オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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三つの乾杯 2 二十歳の祝い(2) 

「大体、アニキたちが知ってたってのもむかつくんだよ。いいから吐けよ。知ってること全部、今すぐここで吐け!」

 恐らく、今の里桜のイライラ・レベルは100のうちの100超え。計量器の針を振り切る勢い。ラウンジレストランで騒ぎ立てない代わりに、声を震わせる。

 確かに兄妹には、母親がいない、という事情があるにはある。男系家族であると言える。けれども、父親の育て方に決して間違いはない。

 それならば、自分たちの兄妹としての接し方に問題があったのだろうか。今更ながら、二人の兄は少しの罪悪感にさいなまれる。

 犬に育てられた子猫が、まるで自分のことを犬だと思っているかのように成長し、キリリとした顔つきで兄弟犬の間を練り歩く。

 人気の動画サイト でそんなショートクリップを見たことがある。子猫の身のこなしが、なんとなく里桜と重なる。

「失礼いたします。こちら、ピーチフィズでございます」
「はいはい」

 里桜が、ウエイターに向かってひらひらと手招きをする。そばかすのはじけた幼い笑顔が、居酒屋によくいる酔っ払いの大学生、そのまんまのノリだ。

 そんなマナー知らずを意ともせず、カクテルを手にしたウエイターが里桜に穏やかな微笑みを返す。

 グラスの中のほんのりとしたピンク色の液体をほとんど揺らすことなく、ウエイターは里桜の二杯目のアルコールをそっとテーブルに置いた。

 テーブルには、里桜の飲むカクテルの色に合わせたような、ピーチ色のバラの一輪挿し。

 それと、クリアなグラスの中のクリアな水に浮かぶフロートキャンドルが仄かに灯っている。

 そんなお洒落なテーブル・コーディネーションも、自分の身に起こっている不幸で頭がいっぱいの里桜にとっては、何のお飾りにもならない。

「ビールのおかわりもお持ちいたしましょうか」

 清潔な白いシャツに黒の蝶ネクタイ、細身のベストに細身のスラックスをスマートに着こなすウエイターが、姿勢良くその場にたたずむ。

「お願いします。あと、オーダーもお願いします」
「かしこまりました」

 年若いそのウエイターは、接客の礼儀について厳しく教育されたのであろう。自分の担当する客にはここで食事を楽しんでもらいたい、そのための心地良い時間と空間を演出するのが自分の仕事、とばかりに気持ち良く対応する。

 長男の崇が三人分のディナーをオーダーする間、次男の裕がこのレストランの雰囲気を伺うようにテーブルの周りをぐるりと見回す。

 すぐ隣のテーブルにいた中年女性四人のグループと目が合う。ファイブスター・ホテルのラウンジレストランに相応しい、セミフォーマルな服装で優雅に食事をしている様子。

 里桜の声と言葉が筒抜けだったのだろう。こちらをチラチラと見て、やや怪訝な表情を見せながら、おしゃべりに興じる。

 ゴシップ好きの仲の良いお友達同士、忙しい家事育児から離れてたまにはこんなところで食事も良いだろうという、そんな集まりだろうか。

 里桜を含めたこちらのテーブルのことを、「席を変えてほしい」とでも思っていないことを願う。そんな思いで裕は視線を別の方向へ動かす。

「それでは、ご注文を繰り返させていただきます……」

 女性のグループよりももう少し向こうのテーブルに、上品な老夫婦らしきカップルが見えた。何かの記念日なのだろうか。シャンペンを掲げてにこやかに乾杯していた。

 こちらを気にしていなそうな雰囲気に、裕はほっと胸をなでおろす。里桜の場違いな発言があそこまでは届かず、せっかくの乾杯がぶち壊しにならずにすんだと思うと、世界の平和が訪れたかのように安心した。

「ご注文は以上でよろしいでしょうか」

 煌びやかな都会の夜景をバックに、バイオリンとピアノの美しいデュエットが、ちりばめられた宝石の中を転がるように流れていく。

 里桜たちがレストランに入ったときには、すでにライブ演奏は始まっていた。

 クラッシックのみならず、ジャズやポップスのカバー、時には聴いたことのないアップテンポでノリの良いナンバーも演奏される。

 自分たちのオリジナルナンバーなのだろうか。堅苦しいところがなく、むしろ非常に心地良い。

 この高級感あふれるラウンジレストランの落ち着いた雰囲気にもぴったりと合っていた。

「里桜。俺たちの知っていることをちゃんと話すから、よーく聞け」

 長男の崇が、今まで一度も見せたことのないような真剣な眼差しで里桜を見つめた。次男の裕もグッと目に力を込めると、里桜と視線を合わせて大きく頷く。

 兄二人のただならぬ態度に、里桜はピキッと姿勢を正した。

「おっす」



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 一つ目の乾杯です。


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 皆様が素敵な一日を過ごせますように。
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Comment

Name - LandM  

Title - 

飲んでいる時って飲んでいるときの真剣さってありますよね。
酔った勢いってのもあるんだと思いますけど。
そういうのが伝わってきますよね。

しかし、ホテルで飲むと場違いになるような気もしますが。。。
いいですよね~~・。
ホテルで飲むっていうのも。
私には場違いすぎますけど、けいさんはよくホテルで飲んだりするのですかね?

2016.10.14 Fri 17:15
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

飲んでいるときの真剣さ、ありますよね~
家族同士なのでよけいかな…

ホテルで飲んでみたいですね~
誰と? って言うのありますけど…

私は居酒屋が好きです。
それよりも好きなのは、自宅ですね。
すぐに寝られるから(^^;)
2016.10.14 Fri 21:16
Edit | Reply |  

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