オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 17 第一章・ライブの再開(2) 

「うぐっ・・・」

 学食にいた花園が、誰かに後ろから羽交い絞めにされる。

「田島・だろ・や・め・ろ」

 自分の知り合いの中で、こんなことをするのは一人しかいない。花園は腕を振り払い、後ろに向かって怒鳴った。

「てめぇ、俺を絞め殺す気かっ!」
「なにー。せっかく大学に出て来た親友に対して、そんな言い方は無いでしょう」
「来るのが当たり前なんだよ。このクソガキ!」

 田島は、一瞬にして花園の機嫌を損ねてしまったようだ。

「こわ~い。泣くぞ」
「もう、お前の泣きの面倒は見ない」

 花園は「座れ」というように、空いている椅子に向かってあごをしゃくった。

「で、何言いに来た」

「話があるなら聞いてやる」と、どこかのえらい若社長のように足を組む花園に、田島は業績を上げた優秀な新人社員のように嬉しそうに報告する。

「俺、決めた。とりあえずバイトして金貯める」
「ふーん。金貯めてどうするんだ?」
「新しいギターを買う」

 田島は、この前ギターの弦を買いに行った渋谷の楽器屋で、最近のモデルを見て値段もチェックしていた。ただ今は、先立つものがない。

「一本、良いやつ持ってるじゃんか」
「あれは瞬のだから」
「でも、今はお前のじゃないのか」
「今はそうだけど、いつか返す」
「返す、んだ」

 田島は、なんのつかえもなく水が流れるようにギターについて話す。けれども、こう言えるようになるまでに、どれだけの年月をかけたことか。

「バイトはもう決めてきた」
「早いな」
「お前が早くしろって言ったんじゃないか」
「そうだな。良い子だ」

 田島が早速動き出した。何をどうするのか、決めたのだろう。花園はそれが自分のことのように嬉しくて、もう大丈夫と安心する。

「花園、もう俺のことをガキ扱いしないで」
「じゃあ、泣くとか言うな」
「わかった、わかった。お前、今日機嫌悪い?」
「忙しくて疲れてるのに、どこかのガキがふざけてくるからだよ。絞めるぞ」

 ドヤ顔を見せる花園に、田島は手を合わせて「ごめん」と許しを請う。今日花園は、大学に来る必要はなかったのだけれども、この間カフェのマスターに借りたスーツを返しに行くついでに大学に寄ってみたのだ。

「大学にはちゃんと来いよ」

 自分が大学に来ていなければ、田島にこれが言えない。

「わかってる。来年一年で、今まで落とした単位も全部取り返す。大学はちゃんと卒業するよ。瞬に卒業証書を見せなくちゃだし。あ、もちろんお前にも見せてやるから」
「いや、俺は良いよ。卒業式一緒に出るんだし」

 そう言われてみればそうだ、と田島は明るく笑う。それから田島は、来年のことで学部の教授と話しがあるからと、花園を置いてさっさと行ってしまった。

 以前のような、明るさと元気を取り戻した田島に会えた。それが、今日の花園には大きな収穫だった。

 この日を境に、田島と花園は大学で会うことがなくなる。けれども、二人はメールなどで頻繁に連絡は取り合った。

 年度末試験の結果が発表となる。予想通り田島は、出席率の低さに比例する成績の悪さで数科目落とした。そして大学は長い春休みに入った。



 大学の春休み中、田島はバイトに明け暮れ、昼夜深夜の区別無く働いた。

「とりあえず、やってみれば」

 返答に困る田島の横で、花園が勧める。前にいるマスターは、目を細めてニコニコするだけ。

 花園から呼び出されて、田島は久し振りに大学近くのカフェに来ていた。そこでマスターから、週一のディナータイムにライブをやって欲しいと頼まれていた。

「田島、お前の歌、すっごく良いんだぞ。それを聞けるのが俺とか、せいぜいカラオケに一緒に行くゼミの連中とかだけじゃもったいない」
「僕も田島君の歌を聞きたいな」

 田島より乗り気の花園に、ニコ顔のマスターも続く。

「ライブはもう、何年もやっていないから」
「また始めれば良いだけのことだよ」

 少し考える時間が欲しそうに、田島は天井を見上げる。けれども、カフェのマスターは、田島の返事を待ってなんかいなかった。

「田島君、歌うこと、好きなんでしょう」
「やれよ、田島。俺が応援してやるから」
「僕も応援するよ」

 田島の目が、花園とカフェのマスターとの間を泳ぐ。

「花園、マスターにどんだけ話した?」
「ちょっとだよ。ね、マスター」
「僕が先に聞いたんだよ。あんなウサギみたいな真っ赤な目で店に来るからさ。僕をびっくりさせたのは、田島君の方なんだからね」

 田島が花園と徹夜で飲み明かした晩の後に、いかにも泣き腫らしたという顔でカフェに食事に来た日のことだ。田島の顔を見て驚いたマスターが、二人の間に何があったのかと心配して、すぐに花園と連絡を取っていたのだ。

 それにしても、情報が筒抜けのマスターと花園の二人が、今日は何だか兄弟のように見える。目を細めた人懐っこい笑顔が、なぜだか妙によく似ている。

「じゃ、早速来週からね。宣伝しとくから」

 結局、この二人にうまく乗せられたのか、はめられたのか。けれども、これで「うん」と返事をしない理由はない。再びライブができる機会を与えられたことを、田島は素直に嬉しく思った。

 そうと決まってからの田島は、かつての感覚を少しでも取り戻そうと、ギターの練習に没頭した。連日、バイトが終わって夜遅く家に帰った後、ライブに向けて三時間は練習した。



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村  ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!

人気ブログランキングへ  Thanks again for the click!




 ご訪問、ありがとうございます^^

 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 皆様が素敵な一日を過ごせますように。

 Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - fate  

Title - うう! 悔しい!!!

何が? いや、今日は、時間がなくて先に進めないっ
今度、ゆっくり堪能しに来ます!!!

しかし、すごい、田島くん!
良かったわ~、元気になって。闇が深かった分、些細な光がものすごく綺麗に見える時期ってあるな、と思います。
ずっとずっと泣いていて、ふと顔をあげた瞬間の世界の何もかもが宝石のように煌めいて見える刹那のように。

ものすごくインパクトある章でした。
絶望を希望に変えた瞬間というのか。
マスター愛してるっ
またお会い出来るのを楽しみにしてます!

fateは永遠のクソガキで、田島くんと張り合ってやるぜ!(何を?(--;)

2011.11.02 Wed 11:39
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: うう! 悔しい!!!

fateさん、コメントありがとうございます。

お時間のあるときに、いつでもいらしてくださいね。
そのときはごゆっくり~^^

田島に元気になってもらわないと、徹さんが報われないので(笑)
とりあえずは、ひらめきがあるとか、そういうのではないので、
ちょっとづつ行きます。。。

fateさん、クソガキ同志で張り合ってあげてくださいね~^^
2011.11.02 Wed 15:42
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 再始動

田島くん、夢に向かって再始動なのですね。
希望に満ちてますねぇ。
ここで第一章が終了なんですよね?

お金を貯めて新しいギターを買い、次の一歩を踏み出す。
きらきらした若者の想いがまぶしいです。

近頃の若者は精神的に弱い子が多い気がしますけど、若いってことはやり直しがきくってことですものね。
何度でも立ち上がって歩き出す。いいなぁ。

2012.11.08 Thu 12:03
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 再始動

あかねさん、コメントありがとうございます。

何気に(?)第一章が終了です。
何だか、めっちゃ長かったプロローグのようで・・・(^^;)

田島、動き出します。歩みはのろいのですが、前を向きます。
やり直すことが許されるのって良いなあ。

で、次章がまた長い・・・。
いや、長編とうたっているわけではあるのですが(汗)
どうか引き続き、一歩一歩進む田島にお付き合いいただければと。。。

近頃の若者は・・・応援してるよ^^
2012.11.08 Thu 17:46
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - いい友達だなぁ

大学生って、時間があるのかないのか、いや、今思えばやっぱりすごく時間があったんだと思うなぁ。金はなかったけど。
で、こうやって悩みにずっと付き合ってくれる友人がいる。

それにしても、花園くん、名言多過ぎです。
気に入ったのは…
@始めの一歩は簡単なのにそれをしない…なんだかんだと理由をつけてできないとか言って踏み出せないんだ。
(仕事も、なかなかやりたくないことが多くて、一歩が出ない…花園君、私を叱って……ってそれは違うか)
@お前の時を動かせ。
@親友が死んだことしか見ていないから前に進めない。
うん、こういうのをさらりと書いておられるけいさんの、若さ(精神的な…あ、現実もお若いのかも^^;)と情熱を感じます。
(私はどうやら枯れ過ぎかも…)
そうそう、泣いて出してしまう。『いつも何度でも』ですね。0になる体が満たされていく…日がすぐそこにあるのでしょうね。
何を燃やしても歌は燃えませんでしたね。形のないものは強い、のかもしれません。

では、次に進みまする(^^)
カフェライブですか。
私の行きつけの店は、三味線ライブやってます(^^)
私もたまに弾かせてもらいます。下手ですけれど。
唄も、ちょっと。もっと下手ですけれど。
津軽に行くと、そんな店ばっかりなんですけれどね。
2013.08.12 Mon 07:48
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: いい友達だなぁ

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

大学では、なんだかんだあっても、寝る時間はあったなあ、教室で。やばっ(-_-;)

徹さん、言いたいこと言ってますね。
ジャンル青春なので、言うことクサくて(>_<)
ピックアップしていただき、嬉しいやらはずかしいやらです。

汗とか、根性とかはないのですが、クサさは、ぷ、とお楽しみいければと。
若いのはキャラで、作者はただのふふ・・・

> そうそう、泣いて出してしまう。『いつも何度でも』ですね。0になる体が満たされていく…日がすぐそこにあるのでしょうね。
> 何を燃やしても歌は燃えませんでしたね。形のないものは強い、のかもしれません。

おお。深いですね。ありがとうございます。
形のないものの強さを追う話かも、などと思いました。
しばらくは追ってばかりになりますが、また覗きにいらしてくださると嬉しいです^^

三味線ライブ、へえ、楽しそうですね。民謡好きですよ。
三味線のお師匠と呼ばれる方とお会いしたことがあります。
その方、90歳超えていたんですけどね、信じられないくらいにお若くて、美しい方でした。
大海さんの三味線も拝見させていただきたいですね。
2013.08.12 Mon 18:01
Edit | Reply |  

Name - 八少女 夕  

Title - いま、ここです

こんにちは。

最初から読んでいて思ったのですが、現在連載と同時に読んでいる所とここの主人公のギャップが大きいです。後半だと彼は私にとって「祥吾さま」なんだけれど、こっちは「田島君」……。きっと、もちろんストーリーの中でとても大きく成長したってことなんだろうなあと。その変わっていく流れを追うのも楽しみになりました。

過去にとらわれて前に進めないでいた後ろ向きな田島君の姿にも共感・同情しますし、それじゃダメだと親身になってくれる花園君の優しさにもきゅんときます。

ともあれ、これが田島君の再スタート地点ですよね。バイトという現実的で具体的な道を進みはじめた彼を心から応援しようと思います。

ところで、私は読んでいる作品のキャラは「敬意を込めて呼び捨て」ルールが基本なのですが、こちらでもそうさせていただいて構わないでしょうか。
2014.04.18 Fri 22:01
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: いま、ここです

八少女 夕さん、コメントありがとうございます。

おー、なんとここまで。嬉しいです。
そして、書き方・表現が悲惨で恥ずかしいです~(><)
私、小説を書かれる大体の皆さんとは異なり、このブログにお話をアップしたときから物書きをはじめたというまるで初心者なのです。この「夢叶」の出だしは書き始めてまだ数ヶ月の時期で、本当に拙い書き方していますね。いえ、今でも充分に拙いのですが、さらに泣ける・・・。

田島に関して、ギャップが大きいと感じられるのは、そんな(↑)影響もあるのでしょう。
このお話は、裏に作者の物書きとしての成長も入っているのです。
田島と一緒に、ちょっとは成長してるかなあ(-_-;)

田島と同様に、徹さんにも目を向けていただき、嬉しいです。
しばらくはこの二人の友情も含めてお話が進んでいきます。
途中、かったるく思われるところもあると思いますが、ぷ、とかわしていただき先に進んでいただけるととても嬉しく思います。

それから、お時間がありましたら、コメント欄もご覧ください。
私の拙い表現よりも、皆様からのコメントをご覧いただくほうが、より物語を楽しめるぐらいの素敵なコメントがたくさん残されています。是非^^

> ところで、私は読んでいる作品のキャラは「敬意を込めて呼び捨て」ルールが基本なのですが、こちらでもそうさせていただいて構わないでしょうか。

全く構わないです。夕さんの思うままに、よろしくお願いします^^
2014.04.18 Fri 23:13
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

ふむ。
ギターを返すという発想もあるのか。
私は使うけどなあ。。。
いや、そこは人それぞれなんでしょうけど。

私は「使わない宝物は塵くずにも劣る」という発想の持ち主なので、十分にメンテナンスして使いますね。
車にしても中古車ですし、自転車や他のモノも中古であるものは中古で買いますね。

確かに田島くんの発想も正しいですね。
・・・と読んでいて思いました。
2016.02.27 Sat 09:48
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

はい。親友のギターをいつかは返すつもりでいるのですが、今は自分のを持っていないので、使わせてもらいます。
これを本当に返すのか、ずっと使い続けるのかは・・・えっと(汗)

そうですね。良い物こそ、使った方が良いという場合が多々ありますよね。
うちの車も中古でメンテしてます。
昨日タイヤがパンクして焦った(><) 明日久々の遠出するのに(-_-;)
2016.02.27 Sat 12:00
Edit | Reply |  

Add your comment