オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 20 第一章・ライブの再開(5) 

 翌週もその次の週も、田島は瞬のアコースティックギターを手に、同じ時間にカフェに向かった。

 カフェは、東横線沿線の駅から十分ほどのところにある。この町は、田島たちの通う神奈川国立大学を抱えていて、多くの学生が行き交う。

 カフェはどちらかというと、駅よりも大学に近い方の位置にあるため、学生が多く訪れる。けれども、店自体は小さいので、マスターが一人で経営していても、目が回るほど忙しくなることはない。田島のライブのある日を除いては。

 今日もアンティークなチョコレート色のドアを開けると、目の前には田島を受け入れる時間と空間がある。ライブでは、その場所に収まる心地良さを、胸のうちから体の隅々まで感じながら歌う。

「マスター、この店、いつから行列のできるラーメン屋になったの?」
「ちょっと、三宅さん。田島君の歌が、屋台のラーメン屋のおっちゃんが歌う演歌に聞こえる、ってわけじゃないよね」

 毎週店に寄る常連客の三宅も、最近の店の混みようには驚く。何か疑うような目を向けるマスターに対し、自分は何もしていないと何度も念を押した。

「三宅さん、田島君のカバー、凄く良いよね。素人の僕にだってわかる」
「あれはただのカバーじゃないよ、マスター。このアレンジ。曲をしっかり自分の中に取り込んで、祥吾自身のオリジナルのレベルに仕上げている」

 ライブハウスのような集客を見込んでいたわけではない。普段はマスター一人でこじんまりとやっているこの小さなカフェに、田島のライブのある曜日だけ急に人が集まるようになった。

 店の常連さんの口コミか、田島の大学の友人が宣伝しているのか。今夜もなんとか店を回すために、マスターはとにかく働く。

 田島のライブが進むにつれ、カウンター裏の流しのシンクは、店にある食器が全部ここにあるのではないか、というくらいの洗い物で山のようになっていった。

 今夜最後の客が帰った後、店の片付けもそこそこに、エプロンをはずしたマスターが疲れた顔でカウンター席に腰を下ろした。田島がマスターにかわってカウンターに入り、冷えたビールを出す。

「今日は何か、お客さんがたくさん来て凄かったね、マスター」
「いや、田島君のライブのほうが、凄かったよ」

 ビールを片手に、マスターは今日展開された田島のライブを思い出す。明るく爽やかな声。確かなギターのテクニック。何よりも、歌っているときの表情が良い。田島自身が楽しむような、良い笑顔をしていた。

「俺のライブは、ただカバーをやっているだけですけど」
「いや、あれはただのカバーじゃないって、常連さんも言ってたよ」
「ホントですか。それは嬉しいなあ」

 田島は目を細め、ついでに謙遜するようにたずねる。

「歌はカラオケになってませんか? 一応、気をつけてアレンジしてるつもりなんだけど」
「カラオケ? そんなんじゃないよ。全然次元が違う。上手く説明できないけど・・・何て言うかな、田島君がそこにいるだけで、空気が変わる、みたいな」

 始まりを耳にしたら離れられない。とたんに惹きつけられる。それをどう表現したら良いのか。マスターは、気のきいた上手い言葉が見つからない。

「来週から、ライブにタイトルをつけよう。『祥吾の降り立つ異次元空間』とか」
「そんなのまるで俺、宇宙人みたいじゃないですか」
「うん。異世界から来た宇宙人を見に、人がもっと集まるよね」

 わけわからないと首を振り、田島は苦笑する。

「今日は田島君も疲れたよね。もう帰って。明日もバイトあるんでしょ」
「でも、マスター、片付けがまだ」
「良いよ。明日の朝やるから。今日は僕も疲れた」

 自分が片づけをやるという田島を、マスターは「いいから」と言って笑顔で送り帰した。自分以外の誰もいなくなりしんと静かになった店で、マスターは電話の受話器を取ると短縮ボタンを押した。

「あ、もしもし、僕だけど。今どこ? そうなんだ。いや、こっち、大変でさ。遅くなっても良いから、帰りに寄ってくれないかな。そう。緊急だから。じゃあ、よろしくね」

 電話を切った後、マスターはエプロンを着け直して、洗い物を始めた。



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 誰を呼んだのかって? 困った時のあの人です。


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - 西幻響子  

Title - No title

ん?困ったときのあの人?誰だろう…
花園くん?

しかし、すごい人気ですね、田島くん。
それだけ実力があるってことだ。
2011.09.23 Fri 10:17
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: No title

> 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

困った時頼りになるのは、はい、あの人です。

田島は力はあるんだけど、まだ小出しにしています。

オリジナルがまだなので。
2011.09.23 Fri 19:19
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - live

田島くん、一般大衆に忘れ去られてはいなかったのですね。
メジャーデビューして一世を風靡したシンガーだって、じきに忘れられる世の中なのですから、よほどいい歌を歌うんだろうなぁ。

彼のジャンルはロックですか?
カバーというとどんな歌を?
英語の歌? 日本語の?
なんて、細かいところも気になってしまいました。

作曲ができるっていうのも憧れますが、編曲がいいというのもすごいですよね。
歌って編曲次第でものすごく変わりますものね。
田島くんの歌、聴いてみたいです。
2012.11.16 Fri 00:38
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: live

あかねさん、コメントありがとうございます。

田島が忘れられていなかった理由は、出ていた番組が人気番組だったのと、
当時高校生でちやほやされていたから、ではないかな。
なんて、ちょい辛口。
ま、歌はうまかった。と、ちょいフォロー。

ジャンルはいろいろです。
カバーは、リクエストを受けて何でもやります。
英語も日本語もやります。
あかねさんも、ひとつリクエストを^^
あ、フォレストシンガーズ、やっても良いですかね?
一人でできるか?

> 作曲ができるっていうのも憧れますが、編曲がいいというのもすごいですよね。
> 歌って編曲次第でものすごく変わりますものね。

編曲って、オリジナルを熟知していないとできないですよね、きっと。
オーケストラバージョンとか、驚きです。

> 田島くんの歌、聴いてみたいです。

私も田島の歌を聴きたい者の一人^^
2012.11.16 Fri 16:33
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

おお==。流石は田島くん。
カバー曲で引き込むとはすごい手腕ですね。

これだけの才能があるのに、弾かないのは今までがもったいなかったような。。。
2016.03.12 Sat 11:09
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

歌の上手い人って(田島もそうなんですけど)、人の曲でも上手に歌うんですよね。
Youtubeで見る物まね王とか、感動モノです。

でも世に出ることができるのは、オリジナル。
田島はブランクあったけど、その後は・・・頑張ります^^
2016.03.12 Sat 14:28
Edit | Reply |  

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