オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 22 第二章・大学四年(1) 

第二章 (大学四年・カフェライブ)

 「わかってる。これをやらなければ前に進めない」 田島は大学近くにあるカフェのマスターに誘われて、週に一度、ライブをすることになった。ライブでの経験を重ねながら、夢に向かっていくことを心に決める。

*** ***

「田島。俺、就職内定もらった」

 大学も4年目が始まり、田島は新入生のように、初日から毎日きちんと講義に出席している。新入生向けのサークル勧誘のポスターや呼び込みで構内がにぎやかな中、花園が田島を見つけて駆け寄って来た。

「やったな。どこから?」
「課長さんのところから」
「へえ。本命じゃないか。おめでとう」

 花園は、その会社の営業部の課長と少しだけ知り合いではあった。けれども、内定はコネではなく、スタートの一次面接からステップを踏んで、部長面接まで受けて得たものだった。

「あの課長さんと一緒に働けるのが、今から楽しみだよ」
「そうか。けどそうすると、お前の留学話は?」
「完全に延期。大丈夫。田島と違って、俺のビジョンはぶれていない」
「なんかそれ、ひっかかるなあ」

 なんとなく顔を曇らせる田島に「気のせいだ」と花園ははぐらかす。花園は花園で、頭の中に思い描いているものがある。田島はそれが何で、花園がどうしたいのかも知っている。だから、花園の内定を一緒に心から喜んでやれた。

「あとは卒論書いて、卒業するだけだな、花園」
「俺はそうだけど、田島は履修科目が・・・」
「心配ない。今年の俺は、学業とバイトを見事に両立させる、どこに出しても恥ずかしくない、うちの大学を代表するほどの優秀な大学生」
「去年までは恥ずかしかったよなあ」
「なんでぇー」

 花園に軽くかわされ、田島は口を尖らせた。今年は、新年度が始まってから、遅刻も欠席もせず、毎日真面目に講義に出席していると豪語する。

 田島は、一単位でも落としたら卒業できない、というぎりぎりのところにいるのだけれども、真面目に講義に出てみると、案外勉強するのも面白いなどと思っていた。

 春休みから始めたカフェのライブも毎週続けていたが、大学が始まったため、五月いっぱいで休みを取ることにしていた。

「え、そうなの?」
「あれ、知らなかった? ホームページやってるのお前だろう?」

 田島のライブについての情報は、カフェのホームページにアップされている。そのホームページを立ち上げたのは花園だ。けれども、花園からホームページの編集のやり方を学んだマスターが、今はマメに更新をしていた。

「ライブより大学の方が大事なのか?」
「当たり前だ。卒業がかかってるからな。今年は一科目も落とせねえ」

 以前の田島だったら絶対に言わなかっただろうセリフを聞かされて、花園は思わず笑ってしまった。大学を卒業してその先に進むこと、それが今の田島が最優先したいことなのだ。

「お前、大学四年目にして今が一番大学生っぽいな」
「ノート見せてやろうか?」
「良いよ。俺は去年でそれ終わってるから」
「そっかー、じゃあ去年のお前の・・・」
「捨てた」

「ちっ」と舌打ちをする田島と、それを見て大笑いをする花園の背後から、一人の学生が近づいてきた。

「あの、すみません、祥吾さん」

 その学生は、大柄な田島と細身ではあるが上背はある花園の間に、かしこまって割って入ってきた。

 身長は160センチぐらいだろうか、小柄な青年だ。後ろにギターを背負っていて、田島に自分の名刺らしきカードを差し出してきた。

「僕、ケンドリって言います。法学部の3年で、軽音のサークルでギターやってます」

 受け取った名刺を見ると、振り仮名の振ってある氏名と共に、携帯の番号やらメールのアドレスやらの連絡先が書かれてある。バンド名は「スカイ」とあり、バンドの名まえでユーチューブのアカウントを持っていた。

「鍵鳥策(けんどりさく)、本名?」
「本名です」

 大きくクリクリとした目を持つその学生は、高校生か下手したら中学生と間違われるのではないかと思われるほどの幼い顔つきをしている。大学で会わなければ、とても二十歳を過ぎているようには見えなかった。

「祥吾さんがうちの大学にいるなんて知りませんでした。俺、高一の時に『バンド甲子園』を見ていて、祥吾さんのバンドのファンでした」

 田島と花園は、同時に顔を見合わせる。そんな二人の前で、ケンドリと名乗るその学生は、田島に『バンド甲子園』のことで面と向かって話しかけてきた記念すべき一人目となった。

「この前、カフェのライブを見に行きました。なかなか予約が取れなくて大変でしたけど。祥吾さん、すっごくカッコ良かったです。五月も行きます」

 青年は、テレビで見た長谷川のスタイルに憧れ、ギターを始めたという。毎週番組の中で行われていた、バンドの視聴者投票にも参加していたらしい。田島のことを、憧れのヒーローに向けるようなまなざしで見上げていた。

「あの、俺、バンドやってるんですけど、ずっとボーカルがいなくて。もし良よかったら、祥吾さん、一緒にやってもらえないかなって」

 ケンドリは、遠慮がちにも大きな目で田島を見つめ、自分の思いを伝えようとしていた。

「祥吾さんとできるんだったら、夢が叶うかなって。うちのバンド、マジでプロ目指してるんで。一度、セッションだけでも。それで気に入ってもらえたら・・・」

 話を続けようとする青年に、田島は言葉を重ねる。

「ジャンルは?」
「ハード・ポップです」

 その返事を聞いても、田島は何ら表情を変えない。もらった名刺をポケットに入れてから、そのケンドリという珍しい名前の学生の肩に手を置いた。

「俺もそのジャンル、嫌いじゃない」
「そうなんですか。じゃあ・・・」

 期待するように大きく開いたケンドリの目と、田島は視線を合わせる。青年の肩に置いた手に少し力を入れて、静かにはっきりと、そして教えるように言った。

「俺、自分のバンドがあるから」



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村   ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!

人気ブログランキングへ  Thanks again for the click!




 キターッ! 田島の『バンド甲子園』時代のファン?
 田島のバンド?


 ご訪問、ありがとうございます^^

 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 皆様が素敵な一日を過ごせますように。

 Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - lime  

Title - No title

花園君、内定おめでとう。
まずは一安心ですね。
花園君も田島くんも、夢は夢として追いながら、ちゃんと現実を見据えているところは大人ですね~。

可愛らしい昔のファンが登場ですか。
なにか、火を付けるのかな??
2011.10.02 Sun 10:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

> 花園君、内定おめでとう。

limeさん、ありがとうございます!(by 花園徹)

田島はついこの前まではガキだったので、
大人な考えができるようになったのは徹さんの影響かな。

田島はまだこれからも弱いところを見せますが、
徹さんはしっかりしていて、田島からの信頼も絶大です。

策ちゃんは、実は・・・なんちゃって(苦笑)
2011.10.02 Sun 12:22
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - おお! 新たなキャラが…!

なんだか、どんどん賑やかに楽しくテンション高くなっていきますね~
すごく良いです。
こっちまで明るくなります(^^)

また、お邪魔させていただきます~
2011.11.05 Sat 16:33
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おお! 新たなキャラが…!

fateさん、コメントありがとうございます。

明るくなっていただけて、良かったです^^
ここは4年目の大学生活を充実させて欲しいところです。

策ちゃんはねー、実はねー・・・

またお越しください~^^
2011.11.05 Sat 18:31
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

確かにいつ大学生っぽいかって基準はありますよね。
私も4年間トータルで単位とりましたからね。
結構取りこぼしもあったので、わりかし分割して単位をとった記憶がありますです。
2011.12.12 Mon 10:50
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

LandMさんは大学で何を専攻されたのですかね。
4年間トータルですか。

私は1年目は友人にノートを貸せるほど頑張りましたが、
2年目からはバイト学生化してノートを借りる側になりました。

卒論ではふらふらになりました(今は笑)
2011.12.12 Mon 18:44
Edit | Reply |  

Add your comment