オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 4 第一章・親友の死(1) 

「何でだよ。せっかくのチャンスじゃないか」
「高校生バンドが、世間でちやほやされて潰されるのがお決まりだろ。俺は大学に行く」

 当然のように、田島がバンドデビューに向かっていたところで、ギターの長谷川瞬(はせがわしゅん)が突然「やめる」と言い出した。理由は「大学進学」。

 その表向きの理由だけでは納得が行かず、田島は長谷川を他の部員の来ない土曜日の午後、高校の軽音楽部の部室に呼び出していた。

「俺たち番組で優勝したんだぞ。これでデビューしなかったら、意味ないじゃないか」
「高校野球のドラフト指名で、大学進学を理由にプロ入りを断る甲子園のエースだっている。めずらしいことじゃない」
「なにわけわかんねえこと言ってんだよ」

 田島は鬼のように目をむき、長谷川に「本当の理由を話せ」と迫った。

「瞬、お前、プロになりたかったんだろ。俺だってそうだ。だから番組に応募した。そうだろ。お前だって優勝した時、あんなに喜んでいたじゃないか」
「優勝したのはもちろん嬉しかったよ。テレビっていうメディアで支持されたのが単純に嬉しかった。だからその後でよく考えた」

 田島は、長谷川の言うことに警戒していた。長谷川は普段から物事をじっくりと考える性格で、言うことにはいつも間違いがなく、筋が通っていたからだ。

「俺は、テレビ番組で優勝したからって、そんなにお手軽に番組からデビューしてしまって本当に良いのか、って思ってる」
「何を今更、そんなことを言ってるんだ。番組からデビューできるのが魅力で、全国からあれだけの応募が集まったんじゃないか」

 テレビの新番組『バンド甲子園』に最初に興味を持ったのは、田島よりもむしろ長谷川の方だった。

 田島たちのバンドは、テレビに出る前から地元では少し有名で、高校の文化祭の時など、近隣の学校からも人が集まるほどの人気がすでにあった。

 高校生バンドにしてはある程度の演奏はできていたので、番組のオーディションに応募し、首都圏の予選を通過してトップ100に入るのは容易だった。

 その後、地方から同じく予選を通過してきたバンドと共に競合し、トップ20になったところから、テレビのライブ・オーディションが全国に生中継された。

 田島たちのバンドは、その毎週のライブ予選で人気となり、最終週のグランド・ファイナルまで勝ち残って優勝したのだった。

「毎週のライブのためにあんなに苦労して練習して、それで優勝したんじゃないか。お手軽なんかじゃない」

 長期にわたる番組の中で、田島たちのバンドは個性を発揮し、それが高く評価されてバンドとして成長していった。

 舞台裏では、番組スタッフからの応援と、専門家からのアドバイスやサポートを受けたこともあって、演奏もプロとしてデビューできるまでに上手くなっていた。そういったバンドの成長過程も番組の中で紹介されていた。

「だから、俺たちにはもう『番組に育てられた』っていうイメージが作られた。バンドの肩書きには『バンド甲子園出身』っていうキャッチフレーズが一生付いてくる」
「それのどこが悪いんだ?」
「俺は、バンドが俺らから離されて、番組のものになってしまうのが嫌なんだよ。わかるか、祥吾」
「そんなことはない」
「いや、お前わかってない。デビュー後は『番組に育てられた』、『バンド甲子園出身』の高校生バンドがただメディアに利用されるだけだ」
「そんなことは・・・」

「考えすぎだ」と田島が言おうとしたのを、長谷川は遮って話を続けた。

「そうなる。テレビ局っていう大きな後ろ盾がつくんだぞ。プロデューサーがついて、マネージャーがついて、スタッフがついて・・・」
「凄いじゃないか」
「祥吾、お前ホントわかってないな。用意されたタイムテーブルの中で俺たちの自由がなくなるって事なんだぞ。番組にコントロールされる人形になってしまうかもしれない。それでも良いのか」
「そうなるとは決まっていないだろ。大体、俺はお前の言うような『人形』なんかには絶対にならない」

 長谷川は、田島を説得するため必死に説明するが、なかなか通じない。それにイラついて、いつもより少し感情的になった。

「高校生がいきがってどうする、祥吾」
「先のことなんか誰にもわからないんだ。だったらやりたい」
「俺たちには金も力もない。それは、はっきりしている」
「才能がある」
「うぬぼれるな祥吾。経験がない」

 田島と長谷川がお互いに譲らず、緊迫した様子で話し合っていたところで、ガチャリと部室のドアが開けられた。



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 よくある高校生の口喧嘩。


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - 秋沙   

Title - No title

けいさん、こんにちは、初めてコメントさせていただきます。
秋沙(あきさ)ともうします。
limeさんのところからやってきました(^^)

私も高校時代からバンドをやっていたので・・・なんだかこの話、身につまされます。
これからどんなふうに田島は動いていくのかしら。

まとまった時間がなかなか取れないのでゆっくりとになりますが、楽しみに読ませて頂きますね!

よろしくお願いします(^^)
2011.10.06 Thu 17:21
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

コメントありがとうございます。
limeさんのところからようこそ^^

うわー、バンドやってらしたのですか。ドキドキ・・・
バンドってのは、そんなんじゃないよ、
っていうのがあったら、そっと教えてくださいね。。。

田島の動きは・・・スローなのですが、
見守ってやってください^^

また、是非是非お越しください!
2011.10.06 Thu 20:07
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

なかなかこのバンドの価値観っていうのは違うんでしょうね。
私はピアノやっていましたけど、ピアノはそういうメジャーになるものじゃないですからね。音楽は感情の発露の表現の一つだとは思っていますけど。それを忘れなければ、別にどこから出るかは関係ないと思いますけど・・・というのが私の価値観ですけどね。
こちらこそよろしくお願いしますです。
2011.10.17 Mon 19:33
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

価値観は人それぞれで難しいですね。

ピアノですか。素敵ですね。
ピアノも色々な表現を持っていますよね。

同じ曲が演奏者によって、その日の気分によって、
全然違うっていうのも音楽の面白いところだと思います。
楽器を扱うのだけれど、どう扱うかはその人次第、みたいな。

私は・・・音楽って、やりたいところでいつでもどこでもやれるのが良いなー、なんて思います。

また遊びにいらしてください^^
2011.10.17 Mon 20:51
Edit | Reply |  

Name - 想馬涼生  

Title - このタイトルは重い感じですね。

久しぶりに来てみたら、テンプレートが変わっていたので、びっくりしました。
自分は最初の頃は見やすくするために、何度もテンプレートを変えて、今に至ります。

バンドで有名になれば、チャンスですが、大学と考えると、迷いますね。
何においても将来が約束されてる訳ではないですが、無難に行くならば、バンドデビューよりも大学進学の方がわかりやすいですからね。

世間に認知されても、世間受けするために、テレビ局やスポンサーの方針が優先になり、自分達のやる方向が制限されますからね。意外と自由にできないものです。

先々週、メルボルンでサッカー日豪戦が行われました。豪州はホームなのに、意外と地味だったのが驚きました。
日本キラーのケーヒルもさっぱりでしたね。
2016.10.23 Sun 20:41
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: このタイトルは重い感じですね。

想馬涼生さん、コメントありがとうございます。
テンプレ変えなくても良かったんですけど、変えてみました^^

個人でやる物だったら問題ないのでしょうけれど、仲間とやっていくとなると、色々ありますよね。
成功するしないも将来も何も分からないところでの葛藤ってあるかも(?)
仲間割れはアリアリですよね。

メルボルンのサッカー日豪戦見ました。
専門的には全然わかりませんが、引き分けだったのは気分的に良かった(^^;)
2016.10.24 Mon 12:42
Edit | Reply |  

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