オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 15 第一章・友人の訪問(9) 

「おいおい、田島。それは、そうやってメソメソ泣くことだったのか」

 田島は目頭を押さえて、花園に泣き顔を見せまいとする。けれども、呼吸の乱れは抑えられない。

「瞬がそんなお前を見て、喜んでると思うか。瞬のことを思い出しちゃメソメソするんじゃなくて、他にすることがあるでしょう」

「我慢しなくても良いのに」と目じりを緩める花園の横で、嗚咽を抑える事ができなくなった田島が、肩を震わせる。

「瞬の遺志を継いで、って言うのはもう終わりだ。その時期は過ぎた。瞬のため、って言うのもなしだ。それは違うから。瞬はもうとっくにいない」

 花園は、長谷川のことを吹っ切るように言った。実際、そのことはもう関係ない。あとは、田島がどうするかを選び、一歩を踏み出すだけ。

「田島、お前のやりたいことをやれ。自分のためにやるんだよ。頭の中で見ているものを始めろ、って最初っから言ってるじゃないか」

 目の前で泣いている田島に、容赦なく花園が突っ込む。

「俺の言ってる事がわかっているのか、わかっていないのか、どっちなんだよ、田島」

「答えろ」と花園が耳元に迫ると、感情を抑えながらも、田島はそれに反応する。

「わかってる。花園。わかってる・・・」

 花園は、目を押さえて俯く田島の顔を覗き込んで続ける。

「お前の気持ちはどうなんだ。泣いてるばっかりじゃ、お前が何考えてんのかわかんねえよ。やるのか、それとも、やらないのか、どっちなんだよ」

 田島の肩の震えが大きくなり、心の奥から声を絞り出す。

「やりたいよ」

 けれども、花園が聞きたいのは、その言葉ではない。

「『やりたい』じゃねえだろ。どうするんだ、って聞いてんだよ」

 田島の耳元で問い詰める。

「やる・・・やる・・・」

 やっと田島が、隠しに隠していた本心を告げた。

「いつやるんだよ。すぐやるのかよ。今からでも始めるのかよ」

 田島の目からは、はらはらと涙があふれて止まらず、もう、花園の問いに答えることができなかった。

「泣け泣け。全部流せ。いらないものを流した後に、お前に必要なものが入ってくるから」

 田島は花園の前で、心の中に溜めていたものを吐き出すように声を上げた。

 花園は確信する。田島の中では、きっとすべてが見えていた。ただ湧き上がる想いに戸惑い、一歩を踏み出すことができなかっただけ。こうして背中を押してやることだけが必要だったのだ。

「ホントお前、手間のかかる面倒くさいやつだな。歌うことが好きなんだろう。好きならやればいい」

 たったそれだけのことなのだ。花園から言わせると、何を迷っていたのか、ぐらいの簡単なこと。花園は、洗面所からタオルを持ってきて田島に渡してやると、頭をくしゃくしゃと撫でた。

「ちゃんと自分のやること、この頭の中で見えているよな。わかっているな」

 田島は泣きが収まらず、渡されたタオルに顔を埋める。けれども、花園の言うことには、なんとか頷くことで答えた。

 田島の目の中は、突然の集中豪雨にでも襲われたかのように、涙が溢れて止まらない。しばらくの間、田島は花園の前で、駄々をこねる子どものようにわんわんと声を上げて泣き続けた。



 花園は黙ったまま田島に寄り添い、ワインをちびちびと飲み続けた。携帯をいじっている間に、しばし時間が過ぎる。

 飲んでいたワインのボトルを飲み干すころ、やっと田島が鼻をすすりながら、ゆっくりと顔を上げた。

「落ち着いたか、田島」

静かに声をかける花園に、田島は「うん」と鼻声で答える。

「サンキュー、花園」
「お前、泣き過ぎ」

 田島は、恥ずかしそうに小さく微笑んでから、大きく深呼吸をした。花園は立ち上がってキッチンに行くと、ポットにお湯を沸かし始めた。どこに何があるかは、田島に聞かなくても分かっている。

「お前も飲むだろ」

 花園はマグカップを二つ用意し、インスタントコーヒーを入れ始めた。

「ま、お前、ブランクとかあるわけだし・・・あ、そうだ」

 コーヒーを入れながら、花園は思いついたことを田島に聞いてみた。

「田島、俺に一曲作ってくれよ」
「お前に?」

 キッチンからは田島の表情は見えなかったけれども、花園は田島の返事に期待する。

「んー、ちょっと今すぐには、草食系のイメージがわかないけど」
「なに?」

 出来上がったコーヒーを運んでくる花園が、眉を寄せる。

「草食系とか関係ないだろ。いや、それって俺のイメージなわけ?」
「良いよ」

 田島がただボソッと返す。とにかくその答えが聞けたから、花園はそれで良しとした。

「ったく。ホントか。約束だぞ」
「うん。必ず。だけど、時間をくれ」

 時間など、いくらかかっても良い。田島が音楽を作り出すこと、それが今は一番大事なことなのだ。

 田島も立ち上がって、ストレッチを始めた。あちらこちら縮こまっていた体を伸ばしながら、花園にたずねる。

「花園、オーストラリアの話をもっとしてくれないか」
「ん? 良いけど」
「三条さんとの出会いの部分を特に」

 花園は、一年間大学を休学して、オーストラリアへワーキング・ホリデーに行っていた。その時期に、シドニーで今付き合っている彼女の三条奈美と出会った。

 田島と花園が出会ったのは、花園が帰国して大学に戻ってから。だから、田島は花園のワーホリ時代の話をあまり知らない。

「なーんだ、そこかよ。よし。じゃあ、タダで話してやるから正座して聞け」
「そんなのに金払うか。正座なんかしねえし」
「そんなのって・・・じゃ、やめとく」
「宜しくお願いしますっ」

 花園のオーストラリア話に、田島は興味津々に聞き入る。テーブルにはコーヒーしか口にする物はなかったが、それだけでも大いに盛り上がった。

 今日、田島を訪ねたとき、花園は終電で帰る覚悟でいた。けれども、気づくと終電どころか、とっくに朝になっていた。



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 やっと、飲み会終了。徹さん、よくできました。
 ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。ふ~(^^;)


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - 西幻響子  

Title - No title

会話がおちついたとたんにストレッチを始める田島くん・・・
めちゃおもしろいです(笑)
2011.09.18 Sun 14:41
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: No title

> 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

それまで大きな体をちっちゃく縮めてワンワン泣いていたので、伸びをする必要がありました。
肩や背骨をポキポキ鳴らして気分はさっぱり??
2011.09.18 Sun 19:48
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

最近は趣味も多様化してますし、音楽も多様化してますからね。
私も働きながら、自分の小説をゲームにしているくらいですからね。
仕事は仕事で続けて、趣味でバンドしている人も相当多いでしょうね・・・と思いながら見ておりました。音楽はそれだけ夢中にさせるものがありますからね。
2011.11.01 Tue 06:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね、色々な事が多様化複雑化していて、ついていくのが大変です。
待って・・・みたいな(笑)

LandMさんの、小説をゲームに、っていうのはすごいですね。
お仕事はIT系なのでしょうか?
全くの趣味ならば、すごいスキルをお持ちです!

趣味でバンド、良いですよね~
私は見せていただく側ですが。ははは。

音楽は何でも色々・・・
良いものにはすぐに夢中になって、はまってしまうタイプです(笑)
2011.11.01 Tue 10:02
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

全く関係ないんですが。

先日お話させていた友人、高校時代に40曲ほどオリジナルで歌を作っており、卒業前に自分の歌を、録音ではなく、録画して欲しいと頼まれました。
ちょうど我が家にクソ重たいビデオカメラがあったのでそれで撮影してあげました。VHSのビデオだったので、あれからどうなったかなあ。
大事に持っていてくれたらいいけど。

因みにそこには「柿の種」を食べる私も映っております。笑。
2011.11.25 Fri 19:57
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

おぉ、CD出す話のあったご学友さんですね。
40曲もオリジナルがあったなんてすごいですね。
実は目指していたのでは?

でも、それよりもっとDVD化を望む声の高いのは・・・
「柿の種」を食べるヒロハルさんですよー。
貴重映像じゃ~ないですかっ!
2011.11.25 Fri 21:29
Edit | Reply |  

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