オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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シェアハウス物語 22  捨て主(ぬし) 

 前夜は雨音の中で眠りについたけれど、朝は鳩の声に目が覚めた。

 紅の部屋は、窓が西側に面しているので、朝は眩しいほどに明るいという光は入ってこない。

 宇宙はセットした目覚ましが鳴る30分も前に目が覚めた。夕べのあれこれが気になって、少し早目にベッドに入ったせいかもしれない。身を起こしてさっと着替える。

 音を立てずに部屋のドアを開けそっと部屋から出ると、向かいに黄金のドアが見えた。黄金の部屋は東に面しているので、カーテンを開けるとクローゼットの中まで朝日が差し込む、と言っていたアリーの言葉を思い出す。

 メアリー・アンは、夕べよく眠れただろうか。ぼんやりとそんなことを思いながら、足音を立てないように階段を降りる。実はこれが難しい。

 一歩足を降ろすたびに、ミシッと僅かに木材のしなる音がするのだ。朝の静けさの中でこの音が空間にはじける。

 現が来る度に、この家が築何年なのか聞こうと思うのだけれど、いつもタイミングを外してしまう。自分の親の年齢よりはずっと古いだろう。いや、自分の祖父母の年齢よりも古いかもしれない。

 この家は古いが、それはボロいという意味ではない。古く立派な建物であり、その佇まいからは、重厚な歴史を感じる。

 現役で人の住まいとして機能していることに驚きさえ感じる。現の施すこまめなメンテナンスに依るところが大きいのだろう。

 階段下から短い廊下を通ってキッチンに入る。シンクが水に濡れていて、リビングに人の気配があるのに気づいた。コーヒーテーブルに、水の入ったグラスが見える。

「おはよう」

 声をかけるとリビングのソファにいたメアリー・アンが「おはよございまあす」と振り返った。笑顔であることに安心する。

「俺は宇宙。よろしく」
「あ、はじめまして。私はメアリー・アンともうします」

 夕べのことはあまり覚えていないのかもしれない。「はじめまして」を複雑に受け止めながらもなるべく自然に笑顔を返す。

 メアリー・アンの顔は腫れが少し引いて、夕べは赤かったところが青くなっていた。人の顔は時にドラマチックに赤くなったり青くなったりするけれど、メアリー・アンのようなドラマには心が痛む。

「よく眠れた?」
「はい」
「朝ご飯は?」
「はい」
「食べる?」
「はい」

 一瞬「あれ?」と思うが、続けて聞いてみる。

「何食べる? ここにはトーストもシリアルもあるし、夕べので良ければご飯もあるし、カレーも残ってるけど?」

 キッチンから声をかけるも、返事は「はい」としかない。はっとして、単語を思い出す。

「えっと、ブレックファースト?」
「はい。ごはん。みぞうしる……」
「みぞうしる? オッケー。ご飯と味噌汁ね」

 味噌汁とは意外な答えだと感心しながらも、冷蔵庫を開けて長ネギと豆腐を取り出す。朝の味噌汁くらい、まさに朝飯前。自炊にも慣れたものだ。もちろん、こうなるまでにはシェアメイトの影響が大きい。

 鍋に水を入れ火にかける。ねぎをザクザクと切っていると、ワンちゃんの「おはよう」の声がした。すぐにリビングのメアリー・アンに気づくと、ソファに向かう。

「メアリー・アンも起きてたんだ。おはよう」
「おはよございまあす」
「わ。シャミーちゃんもいるー。おはよー」

 ワンちゃんが両手でシャミーを抱き上げて、いつものように愛おしげに頬ずりをした。シャミーの「ニャー」が、ワンちゃんの耳の奥ではシャミーの「おはよー」に変換されているに違いない。

「この子、シャミーっていうんだよ」

 ワンちゃんは、取扱い注意の割れ物をパスするようにそっとシャミーをメアリー・アンに向けた。メアリー・アンが両手を差し出すと、シャミーも宙に両腕両脚をグッと伸ばした。

「シャミー。かわいい名まえ」

 メアリー・アンの胸に収まったシャミーが、心地良さそうに目を閉じ身を丸くした。

 ワンちゃんが「いい匂い」とみそ汁の香りに鼻をクンクンとさせながらキッチンに入り、フライパンを火にかける。

「宇宙もベーコンエッグいる?」

 返事を聞くまでもなく、ワンちゃんは卵を三つ、パリッと割った。

「メアリー・アン、できたよ」

 宇宙が声をかけ、三人はテーブルに着いた。ワンちゃんは早食いで朝食をすませ、さっと自分の食器を洗うと二階へ上がり、程なくして仕事に出て行った。その後も、宇宙とメアリー・アンはのんびりと朝のおしゃべりを続けた。

「みぞうしる、おいしいです。私は豆腐のみぞうしるが大好きです」
「良かったらおかわりしてね」

「はい」と返事をしたにもかかわらず、メアリー・アンはお椀を空にすると席を立ち、宇宙の分の食器も洗った。

 それからリビングに戻り、ソファで大人しく丸くなっていたシャミーを抱いて腰を降ろした。シャミーとメアリー・アンは今朝会ったばかりだというのに、やけに仲が良い。シャミーは人見知りをしない方ではあるのだけれど。

「メアリー・アンは昨日、どうしてこの家の前に居たの?」

 宇宙もメアリー・アンとは別のソファに座り、何気に訊いてみた。

「お元気ですか、と思いました」
「元気? 誰が? ここに知り合いがいたの?」

 同業者の二コールがパッと頭に浮かんだが、夕べの様子から思うに違うだろう。まさかの良晴かと宇宙の目が回る。

「私は四月にネコを拾いました。マンションはペット禁止でした。私は秘密にしました」

 宇宙はピンときたが、メアリー・アンの語りに耳を傾けた。

「スーパーでネコの餌を買いました。エレベーターの前で管理人さんが見ました。ダメダメ言って、とても怒りました。会社に言う言いました。とても怖かったです」
「そうかあ。でも、どうしてこの家に」
「わかりません。大きい家でしたから、なんとなく。会社の友達にネコを話しました。友達が手紙を書きました。手紙とネコを箱に入れました。家の前に置きました。ごめなさい」

 メアリー・アンは、大きな目を本当に申し訳なさそうに伏せた。宇宙は「いや、謝らなくても良いよ」と左右に首を振り目を細めた。

「会社は私を捨てました。とても怖くて悲しかったです。私はここに猫を捨てました。ネコも怖くて悲しかったか。思いました。ごめなさい」

 メアリー・アンは膝の上にいるシャミーに向かってこの「ごめなさい」を言った。

「安心してメアリー・アン。シェアハウスに怖い人は誰もいないし、シャミーは来た時からずーっとみんなにかわいがられているから」
「ホントごめなさいと、ありがとございまあす」
「最初に見つけたのはワンちゃんで、名まえは……」

 自分が言葉を噛んだことがきっかけとは言えず「みんなでつけた」と言うと、メアリー・アンは「シャミー、シャミー」とこんなに楽しい単語練習はないぐらの笑顔で何度も繰り返した。



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 元飼い主のメアリー・アンでした。

 ここまでやり直すのにどんだけ~(><)
 もしも待っていただいていたなら、本当にありがとうございます。感謝です。m(__)m


 ご訪問、ありがとうございます^^
 「シェアハウス物語」(”Share House Story”)に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 皆様が素敵な一日を過ごせますように。
 Have a nice day!
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Comment

Name - 夢月亭清修  

Title - 

待ってました!
そして、データの修復と言うか書き直しと言うか……本当にお疲れさまです><

メアリー・アンは誰と縁があってシェアハウスに来たんだろうと思っていたら、なるほど、シャミ―だったんですね^^
取り敢えず気持ちも落ち着いているみたいで良かった…続き楽しみにしてます!
2017.04.20 Thu 19:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 夢月亭清修さん

コメントありがとうございます。

待っててくださったなんて、嬉しすぎです~(T^T)
データは無くなってしまったので、書き直しです。
下書きのとは違った感じになりました。
↑たぶん。忘れた~~(><)

はい。メアリー・アンとシャミ―でした。
続き…話数少なく頑張ります^^
(早く終わらせたいとずっと前から言っているのに全然早くない><)
2017.04.20 Thu 22:35
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - 祝! 復帰〜

けいさん、こんばんは。
おかえりなさい!

そっか。これは消えてしまったデータの記憶をたどって書き直した部分なのですね。
もともとがどうなっていたかについても興味はありますけれど、でも、こちらが素晴らしいもの、きっとデータが消えていなくても校正後はこうなったことでしょう。

そして、そっか。たまたまここに来たのではなくて、シャミーを捨てたところだったからここに来たのですね。

シャミーも暖かく向かえてくれたけれど、メアリー・アンも暖かく向かえてくれるのが「シェアハウス・葦埜御堂」ですよね。でも、青あざは痛々しい。はやく見かけの傷も、心の傷も 癒えるといいなあ。

ご無理のない範囲で、でも、続きを楽しみにお待ちしています。
2017.04.21 Fri 02:44
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 祝! 復帰〜

八少女 夕さん、ありがとう~~^^

記憶なんていい加減なもので、消えてしまったものにこだわりもなかったので、また新たに物語と向かってみました。
だから時間もかかったけど…うん、こっちの方が良いと思います^^(多分)

メアリー・アンとシャミーとの関係設定は変わらずです。
メアリー・アンがシャミーをこの家に置いたのは正解でしたね。役所とかに持っていかれなかった…
さて、メアリー・アンもの(?)も落ち着いて(やっと)、この先の展開は早い…はず(汗)
いつもありがとうございます^^
2017.04.21 Fri 08:44
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - 

メアリー・アンがかわいい~~><
みぞうしるに、やられちゃいました! このカタコトがさらに可愛いです(*´ω`)

そうかそうか、そういうわけだったんですね。
シャミ―の事、ずっと気がかりだったんだあ。優しい子。

「お元気ですか、と思いました」とかもう、可愛すぎる~^^
こりゃあもう、シャミ―を超えるアイドルになりそう。

データを失くして再執筆(ていうの?)になったようですが、とても筆が乗ってる感じで読んでてとてもたのしいです。

この後も、大変だと思いますが、執筆&お仕事、頑張ってください♪
2017.04.22 Sat 09:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

カタコト、かわいいですよね。
ちなみに、オージーが日本語喋るときって、なぜかトーンが高くなるんですよ。
さらにかわいくなります^^ (オージー以外はどうなんだろう?)

そういうわけでした。
メアリー・アンは滞在日数少ないのに良くしゃべれましたがそこは突っ込まないでね(><)

再執筆でした。仕事物を優先させたのと、なくなったものに未練を残さないために間を開けた方が良いかなと思いまして。
すっかり忘れちゃったので、改稿ではなく新しいものになったと思います。たぶん。時間かかっちゃったけど。
limeさんに楽しんでいただけたなら嬉しいです^^
2017.04.22 Sat 11:07
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - しゃみ~

そうか、こんな経緯でシェアハウス前に捨てられた、じゃなくて、「この子をよろしく」されていたのですね。「大きい家だからなんとなく」ってメアリー・アンちゃんの嗅覚が素晴らしい。大きいだけじゃなくて、家自体に何かオーラがあったのかしれませんね。それをかぎつけて「ここだ!」ってわけで。
「はい」とかしか返事しないの、なんか「あるある」で面白いなぁ。けいさん目線でないと書けないお話ですよね。あ~なるほどなぁと思いました。
メアリー・アン、よい子ですね。自分が会社に捨てられて、捨てられた猫も自分と同じ気持ちだったンじゃないかと思う下り、うるっときました。
う~む、これはもう、彼女もここに住んじゃうしかないですね。
シャミー、ただの捨てられ猫じゃなくて、こんな経緯でここに来たんだぁ。

PCはほんと、大変でしたが、何とか日常は復帰できましたか。仕事の方は意外になんとかなるって事も多いけれど、小説の方はね……でもこういうときブログにアップしておくってことは役に立つんですね。一度書いた部分を書き直すって、なんとも言えない感じですよね。前と同じところを目指しても行き着けないし、よりいいのを書こうと思ってもなんか違うし。でも読む方は、そのエッセンスがぎゅっと詰まっているこの今のお話を楽しんでいますよ(*^_^*)
これからもがんばりましょう~
2017.04.23 Sun 10:15
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: しゃみ~

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

「この子をよろしく」←イイなあこれ^^ そうなんですよ。されていたのです^^
この家には人寄せ(猫寄せ)する何かがあるのだろうか…
(↑ホラーぢゃないっす。あ、オーラね -_-;)

「はい」オンリーは「あるある」ですよ。
英語で「イエス、イエス」のパターンもあるあるです。実話に基づく。

メアリー・アンにうるっと来てくださってありがとうございます。
良い子で健気な子なんですよ。真面目に頑張っていたのに……
痛くしちゃってごめんねです(><)

PCの方のお気遣いをありがとうございます。
仕事の方はまあ、何とか…なってもいないんだけど、仕方ないですかね。
小説の方は…これこそ仕方ない~~(T^T)
いつも励ましをありがとうございます~~ m(__)m

もうこれは、ほんの数名の貴重な読者の方に読んでいただいているコアな物語(?)なので、頑張って終わらせます。
あとほんの数話。2・3話(?)(描きあがっていないし><)
2017.04.23 Sun 20:59
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - 

ああ~~~~~
けいさん復活~~~!!!!
(ノД`)・゜・。
とてもうれしいです。
私の古参のリンク先なので、復活していると嬉しさ倍増です。
また、ウチのブログにも顔見せだけでもいいので、寄ってくださいませね。

そういえば。
手作りの味噌汁って最近作ってないなあ。。。
市販の奴つかっているからなあ。。。
市販の奴に豆腐を入れて完成!!
みたいなやつを食べております。
昔ながらの朝食なんて、もう何年食べてないことやら。。。
(-_-メ)
これもシェアハウスの強みですね。



2017.04.28 Fri 14:41
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます~~~!!!

もの凄くスローですが、何とか~~(-_-;)
LandMさんのスピードが羨ましい~~

うちも本日久しぶりにお味噌が手に入りましたあ(数か月ぶり^^)
お豆腐もわかめもないので、何にしようかなあ…
このシェアハウスは大きいのでとりあえずの物はなんでもある(?)

LandMさんのところにもまた後で寄らせていただきます~~^^
いつもありがとうございます!^^
2017.04.29 Sat 18:38
Edit | Reply |  

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