オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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シェアハウス物語 14 良晴(1) 

「どうしたのそれ? ハンサムが台無しじゃん」

 マスターが、良晴の鼻先を指差した。筋の通った形の良い鼻には、横一文字に赤く走る傷があった。

「シャミーにやられた」

 良晴が目を細めて照れくさそうに言う。

「へえ。新しい彼女はガイジンなんだ」
「ちょっと、マスター、違うって。彼女とかガイジンとかって何?」

 良晴は紫の瞳を大きく瞬かせて、手と首を左右ちぐはぐに振った。

「じゃあ、シェアハウスの新しい住人? 部屋空いたの?」
「住人じゃなくてネコちゃん。門のところに捨てられていたのを、ワンちゃんが拾ったんだ」

 良晴は「ほれ」というように色白の手の甲をマスターに向け、いくつもある赤いひっかき傷を見せた。「ほう」とだけ軽く返して、マスターは良晴にブレンドを出した。

「良晴くん、大学を辞めてどうするの?」

 カップに口をつける良晴に向かって、マスターが話題を本題に戻す。

「仕事増やす」

 何の表情もなく、良晴が答える。

「仕事、順調なの?」

 マスターは、良晴の仕事のことを知っているらしい。良晴はこのカフェに良く来ているのか、マスターとはずいぶん親しい。

「ん。まあまあ」
「ね、ね、良晴くんの仕事って何?」

 下げ物を手にカウンターに入ってきた宇宙が、言葉尻をキャッチしたのか、話題に突っ込んできた。入れ替わるようにマスターがレジに向かう。

 どうしてだかわからないけれど、宇宙は良晴の仕事が何なのか、今まで聞けずにいた。良晴とは昼夜の生活サイクルが違い、顔を合わせるのが難しかったせいもある。

「アート映像関係」

「へえ」と感心する宇宙は、良晴が元シェアハウスの住人でイケメン俳優のリョウとやけに仲が良かったことを思い出す。

「もしかして良晴くんも俳優とかモデルなの? テレビや雑誌で見かけないってことは、舞台? それとも、ダンサーとか? 顔に傷作っちゃって大丈夫なの?」
「え、違うよ、宇宙くん。なんか凄い勘違いしてる」

 矢継ぎ早に繰り出される宇宙の質問に、紫の瞳が苦笑混じりの困った色を見せる。

「光アートのショート・ムービーをつくったりとか、最近はプロジェクト・マッピングとかをやってるんだ」

「へえ」と目を丸くする宇宙が、先ほどとは違うトーンで反応する。

「噴水ショーで水に光で色を付けたりしたこともあるんだよ。夢を見ているようなすごくきれいなイリュージョンだった」
「わあそれ、見たかったなあ」

 水物好きの宇宙はそれ系の話題には飛びつく。

「ねえ、良晴くん。例えばさ、滝にプロジェクト・マッピングするとしたらどうなる?」
「うわ、そのアイデア良いねえ。ナイアガラみたいな瀑布にやったら凄いだろうなあ」

 唐突に出された宇宙の企画に良晴が乗った。二人の目が空間に向き、それぞれにしばしの妄想シンキングタイムが訪れる。

「あ、良晴くん、大学辞めるって」
「うん。今までは学生アルバイトみたいな感じだったけど、これからは本格的にやっていきたいんだ。瀑布に光を当てるのは、きっと大きなプロジェクトになるよ。面白そう」

 新たな夢を見つけたように、良晴は紫の瞳をクルクルと回しながら大きく見開いた。

「宇宙くん、ビーフストロガノフとチャーハン、あっちにできてるから」

 マスターにポンポンと肩を叩かれた宇宙は、フロアに戻らなければならなかった。「あ~」と念を残すような声を出す宇宙に、ひらひらと良晴が手を振る。

「大学を辞めること、ご家族にはどう説明するの?」
「うーん、そこ、ポイントなんだよねえ」

 再びカウンターに入ったマスターが良晴に問いかける。

「話は?」
「話したら辞められないよ。阻止される」

 大学を続けることが、仕事をしても良いと実家から許されている条件なのだ。そうマスターは聞いている。

「実家にはどのくらい帰っていないの?」
「もうずっと。夜間に転部して以来ぜんぜん。夏休みもお正月もずっと仕事だし」
「そうなんだ」

 あくまで軽く、マスターは相槌を打つ。もちろん、良晴の個人的な家庭の事情には口を挟まない。

 その時、突然ファンタジックなハープの調べが鳴り出し、良晴がブラックジーンズのポケットに手を伸ばした。

「もしもし」

 良晴の携帯の音だった。

「わあ、姉さん。元気?」

 いかにも、久々に身内からの連絡という雰囲気。マスターが良晴から気をそらす。

「今? 出先だけど」

「めずらしいね」と言う良晴の声が玉のように弾む。

「いや、仕事じゃなくて、大学に行く途中。なに?」

 けれども、途端に良晴がギュッと眉間を寄せた。少し首を傾げて耳に神経を集中させる。さらりと前髪が目にかかり、表情が隠れる。

「っ……」

 携帯を手に声をひそめ、良晴が肩を震わせ始めた。マスターがすぐに、ただ事ではないことが起きたのかもしれないと察して耳をすます。

「いっかい切る。すぐにそっちに行くから。病院どこか教えて」

 良晴の言葉に、マスターは素早くペンとメモ紙を手に取り、カウンター越しに良晴の目の前に置いてやった。紫の瞳が感謝の意を表し、良晴はペンを手にした。

「え、間に合わないって……? そっち、どうなってんだよ」

 切羽詰まったように声を荒げる良晴を心配して、マスターがカウンターから出てきた。

『店のオフィス使って』

 素早くメモすると良晴に見せて、カウンターの裏の方を指差した。マスターを見上げる紫の瞳が潤み、親からはぐれて迷子になった子供のように困惑していた。

 携帯を耳に当てたまま、軽くマスターに頭を下げると良晴はカウンターのハイチェアから立ち上がった。

「ちょっと待って、姉さん。人のいないところに移動する」

 マスターに誘導される良晴は、気ここにあらずというような足取りでゆらゆらとカウンター裏に進んでいった。



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 (2)に続きます・・・


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Comment

Name - 夢月亭清修  

Title - 

ひー、なんだか不穏ですね……
何が起きたのかな? 良晴君どうなっちゃうんだろ……
怖いけど早く続きが読みたい!って感じです^^
2016.06.23 Thu 23:56
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 夢月亭清修さん

コメントありがとうございます。

大丈夫です。
このお話、ミステリーでもホラーでもファンタジーでもないので、異世界に飛ばされるとか、猟奇にさらされるとか、ないですから^^

良晴は、大丈夫。宇宙がそばに・・・いてもなあ~・・・
マスターがそばにいますから^^
けど続きはえっと・・・(2)です。ってだからいつ・・・(><)
2016.06.24 Fri 16:37
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - なんと!

こんばんは。

良晴はきれいだから、宇宙と同じように撮られる方かとおもっていたら、そっちでしたか。
そして、宇宙と意氣投合して夢を語る所まではとってもよかったのですが。
なんかとってもよろしくないニュースが入ってきた感じですね。
お姉さんからということは、ご家族に何かが?
「間に合わない」ということは、うるうるうる。

次回を心配しながらお待ちしています。
2016.06.25 Sat 04:11
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - お~

良晴くんパートですね!

そうか、私もモデルかなんかやってる人かと思ったけど、作る方の人だったんですね。
美しいアーティスト・・・むふふ。

プロジェクションマッピング、いいですよね。
いろんな可能性があって。
初めて舞台演出としてこれを見たのが10年くらい前かなあ。鳥肌立ちましたもん。
滝にマッピング、おもしろそう。

ふと、雲に投影したらすごいよね・・・って思いつきましたが、ググったら、いま研究中なんでってね。
見てみたいなあ~^^

でも流れはちょっと怪しい方向に。
何が起こったのか気になりつつ、次回をじっと待っています!


2016.06.25 Sat 09:19
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: なんと!

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

良晴は撮るほうでした。
実は裏設定があって、それを表に出そうと奮闘したのですが、出せそうになくて。
それが自分的にかなり悔しい(-"-)
今からでもまだできるか。頑張る。

お姉さんからということでご家族ものです(ネタバレ^^)
「間に合わない」んです。なにが・・・(具体的には次回)
良晴は大丈夫です。きっと。宇宙がついている・・・から・・・?
2016.06.25 Sat 10:48
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: お~

limeさん、コメントありがとうございます。

はい。良晴パートです!  
ワンちゃんの時もちょっと予定を越えて二話になったのですが、良晴も。
はい。作る方の人です^^ 美アーティストかあ~ 
limeさんから言われて、良晴喜んでる^^

なんとlimeさん、10年も前からプロジェクションマッピングのことを御存じだったとは。いいですよね~
雲マッピングは壮大ですね。凄い。研究進めてほしいですね。
プロジェクトマッピングとは違うのですが、先日、シドニーの夜空を光の集合体が渡り鳥のように舞う、みたいなショーをFBで見ました。どうなっているんだろう、どうやってるんだろうと興味は尽きません。

流れは・・・次回^^
流れはお待たせしませんが、更新は・・・(><)
(これでも一応頑張らずに頑張っている・汗)
2016.06.25 Sat 11:05
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - 

最近はアートの仕事も沢山増えましたよね~~。
CGとかで商売できている人もいますからね。
そういうので食っていくのもロックな感じで生きがいを感じそうですね。
そういえば、美術系専門のシェアハウスもあるって噂で聞きましたね。。。
みんなといることでアイデアが浮かぶってこともあるでしょうね。
2016.06.25 Sat 14:21
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

アートというと、絵描きさんのイメージがありましたけれど、様変わりしましたよね。
数えきれないほどの分野があって、人の才能と可能性ってすごいなあと思います。

おお。美術系専門のシェアハウスですか。ありそうですね。
うちはワンちゃんと良晴の二人がいます。学生も二人。
分野は違っても、共同生活を送ることで色々と触発されることがありそうですね。
2016.06.25 Sat 15:31
Edit | Reply |  

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