オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

シェアハウス物語 エピローグ 

 例年よりも梅雨が早く明け、例年よりも暑くなりそうな夏が始まっていた。昼前から気温がぐんぐん上がり、冷房の効いた大学の建物から外に出たくなくなる。

 前期の試験も終わり、宇宙は大学の掲示板でバイトを探していた。もちろんサイトでも探していたが、この掲示板にはローカルのよもやま話が集まる。

 地元レストランの割引など、様々な分野のお得な情報も時々上がるのでチェックをする学生も多い。

「サークルのイベント案内ばっかりだな」

 夏休みはカフェのバイトに加え、近場で集中的にバイトをすると決めていた。来年の春休みに友人の桧山と一緒に海外旅行に行く。

 火山巡りをしたい桧山と、河川巡りをしたい宇宙とは、何となく方向が合いそうだけれど、具体的にどこに行くかはまだ決まっていない。

「……シェアメイト募集?」

 A4サイズの紙に文字だけの印刷。その地味な張り紙に目が留まった。見た目は博物館にある展示物の説明書きのようだが、そこに書かれてあることは大いに気になる。

『一軒の家に、家族ではない者たちが一緒に暮らす。家族でもないのに家族のように集い、笑ったり泣いたりを繰り広げる』

 読みながら宇宙は、頬の筋肉がワクワクした気持ちを代弁するようにぷっくりと膨れるのがわかった。

「これは……」

 現が書いたのか。ムーカイが日本語の勉強のために書いたのか。良晴という感じもする。意外にニコールか、まさかのワンちゃんか。

『シェアメイトと語り合う時間、共に存在する空間、それらを共有するうちに、自分の家ではないはずのここが、自分の家となっていく』

 読みながら宇宙は、シェアハウスに住み始めてからのこの数か月のことを、猛スピードで思い返した。

 大きな出逢いでスタートした新しい生活。短い間にあった全てが、今も周りを取り巻き、体の中を流れている。お気に入りの音楽をずっと聴いているように、それが心地良い。

 宇宙の部屋は紅。だが紅に住んでいても、黄金のように明るい日もあるし、漆黒に落とされたように落ち込む日もあるし、紺碧の中で月光を見上げることもある。

「翡翠は……」

 部屋には住人たちの色があって、驚くほどにイメージがそれぞれに合致する。だが、翡翠だけはムーカイが、あの人懐っこい笑顔が真っ先に浮かぶ。

「ムーカイがインドに帰るときは、俺、絶対に泣くな」
「まだ帰んないけどな」

 良く知っているその声にぎょっとして振り返ると、まん丸の顔に満面の笑顔を浮かべたムーカイがいた。つぶやきを拾われて固まる宇宙に話を振る。

「良いバイト、見つかった?」
「バイトはやっぱり、サイトで見つけた渋谷の居酒屋にするよ。ね、ムーカイ、これ見た?」

 気を取り直した宇宙が、紙を指差す。

「うん。俺が貼った」
「なーんだ」

 とたんに、宇宙の目尻が下がった。

「作ったのは現さんだよ。ホントに募集する気あるのかっていうくらいに殺風景だよね」
「シンプルで良いんじゃない」

 二人並んで、再び用紙に目を向けた。

『今という暮らしの中で、ここに居ること、感じること。それが特別な何かを織りなしていく。そんな生涯に一度の、黄金のような日々を暮してみませんか』

 暗に黄金の部屋の住人を募集しているような、わかる者にしかわからないような文面に、ムーカイは「誰が来るのか楽しみだなあ」と嬉しそうにつぶやいた。

 誰が来ても、きっと面白い。新しい映画を撮り始めるような、ワクワクとした日々が始まるに決まっている。そう信じる宇宙は、水面に浮かぶ三日月のように目を緩めてニマニマした。

『お問い合わせはこちら → シェアハウス・葦埜御堂(あしのみどう)』


 おわり



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村   ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!


 最後までお読みくださりありがとうございました! m(__)m

 あとがきにもお越しくださると嬉しいです。

 作者 拝


 ご訪問、ありがとうございます^^
 「シェアハウス物語」(”Share House Story”)に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 皆様が素敵な一日を過ごせますように。
 Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - lime  

Title - 

完結、改めておめでとうございます。
データが消えてしまってからの巻き返しがすごい。
この物語も、執筆中はずいぶんと波乱万丈だったですよね。内容も、外側(作者側)も^^

いろんな事情を抱えた、いろんな国籍の人たちがフッと家族のように憩う場所。
こんな物語を書けるのは、羨ましいです。
宇宙君といっしょに、いろんな不思議フレッシュ体験ができました。

さて次はどんな住人が入ってくるんだろう。
また時間が出来たら続きを書くこともできるし。良いシリーズになりそうですよね^^
お疲れ様でした!
2017.05.07 Sun 09:44
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

こちらにも、改めてありがとうございます^^

データが消えたときは最後までのプロットができていたのですが、消えてしまって忘れてしまったので、その時のプロットとは違った終わりになりました。今回ので良かったと思う…
作者の都合は色々あった(苦笑)

宇宙といっしょに物語を追ってくださり、ありがとうございました。
長かったなあ(1年以上><)

次の住人は…妄想広がるのですが、また時期が来るまで間を置く、ですかね。
シリーズにできたら、家屋の事、現さんの事情など今回描けなかった部分を掘り下げてみたかったり…
はるか先のことになりそう~~(^^;)

limeさんや皆さんからのコメや応援が本当に励みになりました!
これからもよろしくお願いします!^^
2017.05.07 Sun 15:29
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - 

まあ、今のご時世。
都心部では一人でいるのが当たり前。
孤独死が当たり前の時代になってきました。
都心にいるとやはり寂しいのでしょうね。
シェアハウスというだけで聞こえが良いのだと思います。
そういうことを考えると、良い話だったなあ。。。
・・・と感じます。

色々紆余曲折ありましたが、連載お疲れ様でした。
(ノД`)・゜・。
2017.05.10 Wed 22:30
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

うお、孤独死…当たり前にはならないでほしいなあ…(希望)
実際のシェアハウスはそれなりにいろいろあるのですが、良いとこ取りしました(^^;)
良い話なのはそのせいですが、そう感じていただけたのは嬉しいです^^

紆余曲折ありましたあ(i_i)
LandMさんにも毎回読んでいただきましてありがとうございました。
感謝です!
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
2017.05.11 Thu 19:15
Edit | Reply |  

Add your comment