オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

三つの乾杯 5 再会の祝い(1) 

「乾杯」
「奇跡の再会に乾杯!」

 二人はタイムテーブル通りに、一回目のライブ演奏を終えた。二回目の演奏を控えているため、アルコールではなくコーラとオレンジジュースで乾杯する。

「相変わらずロマンチストね」
「だって、二十年だよ。感傷に浸っても許される」

 平日のホテルレストランは、客も少なくゆったりとしている。楽器の演奏者がラウンジの片隅で食事休憩をとっていても、特に違和感は無い。

 バイオリニストとピアニストの着くテーブルには、他のテーブルと同じようにバラの一輪挿し。このテーブルのバラは、鮮やかなワインレッド。

「バラは色が濃いと香りも強いのね」

 そんな根拠のないことを思いついたように言われても、言われた方はリアクションに困る。

 乾杯後の何とも言えない間が持たなくて、二人とも口数が減る。なんとなくテーブルにあるフローティングキャンドルの光に目を向ける間、ただ時間だけが流れていく。

 水面に揺らめくキャンドルを挟んで向かい合う二人を傍から見る限り、少しお洒落な格好をしたディナー客が物静かにテーブルに座している、そんな油絵をどこかで見たことがあるような気にもなる。

 唯人(ゆいと)は、黒いシャツに黒いパンツ、靴に至るまでコーディネートはとにかく黒。シャツの襟を越えるほどに伸びるロングヘアも綺麗な黒。

 首には、バイオリン演奏の邪魔にはならないのだろうかと思うくらいの数のシルバーのアクセサリー。

 向かいに座る遥(はるか)は、テーブルのバラと同じワインレッドのセミフォーマルドレスを身に纏う。

 ノースリーブで膝丈のシンプルなストレートスタイル。透き通るような白い肌に、テーブルのバラと同じワインレッドのドレスカラーが美しく映える。

 髪をふんわりとアップにまとめ、胸元には品の良い勾玉のようなデザインの小さなペンダントをつけていた。

 若干、二人に笑顔が少ないものの、飲み物がジュースでなければ、恋愛映画の一場面のようにも見える。

「リハーサルなしでも結構上手く行くもんだな」
「そうね」

 唯人の弾くバイオリンと、遥の弾くピアノ。合わせたのは実に二十年ぶり。

 コーラのグラスを手に、唯人が向かいの遥をじっと見つめる。その真っ直ぐな視線を受け入れることができずに、遥は窓の外の夜景に目を向けた。

 ウインドウビューのテーブルから見える都会の模様は、それを独り占めしているような錯覚に陥らせるほどに輝いている。

 その煌めく明かりをバックに、何曲演奏しただろうか。

 二十年前と同じように、唯人のバイオリンがリードし、遥のピアノがそれに合わせる。一つ一つの曲につけたアレンジを思い出す。二人でつくったオリジナルを思い出す。

 唯人の奏でるバイオリンの音は、二十年前よりもずっと成熟した迷いのない音となっていた。

「遥のピアノは全然変わらないね」
「そう? 成長が無いってこと?」
「そうじゃなくて」

 会話が詰まる。話すことがない。と言うよりも、何をどう話したら良いのか分からないと言ったほうが正しい。

 二人を隔てていた二十年という月日。やっとの再会。色々なことがありすぎて、まだ整理がついていないというのが正直なところなのだ。

 「お待たせしました。こちら、ほうれん草ときのこのラザニアと、カレー風ビーフストロガノフでございます」

 プレスの効いた白いシャツにタイトなベストをきちんと着こなす若いウエイターが、演奏前にプレオーダーしていたメニューを運んでくる。

 次の演奏までは、あと四十分ほど。そのタイミングを見越しての気の利いたサービスに、ホテル側からの思いやりと格を感じさせる。

 ラザニアが遥の前に、ビーフストロガノフが唯人の前に、旅客機がスムーズにランディングをするように音もなく置かれた。

「ごゆっくりどうぞ」

 ウエイターが去ると、唯人は肩を落とすように一つ大きく息をした。二十年ぶりの再会に、心がずっと震えっぱなしの緊張をしている。

 けれども、遥の方はこの再会をどう思っているのだろう。それがわからないことが、唯人にとってこの緊張感を一層張りつめたものにしていた。

 ふと目先を上げると、向こうの方で年配のカップルが、仲睦まじく笑顔で食事をしているのが見えた。

 自分も歳をとったとき、大切な人生のパートナーと笑顔でグラスを傾けていたい。もちろんそのパートナーとは遥のことだ。

 やっと見つけた。やっと逢うことができた。あれから二十年という時間が過ぎてしまったけれど、遅すぎることはない。これから遥との関係を構築していくのだ。唯人はそう何度も心に繰り返していた。



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 三つ目の乾杯です。


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 皆様が素敵な一日を過ごせますように。
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Comment

Name - LandM  

Title - 

個人的でかなり限局的なのですが、ビーフストロガノフは大好きです。
家庭料理で作っていて、いつも食べるときはウキウキしている記憶がございました。
う~~む、やはりレストランで食べるとまた違うのでしょうね~~。
高いでしょうけど、食べてみたいな~~。
2016.10.28 Fri 21:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

お。LandMさんは、ビーフストロガノフがお好きとは。私も^^
え、ご家庭でですか。いいなあ。
私はこういうのはレストランでしか食べられないものだと思っていたので、Ausで普通にお家にお呼ばれして、普通に出されたのをいただいた時は感動の美味さでした。

ちなみに、レストランでは食べたことないのですが、自宅で作ってみたことはあります。
家で十分うまかった^^
2016.10.30 Sun 09:43
Edit | Reply |  

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