オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 5 第一章・親友の死(2) 

「わりい、バス遅れた。土曜日って、本数少ないし」

 ドラムの鏡成太郎(かがみせいたろう)が遅れてやってきた。

「ん? お前ら、なにおっかねえ顔してんだ。喧嘩でもしてるのか?」
「成ちゃん、遅い。成ちゃんからも瞬に話してよ」

 鏡を呼んだのは田島だった。自分と一緒に長谷川を説得してもらいたいと思ったからだ。

「あ、話なら瞬から昨日聞いた。俺はどっちでも。二人が選んだほうで良いよ。こだわりはねえ」

 長谷川は、田島に呼び出された時点で、鏡に根回しをしていた。鏡はさばさばしていて、物事に固執しない性格なのだ。

 田島が「やられた、先にそっちに引っ張られた」という目で長谷川を睨む。その田島の視線を交わし、すかさず長谷川が尋ねた。

「成ちゃんはどうしたい?」
「俺はもちろん、デビューできたら嬉しいよ。せっかく優勝したんだし。でも、できなかったら、高校卒業してから京都に行く」
「京都?」

 鏡の意外な話に、田島も長谷川も目を丸くする。

「ごめん。まだ言ってなかったよな。俺、京都の祖父さんのところに行って、宮大工の弟子に入ることにしたんだ」
「成ちゃん、京都に行っちゃうの?」
「祖父さんのところは『鏡会』っていう、京都でも結構大きな民謡会もやっていて、そこで和太鼓をやるんだよ。どっちにしても太鼓は続けるって事かな」
「デビューが無ければ、成ちゃんとは離れ離れになっちゃうのか」

 長谷川が寂しそうに呟く。田島はただ真っ直ぐに鏡へと目を向け、次の言葉を待った。

「デビューしなくても、瞬と祥吾がバンドを続けるなら、週末に京都から戻るよ。実家はこっちなんだし。もちろん、デビューするなら祖父さんのところに行く話しはなくなる」
「どっちに転がっても、成ちゃんには行く場所があるのか。うらやましいな。俺にはデビューしかない。それにデビューすれば、成ちゃんともこのままやっていける」

 田島は確認するようにデビューを強調して、再び本来の獲物である長谷川を目の中に捕らえる。

「祥吾、俺は大学に行きたいんだ。社会に出る前に、勉強しながらもっと色々と世の中を見たいし、やりたいこともある」
「やりたいことって、何だよ。今俺たちがやっていることじゃなかったのか。俺は今から受験勉強なんて無理。バンドでやっていきたい」
「大学に行っても行かなくてもバンドは出来る。俺はこのバンドが大好きで続けたいから、誰かの手には渡したくない。自分でこのバンドを守って行くにはまだまだ学ぶことがあると思っている」
「全てを自分だけでやることは無理だ、瞬。サポートを受けて、それに答えて、今は難しくても、後で違う形で返す、って方法だってある」

 田島も長谷川も、お互いの言い分を主張するのに息が上がる。けれども、デビューという夢の実現を前に、二人の思いは川が二俣に分かれるように全く別の方向に向かっていた。

「俺は、プロとしてやっていく気も準備も十分にある」
「バンドとしてはどうだ。今現に俺ら揉めているじゃないか。俺もお前も譲らない。子どもっぽく言い合ってる。こんな状態でデビューなんて、明らかに無理だろう」
「俺はデビューだ」
「デビューしたことでバンドが潰されても良いのか」
「そんなことさせない」

 田島と長谷川の緊迫したやり取りの間に、やっとここで鏡が「まあまあ」と割って入る。けれども、睨み合う二人を鏡が止める事はできなかった。

「祥吾、夢は誰かに叶えてもらうものじゃないんだ。自分で叶えるもんなんだよ」
「そうだよ、瞬。それがもうすぐ叶おうとしている。チャンスがすぐそこまで来ているんだ」

 鏡を含めた三人で、今まで何度も夢の話をした。自分たちは同じ夢を見ている、と思っていた。けれども、そうではなかったのか、という少しの困惑が小さな渦を巻いて三人の間を巡る。

「それとも祥吾、お前、ソロででもやる気でいるのか」
「何言ってるんだ、瞬! 見損なうな! 俺ら三人でやってんだろ!」

 長谷川の「ソロ」という言葉に胸が詰まる。田島の気持ちは、あくまでも今目の前にあるチャンスを掴み、三人で一緒にバンドでデビューすることだったからだ。

「ソロだなんて、どうしてそんなこと言うんだよ! 瞬!」

 田島は、自分の言い分が仲間である長谷川に伝わらないことに感情が高ぶり、もう抑える事ができなくなっていた。

 ずっと我慢していた涙が、とうとう堰を切ったように目から溢れ出す。長谷川に感情をぶつけるわけにも行かず、涙を流したままきつく眉間を寄せ、言葉を飲み込む。

 けれども、少しの沈黙の後、バンと大きく机を叩いて素早く立ち上がると、乱暴に部室のドアを開けて外に飛び出して行ってしまった。

「祥吾! 待てよ! 祥吾!」

 長谷川もすぐに腰を上げ、田島を追いかけた。鏡もあわてて部室を出て二人を追った。



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Comment

Name - fate  

Title - 見事ですね。

葛藤と苦悩と、揺れる高校生。
世界の描き方が見事です。
思わず引き込まれました。
誰も間違っていないし、誰も悪くない。世の中ってそういう中で選択し、進むしかない。
善悪とか成否だけじゃなくて、人間は誰でも未熟な生き物だ。
そんな感じですね。
なんか、切なくも熱く、思わず、「ああ、良いなあ…」と呟きたくなりました。
2011.10.23 Sun 08:01
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 見事ですね。

fateさん、コメントありがとうございます。

二人とも見ている方向は同じなんですが、
進もうとする方法が違ってきている、というところです。

揺れる高校生・・・にすばらしい解説をありがとうございます。
まさにそんな感じです。そうやって人生経験していくのさ。
なんちゃって。

未熟な青春時代・・・くぅ~~
2011.10.23 Sun 10:31
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 三人三様ですよね

とても現実的な考え方をする、高校生にしたら大人すぎるみたいな長谷川くん。

大槻ケンヂさんが高校生パンクバンドの物語を書いていて、その中に、長谷川くんが言っているみたいな部分がありました。そういうこと、あるらしいんですよね。

夢を追いかけたい田島くん。
この年頃の少年としては、田島くんの言うことが一番、らしい気はします。

それから、超然とした感じの鏡くん。
彼は「わが道を行く」タイプでしょうか。

4、5のあたりはこの三人のそれぞれの考え方が興味深いです。

あ、そういえばけいさん、もうじき日本ですよね。
っていうか、もう出発されてるのかな?
大阪でそれらしき方を見かけたら、念を送ってみます。(=^・^=)
2012.09.24 Mon 00:51
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 三人三様ですよね

あかねさん、コメントありがとうございます。

返事が遅れてすみません。

大槻ケンヂさんが小説を描いているのは聞いたことがありましたが、内容は知りませんでした。
そうですか。おもしろそうですね。やはり彼の体験が重なっているのですかね。

瞬と祥吾と成太郎の三人バンドで行くはずだったのですが。てんてんてん。
あかねさんは三人バンド好きですかね。

三人のキャラの違いを読みとっていただけて嬉しいです。
そうですね。田島が一番お子ちゃまです。
成長しろよ、のお話です。

お陰さまで、無事に横浜に到着しました。
大阪は最終日。この人か、と思ったら、声をかけてください^^
2012.09.25 Tue 21:25
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Name - 大海彩洋  

Title - 前後から

両方からで拝読していたので、あ、鏡くんだ、そうか、となっています。
なるほど、こんな感じで青春だったのですね。
この回の、ちょっと青い会話、私にはツボです。
こういうやり取り、実は昔の自分の書いたものの中にあって(しかも何たることか、同じようにバンドの話!)、この間読み返して自分で照れていたところでした。
でも、けいさんの書かれている会話はすごく自然で、青春ってこんな感じだったよなと素直に受け入れられる感じです。

ところで鏡くん。三味線弾きの私としては、民謡関係気になります(*^_^*)
ちょっと注目しようっと。

あ、それから、リンクを貼らせていただいてもよろしいでしょうか。
自分ちから飛びやすいようにしたくて…(^^)
2013.07.30 Tue 04:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 前後から

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

はい。青いっすね、これ。世の中ナメてますね。
てか、田島はホントわかってないです。
作者もいろいろわかってないです(><)
これからも、ぷ、なところ満載で、くさぁ~く、青春の王道いきます(-_-;)

成ちゃんは子どもの頃から民謡をやっています。
民謡でも盆踊りでも何でも打てます。
注目してあげてくださると嬉しいです^^

リンクの方、ありがとうございます。
私も貼らせてください。
どうぞ宜しくお願い致します^^
2013.07.30 Tue 22:15
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

プロでやる心構えをしていてもプロになれない。
それが音楽の世界ですからね。

田島の考えていることは正しいと思うけど、
音楽の世界の実情と現実の折り合いをつけた方がいいような気がする。

まあ、それが若さと言うものなんだろうけど。
2015.12.19 Sat 21:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

音楽の世界って、実情と現実のギャップが大きいのでしょうね。(全く知らない。汗 -_-;)
田島もみんなも若くて未熟です。
口ばっかりいっぱしなのが高校生、ですかね。
友人と議論して、成長していく、いけるのか・・・?
青春してる田島です(^^;)
2015.12.20 Sun 11:41
Edit | Reply |  

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