オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 11 第一章・友人の訪問(5) 

「無理」

 田島が即答する。けれども、花園はあきらめない。

「良いじゃんか。聴かせてよ」
「だめ。できない」
「何でだよ。引きずってるから?」
「弦が切れてるから」
「は?」

 田島はギターケースを自分の方に引き寄せ、蓋を開けた。テーブルの上にあった雑誌の記事を、内ポケットにしまってからギターを取り出し、弦の切れているところを花園に見せる。

「本当だ、切れてる。これ、すっげー良いギターじゃないか。親友の形見をちゃんと手入れしろよ」

 田島は小さく「うん」とだけ答えた。

「じゃあ、アカペラで歌ってくれ。『バンド甲子園』のやつ」
「ギター無しじゃ歌えねえ」

 田島は、さっさとそのギターをケースの中に収めた。

「お前、ホントにギター弾けるのか?」
「あの曲は忘れた」

 曲を忘れた、という田島の言葉に対して、花園は疑いの目を向ける。そんな花園の視線を交わすように、田島は「腹減った」とつぶやいて立ち上がった。

 台所に行き、何か食べるものを探す。さっきからずっと飲むばかりで、お腹が空いていた。冷蔵庫の中から缶ビールと、棚の中からつまみになりそうなものを見つけて出してくる。
「お前もワインにする?」

 花園は、自分で持参したワインをかざしてみせた。

「いや、俺はまたビールにするよ」

 田島は再び缶ビールを開け、今度はほんの少し、口をつける程度にする。

「どうしてお前、急に高校時代の事なんか思い出したんだ? みんなが就活始めたからか?」

 一息ついてからすぐに、花園が話し出す。まだまだ田島から聞き出したい事が山のようにあった。

「変な夢を見たから」
「変な夢?」
「高校時代の夢」

 花園は「話して」と促すように無言で頷く。

「夢の中で、俺は高校の体育館のステージに立っていた。瞬も成太郎もそこにはいなくて、俺は知らないやつらとバンドのライブをやっていた」

 田島は、小舟が水の上にすべり出すように、静かに語り始めた。

「バンドも客もノリノリで、俺は真ん中で歌っているんだけど、声が出てないんだ。必死に歌うんだけど、歌えていない。目の前の客は盛り上がっているのに。

 良く見ると、客は俺のことじゃなくて、違う誰かに注目していた。曲もいつの間にか、俺の知らない曲になっていた。

 気がつくと俺は真ん中じゃなくて、ステージの端のほうに一人で立っていて、そのバンドには加わっていなかった。急に孤独を感じて、凄く怖くなった。

 怖さを感じた瞬間、誰かが俺の背中を押して、俺は観客の中に倒れ込んだ。そうしたら、客の間がぱっくり割れて、俺は真っ暗な闇の中に落ちていった。

『あー』って叫んで、それで目が覚めた。すっげー気分が悪かった。っていう夢」

 今までとは違い、田島はきちんと花園と視線を合わせて話した。高校時代のことなど、卒業以来ずっと忘れていた。けれども、こんな夢を見て以来、どうしたって思い出してしまう。

「無理に忘れようとしなくても良いんじゃない?」

 田島には、胸の奥に抱えているものがあるのだ。頭の中では、それを描いて見ている。それを無意識に夢で見るほどに。

 花園に「夢判断」というものができるわけではない。けれども、田島の話を聞いてやることくらいはできる。そうすることが、田島の持つ無意識の中の意識を動かす助けになればと願った。

「田島の高校時代は、最高の思い出と最悪の思い出とがあるみたいだけど、両方ともお前の経験でしょ。忘れる必要はないし、忘れてはいけない、と思うよ」
「最高と最悪ね。やっぱり、どっちもあんまり思い出したくないかも」

 特に、夢の中で感じた背中を押される感覚は、本当に思い出したくないものだった。やけにリアルだったそれで目が覚めたとき、田島は真夏でもないのに体中汗だくになっていた。

「お前ら『バンド甲子園』に出てたときは、すっごい人気で有名人だったよな。大学に入ってから、誰にも気付かれなかったのかよ」
「誰も気付かないよ。あの番組からは時間がたっていたし。花園だって、気づかなかったじゃないか」
「確かに。顔も変わったしな」
「髪型が、だよ。ロン毛からショート」

 世間から無事に忘れられて良かった、というのが田島にとって正直なところだ。マスコミに作られた一時の人気など、どうせそんなものなのだ。

「ま、大学で変に注目されないで、普通に大学生活が送れて良かったよ」
「その間に、やんちゃな高校生から、いっぱしの大学生に成長したってことか。やんちゃだったよな、お前」

 見せてもらった記事にあったロン毛の田島を思い出し、花園はクスクスと笑い出した。「笑うな」と憮然とする田島の前で「ごめんごめん」と言いながらも、花園はしばらくの間肩を揺らした。



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ロン毛の田島が今一つ想像できない・・・?


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - 秋沙   

Title - No title

とっても読みやすい文章で、どんどん進んじゃいます。

バンドの話もリアルですね~。けいさんもバンド経験者なんじゃないんですか?( ゜_゜;)

もう、遠い遠い昔ですが、やっぱり似たようなことを話し合ったことがありましたよ、私のバンドでも。
当時は女の子バンドを3人でやってまして。
「デビュー」という事にこだわって、どうにかしてメジャーになりたくて、周りの大人にもそこそこ可愛がられているバンドだったので、いろんな話が舞い込んだり、デビューしたいんだったら・・・とあれこれ指導してくれたりで。

気付いたら、バンドのメンバー3人の「このメンバーで楽しんで音楽をやっていきたい」っていう気持ちが、どんどんバラバラになっていっちゃったんです。
結局、解散しちゃいました。
(それから20年も経って再結成しましたが)(年齢がバレる)(笑)

だから、大学に行きたいと言った瞬の気持ちも、デビューをあせった田島の気持ちもすごくわかってしまって・・・。


田島と花園の会話が小気味よくていいですね。青春です(*^_^*)
さぁ、これから田島が動き出すんですね?楽しみ~。
2011.10.06 Thu 22:03
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

どんどん進んじゃっていただき、ありがとうございます。

バンドのお話は妄想です^^
秋沙さんのご経験をお話くださり、ありがとうございます。
メジャー目前だったのですか。すごいですね。
(田島とシンクロしてるのでは。しかも、三人バンドで。。。汗)

女の子バンドは最近少ないので頑張ってください!!
寺田恵子姉御の美しさを追ってくださいね^^

田島のちょっぴり遅めの青春、どうなっていくのでしょうか。
楽しんでいただけますように。。。
2011.10.07 Fri 10:56
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - すごく良いです!

事故のシーンはかなり重かったですが(fateは、です)、それを語れるようになった、しかも、友人に! それがとても救いです。
自分のせいで亡くなったと思いこんでいる大切な友人、だけど、その呪縛から解き放ってくれるのも、大切な友人。
ああ、本当に人は人と関わらずにはいられない。
そんな感じがとても温かく、衝撃的に、心打たれました。

夢を語り合う友人同士。
なんて健全で、なんて力強くも素晴らしい世界!
感嘆します。
その裏にたくさんの苦悩や憤りや、負の世界を知っていながら、若い命、若さという武器で、奇妙に明るい世界を語れる作者様の力量。
ほんのりとした希望が、必ず、見え隠れしている世界観に気持ちが良いです。

少しずつですが、また拝読させていただきにお邪魔いたします。
2011.10.28 Fri 11:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: すごく良いです!

fateさん、何か、めっちゃ褒めていただきまして、ありがとうございます。

死んだ友人も、今目の前にいる友人も、田島にとっては、どちらも大切な親友。

心が通い、気の通じる友人との出逢いが、田島に影響を与え、人格を創ってきました。

そういう意味で、田島は恵まれた奴です。

あとは本人に色々と頑張ってもらいましょう。

是非またお越しください^^

2011.10.29 Sat 09:41
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

大学時代の夢でよく見るのは、卒業前単位がギリギリで焦る夢です。

しかしそれ以上に圧倒的多いのが、高校生でプールの授業がある日に海パンを忘れる夢です。
これは生涯で一番よく見ている夢です。
水泳が苦手なことが関係していると思うのですが……。
2011.11.20 Sun 19:42
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

きゃ~・・・
海パンを忘れる高校生のヒロちゃんですと・・・

夢見る妄想乙女に、何と言うお題を・・・
ふっふっふ・・・バタフライで追いかけるぞ。

私は水泳得意なんです^^
2011.11.20 Sun 20:49
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

釈然としないのは。
やっぱり田島くんが迷っているからなのかな。
読んでいて釈然としない。
そういう気持ちにさせるのは素晴らしい文章力だなあ。。。
・・と感服します。

私じゃ作れないし。
書こうとしても、他人には心をつかめない。
やっぱり、田島くんのハートが分かってくる文章。
そこがやっぱりすごく良い小説だと思います。
2016.02.05 Fri 21:37
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

わ。なんか、すごく嬉しいです。
ここは田島の心情がうまく描けずにかなり苦戦しながら進んでいる場面です。
カットが非常に長く、短くもできず、描いた自分も釈然としない、そんなシーンが続きます(-"-)

物語の初めがこれですから、ここを読んでくださり、先に行ってくださる読者様は貴重です。
田島のハートが一番分かっているのは徹さんで、二人の友情を見守っていただけると嬉しいです。
徹さんは、分かっている、というよりも、田島を導いて後押しする、といった方が良いかな。
二人の話はまだまだ続くのですが、またお越しいただけると嬉しいです。
2016.02.06 Sat 10:33
Edit | Reply |  

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