オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

三つの乾杯 6 再会の祝い(2) 

「遥はどこの音大に行ったの?」

 とりあえず、差しさわりのない話題から。学歴ぐらいは、こちらから尋ねても良いだろう。心の中は汗をかきまくっていたけれども、表面は努めて落ち着きを払う。

「音大じゃなくて、国立大学の教育学部で音楽教育を専攻したの」
「へえ」
「両親とも教員だし、あんなこともあったし。教師にでもならなくちゃ、とんでもない親不幸だと思ってね」

 あんなこと……

「じゃあ、オーケストラ団員にならなかった俺は、相当な親不孝者だ」

 そう。「あんなこと」が全てのターニングポイントだった。

「お父さんとお母さんは、お元気?」

「父は校長になったよ。相変わらずの強面。母は少し病気したこともあったけど、今は元気。二人とも年は取ったかな」

 きっと遥の母親は、心労のために体調を崩したのだろう。自分のせいだと唯人は背負うものを感じる。今更、申し訳ないことをしたと顔を向けることなど許されないのだろうけれども。

 父親からは当時、とんでもない不良だと罵倒され、ぶっ飛ばされた。教育者としてというよりも、遥の父親として。

「唯人の方は?」

 唯人の家は、両親が別居だ離婚だと唯人が中学の時から落ち着かなかった。だから、息子の唯人がグレてしまう要素はあったかもしれない。

 高校に上がって両親がいよいよ離婚というとき、妹たちは母方へ、唯人は父方へと離ればなれになった。

 幼いころから唯人のバイオリンの指導をしてきたオーケストラ楽団員の父親が、唯人を手元に置くと言って聞かなかった。

 唯人は親同士の子供の取り合いに巻き込まれ、ただどうでも良いと心を閉ざした。

「俺は、あのあと家を出ちゃったから、親父がどうなっているは知らねえ。母親も妹も、もうとっくに縁は切れている」

 遥と唯人の縁も切れた。いや、切らされた。まだ若くて未熟だった二人が世の中という大海を渡って行くには、海を漂うプランクトンよりも小さく弱々しかった。

 以来、唯人はずっと一人で生きてきた。

「唯人の仕事は? 大変そうだね」
「そんなことないよ。ああ見えてすごく楽しいし、やりがいもある。おかげで遥を見つけることもできた」

 そう言って唯人は遥に笑みを見せる。けれども、遥は困ったように視線をずらす。この微妙なすれ違いが、二十年という隔たりのせいなのか、別に理由があるのか、唯人には分からず、掴みようのない不安となる。

「教員の仕事以外の時間はどうしてる?」
「家の雑事かな。あとは家でも、授業の準備とか採点とか事務処理とか。ピアノの練習はあんまりできないよ。唯人は?」
「俺はずっと遥を探していた」
「ウソ」

 遥に近づこうとするも、虫取りアミから逃れる蝶のように、はらりと交わされてしまう。けれども、今はアミをブンブンと振り回すのは策ではない。

 二十年。失われた時間を取り戻すことが目的なのではない。空白を埋めるとか、そんなことをしたいわけでもない。

「それと、有名になるための戦略をしてた。有名になれば、遥の目にも留まるかなって」
「確かにある意味、有名になったとは思うけど。あれ、人探しだったわけ?」

 唯人が目を細めて「うんうん」と大きく頷く。遥は事故にでも遭ったような、ついこの間に起きた唯人との再会シーンを思い出して苦笑する。

「バンドの人は、みんな良い人たちね」
「最高の奴らだよ。俺のやりたいことに協力してくれた」

 唯人がリードギターのヘビメタバンド「レッドバック・スパイダース(Redback Spiders)」が、バラエティー番組収録のために遥の勤める中学校を訪れた。

 その偶然が、いや、必然が、二人を引き合わせたのだった。



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 ここまでが冒頭かなあ……


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Comment

Name - LandM  

Title - 

20年も会ってないのですねえ・。。。。
私も数十年来の友達と会って、また酒を一緒に飲んでいますわぁ!!
昔の思い出って大切ですよね~~。
面白いですし、楽しいですし。
2016.10.28 Fri 21:33
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Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

おお。一緒にお酒、良いですね!
私も今回、今まで会えなかった方々とお会いして良い時間を過ごしています。
酒は・・・良い感じにほどほど^^

うん。思い出、良いですよね。
面白いですし、楽しいですし。ホント間抜けですしねえ~~(←私の場合は ^^;)
ノスタルジックに浸ることも今回経験中^^
2016.10.30 Sun 10:09
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Name - 夢月亭清修  

Title - 

なんと、メタルの人だったんですねw
アクセサリーは伏線だったのか………

今のところ二回で視点が代わっているので、次は最初の兄妹に戻るのでしょうか?
里桜ちゃんのキレてる原因が特に気になってます^^
あと、この二人の過去も……
続きが楽しみです♪
2016.11.01 Tue 23:59
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 夢月亭清修さん

連コメありがとうございます。

作者の都合により、メタルの人になりましたあ(^^;)
アクセサリーは…伏線…? いあ、ただのファッション…?

三つの話がワルツのように(?)回る(?)予定なので、兄妹に戻ります。
里桜ちゃんのキレてる原因は次回に(予告)
この二人の過去も追い追い…^^
続きは…滝汗なのですが、頑張ります♪
2016.11.02 Wed 12:53
Edit | Reply |  

Name - 山西 サキ  

Title - おはようございます

2人の間に流れた20年の歳月は、やはり2人の間にギャップを作っているようですね。男と女のギャップなのかも知れませんが、唯人と遥の会話には微妙なズレが・・・。
2人の出会いは未熟な故不幸だったようですが、20年後の再会はどうだったのでしょうね。遥は唯人の変化に驚いたのでしょう。あ、これもギャップかも・・・。
それぞれにまったくシチュエーションの違う3つの男と女の関係が、この後どのように絡み合っていくのでしょう。
それぞれに素敵な結末が待っていると良いんだけれど・・・。
2016.12.04 Sun 09:16
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Name - けい  

Title - Re: おはようございます

山西サキさん、コメントありがとうございます。

ここまでが冒頭です。
男と女のギャップ…おおなるほど。(気づいていませんでした><)
そうなんです。唯人と遥の会話の微妙なズレが、これからどうなっていくのか。
いろいろと察してくださってありがとうございます。
お、それもギャップか。なるほど(気づけ~><)
(書いている方は意外に気づかないもの…なのか? 不明>< 気づかせてくださったサキさんに感謝です)
二人の再会についても今後ゆっくりとお話していく予定です。

この後、三つの色々が絡み合っていく予定です。
それほど複雑ではない。はず。の予定。
結末まで、サキさんにご覧いただけますように…
遅筆遅展開になるのですが、どうぞよろしくお願いします。
2016.12.04 Sun 11:42
Edit | Reply |  

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