オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

シェアハウス物語 17 アリーの引っ越し(1) 

「とりあえず、乾杯!」

 ニコールが音頭を取る。

「とりあえずなの?」

 グラスを手にとぼけるのは、いつも宇宙。

「お祝いとはちょっと違うからね」

 解説するのは、いつもムーカイ。

「お祝いも含む、だけどね」

 補足は、ワンちゃん。

「ミー」

 シャミーも一人前に、テーブル脇で参加。アリーはニコニコ顔で、缶ビールを口にした。

 明日の朝、アリーはこのシェアハウスから引っ越しをする。これからは、勤め先電気工務店社長の家に世話になる。

 まだ実家にいる良晴は欠席だけれども、今夜はみんなでささやかな送別会。

「アリー、準備は全部終わったの?」
「うん、終わった。荷物少ないから簡単だよ。明日運び出すだけ」

 ダイニングテーブルの上には、ムーカイが腕によりをかけて作った豪華な料理、オーナーの現から差し入れの鮨樽、それと数々の飲み物が並んでいる。

 皆それぞれに忙しい毎日を過ごしているのだけれど、今日の送別会には参加できるようにと、仕事や用事に都合をつけて早めに帰宅した。

「ムーカイの娘さんは元気?」

 ワンちゃんの何気ない問いかけに、宇宙が「ムーカイ、子どもがいるの?」と目を丸くする。

「うん。娘二人。上の子は今年小学校に上がったよ」

 すぐにムーカイは携帯を取り出して、娘二人の写真をみんなに見せた。

「わあ、かわいい!」

 お祭りか何かのショットだろうか。インドの民族衣装のサリーを身に纏った女の子二人が、ムーカイと同じ黒く大きな瞳をこちらに向けて笑顔を見せている。

「こっちが長女のポネで、こっちが次女のジェズ」

 子どもたちがムーカイに似ているのか似ていないのか、宇宙には今一つわからなかったけれども、写真の中の無邪気な笑顔はとびっきりにかわいい。

「このかわいさは、民族も人種も関係ないね。シンプルに『こども』のかわいさだよ」

 携帯を覗くニコールのコメント。

「でも、会えないと寂しいでしょう?」
「そうだね。でもまあ、スクリーン上では毎日会って話してるし」

 国際電話の通話料金を気にするなど、いつの時代の話だろうか。今はテレビ電話どころか、クリアな映像でリアルタイム・コネクションの時代。便利な世の中になったものだ。

「今年でPh.D.(博士号)を終わらせて来年はインドに帰るから、それまで遠距離はもうちょっとの我慢」

 ムーカイは最近「リサーチが忙しい」とシェアハウスに居ても部屋で勉強していることが多かった。「今年で終わらせる」が口癖となっている。

「日本の生活は楽しいけど、本当は早くインドに帰りたい」
「かわいい娘ちゃんもいるしね」
「奥さんもね」

 ニコールとワンちゃんが同意する。

「家族と会えないのはつらいよね。家族が一緒に居ることは大事だよ」

 アリーが言うと、しみじみとした気持ちになる。

「日本が好きなら、会社作って日本で起業でもしたら? で、家族を呼び寄せる。ムーカイは知識もあるし、日本語も問題無いんだから、きっと成功するよ」 

 宇宙の提案に、「いや、インドに帰るよ」とムーカイは笑顔で首を振る。

「帰ったら、前の職に戻る。公務員」

 帰国後の去就は、すでに決まっているのだという。

「日本の留学は、インド政府から出された国費で来てるんだ。だから、帰ったら国に貢献しないと」

「へえ」と驚いたのは宇宙だけ。ムーカイがインドからの国費留学生であることは、他のシェアメイトは知っている。

 けれども、パッと見た感じ、ただの気の良いオヤジにしか見えないムーカイ。国費留学で国を背負って必死に勉強しているという雰囲気はない。

 実のところ、ムーカイは見かけによらず頭脳は抜群に優秀。大学での成績も、留学生のみならず一般学生も含めてのトップクラス。国から選抜されて来たというのにも納得が行く。

「インドは、人口も多くて格差も大きい。生活もそれなりに色々。国外に新しい生活や可能性を求めて国を出て行く人も多い。

 特に優秀な人材が国外に出て行ってしまうのは、国にとって大きな損害で、頭脳流出問題にもなっている。

 俺の友人の中にも、インドを出て海外で活躍している人がたくさんいる。インドを代表するような存在になって、俺にも出て来いって誘って来る。

 でも俺は、インドを離れない。国に居残って、インドという国を内側から盛り上げたいんだ」

 ムーカイは、淡々と話しながら器用にマイ箸を伸ばして、マグロのにぎりをつまむ。

「もちろん日本は大好き。食べ物もうまいし。日本に残って仕事をしても、メリットがたくさんあると思う。

 だけど、自分の国で、というところに俺はこだわりを持ちたいんだ。だから、できるだけ早くインドに戻りたいと思っている」

 宇宙のムーカイを目を見る目がすっかり変わっていた。大きな尊敬の気持ちを持つと共に「すげえ」と心の中でつぶやく。

「インドも広大で、日本に負けないくらい美しい国だよ」

 ワンちゃんは、インドとは隣国の生まれだ。

「乾杯!」

 アリーが、ここでやっと主役を取ったように明るく声を上げた。

「カッコ良いよ、ムーカイ」

 宇宙もうんうんと頷く。

「ムーカイの夢に乾杯!」

 アリーがビールを挙げるのにみんなで合わせた。

「シェアハウスの日々って、よく考えると案外短いんだね」

 今更気づいたように宇宙が言う。シェアメイトは、長くてもせいぜい数年でハウスを出て行く。アリーは、ほんの数か月だった。

「でもね。このシェアハウスでこうして暮らす時間、みんなとの出逢いと別れ、それは日本で過ごした思い出と共にかけがえのない人生の一部になるの」

 今のシェアメイトの中で一番長くここに住むニコールの言葉に、それぞれがシェアハウスで暮らす思いを馳せるようにドリンクを口にした。



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 アリーの引っ越し?
 

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Comment

Name - 城村優歌  

Title - 追いつきました!

長らくコメントできなくて、じれったい日々を過ごしていました。
これからは、ちゃんとリアルタイムで読める嬉しさを、追いついた今、しみじみと実感しています。
もうすごく楽しい! さすが、青春ドラマを描かせたら、けいさんの右に出るものはいない!と思うくらい、皆、生き生きとして、愛おしくて、会って全員にハグして回りたいくらい、今回の登場人物たち、出てくるたびに好きになってしまいます(変な文章ですが、興奮しているので許してください)。
良晴がミヒロと繋がった時とか、カフェにスクランプシャスが流れた時とかの感動は、またひとしおで。
けいさんの小説は登場人物が多いですが、皆それぞれに個性的で、個性に合ったエピソードが山盛りで、何を食べてもおいしい松花堂弁当のような豪華さで、続きが楽しみです。

まだどこへ向かっていくのか、わかっていませんが、地名がとにかく身近で、いとこや親せきが住んでいる場所の近くで、ものすごくリアルに物語を感じます。

続き、楽しみにしております!
ジャパンもエンジョイしてくださいね~♪
2016.08.17 Wed 00:18
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Name - けい  

Title - Re: 追いつきました!

城村優歌さん、追いついてくださって、コメントもありがとうございます。

優歌さんに楽しんでいただけて嬉しく思います。
私もみんなに優歌さんと会っていただきたい! 
全員にハグして回っていただきたい!^^
私もお逢いして、ハグしたいんだけど^^

優歌さんには物語をたくさん読んでいただき、キャラもかわいがっていただいて本当に嬉しく思います。
物語の端々でキャラを繋げるのは好きでやっています。
優歌さんのお口に合いましたら嬉しいですね^^
私も優歌さんのところの私のお茶飲み友達とはいつでもまた逢いたいです^^

物語をリアルに感じていただけるのはとても嬉しいです。
いつか、あそこにあれがあって、ここにこれがあって、というロケハンみたいなのをしてみたいですね。

続きは…この物語、かなり苦戦中(-"-)
もはや遅筆は得意技? でも、完結まで頑張ります。
ジャパンもエンジョイしま~す♪ (←描くのとこれは別腹?)
2016.08.17 Wed 20:12
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Name - 夢月亭清修  

Title - 

ああ、そうそう、インドの人って国外に職を求める人結構いるんですよね。
ブータンの本を読んだ時にそんな話があった気がします。
確かブータンは電力とかその他諸々、インドから輸入しているとかなんとかとくだりで。笑

そしてムーカイ、とっても優秀な人だったんですねw
本文でもありましたが、気のいい方くらいに僕も思ってましたw
是非、母国で頑張ってもらいたい!

このシェアハウス、最後には宇宙君だけが残ってしまいそうですね~…
また新しい住人が入ってくるのかな??
今後色々と楽しみです♪
2016.08.18 Thu 01:14
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Name - lime  

Title - 乾杯!

ここへきて、さらにみんなひとりひとりの夢や希望が見えて来た感じがしますよね。

ドラマなんかでシェアハウスがテーマになると、すぐ恋愛方向になっちゃって退屈なんですがw、ここのみんなが持ってる思いはでっかいし、グローバルだなあ^^

なんと、ムーカイにはかわいい子供がいたんですねえ。
パパムーカイは、だから余計に母国を視野に入れて、頑張ろうとしてるんだあ。
大丈夫、ムーカイならきっとエリートとして国を引っ張って行く存在になる!(でっかく出たが、そうなってほしい)

アリーともお別れでちょっと寂しいけど、またいつか、ぐんと大きくなって再会する日を夢見て、乾杯^^

2016.08.18 Thu 07:43
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Name - けい  

Title - 夢月亭清修さん

コメントありがとうございます。

Ausにもインドからの移民の方がたくさんいらっしゃいます。
中国・インドが1・2ですかね。
日本人は移民となると少ないです。観光も減っているし。

ムーカイは、国から選ばれ国に留学費用を出してもらっています。
日本には国費留学ってあるんですかね? 自費がメインなのでしょうけれど。

シェアハウスの滞在は、宇宙も最長4年だと思うのですが、どうでしょうかね。
途中から学友の岳雄と一緒に住むというオプションもあるかも?
シェアメイトの入れ替えは早そう?
その辺はオーナーの現さんの方が詳しい(^^;)

今後も更新遅くて申し訳ないのですが、よろしくお願いします。
(もう、半分以上は過ぎています。)
2016.08.18 Thu 11:24
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Name - けい  

Title - Re: 乾杯!

limeさん、乾杯とコメントありがとうございます。

恋愛~(-_-;)limeさんもよくご存じの通り、私は恋愛ものは描けないんですよ~(^^;)
だからドキドキするとかの展開がなくて、こっちの方が退屈なんじゃないかなあ…
それなのに、お読みくださりありがとうございます。

なんと、パパムーカイは料理も上手な良きパパ^^
意外にもエリート(!?)
日本には国費留学制度ってあるんですかね? ほとんどは私費だと思うのですが…?

アリーはシェアハウスからは引っ越しですが、引っ越し先はすぐ近く。
会いたい時はすぐに会える距離です。
アリーはまだ将来が不透明ですから、シェアハウスにはちょくちょく遊びに来て励ましてもらうこともあるんじゃないかな。
ということで、物語はまだ進んで行きます。ゆっくりとね(><)
2016.08.18 Thu 13:22
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Name - 八少女 夕  

Title - おお

こんばんは。

灼熱の日本はいかがですか!
こんな時に日本に行こうなんて、けいさん、チャレンジャーです。
私は、もう日本の夏は、無理かも。

さて、ムーカイ、そうか、自分の国に帰るために頑張っているのですね。
家族と幸せに暮らす未来をゴールに邁進する姿はとても素敵です。
国を出て行って家族を呼び寄せるという人生の変え方もあるけれど、自分の国のためになるようなステップアップをして帰るという選択肢もあるんですよね。

そして、アリーも未来に向かってステップアップ中。でも、シェアハウスを出るだけなら、また逢うこともできますよね。

良晴のその後も氣になります。続き、楽しみに待っていますね。あ、でも、せっかくの日本も楽しんでくださいね。
2016.08.19 Fri 06:22
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Name - けい  

Title - Re: おお

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

横浜は32度です。まあまあですね。
クーラーと仲良くしています^^

ムーカイは思った以上に頭が良くて、いろいろ考えている人でした。
私自身はAusにいるつもりなので、ジャパンごめん、ですかね。

キャラの一人一人を丁寧に見てくださってありがとうございます。
このシェアハウスはあくまでも分岐点的な位置にあるので、住人はどんどん流れていきます。
一旦ここに集まっても、メンバーはすぐ変わる。
一人一人の日常は同時にドラマ。色々な選択を繰り返しながら過ごしていく。
そんな中でどれだけの時間が過ごせるかが描ければ良いなあと思っています。

続きはねー…また忘れられた頃にぃ(><)
今はせっかくのジャパンを楽しんでいるぅ~(^^;)
10月に夕さんの滞在と重なるとなんか嬉しい^^
2016.08.19 Fri 13:34
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Name - LandM  

Title - 

新しい出会いがあれば、別れもある。
それがシェアハウスですからねえ。
送別会も何度もあるでしょうし、出会いも沢山あって良さそうですね。
こういうシェアハウス物語も書いてみたいですね!!

互いに夢もあっていいですね~~。
そういうのも夢叶から繋がっているのがいいですよね。
2016.08.20 Sat 13:49
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうなんです。それがシェアハウス・・・(-_-;)
最初は別れに感傷的になっていても、そのうちに慣れてあっさりするもんです。と思う(?)(あくまで想像)
いちいちお別れ会なんてやらないのが普通じゃないかな。(と思う…)

夢についてピックアップしてくださってありがとうございます。
一人一人には夢があってほしいなあと思って描いています。
夢叶で一回書き上げたのですけどね。もうずいぶん前となった(^^;)
2016.08.20 Sat 20:15
Edit | Reply |  

Name - たおる  

Title - 

いきなりここから読んでしまいました(^_^;)
でも読みやすくて楽しい雰囲気が伝わってきました!一から読みたいと思います!
ムーカイさんしっかりした考えがあって素晴らしいです。国を背負って立つ人物とは…是非お近づきに…(おい
ここのシェアハウスは優秀な人の集まりなんですね。自分で決めた未来に向かって進んでいく、ただなんとなく流されてるだけの私は耳が痛いです(^^;; しっかりしないとな。

また遊びにきまーす٩(ˊᗜˋ*)و
2016.08.20 Sat 22:05
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - たおるさん

いきなりここにコメントありがとうございます^^

まじすかあ。嬉しいです^^
ムーカイはやはり所帯を持つだけあって、大人です。意外ですが(?)
どうかお近づきになってやってください。

ゔ…なんかワンパターンかも(やばい感)
作者のお好みということで(><)
私もリアルは流れ流されております~^^

是非また遊びにいらしてくださーい^^
2016.08.21 Sun 08:41
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - 日本はいかが?

蒸し蒸ししていますが、楽しく日本ライフされていらっしゃいますか? 楽しい旅・里帰りとなりますように!
さて、今回、引っ越しとか、国にいつか帰るんだとか、あれこれみんなの事情が語られて、あ、そうかぁ、そういうことなのかお思いました。宇宙がこのシェアハウスにやってきてなんとなくまったりと日常が描かれていくものかと思っていましたが、それだけじゃなくて、ここは皆が立ち寄っては自分の世界へ帰って行く場所なんだなと思いました。そう、このお話のテーマというのか、世界がじわじわ見えてきたかなぁと。
一時的に皆が立ち寄る場所だけれど、また帰ってくる場所でもある。そんな世界なのかな。気持ちのよりどころにもなっていくんだろうなぁ~
宇宙もそのうちここを出て行く日が来るんでしょうし、そこから新しい世界にまたつながっていくんだろうな。でも今はまだまだシェアハウスのひよっこですね。
引き続き、楽しませていただきますね!
2016.08.28 Sun 14:05
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 日本はいかが?

大海彩洋さん、お忙しいところ、コメントありがとうございます。

ジャパンは暑いですけど、良い感じです^^
横浜から神戸を飛び越えて倉敷です(^^;)

おお。さすが大海さん。作者の意図するところを読み取っていただいてありがとうございます。
はっきりそうとは書けていなくてわかりずらいのに嬉しいです。

宇宙が強烈な主人公ではないので、お話のインパクトとしては弱いなあと悩みながらの展開で、苦戦しております~(><)

> 一時的に皆が立ち寄る場所だけれど、また帰ってくる場所でもある。そんな世界なのかな。気持ちのよりどころにもなっていくんだろうなぁ~

わ^^ やっぱり大海さんは分かってくださる~^^
そうなんです^^ そんな感じの物語が描けたらなあと奮闘中(-_-;)

宇宙はこのシェアハウスでどんな風に成長していくのでしょうかね。
そこまでは多分描かない。
ひよっこの今と比べたら面白そうですけどね。
お話は超スローで進んでおりますので、また大海さんが思い出した頃にお越しいただけると嬉しいです。

ジャパンはまだまだ暑そうですね。
大海さんもご自愛くださいね^^
2016.08.28 Sun 14:48
Edit | Reply |  

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