オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

シェアハウス物語 10 ワンちゃんの折り紙講座 (1) 

「もう一回、やって見せて」

 リョウの真剣なまなざしが、ワンちゃんの手元を見つめる。ダイニングテーブルには、ワンちゃんとリョウの他に、宇宙とアリー。それぞれの手に折り紙。

「じゃ、おやすみ~」

 風呂から上がったムーカイが、テーブルの脇を素通りして二階に上がっていく。「おやすみー」と返事をしたのはワンちゃんだけで、あとの三人はそれどころではない。テーブルにへばりつき、手にある折り紙を折っては開いては頭をひねる。

「これ、そこまで難しくないよ」

 涼しげに言うワンちゃんに、それぞれが薄く恨めしそうな視線を流す。「これ」とは紅の部屋にあった折り紙飛行機の作品のことである。

「え!? あの飛行機、ワンちゃんが作ったの!?」と素っ頓狂な声を上げて宇宙が海老のようにのけぞったのがつい先ほど。

 紅の部屋にあった飛行機が、今はダイニングテーブルの上にある。

「私もこれ欲しかったなあ」

 まだ作業の途中、アリーが宇宙の飛行機を摘み上げる。「ブーン」と言いながらスイとそれを空中に流すと、“Welcome”の垂れ幕が揺れた。

「ヒューバババババーってのが空爆」
「それアリーが言うと、冗談でなくなるでしょう」

 ワンちゃんの困り顔が、みんなにも移る。

 飛行機は、現から頼まれたワンちゃんが、新入居の宇宙を歓迎する意味を込めて作ったものだった。

 宇宙のときだけでなく、新入居者が部屋に来る度に、ワンちゃん作の歓迎の折り紙作品が贈られてきたのだという。

「アリーのときは?」

 宇宙が興味深げにたずねる。

「私のは魔法使いです。ありえない精巧さですよ」
「見たいなそれ」
「黄金の部屋に飾ってあります」

 リビングや書斎、この家のあちらこちらにさり気なく置いてある折り紙は、全てワンちゃんの作品だった。

「ソラの飛行機は新作だから」
「これ、ワンちゃんのオリジナルなの? すごいね」

 宇宙が改めてワンちゃんに尊敬のまなざしを向ける。

「折り紙っていうのはね『折る』だけがスキルじゃないの」

 ワンちゃんの言葉で、皆それぞれの作業に戻る。テーブルを囲み、次なるワンちゃんの指導を待つ。

「例えば、鶴。日本の代表的な折り紙だけど、実はすごく難しいよね。簡単には鶴にならない。いくつもあるプロセスを、順番に積み重ねて折っていく。

 ポイントは、鶴の完成形をイメージするのと、途中の出来上がりやバランスをよく見ながら、一つ一つ丁寧に進んでいくこと」

 ワンちゃんが目配せをする先にあるのは、今まさに完成形としてテーブルの真ん中にある宇宙の飛行機。自分たちの手元にある折り紙が、その完成形に到達するにはもう少し時間が必要だ。

 次のステップを見せてくれるワンちゃんの手元をガン見した後、折り紙という戦場でほふく前進する折り紙戦士にでもなったようにテーブルにひれ伏す。

「『完成形をイメージする』というは、ゴールを見ることなの。そこに到達することが大きな目標になるし、モチベーションにもつながるでしょ。

 完成をより確実に持っていくためには『途中の出来上がりやバランス』がすごく大事。どんな折り紙も、一気にうまく仕上がることはないの」

 ワンちゃん隊の隊長の言葉が、テーブルを伝うように広がる。

「ワンちゃん、これで良い?」
「見せて・・・うん、良い感じ」

 ワンちゃんの褒め言葉に、リョウが「やった」と自分の作品に満足して目を細めた。

「リョウはCMでパイロットもやったこともあるから、これ良いかもね」

 リョウは「うん、ありがと」と、将軍から勲章でももらったような感謝に満ちた笑顔を見せた。

「もうダメ」
「アリー、あきらめちゃだめだよ。ここ大事なところだから。うん、まあまあできてるよ」

 ワンちゃんが援護射撃を出すように、アリーの飛行機を手に取る。

「これみたいにちょっと難しい折り紙をやっていると、途中で必ず、すごく難しい部分に当たるときがあるんだよね。

 そのステップは、折り進めていく途中の『ここぞ』というところにあるの。ここを越えなければ先に進めないという大事なところでね。はいこれ」

 くちゃくちゃだったアリーの飛行機が、魔法の修理を受けたようにピンとなった。

「その山越えみたいなポイントが上手く折れたら、後はラストまで簡単。ちょちょいだよ」

 誰にでもできる、というようにワンちゃんはサラサラと語る。ラストは自分でやるようにと返されると、アリーは本物の魔術師を見たかのように目を丸くした。

「完成形をイメージ、バランスのチェック、『ここぞ』に気合い・・・」

 アリーの横で、自分の手元を凝視する宇宙が、念仏を唱えるように繰り返す。

「ただいま」

 ニコールが帰ってきた。

「Wow. Hi, Ryo. How are you?」

 ダイニングにいるリョウにすぐに気づくと、ニコールは両手を広げた。リョウが席を立ち「Good. How’re you?」と軽くニコールとハグをする。

 その流れがとても自然で、宇宙は折り紙の手が止まってしまった。ハリウッド映画のワンシーンでも見るように、目をうっとりとさせる。

「あ、ソラの飛行機だね。リョウ、テツオリ(徹折り)しに来たの?」

 けれども、次の瞬間には日本語モードとなるニコール。宇宙のうっとりモードが蹴散らされる。

「いや、徹夜はしないけど」

 ワンちゃんに教わりに来たとリョウが答えると、ニコールも早速この会に加わった。

「みんなでよくテツオリするの?」

 宇宙がたずねる。「たまにね」というのが日本語達者なニコールの返事。

 自分ができるだけでなく、出演する番組では折り方を教えなくてはならないというリョウが、ニコールを相手に指導の練習を始めた。

「現さんは? ミーティングどうなった?」

 折り紙をしながらも、ニコールはそのトピックが気になる。ワンちゃんが上手く要約して結果をニコールに伝えた。

「現さん、ムーカイからインド風炊き込みご飯のビリヤニを分けてもらって、機嫌良く帰って行ったよ」
「良かった~」
「ニコール、現さんに論文送ったんだって?」

 アリーが振る。

「うん。英語のわかる現さんでも、短時間であれを全文読むのは大変だっだはず。我ながら名論文だったわ」

 ニコールは、作戦が効果を成したことを確信するようにニッコリした。

 ニコールの折り紙スキルは男性軍よりもずっと上手のようで、おしゃべりをしながらも器用に折っていく。

 最後、「ここぞ」を越えて現れた完成作品のなかなかの出来栄えに、ニコールのブルーの瞳がキラリと嬉しそうに輝いた。

「今日は良いもの教わったよ」
「見た目より簡単でしょ」

 リョウが感動してワンちゃんに礼を言うと、ワンちゃんも役に立って嬉しいというように目を細めた。

「ワンちゃん、良い趣味してるよね」

 宇宙がいかにも感心した風に言う。

「ソラ、甘いなあ」

 ニコールが横から軽く宇宙の頭をひとさし指で突く。それに逆らわず、宇宙はゆるりと頭を揺らした。

「ワンちゃんの折り紙は、趣味の域を超えてるんだよ」

 ニコールが「ね」とワンちゃんに目配せをすると、ワンちゃんがまた眉毛を八の字に下げて困った顔をする。

 ニコール曰く、ワンちゃんは、いわゆる折り紙コンクールの類はもちろん、フリージャンルのアートコンテストでも何度も優勝・入選していて、一部アートの業界では有名人なのだという。

 その話に宇宙はまた首を伸ばすと、どこから出たのか分からないような音階の声を「へえ」と上げた。



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Comment

Name - あかね  

Title - 手つ折り

「徹折」って「てつおり」と読むのでしょうか。
「てつせつ」とか? 哲雄利……哲説、だとか、漢字シャレをやってみました。

そういえばパソコンって変な変換をしますよね。
「半にゃ」を思い出してしまいます。

と、折り紙の苦手な私は話をすり替えようとしております。v-12
シェアハウスで飯炊きおばさんをして、折り紙、教えてもらおうかな。
2016.04.23 Sat 01:49
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 手つ折り

あかねさん、コメントありがとうございます。

ぷぷ。「テツオリ」です。本文ちょっと直しときました。
哲雄利がスポーツ選手の名前みたいでカッコ良いです^^

コンピュータは妙なところで妙に賢くて笑わせてくれますよね。
準備のないところで予告なく出されると爆ります^^

折り紙よりも飯の方がお腹いっぱいになりますね。
ごはんの面倒を見てもらえれば、冷蔵庫に入れる物に名前を書きまくる手間も省けるかも?
2016.04.23 Sat 11:08
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Name - lime  

Title - ワンちゃん講座

今日はみんなで折り紙に挑戦なのですね。
私も混ざりたい~^^
折り紙は鶴と簡単な飛行機しか折れないけど、きっと綺麗にできるまで頑張ると思う!

でも、自分で創作って絶対に無理だろうなあ。
完成系を描くことができない><
絵とかだったらイメージできるんだけど、立体は・・・。頭の構造が違うんだろうなあ、ワンちゃん。

ワンちゃん、折り紙作家として、充分やって行けそうですよね。
でも他の特技もありそうだし。
一芸に秀でた人って、いいなあ><
2016.04.23 Sat 18:44
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

折り紙は確かに日本の文化ですよね。
・・・って、私もあまり海外で行動してないので、折り紙が文化なのかどうかさっぱりなのですが。
しかし、こういうシェアハウスだと折り紙で交流というのもあながち間違いではないでしょうね。
2016.04.23 Sat 20:38
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - ああ

こんにちは。

ワンちゃん、尊敬します。
折り紙、知っているのを折るのと、創造するのは全っ然違うのですよね。
私は、小学生でも折れる鶴とかやっこさんとか、騙し舟とかその辺までしか折れなくてけっこう悔しい思いをしています。

あ、でも、最近、ハサミが必要ですけれど、クリスマスツリーの作り方を覚えて、けっこうあちこちでウケました。

海外で折り紙の技術はほとんど必須科目ですよね!

でも、徹折り、私には無理かも!

宇宙はもう飛行機、習得しちゃったんでしょうか。いいなあ。
2016.04.23 Sat 21:54
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ワンちゃん講座

limeさん、コメントありがとうございます。

limeさんも折り紙に混ざってくださいな^^
うんlimeさん、器用そうなイメージ。
鶴ができれば、結構色々なのが行けるはず!

創作はホント大変そうですよね。凄いんだろうなあ(想像できない -_-;)
いやlimeさん、絵ができれば十分凄いですから!

ワンちゃんは、折り紙でやっていきたいみたいなんですが。
この一芸に関しては凄いらしい・・・
けど実際、やっていけるんですかね。アートの世界も厳しそう・・・
2016.04.23 Sat 22:19
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

折り紙はOrigamiで通じます。
オージーはへたっぴいです(^^;)

共同生活では、飲んだり食べたりの交流が多そうですよね。
でもまあお話の中ではちょっと変わった交流があっても良いかなと。
2016.04.23 Sat 22:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ああ

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

> 折り紙、知っているのを折るのと、創造するのは全っ然違うのですよね。

そうそう。全っ然違うんですよね。創作はやっぱりすごい。
昆虫とかキモ凄いって感じです(笑)
私は以前は本を見ていましたが、今でも本は見るのですが、Youtubeで学ぶという方法も覚えました。

たまにですけど珍しいのを作ると受けますよね。難しそうに見えて簡単なやつとか。
本がなくてもパパっと作れるレパートリーを持っていたいなあ。

ぷぷ。徹折りは無理でも徹書きならいけるかも?
2016.04.23 Sat 22:53
Edit | Reply |  

Name - 甲辰  

Title - No title

リョウになりたいけどワンちゃんにもなりたいのであります。

このシェアハウスに入居したいのであります。
2016.04.24 Sun 12:18
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 甲辰さん

コメントありがとうございます。

ふふ。甲辰さん。ラウンジヘブンが甲辰さんの夢を全て叶えてくれるでしょう。
ワイングラスのディスプレイがすでにワンちゃんレベルかもですよ。(イミフ?)
甲辰さんにはどの色の部屋がマッチしますかね。
2016.04.24 Sun 15:08
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - お

折り紙ですね。ワンちゃんはそんな特技があるんだ! そうそう、これって奥深いんですよね。極めるには、平面のものを頭の中で立体化する特別な能力が必要ですよね。
でも、簡単なものでも「折り紙の折り方」って本を見ても、すぐに立体化できない私は、解読ができないことがあります。平面の本に書いてあることが理解できない? ワンちゃんに教えてもらわなくちゃ。私もシェアハウス折り紙教室に参加したいわぁ。
仕事では二次元内容を脳内三次元展開することが必要なことがよくあるんだけれど、最近は脳内じゃなくても実際に物質で3D化されるようになってきたから(3Dコピーとかで)、折り紙の世界も変わるのかしら。
いや、折り紙はあくまでも職人技が光る世界のままであって欲しい。けいさんも、もしかするとオージーたちの中ではワンちゃん級?

宇宙はまだまだみんなの中で右往左往、というのか、まだまだみんなのことを十分に知っていないから、今まさにこのシェアハウスをサーフィン中~って感じですね。少しずつみんなを知っていて、新しい発見があって、ちょっとだけ何かが変わっていくのかな。
2016.04.26 Tue 01:12
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Name - けい  

Title - Re: お

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

折り紙は奥が深いです。でも、基本は単純に楽しむとことにありますかね。
極めるのはワンちゃんにお任せしましょう。
はい^^大海さんも、是非折り紙教室の仲間に^^
お仕事で二次元を三次元化するとは。ますます、大海さんのお仕事って何だろうと。
うん。3Dコピー機を持っている同僚がいて、ちょっと見せてもらったことがあります。あれは賢い。

もしかして機械がなんでもやってしまう時代に、職人技とか手による良いこととかがなくなってしまうのかなあと思いきや、Youtubeなんかを見ると、どっこいアナログで凄い技を披露している若者がたくさんいて、将来大丈夫だろうと安心しているYoutubeチェッカーがここに居ます。いや、手わざ、ホント凄い。しかも、若い!
オージーは私の鶴ごときでOH(@@)となってくれます(^^;)

宇宙のことを気遣ってくださってありがとうございます。
遅筆でお話が進まないのですが、宇宙にとってはまだ入居二日目。(昨日来たばっかり・・・)
サーフィン中~です(-_-;)
ボーっとしている子ですが、少しずつみんなのことを知っていきます。
いや、大きなことは起こらないです(><)
2016.04.26 Tue 17:50
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