オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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シェアハウス物語 19 黄金の部屋にて(1)  

 宇宙は、天気予報を確認しないで出かけてしまったことを悔やんでいた。朝出かけるときは、青空が見えていたからだ。夕方六限の講義の途中から聞こえてきたザーという雨音に気付き、少しだけ何かに裏切られたような気持ちになる。

「コンビニで傘買えば?」

 こんな時はそうするのが当たり前だというように提案する桧山は、コンビニの世話になる必要はない。桧山はオンキャンパスの学生寮に住んでいて、傘を持たずに雨の中を歩いたとしても、濡れる時間は気にならないほどに短いからだ。

「シェアハウスに戻れば、スペアの傘なんかいくらでもあるのに」

 広い玄関の一角を思い出しながら、宇宙はぼやいた。けれども、戻る以前の事態が雨ザーザーでは意味がない。コンビニで新しい傘を買って、スペアのコレクションを増やすのも何だか気が引けた。

「カフェでマスターから傘借りようかな」

 何となく口にすると、桧山は宇宙に当てが見つかったと思い「おお、そうか」と目細めた。

 講義終了の合図と共に、講義室を後にする。エレベーターで一階まで降り、建物のエントランスまでは桧山と一緒にいた。

 夕刻であるのと雨雲が張っているのとで外は薄暗かった。雨は嵐のような大降りではないが、霧のような小雨でもない。

「じゃ、マスターによろしく」

 桧山は軽く手を振り、覚悟を決めたように宇宙に背を向けると小走りで行ってしまった。十分以内には熱いシャワーにありつけるはず。

 おいてけぼりの宇宙は、吹きさらしのピロティーの空間で思案した。カフェまでだって結構距離はある。それによく考えたら、六時も過ぎたこの時間、カフェは閉店していた。

 マスターは店を閉めたらさっさと帰る。見かけによらず四人も子どもがいて、家ではイクメン業が忙しいのだという。きっと良きパパなのだろうと簡単に想像できた。

「ま、いっか」

 宇宙は雨の中に身をさらすことにした。そんなこともある。この世の終わりというわけではない。

 大学は小高い丘の上にあり、駅までは緩い下りが続く。景色がだんだんと薄暗くなっていく中、自分の身が徐々にしっとりと濡れていくのを感じながら急ぎ目に歩いた。

 真冬ではないのだから、このくらいの雨、どうってことはない。いいじゃないか。これはきっと、恵みの雨。

 世界には雨不足水不足で困っている国だってたくさんある。作物が育たない、新鮮な水が飲めない。それと比べたら、雨に濡れることに感謝できる。

 大学では水の研究をしたいと思って意気揚々と入学した。まだ1年では研究のはしりにも至らないけれど、少しづつ情報を仕入れることには勤めている。

 見ているのは地球。世界の水事情は様々で、日本では考えられないほどに劣悪なところが多い。

 名水地を多く持つ長野県で育った宇宙は、水が綺麗で豊かな中に育ってきた。だから、中学生の時に見たドキュメンタリーに大きな衝撃を受けた。

 ナビゲーターの語る、日本から遠く離れた宇宙の知らない世界。あるエピソードの中では、飲料水として茶色く濁った色の水を飲むことが普通で、そのために起こる病気で子供たちは長生きできないというストーリーが。

 また別のエピソードでは、長年の干ばつで農業が継続できずに土地を手放さざるを得ず、家族を抱えて新たな職業を模索する元農場主のケースが語られた。

 アリーから聞いた難民キャンプのトイレ事情も、ものすごく興味をそそるものだった。すぐにでも何とかするべき。けれども今の自分に何ができるか。そんなジレンマを覚えた。

 まだ自分には、大きなことはできないかもしれない。けれども、もしかしたらいつかは、大きなことだってできるかもしれない。とにかく始めよう。水で世界を救う。目的意識だけは高いつもりだった。

 駅に到着して、前髪からこめかみから水が滴るほどに濡れたまま電車に乗った。空いている席もあったけれど、シャツもジーンズも濡れていたから座らなかった。

 びしょ濡れの宇宙をチラチラと見る傘を手にした乗客もいた。別に、悲しいことがあって泣きながら雨に濡れている、みたいなドラマの中にいるわけではない。人からどう見られようと、どんなことを想像されようと、宇宙には関係なかった。

 電車を降り、駅前のコンビニの前を素通りする。夕飯の食材は冷蔵庫にあるから心配はない。袋に名まえと紅の文字も太字で入れてあるから、ムーカイにカレーにされることもない。

 すっかり暗くなった道をシェアハウスに向かう。着いたらまずは風呂だ。良晴の入浴剤をこっそり使わせてもらおうか。前に「イイよ」と言われた、ラベンダーとミントの混ざったヤツ。風呂に浸かれることに感謝しながら。

 つらつらと、とりとめのないことを考えながら歩いていたら、シェアハウスまではもうすぐそこというところまで来た。

 それまで雨を避けて俯き加減で歩いていたけれども、向こうの方に玄関の灯りが見えてきたところでふと顔を上げた。

「あれ、良晴くん? やっと帰ってきたのかな」

 玄関に上がる門のところに人影が見えた。けれども、シェアハウスに入っていく様子はなく、ただ佇んでいる。宇宙は目を凝らした。良晴だったら、もっとずっと身長があるはず。

 近づくにつれ、人影が女の子に見えてきた。宇宙と同じように傘を持っていない。チュニックにパンツ。不揃いにばらけて伸びた髪の毛先が、雨に濡れたしだれ柳の葉のようにしっとりと下を向いていた。

 顔はゆるりと前を向いている様子。シェアハウスに用事があるなら、門にある呼び鈴のボタンを押せば良いのに、両手は脱力したように体の脇にあった。足元を凝視する。女の子が素足だったからだ。

 親に怒られて家の外に放り出された子供、よりも年齢はずっと上のようだ。高校生ぐらいという印象。宇宙は歩幅をせばめながら女の子に近づいた。



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Comment

Name - 大海彩洋  

Title - わ

再開ですね~。けいさんの日常もようやく元に戻ってきたのかな。
そうかぁ、宇宙の決心がなんだかまぶしくっていいですよね。いろんな場所の環境問題に水は大きく関係していると思うし、身近でも水の問題には敏感になることが多いです。衛生問題の第一に水があり、産業でも水が一番にある。発展途上国で医療協力なんかよくやっているけれど、先に衛生問題があって、それを解決するだけでずいぶん病気は少なくなる。宇宙の夢が形になりますように!と思いました。
で、今回は、謎の少女の出現ですね。誰かの関係者かしら。それとも新しい同居人候補?
もう少しで最終話といながら、まだまだ一波乱ありそうな予感。引き続き楽しみにしています(*^_^*)
2017.01.28 Sat 10:35
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: わ

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。
やっとです~(^^;)

Ausも水事情を抱えていて、シャワー時間が短いのは結構有名な話です。
うちの周りは農業の地域なので、皆さんお天気話には深刻です。
そんなところからトピック持ってきました。
ジャパンで温泉に浸かれたのは至福でした^^

物語の最終話ではあるのですが、(1)(2)…と少々長めです。
少女は…まだ言わないよ~ん^^
マイペースの日常に戻りつつあるのですが…(-_-;)、引き続き、宇宙と仲間たち(?)を見守っていただけると嬉しいです (*^_^*)
2017.01.28 Sat 12:43
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Name - 夢月亭清修  

Title - 

謎の女の子登場ですね!
裸足に濡れた髪……ちょっぴりホラー要素……そんなわけないか。笑

水気は体にわるい。二人とも風邪引くぞ~……
2017.01.31 Tue 15:43
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - 

あー、なんだか大学生時代を思い出したなあ。
あれあれ。大学生はコンビニ傘のお金もケチりたい。
外聞も気にせず行動できる。
全てに解放されて行動できるっていうか。
そういうところがなんだか懐かしいって思いましたね。

社会人になったら濡れて職場に行くわけには行かないし、
コンビニ傘の値段なんて匙なものですからねえ。。。
2017.01.31 Tue 17:29
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - おお?

シェアハウス、再開ですね!
(って、いつも来るのがおくれてごめんなさい><)
宇宙にとっては、水って、これからずっと向き合っていくかもしれないテーマ。
雨には濡れちゃったけど、そこにもいろんな想いが広がるんですね。
日本はまだ潤っていて(水には)、つい見逃しちゃいがちですが。
これからのお話は、そんな宇宙のテーマとも関係していくのかなあ。
・・・と、ここで女の子登場。
裸足?JK? きになる~・・・。
2017.02.01 Wed 07:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 夢月亭清修さん

コメントありがとうございます。

切れたところで謎っぽくなってしまいました(?)が、ちょいわけありの女の子登場です^^

> 裸足に濡れた髪……ちょっぴりホラー要素……そんなわけないか。笑

ぷぷ。ちゃんと生きてます^^ けど、そうですね。
暖かくしてあげないと、途端にホラー化してしまうかも(?)
いあ、書けない書けない…

最終話なので、アッサリ気味かも。
また覗いていただけると嬉しいです^^
2017.02.01 Wed 19:15
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

わー^^ そうですね。私も今頃になって思い出しました。
学生と社会人との微妙な違い…そう読み取っていただけてとても嬉しいです。

やっぱ、学生時代は良いなあ~
戻りたいような戻りたくないような複雑な気分になります…(遠い目 -_-)
2017.02.01 Wed 19:42
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おお?

limeさん、コメントありがとうございます。

やっと、再開です(^^;)
あ、ご訪問はいつでも^^
24/7 オープンしておりますので^^

この物語の中では宇宙のことを掘り下げて描くことはしない(できないとも言う><)のですが、宇宙はもしかしたら誰かの若かりし頃かもね、なんてちらりと思いました。
次回作にはならないけど、いつか描きたいかも。いや、今のところ予定はないです(-"-)
女の子はちょいわけあり。次回です(予告)。引き伸ばさないよん^^
2017.02.01 Wed 19:53
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - 

こんばんは。

コメントがすっかり遅くなってしまいました。
わ〜い、再開だと、真っ先に読んだのに!

水も滴るいい男状態。水が大好きな宇宙……だけど、ずぶ濡れはやっぱりそんなに好きじゃないよね。

でも、そうですよね。
日本に帰国すると、日本の水をはじめとする資源の使い方に「お〜い、それは」と思うことってありますよね。水資源は豊かなスイスよりも、時に過酷な状況になるオーストラリアにいらっしゃるけいさんは、もっとそのことを意識されるんじゃないかなと思ったりもします。

宇宙が出会った女の子は、はて。
かなりインパクトの強い出で立ちですが、どういう事情があるんでしょうね。
次回はそれが明らかになるのかしら。

楽しみにお待ちしますね。
2017.02.03 Fri 06:08
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 八少女 夕さん

コメントありがとうございます。

いえいえ。ちーっとも遅くなんかないですよ。恐縮です。
また止まってるし。仕事も再開だし(いいわけ -_-;)

水好きの宇宙、彼をもっともっと掘り下げてみたくなりました。
実は一番軽い扱いだったりした(すでに反省><)

そうなんですよ。ベースにはAusの生活もちらりと含まれています。
住んでいるのが田舎なので、余計にそうかも?

宇宙が出会った女の子の事情は次回です。
この期に及んで引き伸ばしはないです^^

物語を置いていた分、色々と反省や改善点も見えているのですが、今は物語を終わらせることに向かいたいと思います。
やっぱりのんびり更新になるのですが、また思い出していただけると嬉しいです^^
2017.02.03 Fri 09:47
Edit | Reply |  

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