設定の裏には、けいさんのいろんな想いが隠されていたんですね。
アリーにそういう事情があったとは。
確かにこのところ難民問題は日本でもようやく取り上げられ始めて、一般市民もちゃんと考えなきゃいけない時期にきていますよね。

ヨーロッパの混乱ぶりを考えると、日本の頑なな対応が悪いとは一概にいえなくて、なかなか難しい問題ですが、アリーのような子を救ってあげたい気持ちは当然ものすごくあります。
受け入れる、受け入れない、よりももっと根本的な部分で、その国に支援なり立て直し援助が出来る未来が来てほしいなあ。更に難しいけど。

ここに住む住人は大なり小なり、そんな事情を抱えていて、これから徐々に見えてくるのかな?なんて思いながら、続きを読ませていただきます。
で、この背の高いイケメンは??
2016.03.15 Tue 08:50
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

軽いの、好きなんですけどね。描くのは難しいですね。いあ、重いのもむずかしですけど。(^^;)
日本の難民受け入れは、システムだけにとどまらず、心情やら背景やらいろいろもあって複雑なんだろうなあと思います。

ここでは難民問題を描きたいわけではないのでどう伝わるかなあと心配だったのですが、limeさんに色々と読み取っていただけて嬉しいです。お隣には幽霊が住んでいるよ、というファンタジーの方が面白いのかもしれないのですが、私にはそういうのは描けず(><)(自分もそういうのを読むほうが楽しいかも)。お隣にはこんな人もいるよ、になりました(-_-;)。マイナーなトピックでコメントしずらいところ、ありがとうございました。

背の高いイケメンは、早速次回登場です。私は引き伸ばしません!^^ 
(ネタバレ→)過去物語にすでに登場済みの人なのですが、覚えていらっしゃらないらだろうなあ。(ちなみに、田島ではない)
2016.03.15 Tue 21:38
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

おっと、難民の人もいるのですね。。。。
かなりヘビーな状態ですね。
まあ、日本は結構厳しい国ですし、
難民の概念が薄い国家ですからね。
難民の許可が下りるだけでも日本は大変と聞きますからね。。。
アリーもどこで生活しても、穏やかに暮らせるのが良いのですけどね。。。
2016.03.19 Sat 12:30
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

こんな人もいるシェアハウスです。
背景はヘビーで大変ですが、アリーはすごく頑張っています。
実際問題としては、アリーのケースは認定には至らないのではと思います。
(たぶん? 停戦になっちゃったし。わからないけど)
制度的なことはどうしようもなく、ただ日々を一生懸命に生きていくだけですかね。

家があって食べ物があって平和でって、日本はホント良い国だと思います。
あ、Ausも能天気なくらいに平和です。ま、もちろん色々もあるけれど(^^;)
2016.03.19 Sat 14:42
Edit | Reply |  

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