オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 14 第一章・友人の訪問(8) 

「瞬が大学に行きたがっていたから、お前はその遺志を継いで、浪人して大学に入ったんだろう。入ってから、瞬が大学でやりたがっていたことをお前はしてきたのか」

 花園の知る限り、田島がそうしてきたとは思えなかった。ギターを弾いている田島など、今まで一度も見たことはない。ましてや、作曲をしている姿など、想像すらできなかった。

 ずっと今まで、この友人は明るく陽気な男なのだと思っていた。けれども、その明るさとは裏腹な「挫折」ともいえる経験を胸に抱えていることを知る。
 
 花園には、今まで自分が知っていた田島と、今、目の前にいる田島とが少し違って見えた。

「瞬がやりたかったことと、お前がやりたかったことは、同じじゃなかったのかよ。それをやってきたのか。それとも蓋だけして、目をつぶってきたのか」

 花園に答えを握られているようで、田島は何も言い返すことができない。

「やんちゃな高校生から大学生になって、ちょっとは成長したんだろ。それとも、まだお前はただのクソガキのままなのかよ。高校生だった時から成長してないのかよ。まあ、俺から見れば、全然成長がないみたいだけどな」

 同じ夢を追っていたはずの親友を亡くしたことは、高校生だった田島の心に、
深く思いを落としてしまった。
 
 けれども、月日が経ち、その思いを再び拾い上げようとする時期が来ているのかもしれない。田島は黙っているが、花園はそう確信する。

「田島、後悔なんかするな。高校時代のお前は、まっすぐに夢を見ていた。それに純粋に向かっていた。お前が言ったこともやったことも、その時のお前の素直な思いだったはずだろう。それにそいつも正直に答えて反応しただけだ。悪いことは何もなかった」
「じゃあ・・・どうして瞬は死んだんだよ」

 今まで何も言えずにいた田島が、やっと一言を返す。田島の想いはまだ見え隠れし、花園に見せることを躊躇している。

「『どうして』なんて理由はない。お前はお前なりに、瞬は瞬なりに考えて行動を取った。それで、そうなっただけだ。誰も悪くない」
「俺は何も考えていなかった。俺は子どもみたいに自分の言いたいことだけを、瞬に向かってわめいていただけなんだよ」

 花園の言葉に納得がいかないのか、田島は声を荒げる。やはり思い出すと、自分の中の後悔に苛まれるのだろうか、田島の体が震えてきた。

「瞬は、俺をかばって死んだんだぞ。何も考えずに道路に飛び出した馬鹿な俺を助けるために。俺の背中を押して、俺を前に倒す代わりに瞬が・・・」
「じゃあ、その時、背中を押されていなかったら、お前はどうなっていたんだよ」

 通行止めの看板を立てるように、花園がきっぱりと田島の言葉を遮る。

「そんなの、知らねーよ。きっと、瞬じゃなくて俺が死んで、後は知らねえ」
「馬鹿か、お前は」
「そうだよ。俺は馬鹿なんだよ。そうだって、さっきから言ってる」
「自分のせいだとかいう、そんなどうでも良いことは考えるな、っていう意味だ」

 今の花園は、田島の表情を読むだけで田島の考えていることのすべてがわかるようだった。そんな花園に、田島がちょっぴりの抵抗を見せても、それは無駄なことなのだ。

「その時お前は、生かされたんじゃないのか。瞬がお前を生かしたんだ。瞬がお前の背中を押して、自分を犠牲にしてまでお前を生かそうとした理由は何だ」

 田島にとって事故のことは、背中を押された感覚と共に、親友の死に繋がる思い出でしかない。

「瞬が死んで、お前が生きてるって事には、大きな意味があるだろう。それは何だ。お前は、それに見合う行動を取ってきたのか」

 どうして長谷川が死んで、どうして自分が生きているのか、そんなことは、何度も何度も自分にぶつけた疑問だった。いくら考えても答えが見つからず後悔ばかりが残り、それが一時声を失うほど田島苦しめた。

「お前、親友が死んだことしか見ていないから、いつまでもそこから前に進めないんだよ。わかるか?」

 田島は、花園から聞かれるどの質問にも答えることができず、かといって、答えようとする様子もない。眉間を寄せたきり、見たくないものから目をそらすようにそっぽを向く。

「ドラマーの成太郎ってやつは、京都で何をしているんだ?」

 不意に花園は話題を変えてきた。それには「京都で・・・」と答えようとしたところで田島は気がついた。

 鏡は、高校卒業後、京都に行って宮大工になることを田島に知らせていた。いよいよ京都に行くというときに、田島は鏡を新幹線の駅まで見送りに行った。

 鏡に対し、長谷川の事があって落ち込んでいた時に、支えてくれたことを感謝して、送り出した。

「その時、あいつは・・・」

 京都に向かう新幹線がホームに入り、車両に乗り込んだ鏡が、最後に言ったことを思い出して、田島は拳を強く握り締めた。

『俺は向こうで太鼓をやる。続ける。だから祥吾も・・・』

 そこまでで、ドアが閉まった。そして、笑って手を振る鏡を乗せた新幹線は出発した。

「俺にどうしろと言ったのかは聞けなかった。でも、あいつは今でも続けているはず」

 握り締めた田島の拳が、小刻みに震え出す。それを、花園は見逃さなかった。

「そいつは、友人の遺志を正しく継いだわけだ、お前と違って」

 田島が気づいたものを、花園が言葉にした。そして続けた。

「田島。瞬とお前が本当に夢見ていたことは何だ。それだけで良いんだよ。それだけを思い出せ」

 田島が長谷川と見ていたもの。それをはっきりと意識した時、田島の目から一筋の涙がこぼれた。



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 あーあ、とうとう泣かしちゃった。


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - fate  

Title - 一緒に泣いてしまいました。

持っていき方がうまい!です。
思わず、一緒に泣いてしまいそうでした。
もっと先へ進める予定が、ちょっと今日はここまでで、しばし余韻に浸ってみます(^^;

人の‘死’を乗り越えることは辛い。
それが親しい人であればあるほど。
愛しい人であればあるほど。
自らの魂を半分、いや、それ以上を一緒に持っていかれるほど、後悔という‘闇’に身を堕とし、地獄の業火に焼かれる方がマシだと、自らを貶め、魔物の蠢く暗黒にかろうじて安息を得る。

そこにいたらジワジワと気力も体力も奪われ、蝕まれていくことを分かっているのに、抜け出せない。そこにいることが罰だと思う。それを受け入れることが懺悔だと思う。だから、そこから抜け出すことが出来ない。そこにいることに寄って、むしろ失った人が味わった同じ苦しみを体現出来ているのだと思う。

なんか、そういう‘闇’が牙を剥く感じがリアルに伝わります。
fateの‘闇’に共鳴して。

なんて言うと、fateってすんげ~ヤバい生き物ですが(^^;
でも、こういう場合に限らず、大事な人を失った人ってある程度、自分のせいだと思いこみますね。
もっと…してやれば!
そばにいたのに、何も出来なかった!

それを「バカ野郎!」と救い出してくれるのも人。
それも、大事な人です。
そして、今、目の前にいる大事な人のために、共に生きようとすることで、人は立ち直っていけるんですね。

ああ、ぐちゃぐちゃと長文すみませんでした!!!
2011.10.31 Mon 09:22
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Name - けい  

Title - Re: 一緒に泣いてしまいました。

fateさん、コメントありがとうございます。

fateさんの解説がすごいです!!
いや~、加筆修正する時に(いつ?)本文にちょいとちくって入れてしまいたいくらいです。
魂持ってかれちゃうところでした。感動です。

闇スパイラルを言葉で表現できるfateさん、すばらしいです。
自分はまだまだ足元にも及びません。

田島の心の悶々を見事に表現してくださってありがとうございます。
これは、田島だけでなく他の多くの人にも共通し、共感し得る想いだと思います。

そんな想いを抱えながら'今'を行く田島を引き続き見守ってあげてくださいね^^
2011.10.31 Mon 18:46
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 自分と重ねてしまいます

ああ、fateさんのコメントがありますね。
「クソガキ」ってフレーズが気に入ったとfateさんがおっしゃってたの、思い出しました。

どうしても自分と重ねてしまうのは、私にも「書くこと」が残っていて、だからこそ生きる張り合いがあるというところがあって、田島くんの気持ち、わかるなぁ、だからなんですよね。

この時点では田島くんもまだ若いけど、こんな壮絶な経験は決して無駄になりませんよね。
こんなに親身になって考えてくれる花園くんもいるわけですし、田島くん、がんばれ~~❤
2012.11.03 Sat 10:39
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 自分と重ねてしまいます

あかねさん、コメントありがとうございます。

あかねさん、田島と想いの重なるところがあるのですか。
それはちょい興味^^
田島の気持ちに共感してくださってありがとうございます^^

過去の経験を引きずり、悶々としてきたわけですが、徹さんのお陰でそれが解かれそうです。
持つべきは良き友。徹さんのほうが頑張ります。
2012.11.03 Sat 18:12
Edit | Reply |  

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