オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 13 第一章・友人の訪問(7) 

「・・・そうだよ」

 少しの沈黙の後、田島は観念したように答えた。

「瞬がいなきゃ、作れねえよ」

 田島は高校に入学して長谷川と出会ってから、長谷川の言うこと、することのすべてに影響を受けていた。

 少しばかり歌がうまかっただけの高校生が、バンドでフロントを張れるまでになったのは、この友人との付き合いがあったからだ。

「毎日、瞬と一緒に放課後の部室でセッションした。飽きずに暗くなるまで、ずっとやってた。それが俺の高校生活だった」

 田島は「はあ」と肩で大きく息を吐くと、花園に「これで良いか」という目を向けた。

「そういえば、お前、カラオケはしょっちゅう行ってたけど、音楽作ってるなんて話はしたことなかったよな」
「高校卒業でそれは終わった。きっぱりと終わったんだ」
「終わった?」

 花園は、田島の言葉の一つ一つをしっかりと捉える。田島が一歩を踏み出せない理由が何で、それを崩すにはどうしたら良いか。それを、ここに来た時からずっと考えている。

「瞬が俺のせいで死んだのが、凄くショックだった。俺が起こした馬鹿なことを後悔して、泣いて泣いて・・・気がついたら声が出なくなっていた」
「歌えなくなったのか」
「歌どころか、しゃべることもできなくなった。ギターも弾けなくなった」
「ギターも?」

 田島にとっての高校生活は、長谷川と兄弟のようにいつも一緒にいたのが当たり前で、普通の日々だった。その何気ない日常が、突然の事故で激変したことに、高校生の田島はついて行けなかった。

「後追い自殺でもするんじゃないか、って思われるくらい、みんなから心配された。学校にだけは来いって、成太郎が毎日家まで迎えに来てくれた」

 鏡はこの時、何も言わずに田島のそばにいた。自分の目の前で事故を目撃した鏡は、それがどんな状況だったかを記憶していたはず。

 けれども、あえて田島には何も伝えず、田島も鏡に聞こうとはしなかった。ただそうして、鏡がそばにいてくれただけで田島は落ち着き、元に戻る事ができた。

「成太郎は、俺よりずっと大人でしっかりしていた。あいつには、きっと今も頭が上がらねえ」

 事故後、マスコミやメディアが殺到した時も、学校と鏡とで外部からの問い合わせの全てに対応した。田島は落ち込むだけで、使い物にならなかった。

「ドラマーのそいつも、良いやつだったんだな。今はどうしているんだ?」
「京都にいるはずだ。実家に聞けば連絡先も分かるはずなんだけど」

 高校卒業後は、鏡が京都に行ってしまったこともあって、お互いに距離を持ってしまった。

「瞬の言うことを俺がちゃんと理解していれば、今頃まだ三人でバンドをやっていたんだ。デビューなんかしなくたって、うまくやっていたはずなんだ」
「後悔しているのか、田島。そんなの時間の無駄だ。もしもこうだったら、とか、こうしていれば、とか、そんなことは思い出すな」

 高校時代の夢に挫折し、大きな後悔を残して全てをあきらめた。田島はそう言う。けれども、花園が見ているのはそのうわべの部分ではなかった。

「ま、それだけ辛かったってことは、それだけ大切にしていたって証拠だな」
「瞬がいなくなって、成太郎もいなくなって、俺は一人になった。一人になった俺に出来ることは何もなかった」
「けど、終わっちゃいねえ」

 花園の言葉に、田島は眉間を寄せる。疑問を投げるようなその目に、花園は田島の思いを確信した。

「お前、時が止まってんだよ。いや、自分で止めてる。だから、なにも終わってなんかいないんだよ」

 田島が花園の言うことに、少しだけ首を傾げる。

「高校時代のことを忘れただの、捨てただの言ってはいるが、本当は蓋をしただけで、それを未だに胸の中に持ってるじゃないか。心の中で溜めてる。お前の問題は、いつまでもそれを抱えてるって所だ」

 田島はとたんに顔を曇らせ、花園から目をそらした。花園の方は田島から目をそらさず、言葉を投げつけるように告げる。

「お前の親友の長谷川瞬は、もういないんだ」
「わかってるよ」

 目をそらしたまま、田島はぶっきらぼうに返した。

「頭ではわかっていても、お前、受け入れていない」

 田島には、花園の意図するところがわかるのだろう。わざとらしく、不自然に目をそらす。

「事実に蓋をして忘れようとしても、時間が止まるだけで成長しない。瞬が死んだってことを受け入れろ。そうでないと、お前は先に進めない」

 耳に入ってくる花園の言葉に我慢がならないのか、田島はただ花園を睨み返す。けれども言葉は無い。花園の言うことが的を得ているからだろう。花園はそんな田島の視線を捉えて続けた。

「俺がはっきり言ってやる。田島、瞬が死んだのはお前のせいじゃない。喧嘩のせいでもない。事故はお前が起こしたんじゃない。それを受け入れろ。お前の時を動かせ」

 テーブルの上には、もうビールもつまみもなく、酔いもとっくに醒めているはずだった。けれども田島は、花園の言葉を聞いているうちに、少しずつ息が上がり、体が熱を帯びてくるのを感じていた。

 そして、それを抑えることが次第に難しくなっていった。



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 次回は、徹さんの弾丸トーク。田島を崩せるのか。


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - fate  

Title - ものすく深い世界で。

ものすごく大事なことをばんばん言いまくっていて、だけどきっと作者様は特に意識せずにそこに触れているんだろうな、というさり気ない力強さを感じます。

人生の、生きることの、どう生きるか、何のために? 誰のために? 違うよ、君は君自身の人生を生きるんだ!
なんか、そんな叫びを淡々と二人は語り続けている。
意図せずに、深いものを探り当てようとしている。
命の深淵を捕えようとしている。
そんな空気を感じて、鳥肌ものでした。

封印、と逆ホームシック。
ざわりとしました。
fateもまさにそれに陥って、オーストラリアへの想いで潰れそうでした。日本に戻って考えたことは、考え続けたことは、「いつか必ずオーストラリアへ帰る」ことでした。

なんか、心に迫るリアリティに、その世界に違和感なく同化してしまいました。

二人の親友。
良い友達であり、かけがえのない存在であり、本当に素晴らしい友情ですね。
続きを、超! 楽しみに、またお邪魔させていただきます。
2011.10.29 Sat 14:54
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ものすく深い世界で。

fateさん、コメントありがとうございます。

田島ははっきりしないんで、
徹さんにばんばん言いまくってもらっています(笑)

悶々とするだけの田島を、徹さんがどう崩すのか、
いや、崩れるのか・・・ああ、青春と友情・・・(照)

私も逆ホームシック経験者です。
いつかfateさんとオーストラリア話で盛り上がりましょう!

また続きをチェックしにいらしてください^^
2011.10.29 Sat 17:46
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

片割れがいなくなっても、一人でやるのが音楽ってものだ。
甘えるな!!


・・・と怒りたくなるような部分ではありますが。。。
私も今は小説はチームでやってますが、
みんな忙しいときにはひとりでやってますからねえ。。。

どんな状況でも駆ける姿を見せることを忘れてはならない。
田島くんも音楽を通じて駆ける姿をみたいにゃ。
(*'▽')

2016.02.20 Sat 10:20
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

LandMさん・・・きゃ~(><)
とうとうLandMさんにおこられてしまったー
ええ、もちろん、愛の鞭とは存じておりまする~~(T^T)

ですよね。ですよね。でーすーよーねーー
えっと、ず~~と後に駈け出すのですが、それまでLandMさんにお越しいただけますようにぃ(願)
あ、考えようによっちゃ、もうすぐかな(-_-;)
2016.02.20 Sat 16:26
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