オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 2 第一章・過去の記憶(2) 

「マスター、久し振りっす!」

 午後のゼミが終わった後、田島は花園に連れられ大学近くのカフェに来ていた。

 マスターが一人で切り盛りするこのカフェは、それほど大きな店ではないけれども、常に学生や地元のなじみ客などが集う。

 店には、マスターが集めたという、世界各国からのめずらしい置物や小物などが品よくディスプレイされている。季節ごとに変わるレイアウトにも、毎度目を惹かれる。

 もちろん、味わい深いコーヒーと共に出されるアンティークなカップや、気さくなマスターとの会話を楽しみに来る常連客も多い。

「花園君、しばらくだね。就活どう?」
「俺は調子良いんですけど、こいつは良くないみたいで」

 そう言って、花園は田島の肩をポンポンと軽く叩いた。花園は就職活動で忙しくなる前まで、このカフェで週に一度のバイトをしていて、マスターとは親しい。

「田島君も久し振りだね。ま、一息ついてってよ」

 マスターの明るい笑顔とは裏腹に、花園に誘われるままについてきただけの田島は、ただ軽く会釈をするだけだった。花園が田島の分のカプチーノも頼んで、二人は店の隅の席に着く。

「なんか、ここは落ち着くんだよな」
「花園、お前、あの課長さんのところの会社に行くのか?」

 席に着いたとたん、意外にも田島が花園の就活について聞いてきた。

「うん、行けたらね。このあいだ会社説明会に行ってきた」
「そう。どうだった?」
「普通に良さそうなところだったよ。俺にはITとか営業とかっていうのが自分に合うのかどうかは分からないけど、あの課長さんにはついていきたいって思うよ」
「良いよなあ、お前にはそんな出逢いがあってさ」

 二人の言う「課長さん」とは、花園が以前バイトをしていた居酒屋に来ていた客のことで、IT関係会社で課長職を務めている。

 花園は、そのバイト先の居酒屋で、客同士の喧嘩のトラブルに巻き込まれて大怪我をするという経験を持つ。その時「課長さん」に助けてもらったという経緯があり、それ以来、なにかと世話になっていた。

「ま、課長さんとはちょっと知り合いなだけで、コネとかじゃないから。まずはきっちりと履歴書を書いて、面接までいけたら良いんだけどね」
「ふーん。ま、頑張れよ」
「何だ、人ごとのようだな」
「応援のつもりだけど」

 そう言って田島は少し唇を尖らせると、ズズッとカプチーノをすすった。

「田島はどうするんだ?」
「わかんねえ」

 このところの田島は、自分の話しになると途端に口数が少なくなる。

「資料回してやろうか?」
「いや、いいよ。就職はしない」
「どうして?」
「しないから。たぶん」
「最近のお前、つかめねえな。大丈夫か? そのでかい体の調子でも悪いのか? 医者に行くなら付き合っても良いぞ」

 どうも先ほどから、田島は花園と視線を合わせない。伏せ目がちにどことも無く視線を流している。

「じゃあ・・・」

 少しの沈黙の後、田島が口を開く。

「花園、カラオケに付き合ってくれるか?」
「カラオケ?」

 今までの会話からは、何の脈絡も無いその頼みに、花園は戸惑う。けれども、田島は花園の返事を待つことなく、席から立ち上がっていた。

「よしっ。じゃ、行くぞ」
「ちょっと待てよ、田島。今からかよ。お前、酒抜きで歌えるのか?」

 田島は、花園の言うことなど聞こえていないかのようにレジに向かうと「マスター、二人分ね」と代金を払って店から出て行った。

 花園は、カプチーノの飲み残しをテーブルに置いたまま、マスターへの挨拶もそこそこに、田島の後を追った。



 田島の群を抜く歌の上手さは、大学の友人たちの誰もが認める。カラオケでは、歌謡曲でもロックでも演歌でも何でも歌う。友人たちとグループで来るときは、田島の歌に合わせて周りで盛り上がる、というのが定番になっていた。

「まだまだ行くぜー」
「はいはい、どこへでも行って」

 すでに二時間以上、花園は田島のカラオケライブを聞かされている。田島は注文したドリンクも口にせず、次から次へと曲をセットして、すでに何十曲と歌っていた。

「声出せー」
「お前だけ出せ」
 
 花園は下手ではないけれども、それほど歌う方でもない。普段は田島の歌を聴いて楽しんでいる。けれども今日は、ここに着いたときから、何かに取り付かれたようにずっと歌いまくる田島のことが少し心配だった。

「もしもし」
『十分前ですが』

 店のカウンターから、時間を告げる電話が入る。

「はい。これで終わりにします」

 三時間も歌えば、もう良いだろう。田島の声も痛んでかすれてきているようだし、花園も聞くだけのカラオケにそろそろ飽きてきた。

「田島、あと十分」

 田島は歌うのに夢中で、花園の声が聞こえないようだ。

「おい、あ・と・十・ぷ・ん」

 花園は田島に近づき、両手の平を目の前に見せると、さっきより大きな声で言った。それで田島は、ハッと我に返った。一瞬歌うのをやめて花園に目を向ける。

「俺、どんだけ歌ってた?」
「これで二時間五十分」
「そう。じゃあ、残り十分は狂う!」

 その言葉の通り、最後の十分で田島はのどを潰し、汗だくのままルームから出た。駅までの道を、二人並んで歩く。

「(花園、サンキュー)」
「しゃべるな。聞いてるこっちが痛くなりそうだ」

 田島の声はすっかり潰れてガラガラになっていた。けれども田島は、何となくすっきりした様子で機嫌も良さそうに見えた。

「あれだけ歌えば、少しは気が晴れたか?」

 田島が声を出さずに頷いて微笑むと、その表情に花園は少し安心する。

「(飲みに行くか?)」
「行くわけないだろ。お前、家に帰って蜂蜜湯でも飲んで寝ろ。明日大学来いよな。遅刻すんなよ」

 花園は「じゃ」と軽く手を振ると、目の前に到着した駅の改札に向かって走って行った。田島には言わなかったけれども、実はこのあと夕方からの会社訪問が一つ入っていて、急いで行かなくてはならなかった。



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 花園徹さんは、田島の良いお友だち^^


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - LandM  

Title - No title

就職活動のポイントはやはり熱意と夢ですからね。
私もその辺は迷いましたね。
転職して、ようやくこれがやりたいって見つかってくるかな。。。
・・・と私も思います。
私も考えずに就職したなあ。。。と若いころの自分を後悔しております。
真剣に考えるだけ考えて、就職するのが大吉なんですよね。
(*´ω`)
2015.12.12 Sat 20:27
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

私は自分の大学卒業時は就職活動というのをしていないのです。
なので、就活についてを書くのはちょっと難しかったです。

就活にも転職にもドラマがたくさんありますよね。
LandMさんの今のお仕事が大吉でありますように。
2015.12.13 Sun 09:11
Edit | Reply |  

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