オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

三つの乾杯 1 二十歳の祝い(1) 

「乾杯!」
「里桜(りお)、二十歳の誕生日おめでとう!」

 この日。二人の兄たちから祝福され、大人の階段を一歩上がる。その先には、ティーンだった今までとはグッと違う新しい世界が待っている。

 五つ星であることををそのまま主張するようなネーミングの「ファイブスター・ホテル」で祝う、記念すべき二十歳の誕生日。

 ホテルの二桁階にあるラウンジレストランからは、夜になると大きな窓からそれこそ宝石箱をひっくり返したような都会の夜景が展望できる。

 ゆったりした優雅な内装に、バイオリンとピアノのライブ演奏。ソフトな照明がつくり出す雰囲気たっぷりのなか、心ゆくまでのリラックスを満喫できる。

 まさに記念すべき日に相応しい、高級ホテルで過ごす贅沢なひととき。

「崇(たか)にいも裕(ひろ)にいも知っていたなんてずるい」

 けれども、本日の主役である里桜は、普段は薄めで形の良い唇を今は形悪くブッと尖らせ、向かいの兄二人に遠慮なく文句をぶつける。

 末っ子の里桜にとって、二十歳になったことは、胸のワクワクどころか、心の底からふつふつと湧き上がる怒りでしかなかった。

 ビールのジョッキを挙げる兄二人の笑顔を無視し、里桜はピーチリキュールをメインにつくられたカクテルフィズをガボっと豪快にあおる。

「すみませーん。ピーチフィズ、もう一つう~」
「里桜、ここ、居酒屋じゃないんだから」
「飲む。今日はがっつり飲む。うちに帰れないんだし!」

 かなり荒れ気味の里桜を前に、兄二人は顔を合わせて「さてどうする」と言うように眉尻を下げる。

「あんのクソおやじ。ワケわっかんねえんだよ」

 脳天から恨み節がモヤモヤと浮かび上がるような里桜の様子から、父親との間でコミュニケーション不足が発生したことは明らか。そしてそれは、二十歳の誕生日がらみ。

「親父も毎回作戦を変えてくるなあ」
「一応学んでるってことじゃねえか」
「学んでなんかいねえよ。里桜がこれだもん」
「そっか」
「二人でナニごちゃごちゃ言ってんだよ!」

 里桜の荒ぶる怒りを鎮めるべく、すでに家を出て独り立ちしていた崇と裕の二人の兄が、里桜が今夜泊まるこのファイブスター・ホテルに駆け付けた。

 崇は長男で二十九歳。すでに結婚していて子どももいる。次男の裕は、三歳下で二十六歳、まだ独身。末っ子の里桜は、さらに六歳離れてご覧の通り二十歳を迎えたばかり。

 兄二人はそれぞれに頭の中で策を練るが、良案は思いつかない。肺の底から深くため息をつくばかり。

「アニキッ!」

 里桜が二人をまとめて呼ぶ。飲んでいるピーチフィズに酔ったわけでないはずなのに、大きなその目を稲妻のように血走らせる。

「絶対に逃さない」と言わんばかりのその迫力の視線を、「どこにも逃げませんから」と受け入れるように兄たちは構える。

 きっとこの時間までに、里桜は何度も泣いたのだろう。アルコールを口にする以前に、目の周りがほんのり赤く、ぼわんと少し腫れていた。

 里桜が泣いた理由、ここまで腹を立てている理由、兄たち二人はその理由を知っている。今ここで、里桜はそれを聞かなければならない。

「知ってることを何でも教えてくれ。ガキの頃からおやじにぶん殴られて、アニキたちのチ○コ見て育ったんだ。こう見えてもキモは据わっている!」

 里桜の言葉に兄二人が「あわわ」と慌てる。

「でかい声で騒ぐな、里桜。だからここ、ホテルなんだって。ファイブスター」
「そんなこと関係ねえだろっ!」
「あるよ。マナーってもんがあるだろ。周りのお客に気を使うとか」
「それに、前から言ってるだろう。お前、女の子なんだから、その言葉使いと……」
「チ・・とか言うな」
「うるせえ。そんなことはどうでも良いんだよ!」

 里桜は、ポニーテールにまとめ上げた長い髪の、その毛先をブンブンと揺らして息を巻く。

 里桜の普段のファッションは、どちらかと言うと、シンプルなカジュアルスタイル。得意のスポーツによって洗練された、手足の長いスレンダーな体型に良く似合う。

 クリームのような白い肌に、モデルのような小顔でありながら、化粧っ気なくすっぴんでいることが多い。

 そのため、クルクルとよく回る大きな目の下、頬の上に散らばる健康的なそばかすが化粧で隠れることがない。

 いつまでも少女であることを象徴するようなそのそばかすが、二人の兄たちにとってチャーミングな愛すべき妹なのだ。

 黙っていればキュートでかわいいのに、このガサツなしゃべり。加えて、お洒落なカクテルを手に堂々のチ・・発言。

 これでは、素行を見聞きした事情を知らない人たちから、どんな家庭に育ったのかと思われてしまっても仕方ない。



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 小説講座のお題(1)は、冒頭にギャップ(の要素)を持ってくる。です(汗 -_-;)


 ご訪問、ありがとうございます^^
 「三つの乾杯(Three Cheers)」に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 皆様が素敵な一日を過ごせますように。
 Have a nice day!
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Comment

Name - LandM  

Title - 

20歳の祝い~~。
いいですよね~~。
節目の年でもありますものね。
これ以上歳を食うとあまり祝い事ってなくなりますものね。
何はともあれ、誕生日に祝福されるのは嬉しいことで、
幸せなことですよね~~。
2016.10.14 Fri 17:07
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

自分の20歳を思い出します(^^;) LandMさんのは?

えー^^ いくつになってもお祝いですよ~^^

ほら、永遠の心の年齢もありますし(?)
2016.10.14 Fri 20:57
Edit | Reply |  

Name - 山西 サキ  

Title - こんばんは。

確かに「冒頭にギャップを持ってくる・・・」ですね。
里桜の素敵な描写と言葉づかいのギャップに一気に萌え上がりますね。
彼女に翻弄されている(或いは翻弄されたい)兄たち2人の様子もとても良いですね。
チ・・がとても効いています。吹いちゃいますよ。
何を知っている知らなかったで揉めているんだろう?
この素敵な兄妹の間にどんな隠し事?があるんだろう?
里桜、何度も泣いてるみたいだし・・・
先日のお詫びのために訪問させていただいたのですが、これは面白そう!
変なきっかけで申し訳ないのですが、このシリーズ、すこしづつ読ませていただこうと思っています。

そして神戸オフ会の日(11/1)山西先が失礼をいたしました。
TOM-Fさんから電話を受け取ってから、けいさんとはまったく面識がないことに気がついたんですって。他の皆さんとのやり取りで、けいさんとは旧知の間柄のような気になっていたんだそうです。いいかげんな奴です。
驚かせてしまってすみませんでした。
実はブログ「debris circus」の小説は2人の作者の共著なんです。Authorの山西左紀は共著作品のペンネームで、1人ずつ登場するときは山西サキと山西先の名前を使っています。山西サキの方は「オリキャラオフ会in浦賀」でコメントのやり取りをさせていただいたことがあったのですが、山西先の方はまったくでしたから。
サキはまだ若い方ですが、先の方はええ歳のおっさんです。
ほんとすみません。
お詫びしておいてくれとのことでした。
2016.11.13 Sun 18:45
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんばんは。

山西サキさん、コメントありがとうございます。

冒頭ギャップのお題はホント大変でした。
うーん。これでギャップになるのか、いまだに悩み中です。
兄妹の関係とその周りとの関係が徐々に広がってくるので、次ターンまでお待ちいただければと。
焦らさない方だと思うんですが…どうかな。
待てないよーと言う場合はエブリスタの方が進んでいるのですけれど、不定期に改稿改稿しながら進んでいます。
もしよろしければそちらも(^^;)

あー、お詫びだなんてそんなそんなですー^^
先さんとお話できてとっても嬉しかったです。
まあ、面識がないのはお互い様なのですが、それでもしゃべれちゃうのが不思議でしたね。
気の利いたお話もできませんで、こちらこそ失礼いたしました。
あ、お二人で一つの物語が出来上がっていくとは羨ましい環境だなあと思っていました。
そこんとこがなんかうまく聞けなかった。すみません(><)

はい。オリキャラオフ会でしたね。あんまり絡めなくて申し訳なかったです。
今後とも仲良くしていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願い致します^^
2016.11.14 Mon 13:57
Edit | Reply |  

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